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1.魔法契約編
21-4.魔法使いの晩餐会編4
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「エ、ンヴェレジオさん」
「オルちゃん、その子こっちに渡して! 回復薬なら俺が持ってる!」
遅れて部屋に入って来たフィルトゥラムが、俺の手からドミネロを攫う。
彼は持っていた魔法薬を傷口に流し込み、素早く応急処置を始めた。
「二人とも、来てくれたんだ。黙って出てきちゃったのに」
「アドミスタさんが予想してたんだよ、オルちゃんは一人で向かうって」
付き合いが長いあの人は、俺の行動を読んで先手を打っていた。
契約がなくなっても、彼はいつだって気を配ってくれている。
「でも後で、めちゃくちゃ怒られるから覚悟した方がいいよ」
「……ごめん」
口先では謝るけれど、晩餐会に行くと決めた時点で生き残る想定は捨てていた。
だから責められることも考えておらず、今になって後ろめたさが込み上げる。
「エンさんだって、ずっと同じこと言ってた。俺は誰からも頼られないって」
(そんなことないのに。けど、伝わってないのか)
友を救えなかった人に、俺たちはまた罪悪感を重ねてしまうところだった。
確かに救われているのに、うまく返せなくていつも彼を苦しめてしまう。
「やめて、僕、助かりたくない。どうせ一人で生きていくことになるんだから」
そしてドミネロも身を捩って逃げようするが、フィルトゥラムに抑えられる。
俺も拘束するのを手伝おうと近づくが、後ろからそっと止められた。
「オルディールが良いなら、ワタクシは会うのを止めませんよ」
貴族の残党を片付けたスヴィーレネスが戻ってきて、ドミネロに語りかける。
彼が長い足を折り曲げて対話の姿勢を取ると、弟も聞く体勢に入った。
「この子はとても大事ですけど、閉じ込める気はありませんので」
「スヴィーレネス様は、誰かに取られちゃうって思わないの」
ドミネロの潤んだ目が、同じ衝動を持っているはずのスヴィーレネスを射抜く。
嘘なら暴こうと眼光が鋭くなるが、彼はそれを真正面から受け止めた。
「それは怖いですけど。でも、たくさんの人からワタクシを選んでほしいんです」
(だから俺を外に連れ出したり、足枷を外したりしたのか)
最初こそ監禁されると思ったが、彼はいつも俺に自由を認めていた。
けれどその言葉を受け入れられないドミネロは、顔を逸らす。
「でもお兄様は、もう僕のこと嫌いだよ」
「俺はドミネロのこと、嫌いじゃないよ。虐げられるのが嫌なだけ」
俺も同じように膝をついて目を合わせると、ドミネロの顔が泣きそうに歪む。
情を得たくて後に引けなくなったことは、本人が一番良く分かっていた。
(そういえば注意したことがなかったな、最初から諦めてたから)
痛みの前では、対話の重要性など霞んでしまう。
それは普通のことだと思うけれど、叶うなら俺はそこから脱したかった。
「無理やり抑えつけるようなことをしなければ、俺はいいよ」
「…………今までごめんなさい、お兄様」
長い沈黙の末に、謝罪の言葉が告げられる。
伏せられた瞳が、許しを与えられないと諦めているのが分かった。
だからこそ俺も、彼にちゃんと応えなければならない。
「大丈夫だよドミネロ、俺も色々ごめん」
ドミネロが暴行を働いたと同時に、俺は問題に対して見ない振りをしてしまった。
どちらも根が深いけれど、治す努力ができることをもう知っている。
(だってスヴィーレネスが変わろうとするのを、俺は間近で見続けていた)
両方とも本能に近しいものだから、簡単に飼い慣らすことはできないと思う。
けれど制御しようとすることで、変わるものが確かにあるはずだ。
「オルちゃん、その子こっちに渡して! 回復薬なら俺が持ってる!」
遅れて部屋に入って来たフィルトゥラムが、俺の手からドミネロを攫う。
彼は持っていた魔法薬を傷口に流し込み、素早く応急処置を始めた。
「二人とも、来てくれたんだ。黙って出てきちゃったのに」
「アドミスタさんが予想してたんだよ、オルちゃんは一人で向かうって」
付き合いが長いあの人は、俺の行動を読んで先手を打っていた。
契約がなくなっても、彼はいつだって気を配ってくれている。
「でも後で、めちゃくちゃ怒られるから覚悟した方がいいよ」
「……ごめん」
口先では謝るけれど、晩餐会に行くと決めた時点で生き残る想定は捨てていた。
だから責められることも考えておらず、今になって後ろめたさが込み上げる。
「エンさんだって、ずっと同じこと言ってた。俺は誰からも頼られないって」
(そんなことないのに。けど、伝わってないのか)
友を救えなかった人に、俺たちはまた罪悪感を重ねてしまうところだった。
確かに救われているのに、うまく返せなくていつも彼を苦しめてしまう。
「やめて、僕、助かりたくない。どうせ一人で生きていくことになるんだから」
そしてドミネロも身を捩って逃げようするが、フィルトゥラムに抑えられる。
俺も拘束するのを手伝おうと近づくが、後ろからそっと止められた。
「オルディールが良いなら、ワタクシは会うのを止めませんよ」
貴族の残党を片付けたスヴィーレネスが戻ってきて、ドミネロに語りかける。
彼が長い足を折り曲げて対話の姿勢を取ると、弟も聞く体勢に入った。
「この子はとても大事ですけど、閉じ込める気はありませんので」
「スヴィーレネス様は、誰かに取られちゃうって思わないの」
ドミネロの潤んだ目が、同じ衝動を持っているはずのスヴィーレネスを射抜く。
嘘なら暴こうと眼光が鋭くなるが、彼はそれを真正面から受け止めた。
「それは怖いですけど。でも、たくさんの人からワタクシを選んでほしいんです」
(だから俺を外に連れ出したり、足枷を外したりしたのか)
最初こそ監禁されると思ったが、彼はいつも俺に自由を認めていた。
けれどその言葉を受け入れられないドミネロは、顔を逸らす。
「でもお兄様は、もう僕のこと嫌いだよ」
「俺はドミネロのこと、嫌いじゃないよ。虐げられるのが嫌なだけ」
俺も同じように膝をついて目を合わせると、ドミネロの顔が泣きそうに歪む。
情を得たくて後に引けなくなったことは、本人が一番良く分かっていた。
(そういえば注意したことがなかったな、最初から諦めてたから)
痛みの前では、対話の重要性など霞んでしまう。
それは普通のことだと思うけれど、叶うなら俺はそこから脱したかった。
「無理やり抑えつけるようなことをしなければ、俺はいいよ」
「…………今までごめんなさい、お兄様」
長い沈黙の末に、謝罪の言葉が告げられる。
伏せられた瞳が、許しを与えられないと諦めているのが分かった。
だからこそ俺も、彼にちゃんと応えなければならない。
「大丈夫だよドミネロ、俺も色々ごめん」
ドミネロが暴行を働いたと同時に、俺は問題に対して見ない振りをしてしまった。
どちらも根が深いけれど、治す努力ができることをもう知っている。
(だってスヴィーレネスが変わろうとするのを、俺は間近で見続けていた)
両方とも本能に近しいものだから、簡単に飼い慣らすことはできないと思う。
けれど制御しようとすることで、変わるものが確かにあるはずだ。
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