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第9章 そこに『奴』がいた頃

晩餐2

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「わぁ! モモが乗ってるよ!」
「甘い匂いがして美味しそうだね」
 張おすすめのコースメニューの締めは、舞奈たちと同じ杏仁豆腐だった。

「……桃が飛ばないように気をつけてくださいね」
 楓からの謎のアドバイスに戸惑いつつも、日比野家・真神家の皆は甘味を堪能した。

 そして良い感じに腹がくちくなった両家族の父親は、それぞれに会計を済ませた。

 チャビーもキャリーバックにネコポチを仕舞う。
 子猫はバックの窓の中で、満足げに「にゃぁー」と鳴く。

「よいしょっと」
「千佳、重くない?」
「うん、ママ、平気! このバックね、ネコポチが入ると軽くなるの!」
「きっと千佳がネコポチちゃんのこと大好きだからね」
 娘の言葉にそう答えて、チャビー母は笑う。
 チャビーも笑う。

 母の言葉は真実なのだが、それには彼女らの知らない続きがある。
 子猫も幼い飼い主が大好きで、だから重力を操ってバックを軽くしているのだ。

 それを知っている舞奈と明日香は顔を見合わせて苦笑する。

 それに飯はとっくに食べ終わっていたので、そろそろ帰ることにした。

「そんじゃ張、いつも通りにツ――」
 ――ケで。
 そう言おうとしたら、園香父が睨んでいた。

「……釣りはいらないよ」
「マイったらすごーい」
「舞奈ちゃん、気前がいいんだね」
 チャビー家族の尊敬のまなざしが背中に突き刺さるのを感じながら、ポケットから札を取り出す。

「なぜ財布を使わんのかね」
「財布を使いなさいよ」
(舞奈ちゃん、お金が足りないアルよ)
 園香父と明日香が後から、張が前から白い視線を舞奈に浴びせる。
 舞奈は凹む。
 それでも張は黙って不足分をツケにしてくれた。

 何か忘れている気がしたが、まあ忘れるくらいのことだから大したことはないだろうと忘れたままにしておく。

「小夜子ちゃんとサチちゃんはどうやって帰るんだい?」
「タクシーを呼んで帰るつもりです」
「それなら一緒に乗って行くかい? 真神さん家の車とひとりづつなら余裕があるし」
 後ろでは、両家の車にサチと小夜子を乗せて帰る話がまとまっていた。
 サチの家は近所だし、小夜子の家はチャビー宅の隣だ。

 ちなみにAランク以上の執行人エージェントは交通費が支給される。
 箒や麒麟や半裸の天使による移動が制限されるので、その代わりだ。
 無論、タクシー代も経費で落ちる。
 だが2人は、幼い友人と話しながら帰る足を選んだ。

「エヘヘ、家まで小夜子さんといっしょだね」
「うん。あの、よろしくお願いします」
 チャビーは喜び、小夜子はチャビーの両親に一礼する。

 小夜子の胸元でペンダントが、チャビーのバックの隅でストラップが揺れる。
 それは少女たちの笑顔を誰よりも望んでいた彼が、遺していったものだ。
 だから舞奈も、口元に笑みを浮かべる。

 サチは園香父の車に乗せてもらうことになった。

 桂木姉妹は当然のようにタクシーを呼んでいた。

「ところで君は、誰か迎えに来るのかね?」
 舞奈にそう尋ねたのは、意外にも園香父だった。

「いや、そういうわけじゃ……」
「ならタクシーを呼んであげるから、それで帰りなさい」
 人一倍厳格で娘想いの彼だ。たとえ仇敵の舞奈であっても、娘と同じ小5の女子に夜道を歩かせたくないと思ったらしい。だが、

「いや、それは……」
 舞奈は断ろうとして言い淀む。

 確かに新開発区の夜道は安全とはいえない。
 だがタクシーを呼んでもらっても、タクシーを護衛する手間が増えるだけだ。
 そもそも乗用車じゃ瓦礫まみれの道を走れない。

