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確かに、言われるまでもなく会長に近づきすぎてた自覚はあるけど、付き合ってるは……いくらなんでもないんじゃないかなぁ……とか。
だって最近、気が強そうだけど可愛い彼氏ができたって言ってたし。相手が僕じゃないことくらいはわかるでしょ。
「……でも、付き合ってるはないですよ。なんで、そんなことに」
困惑が極まったまま、勢揃いしたキレイな顔を順繰りに恨みがましく見ていく。
「貴文ってさ、一見とっつきにくそうじゃん?だから大体の子は遠巻きに見てるだけなんだけど。昼休みに時間がある時は君と過ごしてることが多いって話を聞いてさ。え、なに。ついに特定の恋人を作ったのかな~、なんて思って面白くなっちゃったから」
軽快にそんな話しを振ってきたのは、副会長の芹澤先輩。僕は慌てて首を振った。
「違いますよ!……や、お昼休みに付き合ってもらってたのは事実ですけどっ。僕は、そんなんじゃないです!!」
「え~、そうなの?けどさ、昼休みだけとはいえあの貴文が嫌がらずに付き合うって相当だよ?」
「だな」
場にそぐわないくらい重々しく頷いて、同意を示したのは桧室先輩。
「嫌がられてましたし、めちゃくちゃ邪魔者扱いされてました!生意気とかうるさいとかも普通に言われてましたし!結構雑に扱われるだけで、むしろ鬱陶しがられてたんですよっ!!……ねっ?!」
どれだけ否定してもニヤニヤするばかりの芹澤先輩と、表情は乏しいけど面白がってるのだけは伝わってくる桧室先輩に好奇心いっぱいの目で見つめられながら一気に捲し立てる。
そして、必死にナイナイとオーバーアクション気味に両手を振ってみせたのに、その努力を無にしたのは渦中の人で当事者でもある会長だった。
「いや別に?最近じゃ、こいつ可愛いなぁ。くらいは思ってた。顔が好みだって言っただろ」
相変わらず人の肩を押さえつけたまましれっとした顔で、今まで一度だって耳にした覚えのないセリフを愉快そうな口調でゆったり宣う。それにまた、僕は慌てることになった。
「……い、言われてませんっ!!なんで自ら誤解を深めようとしてるんですかっ!!」
誤解解く気ないだろ、この人っ!?
「嬉しそうに笑いながら一人で喋り倒してる時とデレた時はクッソ可愛いし。な、愁?」
ニヤッとイタズラっぽく笑いかけられて流し目を向けられて、考えるより先に言葉が口をつく。
「ツンデレなのは会長の方じゃないですか!」
これは、ちょっと……。なんて、捲し立てたあと実は僕も余計なこと言ったなくらいは思った。
予想通り、食い気味に身を乗り出してきたお二方が、
「うわ……。貴文のことツンデレの一言で済まそうとする子が現れたんだけど。どこからどうみてもデレなんかカケラもないだろうに」
「本気で言ってるのか?こいつ、ツンとかいう可愛らしいレベルで括っていい奴じゃないだろ。初っ端から失礼だったし、目上の者に対して遠慮もクソもなかったからな」
各々好き勝手なこと言い始めたからこれには会長も黙ってられなかったみたいで。
「ここぞとばかりに人を貶そうとすんな」
すっごい嫌そうな顔でふんぞり返ってボヤキをこぼした。
どこまでも偉そうな態度を崩さないのは、……ほんとそこはさすが会長。なんて逃避ついでに考えてたら、思いもかけないところから声がかかって驚き半分でその人の方を見る。
