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惜別の日

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 俺達は中立都市にいったん戻り、冒険者ギルドでオーク族とエルフ族が支配する都市の場所を聞いた。

 まずはオーク族が支配する最初の都市へと赴くことにした。聞いたところによるとかつては人類が暮らし栄華を誇った都市だが今はオーク族の支配下に置かれているらしい。

 荒野を二日歩くと遠くに都市が見えた。

 オーク族の支配する都市は廃墟が建ち並び不気味な雰囲気を醸し出している。

 まずは敵の戦力確認と奴隷の捜索だ。

 俺は〈学級閉鎖クローズ〉と〈暗黙の了解テレパシー〉を発動した。

 都市に潜入するとデビルオーク3体が廃墟の側でしゃがみ込んで文句を言っていた。

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 デビルオーク 種族値:950 個体値:20~35
 
 人型の化け物。全身から腐敗種がする。
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「件の人類襲撃にワイト・タイタンまで召喚する必要など全くなかった。明らかにサーベル王の判断ミスだ」

「そうだ、生贄に俺の奴隷が5人も使われた」

「口を慎め、人類に恐怖心を植え付けて反抗させないことは重要なことなのだ」

 この前のシェルター襲撃はオーク族の仕業らしい。

 まずは都市全体を調べたが、どうやらデビルオークしかいないみたいだ。

  次に廃墟を探索するとラミの聴力で地下に隔離された人類と獣人の奴隷を見つけた。

 鉄の扉を〈砂塵時代〉で砂に変えて、俺達が姿を現すと数十人の奴隷達は声をあげて驚いた。

 二人の奴隷の獣人がラミを強く抱きしめた。

 ラミが涙を流して喜んでいる。どうやらラミのご両親らしい。

「俺が地上でデビルオークと戦うからソラとベルは皆さんの先導を頼む」

「わかった」
「了解」
 
 デビルオークのレベルは今の俺なら楽に勝てるはずだ。

 俺は堂々と都市の大通りを闊歩した。

 案の定、デビルオークがぞろぞろと現れて薄気味悪い笑みを浮かべている。

「全員まとめてかかってこい、一匹ずつだと張り合いがない」

 俺の言葉にデビルオークがブチ切れて吠えながら襲いかかってきた。

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〈土魔法・砂獏竜〉 消費MP:250 残MP:920/1400

 砂塵で模られたドラゴン。大きさは魔法力に比例する。
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 デビルオーク達を巨大な砂獏竜が大きな口で次々と飲み込み大ダメージを与えた。

 倒れ込んだデビルオークは、なんとか起き上がると四方八方から一斉に闇魔法を放ってきた。

〈闇魔法・暗黒衝撃波〉

 避けられないなら弾き返すまでだ。

〈黒剣・斬撃波〉

 敵の暗黒衝撃波を俺の斬撃波が弾き返して恐ろしい威力の斬撃波となって、辺り一面のデビルオークに直撃した。
 
 デビルオークの肉体が粉々に飛散すると俺はレベルは120に上がった。

 ソラとベルが廃墟から奴隷の人類と獣人を引き連れて出てきた。

 俺達は救世主として深く感謝された。

 その後、数日かけて全員で獣人の都市へと戻った。

 獣人の都市は俺の指示通り、城壁が高くなり要塞化しつつあった。

 巨塔の王室の間で一日休んでから再出発することにした。

 今回はラミのこともあって獣人の都市まで戻ってきたが、次回からは解放した奴隷には自力でこの都市に戻ってもらうことにした。

 ベッドに入り深い眠りに入ると俺の新スキルが自動で発動した。

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悪夢予知ナイトメア〉 消費MP:300 残MP:1100/1400

 効果:睡眠中に仲間の死を予知する。夢で見た出来事はいつか必ずおこるため、未来を変えるには仲間と絶縁する必要がある。
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 夢の中で俺達と冒険するラミの死の映像がいろいろなパターンで何十回も流された。

 夜中に俺が目を覚ますとソラが心配そうに俺を見ていた。

「レオ、うなされてたけど大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。悪夢を見た」

 俺は汗だくのシャツを脱ぐとシャワーを浴びてから二度寝した。

 やはり、この過酷な世界で戦闘力0のラミを護りきるのは不可能だということか。

 この不可避の未来を変えるにはラミとはこの都市で別れるしかない。

 翌朝、俺は〈悪夢予知ナイトメア〉についてソラとベルに説明した。

 二人共、ラミとの別れを惜しんだが理解してくれた。

 朝食を食べてから正門に行くと俺達の旅立ちを見送りに多くの人達が来てくれた。

 ラミは今にも泣きだしそうな顔をしている。

 今朝、俺達に付いてくる気が満々の様子だったラミを、この都市で両親と平和に暮らすようにと、なんとか説得してきたばかりだった。

 ラミは俺達との別れに大泣きしたが納得してくれたはずだった。

 だがラミは都市から出発した俺達の方へと走ってきてしまった。

 ここはあえて嫌われる言動をするのが真の優しさだ。

「俺としては弱い仲間はいらない」
 
 ラミは俺の非情な一言に涙目になると、駆け足で都市へと戻り俺達を見送りにきていたご両親に抱きついた。

 ソラとベルは俺の言葉の真意に気づいてくれているみたいだ。

 さようならラミ、幸せを祈っている。

 俺は決して振り返らずに重い足取りで去ったのだった。
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