 それでもはっきりと断れないのは、彼が義によって動いているからだ。

 園香のような心優しい淑女が育った理由のひとつである父親の優しさと強さを、無下にすることはできない。
 それが美佳の優しさと、一樹の強さを思い出させるから。
 舞奈が何かと彼に弱い理由でもある。

 だが、だからといって本当のことを言うわけにもいかない。

 そうやって困る舞奈に助け舟を出したのはチャビーだった。

「マイは安倍さんの車で帰るんだよね? 安倍さんの車ってスゴイんだよ! トラックみたいに強そうで、ガードマンさんが乗ってるの!」
 明日香はいちおう民間警備会社PMSCの社長の娘だ。
 なので仕事人トラブルシューターとして活動していないときには会社の装甲リムジンで送迎される。

 そういうことならと園香父は納得する。

「それじゃあマイ、安倍さん、また明日、学校でね!」
「マイちゃん、明日香ちゃんもおやすみなさい」
「おう、お前らも気をつけて帰れよ」
 そして挨拶をかわした後、両家と桂木姉妹は笑顔で店を出ていった。

 そうやって皆が帰ってしまうと、賑やかだった店は急に静かになった。

 3年前のピクシオンとしての生活が唐突に終わったように。
 1年前の楽しい晩餐が、永遠には続かなかったように。

 舞奈は店の窓から夜空を見やる。
 けど、そこに舞奈が探しているものは見つからなかった。
 窓の外に何を見たいのか、自分でもよくわからないからだ。

「……で、貴方はどうするの? 検問までなら送るけど」
 不意に明日香が声をかけてきた。

「いや、それなんだがな……」
 舞奈はちらりと側を見やる。
 そして再び店の外を見やり、

「ちょっと行きたい場所があるんだ。おまえもつき合え」
「別にいいけど、どこよ?」
 明日香は嫌がる風でもなく言いながら、やれやれと苦笑した。

――――――――――――――――――――

 そして楽しい食事会は終わった。
 後片づけは、ほとんど園香がやってくれた。小夜子と明日香も手伝った。

 舞奈と陽介は、小夜子と園香を家まで送った。
 明日香も帰っていった。

 興奮していつまでも寝ない千佳は、これまた陽介と共になんとか寝かしつけた。

 そして舞奈も同じベッドで寝ようとしたけれど、寝つけなかった。
 これではチャビーのことをとやかく言えない。
 だが眠れないのは仕方がない。

 なので、なんとなく部屋を抜け出し、リビングに行って夜空を見ていた。

 そうしながら、過去に想いを馳せていた。

 舞奈がピクシオンだった、懐かしい日々。
 仲間であり家族でもある少女たちが側にいた、優しい日々。
 その幸せな毎日がずっと続くと信じていられた、幼い日々。

 そして、今は額縁の中でだけ微笑む、セピア色の日々。

 ひとりになって、ずっと、誰かの温度を渇望していた。
 手を取りあい、笑いあって過ごしていたいと思っていた。
 今しがた温かい食事の並んだテーブルを囲んでそうしていたように。

 だが、同じくらいそれが恐ろしい。
 大事に握りしめた宝物が失われる絶望を、舞奈は知っているから。

 それが消えてしまうかもしれない恐怖。
 どうせ消えてしまうのだろうという諦観。
 それらが、ずっと欲しがっていた温もりを手にした舞奈の心に突き刺さる。

 変わらないものなどない。友情も、愛も。
 あるいは目の前にあるすべては幼い自分が見ている夢で、本物の自分はかつての仲間に見守られながら眠り続けているのだろうか?
 どちらが真実なのか、どちらであれと望んでいるのか、舞奈には分からない。

 だから舞奈は薄暗いリビングで、新開発区のある方向の夜空を見やる。

 この感情はホームシックに似ているのかもしれない。
 3年前の、あのあたたかな場所に還りたかった。

 そう想った途端、微かな足音と、誰かが階段を降りてくる気配がした。

「眠れないのかい? 兄ちゃん」
 気配がこちらに気づくのと同じタイミングで振り向く。
 すると陽介は目を丸くして驚いた。

 その隙に、感情を悟られないよう何食わぬ表情を取り繕う。
 普段からそうしているように。

「ごめん、驚かすつもりじゃなかったんだ」
 陽介はそう言いながら、舞奈の隣に立つ。
 はは、それはこっちの台詞だ。
 という言葉を飲みこんで、舞奈は黙って夜空を見る。

