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2.魔法契約の裏側編

6-2.魔力契約解消と特級魔法使いの同行依頼編

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「ふふ。美人って言ってもらえるのは、悪い気しないけどね」
「だからお前は、もうちょい身持ち固くしろって!」

 エンヴェレジオさんが今度は説教をし始めるが、フィルトゥラムは取り合わない。
 けれどそんな気紛れな姿が、強く人を惹きつける。

(もめてるなぁ、確かにフィルトゥラムは綺麗だけど)

 魅了の魔力を抜きにしても、彼は姿も所作も妖艶だ。
 流れる銀髪も、柔らかな体の線も、人に触れる指先も。

(彼も元貴族の子供だし、人工的な愛し仔として家門に作られたのかも)

 誰もを虜にする魔力を持ち、美しい容貌で強い魔法使いを誑かす存在。
 この世界は魔力至上主義だから、計画の可能性は十分にあった。

(問題は、彼の意図と関係なく惹きつけられている人もいることだな)

 魔法執行官の詰め所にいた時も、フィルトゥラムが入ってくると空気が一変した。
 中には明らかに色を帯びているもの、そして近くにいるものへの敵意もあった。

「そういえばオルちゃんたち、襲撃事件を追うんだっけ。怪我しないようにね」
「あ、うん。無茶はしないように「あ、あの、オルディール」」

 そんな風に雑談をしていると、廊下の角から聞き慣れた声が掛けられる。
 けれどその声に安心することはできず、俺たちは身を固くした。

「スヴィーレネス、ついてきたの? あれだけ拒絶したのに」
「そ、そんなに怖い顔しないでください! ワタクシ、悲しくなりますから」

 拒絶されたのが辛かったのか、スヴィーレネスは泣きそうな顔で近づいてくる。
 しかし様子があまりにも可哀想だったからか、周りも黙って様子を見守っていた。

 だがエンヴェレジオさんだけは素早く、俺とスヴィーレネスの間に立ち塞がる。

「お前、オルディール君になにをしたんだ。どうせ碌でもないことだとは思うけど」

 彼は基本スヴィーレネスの味方だけど、できる限り俺も守ろうとしてくれる。
 でも特級魔法使いは、対峙する相手に不快げな表情を浮かべていた。

「無理に魔力供給しようとしたのは、謝りま「おまっ、本当になにしてんだ!」」

 スヴィーレネスを制裁しようと、エンヴェレジオさんが大きな杖を振りかぶる。
 しかし普段は罰として受け入れているそれは、魔法で難なく弾かれた。

「でも顔を出したってことは、用があって来たんスよね。公爵様」
「えぇ、ワタクシも襲撃事件の調査に同行しようと思いまして。人より魔法は使えますから、きっと役に立ちますよ!」

 先ほどの行動を反省していないのか、スヴィーレネスの表情は悪びれていない。
 それを見て、俺は言いたいことが何一つ伝わってなかったのだと理解した。

「つれていくのは別の問題が起きそうだから嫌だ。それより欠乏症治療に専念して」
「アナタが他の人と行動するのが嫌なので、拒否します。断るなら暴れますからね」

 そういうや否や廊下に膨大な魔力が満ちて、特級魔法使いの力を示される。
 これがもっと強くなってしまえば、また魔力災害が起こりかねない。

「連れていってくれるなら、大人しくしていますよ。いかがです?」
「拒否権ないじゃん。脅しだよ、こんなの」

 遠くでは距離を取る人たちの足音が聞こえ、フィルトゥラムも体調を害している。
 そして彼の行動を止められるのは、残念ながら俺しかいない。

「自分の愛し仔がいなくなるかもしれないんです、手段なんて選んでられませんよ」

 そう言い切ったスヴィーレネスは、断るなら周囲を壊滅させると告げている。
 だから俺は頷くことで、それを収めさせるしかなかった。
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