「いつのまに、そんなに仲良くなったんだよ」
面白くなさそうなのがわかる声音でそんな言葉を発したのは、意外にもハルカ先輩で。
反対に、この状況を楽しむように小さく笑ってみせた会長が、もったいぶった態度で自分の顎を撫でた。
「いつのまに……と言われても。なぁ?まあ、案外気が合ったってだけだろ。ウルセェのはほんとだが、邪魔ではないからな」
話しながらもハルカ先輩に向けられていた視線が、ツイっとこっちの顔を見て。どういう意図か、優しげに細められる。
滅多に見ないそれにほんのちょっとだけドキッとしつつも同時に湧いてきた嫌な予感も相まって、場を濁すような空咳を一つ落とした。
「……まさか、会長の口からそんな言葉を聞く日が来るとは思わなかったです。いつもお付き合いいただいて感謝はしてますけど。…………やっぱツンデレ」
「ツンデレはお前だ。最近はずっとオレの前だとデレッデレだけどな」
最後はボソッと呟いたつもりだったのに、律儀に拾い上げてくれた会長に即言い返されてしまう。さっさとこの話は終わらせようとか思っていただけに、殊更なんでもない調子で答えてから話題をすり替えた。ついでにのし掛かってた腕も叩き落としてやった。
「そんなデレてるつもりないです。……あ、飲み物ないですね。いります?」
「ん」
「そこは『ん』じゃなくてお願いしますでしょ。同じのでいいですか?」
「あー……。じゃあ、コレと同じの」
とか言いつつ会長が手にしたのは、場違い感に苛まれてほんの一口だけ飲んだあと碌に手を伸ばせずにいた僕の紙コップで。しかも、遠慮も断りもなく平然とそれを飲み干されてしまってキュッと眉を顰める。
「……なに当然のような顔して人ンの飲んでるんですか」
「うまい。なんだ?これ」
文句を言おうがこっちを全く気にかけることなく、テーブルに並べられたペットボトルたちと手に持った紙コップとを見比べてた。
「うわ、最悪。普通、全部飲みます?」
「どれだか知らねぇけど、まだあるんだからいいだろ。最近お前、一言多いどころか小言が多い」
「毎回毎回言わせるようなことする方がおかしいんだと思う」
「どうでもいいから早くしろ」
ささやかな文句すらバッサリと叩っ斬られて、もう諦めようとため息を吐く。
「横暴の化身……あ。陽加先輩もお代わりいります?」
それでもほんの一言だけ悪態をついてやり、そこでハッと気がついてゲームの中の『僕』らしくあるためにハルカ先輩にも気を配ることにした。
喋りやすいからってついつい、いつもの調子で会長とばかり言葉を交わしてしまってた。
『僕』らしく在れ。そんなふうに心の中で念じてからハルカ先輩に微笑みかけると、
「……ああ。じゃあ、アイスティー」
「はい」
「の、微糖」
「え?……っと。微糖……あの。ミルクティーか、無糖しかない……んですけど」
「自販機にあった」
予想もしていなかった返しをされて特大の『?』マークが頭の中を駆け巡る。
ん?つまりは、そこまで行って買ってこいってこと??え?普段冷たくあしらわれるとはいえ、今までパシリみたいに使われたことないんだけどな…。ハルカ先輩の取り巻きみたいな存在だけども、さすがに。
それと、気のせいかもしれないけど。話してる間中、どことなく尖った目つきで目を逸らすことなくまっすぐ見つめられて戸惑った。僕、今は邪魔もなにもしていないはずなのに。存在が邪魔ってこと??
