神の国から逃げた神さまが、こっそり日本の家に住まうことになりました。

羽鶴 舞

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2.東京のとある美術大学

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──午後14時48分 東京。

 カラッとした暑さで、サンサンと輝く太陽が建物に反射していて、眩しいほどの真夏だ。
 
 東京にある七福美術大学は美術館、図書館、講堂などいくつかの古びた建物が並ぶ広大なキャンパス。
 キャンパスの中心には、七福神が乗るような宝船の形をした銅像が立っている。その周辺には木々が立ち並び、森の中でもいるかような場所。
 芸術家やデザイナーを目指す学生が集う大学だ。刺激や興奮があり、とても飽きない。それゆえに、一流のデザイナーや芸術家が多く生みだされている。
 そんな大学に合格した僕――唐沢彰良カラサワ アキラは、充実したキャンパスライフを送っていた。
 
 僕たち学生が課題制作によく使われている古びた校舎のとある教室に、学生3人がモデルとして置かれている果物や花瓶を眺めながら油絵を描いていた。

「なぁ、アキラ。ここは、こういう形が一番いいよな?」

 郷田健ゴウダ タケルという男性が、目の前にある果物を筆で指しながら言った。

 彼は大学からずっと仲良しで、一緒に美術展へ巡ったり、カフェでデザインの熱いトークをしたりする仲でもある。
 バリバリの体育会系っぽいたくましさで、スポーツが得意そうな印象だ。
 
 そんなタケルに、僕は果物の描き方を教えた。

「ああ、こういう形は太い筆で描いてから細い筆で足すといいよ」

「なーる! サンキュー!」

 ニカッと口元をつり上げるタケルが、軽々しくお礼を言った。

 油絵って画材が結構、値が張るんだよね。
 しかも、絵の具の片づけも大変。
 油絵の具はそのまま水道に流すと、水道の管が固まってしまい、管ごと交換しないといけなくなる。
 そう、ティッシュで油絵の具を拭き取って、そのままゴミ袋へ捨てるんだ。

 元々、デザイン志望で念願の七福美術大学受かったんだけど、それもつかの間。
 まさか、単位が足りなくて、油絵をとる羽目になるなんて……。

 そんなくだらない事を思いふけている時、優しげな声が聞こえた。

「アキラくんの絵って、すごくうまいのね」

 僕に話しかけてくれた、渡辺香織ワタナベ カオリという女性。
 天使の輪が浮かぶほどのさらさらとした黒い長髪、学生の中では、アイドル的な存在。可愛らしく、スタイルもいい。
 僕は密かに、香織のことを気になっている。
 
「香織ちゃんこそ。僕はデッサン得意だからね。油絵はそこそこだよ」

 お互い、からかう仲になっているので、こんな冗談を言えてしまうのが僕の悪い癖だ。

「もう! 嫌味なんて言わないでよっ! アキラくん! 仕返ししちゃうぞ──!」

 冗談を素直に受け止めてくれる香織は、人差し指を立てて可愛らしく頬を膨らませた。

 そんな折に2人を眺めたタケルは、リア充め! 自爆しろ! というような視線を送った。

「おーい、2人ともラブラブビーム出し合いはやめてーや!」

 この場の雰囲気をぶち壊すタケル君、怒るよ。
 香織もジトっと、タケルを見つめた。

「おいおい、睨んでも仕方ないぜ?」

 睨まれたタケルはあっけらかんと、欧米人のように肩をすくめた。
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