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52:新たな主
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再生しつつある影核は、凰翔の手のひらで静かに明滅を繰り返していた。
その優しい脈動は、ただの安堵では終わらなかった。
――ザワ……。
研究所の外気が揺れるような、微かな震えが床を伝う。
「……今、揺れたか?」
「いや、設備は何も動かしてないはずですが……」
シロガネが周囲に視線を走らせ、眉をひそめる。
「……影の気配が、薄く……いや、増えてる……?」
キツネも耳を立て、低く唸った。
「第二核は死んだ。
なのに……まだ“外”で何かがうごめいてる……」
凰翔の背筋に冷たいものが走る。
その直後――
圧のような影が、空から押し寄せた。
外部影の群れが、研究所へ迫ってくる。
第二核はもうないはずなのに。 指示する主も、繋ぐ中枢も消えたのに。
「なぜだ……! 核が滅んだら“召喚元”が断たれるはず……!」
「なのに、まだ影が……!!」
「これは……! 本体核が死ぬ前に呼んだ群れ……!!」
影の大群は、落ちてくる最中にも“揺れて”いた。
渦巻きながら――
まるで何かを探すかのように。
シロガネは眉をひそめる。
「……第二核の死に気づいた……?」
キツネも低く唸る。
「主を失った影は本来、霧散する。それでも残ってるってことは――」
「“新しい核を探してる”」
「……へ?」
凰翔の手の中で、黒い欠片が震える。
まるで呼応するように。
――ピシッ。
欠片の周囲に、細い影糸が網のように広がった。
「お前……まさか……!」
「凰翔さん……落ち着いて聞いてください……」
「核が滅んでも、“欠片”は核としての権限を部分的に保持しています」
「つまり……」
「第二波の外部影が探している“新しい主”に――
その欠片が該当し得る」
「それって……まさか……」
キツネが小さく息をつき、静かに口を開いた。
「いや、主になれとは言ってないけど……“繋ぎ先”にされる可能性はあるよ」
「…………」
上空。
渦巻いていた影の群れが、ピタリと止まった。
まるで空中で“嗅ぎつけた”ように。
「……反応してる」
「下を見ている……!」
「新たな核の気配……!」
「俺じゃないよね?????」
欠片が――
ドクン。
弱いが、確かな脈動を放った。
その瞬間。
影の群れが一斉に凰翔へ向けて “頭を垂れた”。
空中で。 影の集合体が。 黒い雫のように形を変え、
まるで――跪くかのように。
研究員たちがざわめく。
「影が……従属姿勢を……?」
「第二核の後継者として……認識している……!」
だが次の瞬間――
影の群れが震え始めた。
“従う”のではなく。
“確認する”ように。
第二核は死んだ。
けれど、この欠片は本当に主となる価値があるのか。
揺れは――
試すように強くなっていく。
「これは……凰翔さんを試しているんじゃない!
“欠片”を試してる……!」
「欠片が核として再生する資格があるか……!」
黒い欠片は、震えるのをやめた。
代わりに――
凰翔の手のひらで“光”を宿した。
今までの影核にはない、
どこか温かい、淡い光。
キツネが息を呑む。
「……もしかして」
シロガネは小さく頷く。
「欠片は……生まれ変わろうとしていますね……」
「主や中枢としてではなく……
凰翔さんと対等に立つ、“相棒として”」
「……」
影の群れがざわつき、空が波打つ。
欠片が――静かに、優しく脈動する。
その脈動は、外部影にはっきりと伝わった。
従属を強制するでもなく。
支配するでもなく。
ただ“ここにいる”と示すだけの、弱い光。
影たちは――
その光を認めるように形を変えた。
敵意が薄れ、
渦がゆっくりとほどけていく。
「影が……退いていく……!」
「戦闘継続ではなく……観測体制に……?」
「核の死後の影が……自律判断……?」
影の群れは完全に“攻撃姿勢”を解き、
上空でゆらゆらと漂いながら――
凰翔の“欠片”を監視していた。
死んだ主の代わりになるものが本当に存在するか。
この欠片がどこまで成長するか。
凰翔という人間が、どこへ向かうのか。
彼らはただ、静かに“見ている”。
消えることなく。 攻めることなく。
まるで――まだ何かを待っている。
「……いや、襲って来ないのは良いですが、普通に怖いんですけど…………」
「核の死と再生……
これは影界全体にとっても前例のない事態ですからね」
「まあ……いい意味で、だよ」
そして凰翔の手の中で、
黒い欠片は、
ゆっくりと“形”を作り始めた。
盾でも刃でもない。
