銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

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第21章 狂える土

共同戦線1

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 昼はスミスの絶品オムライスをいただきながら、新たな得物の知らせを聞いた。
 午後には地元の支部でニュットやフィクサーと報告会。
 そのように充実した土曜の午後に……

「……舞奈さん、明日香さん、今日もいってらっしゃいませ」
「おう! いつも見送りありがとさん」
「それじゃー転移いっくよー!」
「確実な転移をお願いしますね……」
 舞奈と明日香は平日の午後と同じように県の支部から転移する。
 もちろん行き先は普段と同じ埼玉支部。
 能天気な梢と不安げな明日香を他所に魔道具アーティファクトによる長距離転移は普通に成功。

「ちーっす!」
「こんにちは」
「おっ来たでやんす」
「おおっ舞奈殿、明日香殿、こんにちはでゴザル」
 先方の転移室を出て待合室に向かうと、仲間たちがたむろっていた。
 気さくに挨拶する舞奈と明日香にやんすが目ざとく気づき、3人掛けのソファをひとりで占領していたドルチェともども立ち上がる。

「ちょっと早いけど、行きましょうか」
「りょーかい」
「そうっすね。座ってるのも飽きたし」
 生真面目な冴子も読んでいた女性誌を置き、立ち上がって出口に向かう。
 舞奈や皆も続く。
 ザンも漫画本を棚に戻しつつ、欠伸しながら皆に続く。

 受付に挨拶してビルを出て、皆で連れ立って大通りを歩く。

 天気のいい土曜の夕方。
 埼玉の一角は普段と同じように、良い意味でも悪い意味でも賑やかだ。
 そんな中……

「……なんか、前より露骨にヤバそうな奴が増えてないか?」
 舞奈はふと訝しむ。

 街中で無秩序に飛び回る狂える土どもの動作が、いつも以上に派手な気がする。
 叫び声も大きく、妙に興奮した様子だ。
 数そのものも多いように思える。

 もちろん、くわえ煙草の不正移民が人間としてまともな訳がない。
 奴らは人の形をしているだけで人じゃない怪異だ。
 舞奈たちだって先週にヤバイ怪異を3匹ほど片づけたばかりだ。

 ……それを差し引いても、今日の人型怪異どもの暴れっぷりは酷いような。

 今しも反対側の歩道に集った数十匹の男が、何やらキレて怒鳴り散らしている。
 何匹かが何か殴り書かれた即席のプラカードを掲げる。
 鉄パイプを握りしめる者もいる。
 迷惑と騒動の度合いが以前よりエスカレートしている気がするのだが。

「……んー? 奴らいつもあんなもんじゃないっすか?」
「週末だからなのかも知れぬでゴザル」
「そりゃまあ、そうかもしれんがな……」
 ザンとドルチェが困惑しながら気のない返事を返す。
 おまえら、感覚がマヒしてないか? と口をへの字に曲げる舞奈を他所に、

「人型怪異に週末って関係あるのかしら? 仕事なんかしてなさそうなのに」
 冴子が明後日の方向に生真面目に考察し、

「まったく。余計なトラブルを作ろうとしないの」
「やんすー」
「そういうんじゃねぇよ!」
 明日香が、そしてやんすまでジト目で見やってきた。
 泣ける。

 もちろん舞奈だって奴らの挙動を逐一把握している訳じゃない。
 頭数をいちいち数えている訳でもない。
 なにせ人間の街を占有している怪異どもの数は多すぎて、特に目立った悪事を働く強力な個体への対処で手いっぱいだった。
 今の騒ぎっぷりも、以前からこんなもんだと言われれば反論はできない。

 だが舞奈が納得のいかない表情のまま、そんな事を考えるうちに……

「……おおい、あれは良いのか?」
 舞奈や皆が見やる先で、迷惑な怪異の集団は歩道からあふれ出す。
 ついには車道を封鎖するように広がり、行き交う車に罵声を浴びせはじめた。

「舞奈さん、何か仕掛けるんなら御一緒するっすよ! 暇だし!」
「別に何もしないよ! おまえも大人しくしてろ」
 ザンが爽やかな表情で明後日の方向を向いたフォローをしてくる。
 舞奈が思わず睨みつけた途端――

「――!」
 大通りから叫び声。
 再び見やる。

 先ほどの集団のうち1匹が、車道の中央に立って絶叫していた。
 見ているうちにも男の怒号は大きくなる。
 釣られたように他の狂える土も車道を跳び回りながら叫びはじめる。
 やりたい放題だ。

「……表立ってあそこまでやらかした事って、今まであったか?」
 舞奈は肩をすくめながら側の明日香を見やる。
 明日香は少し気まずそうに視線をそらして周囲を見やる。
 な? 妙だろう?

