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6.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と祝祭に参加する
6-2.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と祝祭に参加する
しおりを挟む結局魔力に負けた男は気絶し、騒ぎを聞きつけた教師が追い出した。
しかし一度動揺が広がった店内に、俺達の居場所は存在しない。
「……注目を引きすぎてしまったな。リベラ、退店しても構わないか」
「うん、俺も疲れたから部屋に戻りたいな」
これは気遣いや嘘ではなく、充分祝祭を満喫できたから異論がないだけだ。
それにこの状況で居座っても、どうせ落ち着くことなど不可能だった。
「店にも迷惑掛けてしまって、すまない。雰囲気を壊してしまった」
「悪いのはあちらです。購入したお菓子、すぐに包みますから」
最後にカリタスは店員達に謝罪していたが、彼らも同情的に慰めている。
手つかずの商品は包装され、帰路へつく俺達へと手渡された。
まだ陽が高い内に帰宅する選択をしたカリタスは、俯きながら歩いている。
祝祭に向かう人々とすれ違うたびに、辛そうに唇を噛み締めていた。
「せっかくの祝祭を、台無しにしてしまった。リベラも楽しみにしていただろう」
「騒動の発端は、俺だよ。あいつら、後天性サキュバス狙いだったでしょ」
カリタスは自分を責めているが、最初に目をつけられたのは俺だった。
それでも諸悪の根源はあの貴族男で、他の誰も悪くないのは明白なのに。
「騒ぎ立てられた原因は、私にある。本当に最悪だが、あれは元身内だ」
「子供のカリタスを利用した、悪い貴族連中でしょ。なら他人だよ」
カリタスは力なく過去を吐露するが、俺は切り捨てるように否定した。
彼が同類だとは到底思えないし、連帯責任を負う必要だってどこにもない。
だが彼が抱える過去は、想像以上に深く絡みついている。
「それでも、手を下したのは私だ。罪悪感があろうが、それが事実だ」
(ダメだ、俺じゃ慰められない。そんな酷い人じゃないのにな)
俺が言葉を探している間も、カリタスは懺悔するように項垂れていた。
腕の中にいる俺を抱き締め、縋るように顔を埋めてくる。
(俺は、彼に救ってもらった。けど、その事実じゃダメなんだろうな)
カリタスが情に深い存在だということを、多分俺だけが知っている。
そして無暗に、力を振り翳す怪物ではないことも。
(ならせめて、落ち着ける時間を作ろう。っていうか、ここは霊園なのかな)
流れ着いたこの場所に人影はないから、距離が近くても問題ない。
だが閑散とした空気は、連なる石標から醸し出されていた。
「それは作り物の墓標だ。封鎖済の時計塔を利用した、肝試しを行っているらしい」
「時計塔にお墓って関係性が見えないけど、いわくとかある感じ?」
墓石を見つめていると、視線に気づいたカリタスが催し物の備品だと教えてくれる。
見上げると煉瓦造りの塔が聳え立ち、頂点には大きな時計盤が嵌められていた。
「元は貴族が、不老不死の大魔術を研究する施設だった。時間操作の類だが」
「じゃあ魔術の犠牲者が襲ってくる設定とか? 多分生贄が必要だよね」
話の繋がりを感じて問い続ける俺に、カリタスは僅かに口篭る。
だが偽物でも墓標で囲まれる理由となった術に、代償が不要だとは考えられない。
――そして元貴族の血筋である彼は、経緯を知っている可能性が高かった。
「……あぁ。禁忌魔術や闇の魔道具作成にも触れていた、唾棄すべき家門だった」
(やっぱり知ってた。でもそれは不可抗力だし、苦しみ続けるのは間違っている)
幼少期の彼では解決できなかった事に、青年となった今も罪悪感を抱き続けている。
けれどそれは背負うべき罪じゃないから、どうにか解放したいと願ってしまう。
「被害者は魔法で従わされ、亡くなった者も多い。私も相当恨まれているだろう」
「カリタスも被害者だし、逆恨みされても負けな、……うわ、魔物だ!」
しかし拙い慰めの最中に、突然墓石が盛り上がってから魔物が這い出てきた。
それは腐臭以外にも混ざり合ったような、不快な匂いを漂わせている。
「肝試しの役者ではなさそうだな。魔物の体毛に、魔力汚染の形跡がある」
(それに魔物の牙が皮膚を突き破ってるのに、痛がってない)
湿った皮膚からは異常発達した牙が飛び出し、赤黒い液体が滴っている。
しかし苦悶の兆候は見えず、獲物を見据えて濁った涎を垂らしていた。
「一度離れるぞ、リベラ! 理性のない存在に、服従魔法は効かない!」
落命した存在は危機察知能力を持たず、故に恐怖による支配は意味を為さない。
カリタスは俺を抱え直し、魔物の追撃を躱しながら墓地を走り抜けた。
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