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10-1.妖精卿と翅の喪失編1【R-18:ドライオーガズム】
しおりを挟む翅の存在が確固たるものになった日から、ヴァルネラの献身がより深くなった。
討伐依頼に行く頻度も激減し、一日のほとんどを俺の隣で過ごしている。
「翅が嬉しいのは分かるけど、そんなに見ないでよ。落ち着かないから」
「本当は硝子の箱に閉じ込め、針で縫い付けたいくらいなんですよ。いやでも、そうしたら触れ合えないから嫌ですね」
数週間も俺の翅を眺め続けているヴァルネラに、飽きる様子は全くない。
むしろ日を追うごとに、熱を帯びた視線を向けてきている。
ここ数日は寝台から抜け出すことも許されず、ただ俺は翅を撫でられ続けていた。
「真顔でなに言ってんの。……でもこれ、ヴァルネラの悲願だもんね」
「えぇ。でも本当に愛しくて、ずっと見ていたい……」
抱きしめられると熱のこもった吐息が耳元で聞こえ、俺まで悩ましい気分になる。
けれどそれは発情と言うより、自身の感情変化への戸惑いに対してだった。
(こうも甘やかされると、錯覚を起こしそうになる。悪いのは俺だけど)
魔法を得る代償に体を差し出したはずなのに、いつの間にか彼自身に惹かれてた。
けどヴァルネラの目的は一貫して同類の確保だから、裏切っているのは俺の方だ。
(言えないなぁ、こんな気持ち。だからなんとか誤魔化さなきゃ)
幸い翅を理由にすれば彼は手元に置いてくれる、だから擦り寄ることは簡単だ。
今も魔力を理由に接触を求めれば、彼は喜んで応じてくれる。
「そうだヴァルネラ、また魔力貰っていい? 最近ずっとで申し訳ないんだけどさ」
「いくらでもお相手いたしますよ、翅が魔力を欲しているのでしょうし」
ヴァルネラは俺の申し出に快く了承し、唇を重ねながら衣服を剥いでいく。
安定化した翅は押し潰されても痛みを感じず、簡単に彼を受け入れた。
「最近はすんなり、私を受け入れてくれますね。最初はあれだけ怯えていたのに」
「怖くないって分かったからね。……なんで今、大きくなったの」
まだ奥に挿れただけで動いていないから、彼の形がまざまざと中で感じられる。
でも大して刺激もないのに、なぜヴァルネラのものは反応したのか。
「私を受け入れてくれる貴方が可愛くて。……じゃあ、そろそろ動きますね」
「うん、いいよ。ヴァルネラの好きにして」
翅に執着する彼の言葉を真に受ける気はないが、触れられると嬉しくて仕方ない。
相反する感情を抱えた俺はその両方を放棄し、結局快楽で取り繕うしかなかった。
……ずっと前から、依存的な性行為に溺れている自覚はあった。
けれど触れ合えない時間に、耐えられないことも分かっている。
だからヴァルネラを繋ぎ止めることに執心し、結果口が緩くなった。
「あ゛っ、あっ、んぁっ! ……んぅ、すき、好き、ヴァルネラぁ」
「……え」
ヴァルネラの思考が止まったことで必然的に行為も中断され、快楽も止まる。
だが俺は熱に浮かされ、ヴァルネラが固まっている理由も分からなかった。
(あれ、俺、今なに言って)
正常に戻り始めた思考が彼の表情を捉えて凍りつき、即座に言い訳を考える。
違う、今ならまだ間に合う、俺はこの人なんて好きじゃない!
「ま、魔力が好きってこと! 腰止めないで!」
「え、は、はい! ……でもグレイシス、今」
多少下手でも話題逸らしができたと思ったのに、名前を呼んだのがいけなかった。
ヴァルネラは疑問を手放さず、腕で隠していた俺の顔を覗き込もうとしている。
「なんにも言わないで! そうじゃないなら、もうやめるから!」
「わ、分かりました! ここで止めるのは辛すぎるので、勘弁してください!」
俺が駄々をこねるとヴァルネラは慌てて行為を再開し、黙って俺の体を貪る。
けれどいくら快楽に溺れても、今度は俺の陰茎が働こうとしない。
「っあ、はぁ、んっ、ん……。ぁ、うあっ、なんで、外に出ないの」
「……グレイシス? どうしましたか」
体内で熱が渦巻いて苦しいという訳でもないが、いつもと違う状況に困惑する。
ヴァルネラも異変に気づいたのか、再び動きを弱めて俺の様子を窺っていた。
「なんか、へん。いつもと違って、うまく発散できない……!」
焦った俺が自分で扱いても勃つ気配はなく、ただ熱い吐息を零すだけに留まった。
ヴァルネラも対処に困っているのか、大人しく俺の様子を見守っている。
「あ、ぁ、ヴァルネラ、助けて。俺もう、おかしくなりそう」
「グレイシス落ち着いて、ゆっくり息を吐いて」
けれど只事ではないと判断したヴァルネラは、無理に擦り続ける手を止めてきた。
その手は彼の背中まで誘導され、密着すると自分で弄ることは難しくなる。
「やだ、止めないで! も、出したいのに、なんでっ、あっ、あ――!」
混乱で泣き出しそうになる俺を宥めながら、ヴァルネラは強く抱き締めてくる。
けれど動いていないのに体の奥が熱くて、ずっと気持ちいいのが続いていた。
「グレイシス、私に掴まって。背中に爪を立てていいですから」
「な、なにかくる、怖い……! や、あ゛っああああああ!」
未知の感覚に怯え、俺は目の前の彼に縋りついて背中に引っかき傷を作る。
それと同時に下半身が甘く疼き、意識も真っ白に塗り潰されていった。
「なるほど、陰茎から出さないまま絶頂したんですね。大丈夫ですか、グレイシス」
「はぁ、あ、うぁ……。ヴァルネラ、俺の体が変になっちゃった……」
絶頂した感覚は間違いなくあるのに、俺の陰茎からはなにも溢れてこない。
けれど未だに深い快楽に囚われて、がくがくと痙攣も収まらない。
「魔力の受容量が増え、出さなくて良くなったのでしょう。おかしくありませんよ」
「……そっか。これ、普通のことなんだ。じゃあいいや」
ヴァルネラの説明に蕩けた頭で納得すると、彼は優しく口づけを落としてきた。
けれど達したのは俺だけで、彼のものは未だ硬さを保ったままだった。
「ごめん、俺ばっかり気持ちよくなって。次は俺が動くから」
「無理はしないでください、まだ辛いんでしょう?」
心配そうなヴァルネラにやんわり断られるが、俺は腰を揺らして彼に擦り寄る。
さっきは知らない感覚に戸惑っていただけで、彼を放置する気などなかった。
(それにヴァルネラ、雄の目をしてる。そんな顔されたら、俺)
彼の瞳に映る俺は発情した雌の顔で、早く行為の続きをしたいと訴えている。
だから大きく腰を動かし、従順に待ち続けている彼のものを刺激した。
「俺は大丈夫だから、ね。……あっ、ぁ゛んっ!」
「ふふ、可愛いグレイシス。私も、大好きですよ」
誘った甲斐あって硬く反り勃ったままの陰茎が、俺の内部を容赦なく抉っていく。
けれど同時に囁かれた言葉に、頭は氷のように冷えていった。
(俺の翅が好き、なんでしょ。分かってるんだからね)
俺は好意の矛先を見誤ってはならず、自分の抱えている劣情も隠す必要がある。
でも接触を断つこともできず、ただ曖昧な関係に縋りついていた。
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