核でも器でもない。
まるで――
凰翔の“手のひらに合わせて寄り添う”ような、
柔らかい影の形。
その優しい脈動は、ただの安堵では終わらなかった。
――ザワ……。
研究所の外気が揺れるような、微かな震えが床を伝う。
「……今、揺れたか?」
「いや、設備は何も動かしてないはずですが……」
シロガネが周囲に視線を走らせ、眉をひそめる。
「……影の気配が、薄く……いや、増えてる……?」
キツネも耳を立て、低く唸った。
「第二核は死んだ。
なのに……まだ“外”で何かがうごめいてる……」
凰翔の背筋に冷たいものが走る。
その直後――
圧のような影が、空から押し寄せた。
外部影の群れが、研究所へ迫ってくる。
第二核はもうないはずなのに。 指示する主も、繋ぐ中枢も消えたのに。
「なぜだ……! 核が滅んだら“召喚元”が断たれるはず……!」
「なのに、まだ影が……!!」
「これは……! 本体核が死ぬ前に呼んだ群れ……!!」
影の大群は、落ちてくる最中にも“揺れて”いた。
渦巻きながら――
まるで何かを探すかのように。
シロガネは眉をひそめる。
「……第二核の死に気づいた……?」
キツネも低く唸る。
「主を失った影は本来、霧散する。それでも残ってるってことは――」
「“新しい核を探してる”」
「……へ?」
凰翔の手の中で、黒い欠片が震える。
まるで呼応するように。
――ピシッ。
欠片の周囲に、細い影糸が網のように広がった。
「お前……まさか……!」
「凰翔さん……落ち着いて聞いてください……」
「核が滅んでも、“欠片”は核としての権限を部分的に保持しています」
「つまり……」
「第二波の外部影が探している“新しい主”に――
その欠片が該当し得る」
「それって……まさか……」
キツネが小さく息をつき、静かに口を開いた。
「いや、主になれとは言ってないけど……“繋ぎ先”にされる可能性はあるよ」
「…………」
上空。
渦巻いていた影の群れが、ピタリと止まった。
まるで空中で“嗅ぎつけた”ように。
「……反応してる」
「下を見ている……!」
「新たな核の気配……!」
「俺じゃないよね?????」
欠片が――
ドクン。
弱いが、確かな脈動を放った。
その瞬間。
影の群れが一斉に凰翔へ向けて “頭を垂れた”。
空中で。 影の集合体が。 黒い雫のように形を変え、
まるで――跪くかのように。
研究員たちがざわめく。
「影が……従属姿勢を……?」
「第二核の後継者として……認識している……!」
だが次の瞬間――
影の群れが震え始めた。
“従う”のではなく。
“確認する”ように。
第二核は死んだ。
けれど、この欠片は本当に主となる価値があるのか。
揺れは――
試すように強くなっていく。
「これは……凰翔さんを試しているんじゃない!
“欠片”を試してる……!」
「欠片が核として再生する資格があるか……!」
黒い欠片は、震えるのをやめた。
代わりに――
凰翔の手のひらで“光”を宿した。
今までの影核にはない、
どこか温かい、淡い光。
キツネが息を呑む。
「……もしかして」
シロガネは小さく頷く。
「欠片は……生まれ変わろうとしていますね……」
「主や中枢としてではなく……
凰翔さんと対等に立つ、“相棒として”」
「……」
影の群れがざわつき、空が波打つ。
欠片が――静かに、優しく脈動する。
その脈動は、外部影にはっきりと伝わった。
従属を強制するでもなく。
支配するでもなく。
ただ“ここにいる”と示すだけの、弱い光。
影たちは――
その光を認めるように形を変えた。
敵意が薄れ、
渦がゆっくりとほどけていく。
「影が……退いていく……!」
「戦闘継続ではなく……観測体制に……?」
「核の死後の影が……自律判断……?」
影の群れは完全に“攻撃姿勢”を解き、
上空でゆらゆらと漂いながら――
凰翔の“欠片”を監視していた。
死んだ主の代わりになるものが本当に存在するか。
この欠片がどこまで成長するか。
凰翔という人間が、どこへ向かうのか。
彼らはただ、静かに“見ている”。
消えることなく。 攻めることなく。
まるで――まだ何かを待っている。
「……いや、襲って来ないのは良いですが、普通に怖いんですけど…………」
「核の死と再生……
これは影界全体にとっても前例のない事態ですからね」
「まあ……いい意味で、だよ」
そして凰翔の手の中で、
黒い欠片は、
ゆっくりと“形”を作り始めた。
盾でも刃でもない。
核でも器でもない。
まるで――
凰翔の“手のひらに合わせて寄り添う”ような、
柔らかい影の形。
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