「……ん。あ、はい。わかり、ました。すぐ、買ってきます」
財布は、ポケットにあるし……と確かめてそそくさと立ち上がる。
「待った。じゃあ、オレもついてってやるよ。他になんかいるもんねぇか?」
「なんでお前まで行く必要があるんだ」
会長に呼び止められて振り向くと、そこでまたハルカ先輩の低い声が場に落ちた。
「昼に買った期間限定のがうまかったから。ほら、さっさと行くぞ。……他、ほんとにいいのか?」
「あ、じゃあ。コーラとメロンソーダ」
「こっち烏龍茶で。お茶系がもうすぐなくなるから。2リットル。あとさ、それのついでに購買寄ってお菓子かなんかつまめるの買ってきて。チョコ系と、それとしょっぱいヤツだったらなんでもいい」
さっきの一言を皮切りに次々声をかけられて、泡食ってた僕と違って会長が「わかった」とそれらに返しつつ軽く片手を上げた。
「おい、ボーッとしてんな。行くぞ」
「やっぱり、俺のはいい。だから、小野寺が行く必要はない」
「ンなわけにいくか。今言われたの、一人で持てってか?いいから、愁。こいって」
まだなにか言いたげにしている先輩に軽く頭を下げてから、先に出た会長について行くため慌ただしくその部屋のドアを閉じた。
放課後。しかも元々あまり人通りのない棟にある生徒会室だけに、辺りに人影はない。
……それにしても、さっきのハルカ先輩の様子はどう考えてもおかしかった。その場にないものをわざわざ買ってこいとか僕に命じたり、そうかと思えば行く必要はないって引き止められたり。なんだったんだろ、一体。
さっきあったことを思い出しながらシンっと静まり返った廊下を歩いていると、隣から不意に声がかけられた。
「……お前、着々と計画通りに進んでんな」
クツクツと心底おかしそうに、声を潜めて喉の奥で笑ってる会長に顔を覗き込まれて再び首を捻る。
「計画……。はぁ、まあ。香純くんの麗しさを褒め称える仲間は会長を筆頭にして少しずつ増えてはきてますけど」
会長がなにを言いたいのか結局わからず、多分これかな?と思う答えを返した。
すると、一瞬大きく目を見開いた相手の顔が一気に怪訝そうなものへと変わる。
「まさか、本当に無自覚か?いきなりどうしてこうなったんだ。今までずっと陽加のストーカーじみた行動してきたくせに」
「それを言われると……、困るんですが」
どうやらカスミンについてじゃなくて、ハルカ先輩への態度の変化を指摘されてたらしい。ただ、そうすると計画ってなんだろ。って新たな疑問も浮かぶ。
浮んだけど、わからないそれは一旦脇に置くとして。
「……自分の気持ちを優先しすぎた結果、あっちこっちにすごい迷惑をかけてきたから……って返事じゃ、だめですか?」
これ以上深く追及されても困るので、当たり障りのなさそうな理由を口にした。
「まあ、正論か。香純相手にキャンキャン喚いてるお前って、見てて気持ちのいいもんじゃなかったからな」
「ですよね。……なので、ひとまずそれで納得してくれるとものすごく助かります」
「……ただ、それが理由じゃなさそうなのはわかる。なんとなくでしかねぇが」
顎を撫でながら一瞬『そりゃそうだ』みたいな気抜けた空気を漂わせたくせに、僕がほっと胸を撫で下ろした瞬間を狙ったように言葉を被せられてドキッとする。
正直に話したとして到底信じてもらえる類のことじゃないだけに、ギュッと制服の裾を握りしめて下を向いていると、
「そんな身構えんな。無理矢理吐かせる気もねぇよ」
トーンを落とした会長らしくない柔らかい口調で、苦笑混じりに囁かれてオドオドしながら顔を上げた。
会長のことだから、何か裏があるんじゃ……。
「さっきの陽加の顔見たか?あいつもあんな顔すんだなぁ?」
