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1.魔法契約編
21-3.魔法使いの晩餐会編3
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俺はなにも答えられなくて、彼の腕の中で目を伏せることしかできなかった。
小刻みな震えが、どちらから生まれているのかも分からない。
「お兄様を悪く言わないで。全部、僕が悪かったから」
「……ドミネロ」
そしていつの間にか俺たちから離れた弟は、寂しげに微笑んでいた。
一人で立つ彼は頼りなく、それでも誰かに寄り掛かろうとしない。
「お兄様はスヴィーレネス様を置いて行こうとしたんじゃなくて、僕を連れて行こうとしてくれただけ。僕は一人じゃ生きられないし、子供だから」
どんなに強い魔法を使えても、その使い手が成熟しているかは別問題だ。
むしろ力が強大になるほど、自己の制御が難しくなる傾向にある。
けれどその問題に、ドミネロは向かい合おうとしていた。
「僕が弱いなんて最初から知ってた。けどそれを、お兄様には知られたくなかった」
「だから俺を、ずっと閉じ込めていたのか」
震える唇を必死に動かして、彼は自分の想いを言葉にする。
幼い弟が抱いていたのは恋でも悪意でもなく、ただの寂しさだった。
「本当は誰よりも強くなって、お兄様に選ばれたかった。それだけだったの」
「一番じゃなくても、お前は十分すごいのに」
両親が評価しなかっただけで、ドミネロが将来有望な魔法使いだった。
遺伝で受け継いだ魔力があっても、努力を怠れば凡庸な魔法使いに成り下がる。
それを誰もドミネロに教えてこなかった、俺を含めて。
「狩猟会でも、表彰台に上がってたじゃん。誰にでもできることじゃない」
「見てくれてたんだ、知らなかった。……嬉しい」
一瞬驚いた後に綻ぶ弟の表情は年相応に幼く、俺は胸に痛みを覚える。
けれどそれを言及する間もなく、ドミネロは踵を返した。
「スヴィーレネス様、お兄様をよろしく。お兄様の好きな人が、あなたで良かった」
「っドミネロ、待ちなさい!」
スヴィーレネスが呼び止めるが、ドミネロは振り返らずに防御魔法を展開する。
けれど物影から飛んできた攻撃魔法に破られ、力なく崩れ落ちた。
(逃げずに、潜んでいた魔法使いがいたのか!)
俺への攻撃をドミネロが庇い、小さな体が致命的なまでに深く抉られる。
傷を負わせた魔法使いはスヴィーレネスが潰したが、ドミネロの血は止まらない。
「………………お兄様、これなら少しは許してくれる?」
(あぁ、俺と同じだ。変なところばかりが似ている)
ドミネロは致命傷を負うと分かっていて、けれど償いの為に飛び出したんだろう。
多分今までの言葉も懺悔で、ここに来た時から罪の清算を覚悟していた。
「スヴィーレネス、お願い。ドミネロを助けて」
「……ごめんなさい。ワタクシ、回復魔法だけは不得手なんです」
救いを求めてスヴィーレネスを見上げるも、彼は悔しそうに顔を歪めていた。
そういえば彼が、その類の魔法を使っているところは見た事がない。
(特級魔法使いであっても、やっぱり人への魔法は難しいのか)
今思えば俺が舌を火傷した時も、彼は氷魔法で冷やしておくだけに留めていた。
回復魔法は便利だが、失敗時は取り返しがつかない傷が発生する。
(しかも意地汚い貴族たちが、ここに戻り始めている)
頭数が減ったことを察して、逃げ出したはずの魔法使いたちが集まってくる。
その全てが下卑た笑みを浮かべ、俺たちに狙いを定めていた。
「スヴィーレネス、攻撃魔法を使ってよ。俺たち、頑張って耐えるから」
「ダメです。この数を相手にすれば、酷い魔力汚染を起こしてしまいます」
特級魔法使いが本気を出せば敵など一掃できるが、余波で俺たちも巻き込まれる。
その弱点に気づいたからこそ、卑劣な貴族たちは再び近づいてきたのだろう。
「いつも肝心なところで、ワタクシは役に立たな「なんでもかんでも自分だけで解決すると思うな、馬鹿野郎!」」