 舞奈に獣の言葉はわからない。
 プラカードに書いてある文字らしき何かの意味もわからない。
 だが奴らの挙動から厄介な状態なのは理解できる。

 他の皆も流石に違和感に気づいたようだ。
 ザンとドルチェが異能力をまとい、身を硬くして構える気配。
 途端――

「――あ」
 1匹の暴徒が車に向かって石や瓶を投げ始めた。
 すると他の狂える土どもも追従し、投石大会が始まった。

 ちょうど走っていた車は慌ててスピードを上げて離脱する。
 後続車も車線を変え、歩道から離れた車道の中央を駆け抜ける。

 だが投石は続く。

 ガラスが割れる音。
 運悪くフロントガラスに弾痕みたいなひび割れを作った乗用車が、驚いてハンドル操作を誤ったか縁石に激突。
 車から飛び出してきた背広姿のおっちゃんが、頭をかばいながら逃げていく。
 幸いにも暴徒どもは追いかけたりはしない。

 近くの店のシャッターが慣れた調子で次々と閉められていく。

 通りを歩いていた人々も、恐怖に顔を歪めながら建物の影に身を潜める。
 あるいは逃げ去ろうとする。

 一行の側で、子供を抱えた母親が怯えた目で現場を見ながら走り去る。
 舞奈は思わず身構えて母子への追撃者に備える。
 だが幸いにも杞憂に終わる。
 逃げる人間に興味を示す事はできないらしい。
 だが状況は逼迫している事には変わりない。

 暴動の始まりだ。
 迷惑な不法移民どもが暴徒と化したのだ。
 つい先程まで騒がしいが平和ではあった通りが、一瞬にして戦場になった。

 パトカーのサイレンが遠くで聞こえる。
 思いのほか素早い対応だ。
 誰かが先んじて通報でもしていたのだろうか?

 だが怪異どもは既に熱狂の中にいる。
 誰にも止められない。
 逆にサイレンの音に挑発され、タガが外れたように暴れはじめた。

 薄汚いくわえ煙草の怪異が、道路脇の標識を引き倒す。

 店仕舞いした店舗に襲いかかり、手にした凶器でシャッターを強打する。

 火がつけられたゴミ箱から煙が立ち上る。

 混乱は次第に広がり、大通り全体が怪異の狂乱に飲まれていく。

 数匹の怪異が自動販売機をひっくり返す。
 別の何匹かが、通りに散らばる硬貨に群がる。

 正直、舞奈たちが襲われないのが不思議なくらいだ。

「これ、放っておいていいのか?」
「行きますか!? 舞奈さん!」
 舞奈はさりげなくジャケットの下の得物に手をかける。
 側のザンは異能力【狼牙気功ビーストブレード】を身にまとって臨戦態勢だ。
 それでも……

「……わたしたちが出張る状況じゃないわよ」
 明日香が冷ややかにツッコむ。
 警戒はしているが、あくまで事態を静観するつもりらしい。
 ドルチェや冴子も同じ心づもりのようだ。
 いい根性してやがるなあ。

 ……と思った途端、サイレンの音が近い事に気づく。
 地元警察が到着したのだ。
 なるほど明日香はこれを予測していたか。

 舞奈たちが見守る先で、警官隊がパトカーから跳び出す。
 手慣れた調子で盾と警棒を構えて集団を取り囲む。
 だが既に状況は深刻だ。
 何かの残骸が転がり、煙が充満する大通りで、警官隊と怪異どもが衝突する。

 それでも、こうなってしまうと逆に舞奈たちにできることはない。
 表の社会での舞奈たちの立場は、あくまで保健所のアルバイトにすぎない。
 暴動に対処する義務も責任も、何より権限がない。
 銃や異能力で暴徒どもを蹴散らしても別の事件の当事者になるだけだ。
 舞奈が最強だとか、そういう事は関係ない。
 もちろんパトカーが到着した時点で制圧済みだったとしても同じだ。

 なので市井の人々と同じくトラブルを避けるように、一行は戦場を離れる。
 そして不幸中の幸いにも、その後は別の騒ぎに出くわしたりすることはなく……

「……やれやれ、着いたぜ」
 舞奈たちは禍我愚痴支部へ到着した。
 見慣れた保健所の建物を見やって少しだけ安堵する。
 無意識に気配を探り、追加の悶着の種になりそうなものがないか用心する。

