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5:最終局面
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魔王城、全域。
天井に埋め込まれた赤い警戒灯が、脈打つ心臓のように回り続けていた。
光が通路を舐め、壁の紋章を歪め、影を不規則に引き伸ばす。
城は生き物のように唸りを上げている。
「最終防衛段階に移行!!」
「全軍、配置につけ!!」
「これは演習ではない!!」
怒号と報告が交錯し、魔力回路が一斉に起動する。
重厚だった魔王城は、その役割を変えつつあった。
――居城から、迎撃兵器へ。
壁は装甲となり、床は罠となり、通路そのものが敵を殺すために再構築されていく。
◇
迎撃指揮室
水晶盤に映る無数の視界。
各所の迎撃部隊、罠の稼働率、魔力残量。
その中心で、魔王は玉座に腰掛けたまま、微動だにしていなかった。
静かすぎる。
それが、周囲の幹部たちを何よりも緊張させていた。
「勇者は、何をしている?」
低く、感情の揺れを一切含まない声。
参謀が一瞬だけ言葉を選び、報告する。
「……通路の柱を見ています」
「柱?」
「彫刻が気になるらしく…… “これ、誰が作ったんだ?”と」
指揮室に、説明しがたい沈黙が落ちた。
魔王は、ゆっくりと目を閉じる。
(余裕……)
(圧倒的な余裕だ)
世界の命運がかかる戦場で、
敵は風景を見ている。
「気を抜くな」
魔王は、静かに告げた。
「勇者は“世界そのもの”を観察している」
「そこまで……?」
参謀の声は、疑念というより恐怖だった。
「そこまでだ」
魔王は、断言した。
◇
城内・回廊
俺は、通路の柱を見上げていた。
天井まで伸びる白い石柱。
そこに刻まれた模様は、魔法陣でも呪文でもない。
「これ、手彫りだよな……すげえ……」
俺は完全に見惚れていた。
戦場だということも、
魔王城の最深部だということも、意識の外に押しやられていた。
ここで石を削っていた誰かの時間が、
今この瞬間まで繋がっている。
その歴史に、俺は立ち止まっていた。
その瞬間――
足元が、僅かに沈んだ。
「え?」
疑問が浮かぶより早く、空間が軋む。
視界が歪み、上下の感覚が反転し、空気そのものが重くのしかかる。
「次元拘束、発動!!」
「重力反転!!」
「魔力遮断フィールド、最大!!」
魔王城が誇る、対勇者用の殺戮連鎖。
だが――
俺は、普通に立っていた。
足は床にあり、呼吸もできる。
世界は、何も変わっていない。
「……あれ?」
自分でも、少し不思議だった。
◇
迎撃指揮室
「通用していません!!」
「拘束率、ゼロ!!」
「勇者、歩いてます!!」
報告が悲鳴に近い速度で飛び込む。
水晶盤には、罠の中心を散歩するかのような勇者の姿。
魔王は、ゆっくりと拳を握った。
(想定通りだ……)
(だからこそ、次だ)
「――最終兵器を出せ」
指揮室の空気が、凍りつく。
幹部たちは、一斉に息を呑んだ。
「ま、魔王様…… それはまだ……」
「今だ」
躊躇を許さぬ、絶対の声。
◇
玉座の間・奥
誰も近づかぬ禁域。
封印扉が、軋む音を立てて、ゆっくりと開いていく。
内側から溢れ出すのは、禍々しいほどに整った魔力。
中から現れたのは――
鎧だった。
だが、着る者はいない。
人の形をした鎧が、意思を持つかのように宙に浮かび、
内部を満たす魔力だけで、関節を鳴らし、動き出す。
自律戦闘鎧
《オート・アポカリプス》。
それは、兵器であり、災厄だった。
「世界を三度、滅ぼしかけた兵器だ」
魔王の声が、玉座の間に静かに響いた。
天井に埋め込まれた赤い警戒灯が、脈打つ心臓のように回り続けていた。
光が通路を舐め、壁の紋章を歪め、影を不規則に引き伸ばす。
城は生き物のように唸りを上げている。
「最終防衛段階に移行!!」
「全軍、配置につけ!!」
「これは演習ではない!!」
怒号と報告が交錯し、魔力回路が一斉に起動する。
重厚だった魔王城は、その役割を変えつつあった。
――居城から、迎撃兵器へ。
壁は装甲となり、床は罠となり、通路そのものが敵を殺すために再構築されていく。
◇
迎撃指揮室
水晶盤に映る無数の視界。
各所の迎撃部隊、罠の稼働率、魔力残量。
その中心で、魔王は玉座に腰掛けたまま、微動だにしていなかった。
静かすぎる。
それが、周囲の幹部たちを何よりも緊張させていた。
「勇者は、何をしている?」
低く、感情の揺れを一切含まない声。
参謀が一瞬だけ言葉を選び、報告する。
「……通路の柱を見ています」
「柱?」
「彫刻が気になるらしく…… “これ、誰が作ったんだ?”と」
指揮室に、説明しがたい沈黙が落ちた。
魔王は、ゆっくりと目を閉じる。
(余裕……)
(圧倒的な余裕だ)
世界の命運がかかる戦場で、
敵は風景を見ている。
「気を抜くな」
魔王は、静かに告げた。
「勇者は“世界そのもの”を観察している」
「そこまで……?」
参謀の声は、疑念というより恐怖だった。
「そこまでだ」
魔王は、断言した。
◇
城内・回廊
俺は、通路の柱を見上げていた。
天井まで伸びる白い石柱。
そこに刻まれた模様は、魔法陣でも呪文でもない。
「これ、手彫りだよな……すげえ……」
俺は完全に見惚れていた。
戦場だということも、
魔王城の最深部だということも、意識の外に押しやられていた。
ここで石を削っていた誰かの時間が、
今この瞬間まで繋がっている。
その歴史に、俺は立ち止まっていた。
その瞬間――
足元が、僅かに沈んだ。
「え?」
疑問が浮かぶより早く、空間が軋む。
視界が歪み、上下の感覚が反転し、空気そのものが重くのしかかる。
「次元拘束、発動!!」
「重力反転!!」
「魔力遮断フィールド、最大!!」
魔王城が誇る、対勇者用の殺戮連鎖。
だが――
俺は、普通に立っていた。
足は床にあり、呼吸もできる。
世界は、何も変わっていない。
「……あれ?」
自分でも、少し不思議だった。
◇
迎撃指揮室
「通用していません!!」
「拘束率、ゼロ!!」
「勇者、歩いてます!!」
報告が悲鳴に近い速度で飛び込む。
水晶盤には、罠の中心を散歩するかのような勇者の姿。
魔王は、ゆっくりと拳を握った。
(想定通りだ……)
(だからこそ、次だ)
「――最終兵器を出せ」
指揮室の空気が、凍りつく。
幹部たちは、一斉に息を呑んだ。
「ま、魔王様…… それはまだ……」
「今だ」
躊躇を許さぬ、絶対の声。
◇
玉座の間・奥
誰も近づかぬ禁域。
封印扉が、軋む音を立てて、ゆっくりと開いていく。
内側から溢れ出すのは、禍々しいほどに整った魔力。
中から現れたのは――
鎧だった。
だが、着る者はいない。
人の形をした鎧が、意思を持つかのように宙に浮かび、
内部を満たす魔力だけで、関節を鳴らし、動き出す。
自律戦闘鎧
《オート・アポカリプス》。
それは、兵器であり、災厄だった。
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魔王の声が、玉座の間に静かに響いた。
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