戦闘開始前に、敵が土下座してくる

チー牛Y

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4:勇者、軽装で魔王城に来る

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魔王城の門は、以前とは明らかに違っていた。

城壁は高く、厚くなり、継ぎ足された黒い石材には新しい魔力の痕跡がまだ生々しく残っている。

壁面には幾重にも魔法陣が刻まれ、赤や青の光が、脈打つ血管のようにゆっくりと明滅していた。

見張りの数は三倍どころではない。
門の上、城壁の縁、影の落ちる死角――
考えうる限りの場所に、魔族の兵が配置されている。

空を見上げれば、索敵用の使い魔が円を描くように飛び回り、羽音が重なっていた。

静かなはずの城前が、常に見られている感覚で満たされている。

「……増えてない?」

俺は門の前で立ち止まり、素直すぎる感想を口にした。

返事はない。
ただ、無数の視線だけが、突き刺さるように集まってくる。

装備は軽い。

剣一本。
防具なし。
背負い袋もなし。

ポケットに入っているのは、泊まっていた宿の鍵と、干し肉二本だけだ。



城内・迎撃指揮室

「来ました!!」

張り詰めた空気を切り裂くように、伝令の声が響く。

「勇者、単独!!
 装備、ほぼ無し!!」

その言葉が落ちた瞬間、室内が凍りついた。

誰も、すぐには口を開けない。
地図の上を指でなぞっていた幹部も、魔力計測器を睨んでいた参謀も、動きを止める。

そして――

「来たか……」

玉座から、低く、重い声が落ちた。

魔王が、ゆっくりと立ち上がる。
椅子がわずかに軋み、その音すらやけに大きく響いた。

「ついに完成形だな」

幹部たちがざわつく。
ざわめきはすぐに抑え込まれたが、不安は隠しきれていない。

「ま、魔王様……
 あれは……油断では?」

恐る恐る、誰かが口を開いた。

「違う」

魔王は即答した。
声は低く、迷いがない。

「不要な物を、すべて削ぎ落とした姿だ」

「!?」

「武器一本で、世界を終わらせる覚悟……
 あいつは、そういう段階に来ている」

言葉が、重く落ちる。

誰も反論できない。
誰も、笑えない。

室内の全員が、同時に息を呑んだ。



城門前

重い音を立てて、門が開く。

石と鉄が擦れ合う、低く不快な音。
その隙間から、城内の闇と魔力が流れ出してくる。

俺は、特に警戒する様子もなく、一歩踏み出した。

「おーい」

軽く手を振る。

「約束通り、来たぞー」

その瞬間。

――城全体が、わずかに震えた。

空気が揺れ、足元の石畳が微かに鳴る。
魔力が一斉に目を覚ましたような感覚。

「第一結界、起動!!」

「第二・第三、同時展開!!」

警報が鳴り響く。
金属音と魔法音が重なり、城内が一気に戦場の色に染まる。

空気が張り詰める。
見えない糸で全身を縛られたような圧迫感。

俺は、思わず足を止めた。

「……え、なにこれ」

呟きは、完全に本音だった。

俺が一歩進むたび、
足元の魔法陣が、勝手に反応する。

光が走り、術式が連鎖する。

「うわ、眩し」

光の壁が立ち上がる。
重力魔法が空間を歪ませる。
幻覚干渉が視界の端を揺らす。

――全部、勝手に起動している。

俺は剣を握り直し、少しだけため息をついた。

魔王はただ、全力で――
俺を迎え撃つ準備をしていた。
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