臭いモノには花

植澄 紗

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第二章【再開】

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空は曇天。

灰色に染まった雲一面の空を見上げれば、不思議と今後の未来を予期するかのようで。天候だけではなく気持ちさえも暗い未来を見据えているようだ。不思議と不安な感情が抜けきれない。楽しそうに歩く彼女に水を差さないよう、自分だけで完結させるよう努める。

けれど私はその喉に詰まったような不快感の正体には明確に思い当たるふしがあった。どうしても私には引っかかっていたことがあるのだ。気づいていた。三年という付き合いの短さでも密に接していたからであろうか。気づきたくなくても、気づいてしまっていた。彼は再会してから会話の最中何度か小さな驚きの色を示していた。私という過去の記憶を呼び起こした時も、ロシェという小さな子どもを目に入れた時も。しかしあの時、あの『花』の話題を出した時だけは。その一驚の理由は、単に「珍しい花」ということに対してでは無い。私が変な話題を持ち出してきたことでも無い。私は気が付いていた。

僅か一瞬ではあったが、彼は別の『何か』に対して驚いていたということに。


 * * *


双橋の温もりが未だ残るアイアンスツール。冷めた鉄骨の天板部分には熱があった。その上を手のひらでなぞるように撫でる。それは双橋がつい先程まで此処に居た証拠である。久しぶりに見た姿。少し昔の影も見えるがもう大人という別の人間に変わっていた。何より以前よりも格段に痩せていた。牛迫は確かに時間の流れを感じていた。自らが座っていたもう一脚に再度腰かけた彼の片手には、耳元に当てた携帯電話が握られている。

「あぁ、もしもし?…俺、俺だよ、牛迫。ちょっと今良いか?…そう、大切な話。…うん、悪いね。ありがとう。いや、実はさ、さっき双橋が訪ねてきたんだよ。そう、あの双橋。…うん、久しぶりで驚いたよ。それも突然でさ。」


青年は下がる目尻とは対称的に口角を上げ、それでいて懐かしそうに電話口に語るのであった。




「…うん。じゃあ、また。折尾。」

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