「皆さん、今日もお疲れさまです」
「やあ、みんな」
「トーマスさんまで出迎えなんて珍しいな」
「ちょっと急に頼まなくちゃならない仕事ができてね」
「こりゃまた」
 エントランスで開口一番、トーマス氏がそんな話を切り出した。
 舞奈はやれやれと肩をすくめる。
 表の騒ぎの時から予感はしたが、優雅な土曜の平穏は午前中で終わりらしい。

「そこの通りで派手なパーティーをしてたが、その絡みか?」
 軽口めかして尋ねた途端、

「まあ関係はあるだろうけど」
「おおい、他にも何かあるのか……?」
 そんな聞くからに厄介そうな答えが返ってきた。
 舞奈は大仰に肩をすくめてみせる。

 すぐ近くの大通りでの騒ぎを知って、この落ち着きよう。
 舞奈たちが今まで運よく出くわさなかっただけで、日常茶飯事なのだろう。
 街の人たちの対応も手馴れたものだったし。

 普通に回っている社会の裏で、突発的に凶悪事件が起きるだけじゃない。
 街のど真ん中で昼間からあれなのだ。
 この街の状況は、舞奈が思っていたより深刻らしい。
 そんな舞奈の内心など知らず、

「例の自警団からだよ。移民たちに不審な動きがあるって通報があったんだ」
「不穏な動きねぇ……」
 トーマス氏は何食わぬ顔で話を続ける。
 舞奈は渋面のままひとりごちる。

 ただ不審なだけの動きじゃないのだろう。
 ここの住人は先ほどレベルの騒ぎを何事もなかったかのようにスルー出来る。
 その感覚で言ってきた『不穏な動き』だ。

 だが、そもそも舞奈たちも、そういう警察にすら対処できない怪異による被害を抑えるために禍我愚痴支部に通っている。
 その中で、奴らの背後にある大きな動きを探ろうと模索している。
 もとより禍我愚痴支部での仕事のひとつは、中東はるばる海を越えて来訪し、埼玉の一角を占有している怪異どもの『不穏な動き』を探るためだ。
 なので……

「……詳しくは部屋で話そう」
「ああ、そうさせてもらうぜ」
 トーマス氏の言葉に従い、皆で会議室に向かう。
 その最中……

「……結局、トーマスさんには話したんだな。自警団の事」
「すいません」
「いや別に悪い訳じゃないさ」
 ふと言ってみた舞奈に、フランは何となく申し訳なさそうに返す。
 舞奈は何食わぬ笑みを返す。

 まあ確かに、この話は保留しようと皆で決めた。
 あの日の帰り際に出会った預言者の少女たちの話を聞き、その先に何をするのが正解なのか量りかねたからだ。

 だが、そもそも舞奈たちもニュット経由でこちらに確認される事を容認した。
 そちらから問い合わせがあれば、おのずと知れた事だ。
 それに何より、無理をしてまで内緒にしたかった訳じゃない。

 だが預言者の彼女たちが語った預言。
 彼女らの言葉をフランはどこまでトーマス氏に話したのだろうか?

 それによって預言者が見た未来は変わったのだろうか?

 あるいは逆に、現実が預言に近づいたのだろうか?

 それを確かめる手段はない。
 彼女らが語った『裏切りと死』という預言には他の手掛かりが何もないからだ。
 なので――

「――にしても。早速こっち頼りか」
「まあ道理はわかるでやんすが」
 舞奈は大仰に肩をすくめてみせる。

 遠くの真実より、今は目先のトラブルに対処すべき時だ。
 順番を無理やりに逆にしても何も良い事はない。
 そういう風に舞奈は今まで生きてきた。

 そう考えると先方からの通報は、警察に通報するのと同じ感覚だろうと思う。
 そもそも舞奈たちと会う前から彼らの主な活動は地元警察への通報だった。
 先方からすれば、そんな時分に、より自分たちの理想に近く、そして頼りになる集団ないし組織とコネができた事になる。
 場当たり的な対処しかできなかった警察とは違い、怪異を始末できる集団だ。
 何かあったのなら、そちらに連絡するようになるのが自然だろう。
 今後はそちらへの対処でも忙しくなりそうだ。