かなり疑って疑心暗鬼になってた僕に向け、ほんとに無邪気な笑顔で話しかけてきた会長が最後意地悪そうに笑んだのを見て。
「え。……見てませんけど。どんな顔??」
もしかして、ものすごく貴重なシーンを見逃した??って本気で焦った。
「どんな顔ですか?!」
だからすぐさま会長のセリフに食いついたものの、その人はただ人を小馬鹿にしたように鼻で笑っただけだった。
「なんだ。見てねぇのかよ。つまらん」
言葉通り心からつまらなそうにボヤいた会長がそのまま何事もなかったかのように階段を降りて行ったから、
「教えてくださいよ!!お願いしますっ!!」
ってその背に向かって大声で精一杯丁寧に頼み込んだのに。
返ってきたのは、イヤに廊下に反響する面白がるような笑い声だけだった。
だって最近、気が強そうだけど可愛い彼氏ができたって言ってたし。相手が僕じゃないことくらいはわかるでしょ。
「……でも、付き合ってるはないですよ。なんで、そんなことに」
困惑が極まったまま、勢揃いしたキレイな顔を順繰りに恨みがましく見ていく。
「貴文ってさ、一見とっつきにくそうじゃん?だから大体の子は遠巻きに見てるだけなんだけど。昼休みに時間がある時は君と過ごしてることが多いって話を聞いてさ。え、なに。ついに特定の恋人を作ったのかな~、なんて思って面白くなっちゃったから」
軽快にそんな話しを振ってきたのは、副会長の芹澤先輩。僕は慌てて首を振った。
「違いますよ!……や、お昼休みに付き合ってもらってたのは事実ですけどっ。僕は、そんなんじゃないです!!」
「え~、そうなの?けどさ、昼休みだけとはいえあの貴文が嫌がらずに付き合うって相当だよ?」
「だな」
場にそぐわないくらい重々しく頷いて、同意を示したのは桧室先輩。
「嫌がられてましたし、めちゃくちゃ邪魔者扱いされてました!生意気とかうるさいとかも普通に言われてましたし!結構雑に扱われるだけで、むしろ鬱陶しがられてたんですよっ!!……ねっ?!」
どれだけ否定してもニヤニヤするばかりの芹澤先輩と、表情は乏しいけど面白がってるのだけは伝わってくる桧室先輩に好奇心いっぱいの目で見つめられながら一気に捲し立てる。
そして、必死にナイナイとオーバーアクション気味に両手を振ってみせたのに、その努力を無にしたのは渦中の人で当事者でもある会長だった。
「いや別に?最近じゃ、こいつ可愛いなぁ。くらいは思ってた。顔が好みだって言っただろ」
相変わらず人の肩を押さえつけたまましれっとした顔で、今まで一度だって耳にした覚えのないセリフを愉快そうな口調でゆったり宣う。それにまた、僕は慌てることになった。
「……い、言われてませんっ!!なんで自ら誤解を深めようとしてるんですかっ!!」
誤解解く気ないだろ、この人っ!?
「嬉しそうに笑いながら一人で喋り倒してる時とデレた時はクッソ可愛いし。な、愁?」
ニヤッとイタズラっぽく笑いかけられて流し目を向けられて、考えるより先に言葉が口をつく。
「ツンデレなのは会長の方じゃないですか!」
これは、ちょっと……。なんて、捲し立てたあと実は僕も余計なこと言ったなくらいは思った。
予想通り、食い気味に身を乗り出してきたお二方が、
「うわ……。貴文のことツンデレの一言で済まそうとする子が現れたんだけど。どこからどうみてもデレなんかカケラもないだろうに」
「本気で言ってるのか?こいつ、ツンとかいう可愛らしいレベルで括っていい奴じゃないだろ。初っ端から失礼だったし、目上の者に対して遠慮もクソもなかったからな」
各々好き勝手なこと言い始めたからこれには会長も黙ってられなかったみたいで。
「ここぞとばかりに人を貶そうとすんな」