階段を駆けあがってくる重い足音が、スヴィーレネスの自罰的な言葉を遮る。
顔を上げるとエンヴェレジオさんが、数多の魔法執行官を率いて突入してきた。
小刻みな震えが、どちらから生まれているのかも分からない。
「お兄様を悪く言わないで。全部、僕が悪かったから」
「……ドミネロ」
そしていつの間にか俺たちから離れた弟は、寂しげに微笑んでいた。
一人で立つ彼は頼りなく、それでも誰かに寄り掛かろうとしない。
「お兄様はスヴィーレネス様を置いて行こうとしたんじゃなくて、僕を連れて行こうとしてくれただけ。僕は一人じゃ生きられないし、子供だから」
どんなに強い魔法を使えても、その使い手が成熟しているかは別問題だ。
むしろ力が強大になるほど、自己の制御が難しくなる傾向にある。
けれどその問題に、ドミネロは向かい合おうとしていた。
「僕が弱いなんて最初から知ってた。けどそれを、お兄様には知られたくなかった」
「だから俺を、ずっと閉じ込めていたのか」
震える唇を必死に動かして、彼は自分の想いを言葉にする。
幼い弟が抱いていたのは恋でも悪意でもなく、ただの寂しさだった。
「本当は誰よりも強くなって、お兄様に選ばれたかった。それだけだったの」
「一番じゃなくても、お前は十分すごいのに」
両親が評価しなかっただけで、ドミネロが将来有望な魔法使いだった。
遺伝で受け継いだ魔力があっても、努力を怠れば凡庸な魔法使いに成り下がる。
それを誰もドミネロに教えてこなかった、俺を含めて。
「狩猟会でも、表彰台に上がってたじゃん。誰にでもできることじゃない」
「見てくれてたんだ、知らなかった。……嬉しい」
一瞬驚いた後に綻ぶ弟の表情は年相応に幼く、俺は胸に痛みを覚える。
けれどそれを言及する間もなく、ドミネロは踵を返した。
「スヴィーレネス様、お兄様をよろしく。お兄様の好きな人が、あなたで良かった」
「っドミネロ、待ちなさい!」
スヴィーレネスが呼び止めるが、ドミネロは振り返らずに防御魔法を展開する。
けれど物影から飛んできた攻撃魔法に破られ、力なく崩れ落ちた。
(逃げずに、潜んでいた魔法使いがいたのか!)
俺への攻撃をドミネロが庇い、小さな体が致命的なまでに深く抉られる。
傷を負わせた魔法使いはスヴィーレネスが潰したが、ドミネロの血は止まらない。
「………………お兄様、これなら少しは許してくれる?」
(あぁ、俺と同じだ。変なところばかりが似ている)
ドミネロは致命傷を負うと分かっていて、けれど償いの為に飛び出したんだろう。
多分今までの言葉も懺悔で、ここに来た時から罪の清算を覚悟していた。
「スヴィーレネス、お願い。ドミネロを助けて」
「……ごめんなさい。ワタクシ、回復魔法だけは不得手なんです」
救いを求めてスヴィーレネスを見上げるも、彼は悔しそうに顔を歪めていた。
そういえば彼が、その類の魔法を使っているところは見た事がない。
(特級魔法使いであっても、やっぱり人への魔法は難しいのか)
今思えば俺が舌を火傷した時も、彼は氷魔法で冷やしておくだけに留めていた。
回復魔法は便利だが、失敗時は取り返しがつかない傷が発生する。
(しかも意地汚い貴族たちが、ここに戻り始めている)
頭数が減ったことを察して、逃げ出したはずの魔法使いたちが集まってくる。
その全てが下卑た笑みを浮かべ、俺たちに狙いを定めていた。
「スヴィーレネス、攻撃魔法を使ってよ。俺たち、頑張って耐えるから」
「ダメです。この数を相手にすれば、酷い魔力汚染を起こしてしまいます」
特級魔法使いが本気を出せば敵など一掃できるが、余波で俺たちも巻き込まれる。
その弱点に気づいたからこそ、卑劣な貴族たちは再び近づいてきたのだろう。
「いつも肝心なところで、ワタクシは役に立たな「なんでもかんでも自分だけで解決すると思うな、馬鹿野郎!」」
階段を駆けあがってくる重い足音が、スヴィーレネスの自罰的な言葉を遮る。
顔を上げるとエンヴェレジオさんが、数多の魔法執行官を率いて突入してきた。
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