「ねえ、千佳って学校ではどんななの?」
 陽介はポツリと言った。
 そりゃ気になるだろうなあと舞奈は少しだけ考えて、

「能天気で、うるさくて、余計なことばっかりしてるよ」
 苦情のような答えを返す。
 けど舞奈の口元にはやわらかな笑みが浮かぶ。
 無邪気なチャビーの学校での振る舞いを思い浮かべれば、自然にそうなる。

「この前だって、あいつが流行らせたハリセンで叩かれまくったんだ」
 ちぐはぐな口調と言葉に戸惑う陽介に構わず、舞奈は言葉を続ける。

「あいつはクラスの人気者さ。あいつのバカみたいな話に乗っかるの、みんなけっこう好きなんだ」
「そっか、よかった」
 陽介は笑う。そして、

「あいつ、中等部の話とか、制服の話とかしたことある?」
 ポツリともらした。
 舞奈は答える代りに、無言で先をうながす。

「……家でもしないんだ。それに、あいつ、約束破っても怒らないし」
 そう言って、遠くを見やった。

 たぶん陽介は、チャビーが目の前の現実を見ていないと思っているのだろう。

 病弱な妹が、自分が長くは生きられないと思っている。
 初等部を卒業した後の進路が中等部ではなく誰かの夢へ繋がっていると思っている。
 だから、たまに突拍子もないことを言う。
 刹那的に、享楽的に日々を楽しもうとしてる。

 あの無邪気なチャビーが内心でそんなことを考えているとしたら、この善良な兄は心配するのだろう。

 どちらの気持ちも理解できる。
 舞奈自身がそうなのだから。なので、

「あたしもチャビーも、まだ4年生なんだ。そんな先のことなんてわかんないよ」
 感情を悟らせない笑みを浮かべ、静かに答える。

「だいたい、あいつ、成長期だってまだなんだ。今からセーラー服を買い揃えて、2年後に買いなおすのが嫌なんじゃないのか?」
 そう言って陽介を見やる。

「それにさ、あいつ、あんたが思ってるよりしっかりしてるよ」
「そうかな……」
「そうさ。病気であんまり学校来られないし、親御さんも留守がちみたいだし、普通ならふさぎこんでても良さそうなものだ。でも、あいつはそうじゃない。あいつは裏表なく明るくて、素直だ」
 そこで、ふと言葉を切る。
 陽介が安堵の笑みを浮かべているのを、横目で確かめる。そして、

「兄ちゃんの部屋のドアからちらっと見えたんだけど、千羽鶴がかかってたよな」
 ちらりと再び陽介を見やる。

「あれ、チャビーのために作ってるんだろ?」
「まだ作りかけだけどね」
 そう答え、陽介は照れたように笑った。

「だから、まだ千佳には内緒にしててくれると嬉しいな」
「わかってるって。バラすなんて野暮なことはしないよ。けどな――」
 舞奈は笑う。
 今度は心の底から。

「チャビーの奴、気づいてるよ。兄ちゃんが、いっつも自分のこと想ってるって。自分のこと無条件に愛して、受け入れてくれてるって。だからあいつは、いつも笑ってる」
「そうかな」
 陽介は問う。

「そうさ」
 舞奈は答える。

 こそばゆい気持ちがして、ふと窓に目を向けた。
 陽介も同じように見やる。

「……死ぬなよ、兄ちゃん」
 夜空を窓を眺めながらら、ボソリと言った。

「組織の中で魔道士メイジの知り合いを作って、作戦中はそいつのケツの後ろを離れるな。言っとくが、強い異能力者じゃなくて魔道士メイジだぞ。あんた、そういうの得意だろ?」
 その言葉に、陽介ははっとした様子で舞奈を見やる。