「で。奴ら、今度は裏で何をやらかしたんだ?」
 会議机の側の椅子にどっかり座って話を進める。
 そうする意外に、今の舞奈にできる事はないからだ。
 表の警官が表向きの暴動に対処するしかできないように、舞奈たちは裏の世界で怪異たちを叩きのめす事しかできない。

「彼らの話では、違法薬物の密売や薬物中毒者が不自然に増えているそうです」
 諜報部のものであろう資料を片手にフランが答える。

「ドラッグでゴザルか……」
 ドルチェが厄介そうに顔をしかめる。
 まあ他の皆も多かれ少なかれ同じ反応だし、舞奈も同じだ。

 何故なら人型怪異どもを人間と見分ける最も確実な手段は喫煙の有無だ。
 ある種の毒の煙を摂取する事で、ある種の人間は怪異へと変貌する。
 その後に手にするのが、さらに強い毒性を持った薬物だ。
 埼玉の一角とは違って平和なはずの舞奈たちの地元の小中高一貫校も、薬物中毒者の集団に襲撃された事がある。
 そんな事を考えながら舞奈が口元を歪める側で、

「具体的にはどのような?」
「はい。自警団のメンバーの中にお医者様がいて、薬物中毒による急患が増えている事に不審に思っていたらしく……」
 冷徹な明日香の問いに、フランは通報の内容を話し始める。

 中毒者の多くが移民のコミュニティセンターの周辺で発見されたらしい。
 もちろんセンターそのものは合法的な活動を行っている合法的な施設だ。

 だが最近、何人かの不正移民が夜半に出入りしているという噂が広がっていた。
 なので他のメンバーが目を光らせるようにしていた。

 そのようにゆるやかな監視を続ける中、メンバーのひとりが、施設の陰であからさまに胡散臭い連中が何かの取引をしている様子を目撃したらしい。
 監視中でなく偶然にセンター前を通りかかった際に見つけたというのが何とも。
 だが、どちらにせよ、相手はそのメンバーに気づくと、あわてて何かをポケットに忍ばせ立ち去ったらしい。

「……その目撃者、まだ生きてるんだろうな?」
 ふと気になってボソリと問う。
 対面のザンが、やんすがギョッとするが、

「それは大丈夫だと思います。何日か前の話を昨日まとめて話てくださったので」
「昔の話なのか」
 フランの答えに胸をなでおろす。
 まあ、それはそれで良くない話だが。
 何かあった場合の通報は、するなら事が起こってすぐにしてほしい。

「それに、ほら、キャロルさんでしたか、用心棒の方もいらっしゃいますし」
「あいつが何処まで頼りになるかは知らんがな」
 フランの言葉に肩をすくめ、

「別の方は倉庫に集まる不正移民のグループを目撃されたそうです」
「他にもあるのか……」
 続く言葉に苦笑する。
 話には、さらに続きがあるらしい。

 おそらく内々で協議してから複数の目撃証言をまとめて通報したのだろう。
 先方からしても舞奈たちは今はまだお客様だ。
 なので一行は続く話にも耳を傾ける。

 大通りに面した貸倉庫でも、奴らの怪しい動きがあったという。
 いつもなら夜遅くは静かな場所なのだそうだが、その日は違ったらしい。
 何台かの車が集まり、荷物を積み下ろししていた。
 遠くから見たそのメンバーは、何か違和感を感じて近くに様子を見に行った。

「……おおい。いきなり無茶しやがって」
「その方は【偏光隠蔽ニンジャステルス】だったらしく」
「腕の立つ奴は普通に見破ってくるって、何かの機会に教えてやらんとな……」
 思わず入れたツッコミへの答えに苦笑する。

 自警団の構成員は、近隣から集った市井の異能力者による有志だ。
 故に何と言うか……舞奈から見ると、異能すら持たない一般人より気が大きくなってる分だけ危なっかしい。
 だが済んだ昔の話に文句を言っても、明日香が睨んでくるだけで良い事はない。
 なので大人しく続きを拝聴する。

 その果敢なメンバーは、透明になった状態で奴らの怪しい活動を監視した。
 倉庫にたむろっていた不正移民どもは周囲を警戒しながら荷物を運んでいた。
 荷物は目立たない茶色の箱に包まれていた。
 だが周囲に漂う緊張感や手渡される封筒から、何か違法な取引が行われていると察して通報してくれたらしい。

