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6:鎧が降り立つ
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轟音ではなかった。
だが、確実に重さだけが伝わる着地だった。
床石が軋み、城全体が一瞬だけ沈む。
その衝撃に耐えきれず、空気が押し潰されるように悲鳴を上げた。
俺は、その音を聞いてから剣を抜いた。
刃が鞘を離れる、乾いた金属音。
それは戦闘開始の合図というより、ようやく場に馴染んだ、という感覚に近かった。
「お、やっとそれっぽいの来たな」
軽い声だった。
だが、その軽さが、この場では異物だった。
その瞬間。
魔王軍全体が、息を止めた。
誰もが見ていた。
勇者の足運び。
剣の角度。
視線の置きどころ。
――ついに構えた。
その事実だけが、城全体に重く落ちる。
◇
迎撃指揮室
水晶板が震え、魔力観測値が跳ね上がる。
「勇者、戦闘態勢!!」
声が裏返る。
「来ます!!」
報告が重なり、室内の空気が一気に張り詰めた。
魔王は、歯を食いしばる。
拳が、知らず強く握られている。
「耐えろ……」
それは命令であり、祈りでもあった。
「一撃でもいい……」
勝利条件を、限界まで下げた言葉。
「本気を引き出せ……!!」
勇者を倒すためではない。
勇者の基準を知るための命令だった。
◇
回廊
鎧が、剣を振り下ろす。
迷いのない軌道。
計算された角度。
城を壊すことすら織り込み済みの一撃。
俺は――
半歩、ずれた。
それだけだった。
ガン。
鈍い衝撃音とともに、床が砕ける。
石片が跳ね、衝撃波が回廊を走る。
「……危な」
思わず、口から漏れた。
戦闘中の言葉ではない。
ただの実感だった。
「これ、城壊れるだろ」
砕けた床を見下ろしながら、俺はそう言った。
その瞬間。
魔王軍に、衝撃が走った。
一撃を避けられたからではない。
致命打を回避されたからでもない。
「い、今のを…… “危な”で済ませた……?」
声が震える。
「回避行動、最小……」
数値を追っていた者ほど、言葉を失った。
「勇者…… 環境被害を心配している……?」
理解が、追いつかない。
魔王の脳裏に、最悪の理解が浮かぶ。
(違う……)
今まで想定してきた、どの勇者像とも違う。
(勇者は……)
強さを誇示していない。
勝ちを取りに来ていない。
(戦っていない)
ただ、そこに立っているだけだ。
魔王は、静かに言った。
「……下がれ」
「え?」
指示の意味を測りかねる声。
「鎧を止めろ」
「ですが!!」
反論が出るのは当然だった。
魔王は、深く息を吸う。
そして、吐く。
「これ以上やれば…… 城が先に死ぬ」
誰も、否定できなかった。
◇
鎧は停止した。
命令による停止。
だが、それ以上に、
これ以上は無意味だと理解したかのような静止だった。
回廊には、遅れて粉塵が舞い上がる。
砕けた床石が崩れ、白い靄のように視界を覆う。
まだ、何も見えない。
その中を――
誰かが、迷いなく歩いてくる。
足音は速い。
だが、走ってはいない。
粉塵が落ちて、視界が開ける。
魔王は、すでに目の前に立っていた。
背筋を伸ばし、肩を正し、
戦闘ではなく対話の距離で。
まるで最初からそこにいたかのような姿勢だった。
「なあ」
声をかけられ、魔王は即座に返事をした。
「はい……」
「やっぱ今日、戦わなくてよくね?」
あまりに率直な言葉。
沈黙。
「準備、足りてない感じするし」
理由は、合理的だった。
世界が、凍った。
魔王は――
ゆっくりと。
判断を噛み締めるように。
そして、二度目の――
土下座をした。
だが、確実に重さだけが伝わる着地だった。
床石が軋み、城全体が一瞬だけ沈む。
その衝撃に耐えきれず、空気が押し潰されるように悲鳴を上げた。
俺は、その音を聞いてから剣を抜いた。
刃が鞘を離れる、乾いた金属音。
それは戦闘開始の合図というより、ようやく場に馴染んだ、という感覚に近かった。
「お、やっとそれっぽいの来たな」
軽い声だった。
だが、その軽さが、この場では異物だった。
その瞬間。
魔王軍全体が、息を止めた。
誰もが見ていた。
勇者の足運び。
剣の角度。
視線の置きどころ。
――ついに構えた。
その事実だけが、城全体に重く落ちる。
◇
迎撃指揮室
水晶板が震え、魔力観測値が跳ね上がる。
「勇者、戦闘態勢!!」
声が裏返る。
「来ます!!」
報告が重なり、室内の空気が一気に張り詰めた。
魔王は、歯を食いしばる。
拳が、知らず強く握られている。
「耐えろ……」
それは命令であり、祈りでもあった。
「一撃でもいい……」
勝利条件を、限界まで下げた言葉。
「本気を引き出せ……!!」
勇者を倒すためではない。
勇者の基準を知るための命令だった。
◇
回廊
鎧が、剣を振り下ろす。
迷いのない軌道。
計算された角度。
城を壊すことすら織り込み済みの一撃。
俺は――
半歩、ずれた。
それだけだった。
ガン。
鈍い衝撃音とともに、床が砕ける。
石片が跳ね、衝撃波が回廊を走る。
「……危な」
思わず、口から漏れた。
戦闘中の言葉ではない。
ただの実感だった。
「これ、城壊れるだろ」
砕けた床を見下ろしながら、俺はそう言った。
その瞬間。
魔王軍に、衝撃が走った。
一撃を避けられたからではない。
致命打を回避されたからでもない。
「い、今のを…… “危な”で済ませた……?」
声が震える。
「回避行動、最小……」
数値を追っていた者ほど、言葉を失った。
「勇者…… 環境被害を心配している……?」
理解が、追いつかない。
魔王の脳裏に、最悪の理解が浮かぶ。
(違う……)
今まで想定してきた、どの勇者像とも違う。
(勇者は……)
強さを誇示していない。
勝ちを取りに来ていない。
(戦っていない)
ただ、そこに立っているだけだ。
魔王は、静かに言った。
「……下がれ」
「え?」
指示の意味を測りかねる声。
「鎧を止めろ」
「ですが!!」
反論が出るのは当然だった。
魔王は、深く息を吸う。
そして、吐く。
「これ以上やれば…… 城が先に死ぬ」
誰も、否定できなかった。
◇
鎧は停止した。
命令による停止。
だが、それ以上に、
これ以上は無意味だと理解したかのような静止だった。
回廊には、遅れて粉塵が舞い上がる。
砕けた床石が崩れ、白い靄のように視界を覆う。
まだ、何も見えない。
その中を――
誰かが、迷いなく歩いてくる。
足音は速い。
だが、走ってはいない。
粉塵が落ちて、視界が開ける。
魔王は、すでに目の前に立っていた。
背筋を伸ばし、肩を正し、
戦闘ではなく対話の距離で。
まるで最初からそこにいたかのような姿勢だった。
「なあ」
声をかけられ、魔王は即座に返事をした。
「はい……」
「やっぱ今日、戦わなくてよくね?」
あまりに率直な言葉。
沈黙。
「準備、足りてない感じするし」
理由は、合理的だった。
世界が、凍った。
魔王は――
ゆっくりと。
判断を噛み締めるように。
そして、二度目の――
土下座をした。
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