 舞奈は今夜、陽介たちが執行人エージェントとして討伐作戦に参加することを知らない。
 それは仕事人トラブルシューターにすら伏せられた機密性の高い作戦だったからだ。

 だが、戦う者としてどこか危なっかしい彼に、伝えておきたいと思った。
 執行人エージェントとして生き残るための方策を。

 単一の異能しか持たない異能力者は本人が思っているより脆弱だ。
 攻撃の異能を持つ者は防御が脆く、逆もまた然りだ。

 そのことに、利発な彼は今までの戦いで気づいているはずだ。
 だけど、あえてそれを言葉として伝えておきたいと思った。
 現実を見ていない舞奈が、言葉の鎖で彼を現実に繋ぎ止めようとするように。

 けど、そんな舞奈のずるさを見透かすように、陽介は口をへの字に曲げる。

「舞奈が、明日香の尻にひかれてるようには見えないけどな」
「年季が違うからな。この仕事を3年続けるって、スゴイことなんだぞ」
 口をとがらせて言い募る陽介に、舞奈は口元に笑みすら浮かべて答える。
 その答えに納得できないのか、彼は珍しく言い募る。

「僕だってヒーローになりたいんだ。君みたいに、どんな敵にも立ち向かって、誰かを守れるようなヒーローに」
「買いかぶり過ぎだ。あたしに誰かを守るような力なんてないよ」
 舞奈は静かに答える。

「あたしだって、怪異と戦い始めた頃は弱かった。けど、その頃のあたしの隣にはヒーローがいて、母ちゃんみたいに甘えさせてくれる人がいた」
 美佳と一樹のことを思い出す。
 あの新開発区のアパートの一室を共有していて、けれど今はいない昔の仲間。

「そいつらの背中を見ながら、守られながら、あたしはサポートに徹してた。それ以上できることなんてなかった」
 自嘲気味に笑う。
 昔のことを、彼に話したはずなどない。なのに、

「舞奈は、その人に鍛えられて今みたいに強くなったんだね」
 彼は意図的に場違いな明るい口調で問いかけた。
 弱みなど見せていないはずの舞奈を、はげますように。
 おそらく、病弱な妹にずっとそうしてきたように。
 だから舞奈の笑みも、やわらかく自然なそれへと変わる。

「いんや。そりゃ2人とも稽古はつけてくれたし、おかげで素人より強くはなったさ」
 その答えに、陽介は意外そうな顔をしてみせる。
「けど、あたしがあいつらに肩を並べられるくらい強くなることはなかった。たぶん満足してたからだろうな」
 再び夜空を見やり、静かに語る。
 陽介は、いつも舞奈がしているように無言で先をうながす。

「あいつらの後ろから銃で狙って、建前だけは3人で怪異どもを倒して、3人で戦うのが楽しくて、それ以上なにかを変えようだなんて思いつきもしなかった」
「それじゃあさ、その人たちって今はどうしてるの? ひょっとして【機関】にいたりするの?」
「さあね、忘れちゃったよ」
 口元に乾いた笑みを浮かべる。

 昔の仲間ことなど、彼に話したことはないし、話すこともないだろう。

「――けど、あいつは言った。強くなれって――自分を倒せるくらい強くなれってさ」
 ヒーローになりたい彼に、昔のヒーローのことを少し語るくらいいだろうと思った。

「今ならわかるんだけど、あいつは強い奴と戦うのが好きだったんだ。だから、強くなったあたしと戦いたかったんだと思う」
 そう言って、彼の顔を横目で見やる。
 男のくせに細面な彼は、不敵な一樹とは似ても似つかない。
 けど彼に一樹のことを話すのは、不快じゃなかった。

「だからさ、あたしは自分を鍛え続けてる。あいつに勝てるくらい強くなれたかどうかなんて、もうわかんないけどな」
 その答えに彼は満足しただろうか?