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どこまでも偉そうな態度を崩さないのは、……ほんとそこはさすが会長。なんて逃避ついでに考えてたら、思いもかけないところから声がかかって驚き半分でその人の方を見る。
「いつのまに、そんなに仲良くなったんだよ」
面白くなさそうなのがわかる声音でそんな言葉を発したのは、意外にもハルカ先輩で。
反対に、この状況を楽しむように小さく笑ってみせた会長が、もったいぶった態度で自分の顎を撫でた。
「いつのまに……と言われても。なぁ?まあ、案外気が合ったってだけだろ。ウルセェのはほんとだが、邪魔ではないからな」
話しながらもハルカ先輩に向けられていた視線が、ツイっとこっちの顔を見て。どういう意図か、優しげに細められる。
滅多に見ないそれにほんのちょっとだけドキッとしつつも同時に湧いてきた嫌な予感も相まって、場を濁すような空咳を一つ落とした。
「……まさか、会長の口からそんな言葉を聞く日が来るとは思わなかったです。いつもお付き合いいただいて感謝はしてますけど。…………やっぱツンデレ」
「ツンデレはお前だ。最近はずっとオレの前だとデレッデレだけどな」
最後はボソッと呟いたつもりだったのに、律儀に拾い上げてくれた会長に即言い返されてしまう。さっさとこの話は終わらせようとか思っていただけに、殊更なんでもない調子で答えてから話題をすり替えた。ついでにのし掛かってた腕も叩き落としてやった。
「そんなデレてるつもりないです。……あ、飲み物ないですね。いります?」
「ん」
「そこは『ん』じゃなくてお願いしますでしょ。同じのでいいですか?」
「あー……。じゃあ、コレと同じの」
とか言いつつ会長が手にしたのは、場違い感に苛まれてほんの一口だけ飲んだあと碌に手を伸ばせずにいた僕の紙コップで。しかも、遠慮も断りもなく平然とそれを飲み干されてしまってキュッと眉を顰める。
「……なに当然のような顔して人ンの飲んでるんですか」
「うまい。なんだ?これ」
文句を言おうがこっちを全く気にかけることなく、テーブルに並べられたペットボトルたちと手に持った紙コップとを見比べてた。
「うわ、最悪。普通、全部飲みます?」
「どれだか知らねぇけど、まだあるんだからいいだろ。最近お前、一言多いどころか小言が多い」
「毎回毎回言わせるようなことする方がおかしいんだと思う」
「どうでもいいから早くしろ」
ささやかな文句すらバッサリと叩っ斬られて、もう諦めようとため息を吐く。
「横暴の化身……あ。陽加先輩もお代わりいります?」
それでもほんの一言だけ悪態をついてやり、そこでハッと気がついてゲームの中の『僕』らしくあるためにハルカ先輩にも気を配ることにした。
喋りやすいからってついつい、いつもの調子で会長とばかり言葉を交わしてしまってた。
『僕』らしく在れ。そんなふうに心の中で念じてからハルカ先輩に微笑みかけると、
「……ああ。じゃあ、アイスティー」
「はい」
「の、微糖」
「え?……っと。微糖……あの。ミルクティーか、無糖しかない……んですけど」
「自販機にあった」
予想もしていなかった返しをされて特大の『?』マークが頭の中を駆け巡る。
ん?つまりは、そこまで行って買ってこいってこと??え?普段冷たくあしらわれるとはいえ、今までパシリみたいに使われたことないんだけどな…。ハルカ先輩の取り巻きみたいな存在だけども、さすがに。
それと、気のせいかもしれないけど。話してる間中、どことなく尖った目つきで目を逸らすことなくまっすぐ見つめられて戸惑った。僕、今は邪魔もなにもしていないはずなのに。存在が邪魔ってこと??