「……それ、おそらく薬物の取締りで警察に突入された奴でやんすね」
「わかるのか?」
 やんすが声をあげ、

「昨日のニュースになってるでやんす」
「そっちは昨日の話だったのか」
 でもって警察と両方に通報したのか。

 苦笑する舞奈の側で、やんすは手にした携帯を読み進める。
 見ていたのはニュースサイトのようだ。
 そのまま記事を斜め読み、

「捜査の際にも、ひと悶着あったみたいでやんすね」
「はい。他にも対応する地元警察とのトラブルも増えているらしくて」
「他にもあるのか」
「そうみたいです。公表されていないものも含めて十数件ほど」
「おいおい」
 フランと話をまとめる。
 通報を聞いてから警察に問い合わせたのだろうか?
 舞奈は思わず肩をすくめる。

 どうやら、その違法薬物の取引とやらは一カ所や二カ所の話じゃないらしい。
 うち何件かは地元警察に発覚して普通に事件として処理されているようだ。
 奴らからすれば、ひとつやふたつの取引を目撃されたくらいで口封じをする必要はないと考えれば、まあ辻褄は合う。
 それが良い事なのか悪い事なのかは知らないが。

「んな話、テレビのニュースじゃひとつも見た事なかったがなあ」
 舞奈はやれやれと肩をすくめる。

 例によって報道は当てにならない。
 通報が無ければ、奴らの隠してすらいない暗躍について知る事もできなかった。
 そういった情報が手に入るのは地元民である自警団とコネができた強みだ。

「さっきの騒ぎも、その関連でやんすかね」
「だろうな。奴らが叫んでた内容がわかればいいんだが」
「言ってた内容とプラカードの中身は、差別をやめろとか、警察は職務質問を控えろとか、そういう内容でやんすよ」
「あ。言葉わかるんですね」
「えへへ、ちょっと勉強したでやんすよ」
 続くやんすの言葉にフランがちょっと驚く。
 やんすはちょっと照れる。
 舞奈的には、あの場で言ってくれれば良かったのにと少し思う。

 だがまあ、事情はわかった。
 要は今度の騒動は、違法薬物とやらの取引を巡る怪異どもと地元警官の確執だ。

 正直なところ、そのまま警察にまかせればいいんじゃないかとも思う。

 だが先ほどの事件への対応を見た限り、現状維持が精いっぱいなのだろう。
 何せ奴らは表向きには人間の移民だ。
 地元警察も、あくまで表の世界の公務員だ。
 派手な騒ぎを起こしたからと言って相手を処分する訳にもいかないはずだ。
 捕まえて、釈放して、また同じ奴が騒動や事件を起こす堂々巡りだ。

 だから自警団の面々は、警察でなく舞奈たちを頼ろうと思った。
 その考え方自体は的確だと舞奈は思う。

 それに下手に自警団だけで深入りして事件に巻きこまれても寝覚めが悪い。
 舞奈たちが手をこまねいていると本当にやりかねない。
 そうやって彼らの小さな同志は銃器の密輸を暴こうとして消された。
 フランの話を聞く限り、彼らも無自覚に危ない橋を渡っている。
 そんな思惑は、仲間たちも同じなのだろう。

「ちなみに、どのような薬物なのでゴザルか?」
 堅実なドルチェが尋ね、

「地元警察からの情報提供と自警団による考察をまとめたところ、身体能力の上昇と……おそらくは異能力の発現」
「おいおい」
 返ってきたフランの言葉に苦笑する。

 それが自警団が舞奈たちを頼った、もうひとつの理由だろう。
 異能力も怪異も魔法も、表向きには存在しない事になっている。
 異能力をもたらすドラッグを相手に、表の世界の警察ができることはない。

「まったく、あいつらロクな事しないな」
 大仰に肩をすくめ、

(それ、例のチップじゃないだろうな?)
 口に出さずにひとりごちる。

 蜘蛛のブラボーちゃんを魔獣にした例のチップ。
 つまりKoboldのイレブンナイツを強化していた怪異のチップ。
 対象に悪しき異能を付与するそれと、まったく同じ効果を持つドラッグ。
 もう嫌な予感しかしない。

 その考えは、隣の明日香も同じらしい。
 だが、その事を今、ここで話す必要もないだろう。
 なので何食わぬ表情のまま、

「早速だが自警団に協力し、必要ならば問題の対処に当たってほしい」
「りょーかい。チー牛どもと楽しい共同戦線だぜ」
(丁度いいや。相手がチップ絡みならキャロルのが詳しそうだしな)
 続くトーマス氏の言葉にうなずいた。
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