戦闘開始前に、敵が土下座してくる

チー牛Y

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5:最終局面

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魔王城、全域。

天井に埋め込まれた赤い警戒灯が、脈打つ心臓のように回り続けていた。
光が通路を舐め、壁の紋章を歪め、影を不規則に引き伸ばす。

城は生き物のように唸りを上げている。

「最終防衛段階に移行!!」

「全軍、配置につけ!!」

「これは演習ではない!!」

怒号と報告が交錯し、魔力回路が一斉に起動する。
重厚だった魔王城は、その役割を変えつつあった。

――居城から、迎撃兵器へ。

壁は装甲となり、床は罠となり、通路そのものが敵を殺すために再構築されていく。



迎撃指揮室

水晶盤に映る無数の視界。
各所の迎撃部隊、罠の稼働率、魔力残量。

その中心で、魔王は玉座に腰掛けたまま、微動だにしていなかった。

静かすぎる。

それが、周囲の幹部たちを何よりも緊張させていた。

「勇者は、何をしている?」

低く、感情の揺れを一切含まない声。

参謀が一瞬だけ言葉を選び、報告する。

「……通路の柱を見ています」

「柱?」

「彫刻が気になるらしく……  “これ、誰が作ったんだ?”と」

指揮室に、説明しがたい沈黙が落ちた。

魔王は、ゆっくりと目を閉じる。

(余裕……)

(圧倒的な余裕だ)

世界の命運がかかる戦場で、
敵は風景を見ている。

「気を抜くな」

魔王は、静かに告げた。

「勇者は“世界そのもの”を観察している」

「そこまで……?」

参謀の声は、疑念というより恐怖だった。

「そこまでだ」

魔王は、断言した。



城内・回廊

俺は、通路の柱を見上げていた。

天井まで伸びる白い石柱。
そこに刻まれた模様は、魔法陣でも呪文でもない。

「これ、手彫りだよな……すげえ……」

俺は完全に見惚れていた。

戦場だということも、
魔王城の最深部だということも、意識の外に押しやられていた。

ここで石を削っていた誰かの時間が、
今この瞬間まで繋がっている。
その歴史に、俺は立ち止まっていた。

その瞬間――

足元が、僅かに沈んだ。

「え?」

疑問が浮かぶより早く、空間が軋む。

視界が歪み、上下の感覚が反転し、空気そのものが重くのしかかる。

「次元拘束、発動!!」

「重力反転!!」

「魔力遮断フィールド、最大!!」

魔王城が誇る、対勇者用の殺戮連鎖。

だが――

俺は、普通に立っていた。

足は床にあり、呼吸もできる。
世界は、何も変わっていない。

「……あれ?」

自分でも、少し不思議だった。




迎撃指揮室

「通用していません!!」

「拘束率、ゼロ!!」

「勇者、歩いてます!!」

報告が悲鳴に近い速度で飛び込む。

水晶盤には、罠の中心を散歩するかのような勇者の姿。

魔王は、ゆっくりと拳を握った。

(想定通りだ……)

(だからこそ、次だ)

「――最終兵器を出せ」

指揮室の空気が、凍りつく。

幹部たちは、一斉に息を呑んだ。

「ま、魔王様……  それはまだ……」

「今だ」

躊躇を許さぬ、絶対の声。



玉座の間・奥

誰も近づかぬ禁域。

封印扉が、軋む音を立てて、ゆっくりと開いていく。

内側から溢れ出すのは、禍々しいほどに整った魔力。

中から現れたのは――

鎧だった。

だが、着る者はいない。

人の形をした鎧が、意思を持つかのように宙に浮かび、
内部を満たす魔力だけで、関節を鳴らし、動き出す。

自律戦闘鎧
《オート・アポカリプス》。

それは、兵器であり、災厄だった。

「世界を三度、滅ぼしかけた兵器だ」

魔王の声が、玉座の間に静かに響いた。 
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