戦闘開始前に、敵が土下座してくる

チー牛Y

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2:世界がざわつき始める

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俺が魔王城から帰って三日。

世界は、明らかにおかしくなった。

「聞いたか?
 あの魔王、勇者に土下座したらしいぞ」

「いや違う。
 勇者の方が“出直してこい”って言ったらしい」

「魔王が鍛え直すってどういう意味だよ……」

酒場、宿屋、ギルド。
どこに行っても、その話題で持ちきりだった。

当然だ。
魔王=最終決戦という常識が、根こそぎ壊されたのだから。

ギルドの受付嬢すら、俺を見る目がおかしい。

「……あの、本当に戦わなかったんですか?」

「うん。土下座されたから」

「土下座……」

彼女は遠い目をした。

「最近、“土下座魔王”って二つ名が広まり始めてます」

やめてあげて。



一方その頃。

魔王城では、異様な光景が広がっていた。

「まず筋力!!
 全軍、朝五時起床!!」

「魔力制御訓練を三倍に増やす!!」

「伝説級装備の量産計画を始動!!」

魔王は、黒いマントを翻しながら叫んでいた。

「いいか!!
 次に来る時、勇者は“本気”だ!!」

幹部たちは青ざめる。

「ま、魔王様……
 今まで我々、そこまで本気出したことありませんが……」

「だからだ!!」

魔王は机を叩いた。

「今までの我々は!!
 物語補正に甘えていた!!」

静まり返る室内。

魔王は、かつてないほど真剣な顔で言った。

「どうせ勇者は最後に勝つ。
 だから途中は適当でいい。
 ――そんな空気があった」

図星だった。

「だが!!」

魔王は拳を握る。

「今回は違う!!
 あの勇者は、準備を終えた状態で来る!!」

幹部の一人が震える声で言った。

「……勝てますか?」

魔王は、はっきり答えた。

「勝率は……
 今で0. 2%」

「低っ!?」

「だが!!
 鍛えれば0. 3%にはなる!!」

誤差。

それでも魔王は胸を張った。

「その0. 1%が!!
 我々の生存戦略だ!!」

こうして魔王軍は、
史上初めて――

“本気で勇者対策を始めた魔王軍”
となった。



その頃、俺はというと。

「……なんか、嫌な予感するな」

宿のベッドで天井を見つめていた。

あの魔王。
目が本気だった。

「普通、魔王って強者にワクワクする側だよな?」

なのにあいつは違った。

生き残るために、全力で準備する目。

「まあいいか」

俺は起き上がり、剣を手に取る。

「次に会う時は、
 ちょっとは歯ごたえあるといいな」

だがその頃すでに――

魔王軍は、
勇者を倒すためではなく、
勇者に“負けないため”の戦争準備を始めていた。

そして世界はまだ知らない。

この選択が、
歴代最悪に“長引く最終決戦”を生むことを。 
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