「……ん。あ、はい。わかり、ました。すぐ、買ってきます」
財布は、ポケットにあるし……と確かめてそそくさと立ち上がる。
「待った。じゃあ、オレもついてってやるよ。他になんかいるもんねぇか?」
「なんでお前まで行く必要があるんだ」
会長に呼び止められて振り向くと、そこでまたハルカ先輩の低い声が場に落ちた。
「昼に買った期間限定のがうまかったから。ほら、さっさと行くぞ。……他、ほんとにいいのか?」
「あ、じゃあ。コーラとメロンソーダ」
「こっち烏龍茶で。お茶系がもうすぐなくなるから。2リットル。あとさ、それのついでに購買寄ってお菓子かなんかつまめるの買ってきて。チョコ系と、それとしょっぱいヤツだったらなんでもいい」
さっきの一言を皮切りに次々声をかけられて、泡食ってた僕と違って会長が「わかった」とそれらに返しつつ軽く片手を上げた。
「おい、ボーッとしてんな。行くぞ」
「やっぱり、俺のはいい。だから、小野寺が行く必要はない」
「ンなわけにいくか。今言われたの、一人で持てってか?いいから、愁。こいって」
まだなにか言いたげにしている先輩に軽く頭を下げてから、先に出た会長について行くため慌ただしくその部屋のドアを閉じた。
放課後。しかも元々あまり人通りのない棟にある生徒会室だけに、辺りに人影はない。
……それにしても、さっきのハルカ先輩の様子はどう考えてもおかしかった。その場にないものをわざわざ買ってこいとか僕に命じたり、そうかと思えば行く必要はないって引き止められたり。なんだったんだろ、一体。
さっきあったことを思い出しながらシンっと静まり返った廊下を歩いていると、隣から不意に声がかけられた。
「……お前、着々と計画通りに進んでんな」
クツクツと心底おかしそうに、声を潜めて喉の奥で笑ってる会長に顔を覗き込まれて再び首を捻る。
「計画……。はぁ、まあ。香純くんの麗しさを褒め称える仲間は会長を筆頭にして少しずつ増えてはきてますけど」
会長がなにを言いたいのか結局わからず、多分これかな?と思う答えを返した。
すると、一瞬大きく目を見開いた相手の顔が一気に怪訝そうなものへと変わる。
「まさか、本当に無自覚か?いきなりどうしてこうなったんだ。今までずっと陽加のストーカーじみた行動してきたくせに」
「それを言われると……、困るんですが」
どうやらカスミンについてじゃなくて、ハルカ先輩への態度の変化を指摘されてたらしい。ただ、そうすると計画ってなんだろ。って新たな疑問も浮かぶ。
浮んだけど、わからないそれは一旦脇に置くとして。
「……自分の気持ちを優先しすぎた結果、あっちこっちにすごい迷惑をかけてきたから……って返事じゃ、だめですか?」
これ以上深く追及されても困るので、当たり障りのなさそうな理由を口にした。
「まあ、正論か。香純相手にキャンキャン喚いてるお前って、見てて気持ちのいいもんじゃなかったからな」
「ですよね。……なので、ひとまずそれで納得してくれるとものすごく助かります」
「……ただ、それが理由じゃなさそうなのはわかる。なんとなくでしかねぇが」
顎を撫でながら一瞬『そりゃそうだ』みたいな気抜けた空気を漂わせたくせに、僕がほっと胸を撫で下ろした瞬間を狙ったように言葉を被せられてドキッとする。
正直に話したとして到底信じてもらえる類のことじゃないだけに、ギュッと制服の裾を握りしめて下を向いていると、
「そんな身構えんな。無理矢理吐かせる気もねぇよ」
トーンを落とした会長らしくない柔らかい口調で、苦笑混じりに囁かれてオドオドしながら顔を上げた。
会長のことだから、何か裏があるんじゃ……。
「さっきの陽加の顔見たか?あいつもあんな顔すんだなぁ?」
かなり疑って疑心暗鬼になってた僕に向け、ほんとに無邪気な笑顔で話しかけてきた会長が最後意地悪そうに笑んだのを見て。
「え。……見てませんけど。どんな顔??」
もしかして、ものすごく貴重なシーンを見逃した??って本気で焦った。
「どんな顔ですか?!」
だからすぐさま会長のセリフに食いついたものの、その人はただ人を小馬鹿にしたように鼻で笑っただけだった。
「なんだ。見てねぇのかよ。つまらん」
言葉通り心からつまらなそうにボヤいた会長がそのまま何事もなかったかのように階段を降りて行ったから、
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ってその背に向かって大声で精一杯丁寧に頼み込んだのに。
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ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
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