 ふと、それまで美佳と一樹のことだけ考えているはずの自分が、彼との対話の中で彼自身のために何かをしたいと考えていたことに気づいた。

 だから、不意に振り向いて彼を真正面から見やる。

「――楽しみだな」
「え?」
「雨が止んだら、いっしょに虹を見る約束だよ。忘れたわけじゃないだろ?」
「ああ、そっか。楽しみだね」
 陽介は笑った。
 舞奈もつられて笑った。

 それから舞奈はチャビーの部屋に戻り、今度は穏やかな気持ちで眠りについた。

 彼との対話があまりに心地よくて、まるで美佳と一樹のいたあの頃が戻ってきたかのように満ち足りていて、幸せで、だから身じろぎすらせず、ぐっすりと深く眠った。

 執行人エージェントたちが今夜0時の作戦のために準備していることに、気づく由もなかった。

 その代わりに昔の夢を見た――

 夜闇の中、少女の手を引いて少年が走る。
 2人とも中等部の制服を着ているが、その表情には幼さが残る。
 だが走り続ける少年の顔は恐怖に歪み、少女は何度も背後を見やる。

 2人は追われていた。

「だ、だいじょうぶ、俺が小夜子を守るから!」
「陽介君……」
 少年の言葉に、だが少女の不安げな表情は変わらない。

「あの人たち、何なの!? なんで、わたしたちが!?」
「わからないよ!」
 少年も不安に耐えられず、思わず叫ぶ。その瞬間、

「きゃっ」
 少女が不意に倒れこんだ。

「小夜子!?」
「ごめん、陽介く……イタッ」
 立ち上がろうとして、痛みに思わずへたりこむ。足をくじいたらしい。
 少年が歯噛みした途端、背後でガチャリと音がした。

 2人は恐怖に歪んだ表情で振り返る。

 そこには何十もの甲冑が迫っていた。
 いずれも時代錯誤な剣や斧を振りかざしている。

 少年は少女を庇うように抱きしめたまま、甲冑を睨みつける。

 甲冑たちは各々の得物を構える。
 先頭の1体が戦斧を振り上げ、少年の脳天に狙いをさだめる。
 幅広の凶悪な刃がギラリと光る。

 そして、振り下ろす。

「陽介君!?」
 少女の悲鳴を聞きながら、少年は思わず目を閉じる。

 金属が何かにぶつかる甲高い音。

 だが覚悟していた痛みは訪れなかった。
 おそるおそる目を開けると、ひとふりの和杖が斧を受け止めていた。

 細い和杖が巨大な斧を受け止め、ビクとも動かない。
 その現実に少年は驚く。

 杖を手にしていたのは真紅のコートの後姿。
 彼よりずっと小さいのに、それなのに頼もしさを感じさせる、不思議な背中。
 ポニーテールが夜風に揺れる。

「戦うすべを持たぬ男が身を挺して女をかばうか。ハハハ、笑わせてくれる」
 落ち着いているが年若い少女の声。
 2人を救ったのは、彼らよりなお年若い小学生ほどの少女だ。

「――だが悪い気分ではない」
 少女が楽しげに笑う間にも、甲冑たちは得物を構える。
 そんな様子を見やり、コートの少女の相棒らしいツインテールの幼女が声をあげる。

「おまえたち、はやく安全なところに――」
「――逃げる必要はない。奴らはすぐにいなくなって、ここは安全な場所になる」
 コートの少女は鮫のような笑みを浮かべ、和杖を構える。

「そうだろう、舞奈?」
「ああ! カズキの言うとおりだ!」
 次の瞬間、2人の少女は疾風になった。

 コートの少女は和杖で甲冑を叩きのめす。
 しかも少女が真言を唱えて咒符を放ると、符は炎の矢と化し甲冑の群れを焼き払う。

 そんな彼女に後れをとらぬとばかり、幼女は小さな身体に不釣り合いな拳銃ジェリコ941を操って甲冑を1体ずつ仕留める。

 コートの少女は、強さと正義を兼ね備えた、紛れもないヒーローだった。

 幼女は、そんなヒーローの背中を追いかけていた。

 少年は、そんなヒーローに憧れた。

 そして臆病な少女は、ヒーローの持つ力を欲した。
 何者にも自分たちを傷つけることを許さない、絶対なる力を欲した。
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