神の国から逃げた神さまが、こっそり日本の家に住まうことになりました。

羽鶴 舞

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1.神の国

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 そこは高天原。
 はるかに高い天空に神々が住まう国があり、大きな雲に覆われていて誰にも気づかない場所である。
 人口衛星でも、発見することが出来ない結界が張られている。それゆえに、我々人類にはそんな存在に気付かず、平和に暮らしているのだから。

 神の国の離れに、歴史を感じさせる神社のような造形をした美しい社に、声を上げるほどビリビリと響いていた。

「神さまよ! 神の法の試験結果を見たが、ひどいではないか! また追試になるぞ!」

 見るから目尻が吊り上げていて恐ろしい形相をしている試験官から、ひどく声を荒げた。
 厳しいお言葉を受けた神さまはしゃんと立ち、涙目になっていた。

「うえーん! 頑張ったのに――」

 泣きわめく神さまは、腰まで流れるような黒髪に、目がくっきりとして肌が透き通っていて可愛らしい少女。
 周りから見れば、うっとりとするほど崇高な存在だ。

 そんな神さまは、試験官がすごい厳しいよ! 辛いのに! 辛いのに! と、わめきながら神の法の試験を何度も受けている。

 両腕を組んでいる試験官は、深くため息をき、神さまを鋭い視線で見つめた。

「これまで受けて、何度目になっているか覚えているか?」

「…………」

 神さまは気まずくなり、試験官の視線を避けているのか目を合わせようとしない。
 ただ、人差し指でつんつんと合わせて黙り込むのだった。

 お説教タイムの真っ最中に、にこやかに微笑んでいる老人が現れる。
 背が低く長い頭に白ヒゲを生やしていて、温和そうな老人が巻物を括りつけた杖を持ちながら、ゆったりと歩いてきた。
 神さまを支える役目を担っている、おじい様だ。

「お主よ。神さまになってから、どうしたのかね?」

 にこやかに微笑みながら、神さまを優しく叱ろうとしたが、神さまは頑張ったことをアピールする。

「でもっ、でもっ、頑張ったんだよ! あたし、勉強してきたんだよっ!」

「ほうほう、どれぐらい勉強をしたのだね?」

「もちろん! 昨日から勉強してきたんだっ!」

 フンス! と踏ん反り、胸を張る神さまに、
 おじい様は冷ややかな表情を顔に浮かべながら、手に持っている杖で神さまにゴツンと鈍い音を出す。

「うぇ~~ん! 痛いよっ! 何で叩くのさっ!」

 神さまは両手で頭をさすりながら、文句をつけた。

「だ阿保っ!! 一日で出来るわけがないだろう!」

 神さまの言い訳にご立腹なのか、おじい様は額に青筋が立っていた。
 続いて、巻物を括り付けた杖を天に持ち上げる。

「お主は甘えが過ぎる! 神さまとして、責任を持ちなさい! これから100年間、精神の部屋で反省するがいい! 精神の部屋の中から神さまの仕事をせよ! 遊びも休みも許さんっ!」

 精神の部屋とは何もない空間で、じっとすることだ。
 おじい様はここで神さまを鍛えようとしたが、神さまは心臓が縮みあがるほど、うろたえた。

「イヤだ――! おじい様のお仕置きなんて、耐えられないっ! さいならっ」

 あわふたしている神さまは、ここから逃げようと、神の力を使って下界である日本へワープしようとした。

 神さまがシュンッと一瞬に消えてしまったことで、おじい様は、
 
「おのれっ! 逃げおったな!」
 
 と湯気が出るほどの赤面を浮かびながら、手に持っている杖をボキッと、へし折ってしまった。

 そんな光景を見つめた、試験官がおじい様に恐る恐ると声かける。

「あの……寿老人様、杖が折れてしまっているようですが」

「なぬっ! ぬわ――! しまった!」

 寿老人様の杖が折れていることに気付き、思わず悲鳴を上げた。
 離れから神の国全体まで、悲鳴が響きわたったようだ。


 神さまは、次期の神として就任することになる。

 神の役目は、世界を管理することだ。

 今回の神さまは、これから日本を管理する役目になる予定だが、神の法の試験を何度も落ちまくっていた、可愛い少女さん。

 神の法は世界における平穏を保つこと、地球の平和を維持することだ。
 ゆえに、まだ合格していない神さまのせいで、次期の神がいない日本は、やがてボロボロになってしまうだろう。

 だからこそ、神さまを支える周りの神様たちは心配していた。
 
 それなのに、神さまはのだから。

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