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2 追放された夜
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森の夜は、思ったより静かだった。
木々の間を風が抜ける音。
遠くで鳴く魔物の声。
それ以外は、ほとんど何も聞こえない。
「……寒いな」
俺は荷物袋の中から毛布を取り出し、肩にかけた。
王都にいた頃は、こんな夜を過ごすことなんてなかった。
暖かい部屋。
ちゃんとしたベッド。
仲間と囲む食事。
それが、昨日までは当たり前だった。
「……はは」
苦笑いがこぼれる。
たった一日で、全部なくなった。
俺は草の上に寝転び、空を見上げた。
森の隙間から、星が見える。
静かな夜だった。
静かすぎて――
どうしても、考えてしまう。
「……三年か」
勇者パーティーに入ったのは、三年前だ。
俺は当時、まだ駆け出しの回復術師だった。
回復術師は、どこのパーティーでも不足している。
だから声をかけられた。
勇者レオンのパーティーに。
最初は、信じられなかった。
王国で一番有名なパーティー。
魔王討伐を目指す英雄たち。
そんな人たちと、一緒に戦えるなんて。
正直、舞い上がっていたと思う。
でも、現実は甘くなかった。
――最初の戦いを思い出す。
魔物討伐の依頼だった。
森に出る、オークの群れ。
戦いが始まってすぐ、盾役のガルドが大きな傷を負った。
胸から血が流れていた。
「カイル! 回復だ!」
俺は必死で魔法を使った。
「ヒール!」
淡い光がガルドを包む。
血が止まり、傷がゆっくり閉じていく。
だが、完全には治らない。
「……ちっ、回復が遅ぇな」
ガルドは不満そうに舌打ちした。
その時は、ただ必死だった。
次の戦い。
その次の戦い。
何度も何度も回復魔法を使った。
夜通し治療したこともある。
魔物の群れに囲まれた時もあった。
前衛が倒れた。
魔法使いが魔力切れになった。
そのたびに俺は回復魔法を使った。
自分の魔力が空になるまで。
それでも――
誰も死ななかった。
パーティーは、勝ち続けた。
でも。
「カイルって、地味だよね」
魔法使いのリリアが、そんなことを言ったことがある。
「あんまり目立たないし」
その時、レオンは笑っていた。
「まあ回復役だからな」
「戦闘で活躍するわけじゃないし」
あの時は、あまり気にしていなかった。
回復術師は裏方だ。
派手な仕事じゃない。
でも、仲間を支える大事な役割だと思っていた。
だから頑張れた。
それなのに――
「お前は弱い」
レオンの言葉が、頭の中で何度も響く。
弱い。
役立たず。
ポーションで代用できる。
胸の奥が、じんわり痛んだ。
「……本当にそうなのかな」
思わず呟く。
俺は、そんなに役に立たなかったのか?
三年間。
誰かが倒れたら、必ず助けた。
重傷者を何人も治した。
夜通し回復したことだってある。
それでも。
俺は、いらない存在だった。
「……はぁ」
大きく息を吐く。
考えても仕方ない。
追放されたのは事実だ。
もう、あのパーティーには戻れない。
俺はゆっくり起き上がった。
視線の先には、さっき回復魔法を使った場所がある。
月明かりに照らされた草原。
昼間まで枯れていたはずの土地だ。
それが今は、青々としている。
風に揺れる草。
生命力に満ちた大地。
「……やっぱりおかしいよな」
普通、回復魔法でこんなことは起きない。
人の傷を癒す魔法だ。
土地を変える魔法じゃない。
俺はもう一度、地面に手をかざした。
「ヒール」
淡い光が広がる。
次の瞬間。
草がざわっと揺れた。
ぐん、と伸びる。
まるで時間が早送りされたみたいに。
「……やっぱりだ」
俺は思わず笑った。
頭の中に、昼間聞いた声がよみがえる。
【スキル『生命活性』】
【土地・植物・生物の生命力を高めます】
「生命活性、か」
俺は草を一本抜いてみた。
根がしっかり張っている。
しかも、ものすごく元気そうだ。
「これ……」
ふと、あることを思いつく。
もし、この力が
植物の成長を早める力なら。
「作物とかも育つのか?」
例えば、野菜とか。
果物とか。
普通なら、収穫まで何ヶ月もかかる。
でも――
生命活性なら?
俺は森の方を見た。
木々の奥には、まだ知らない土地が広がっている。
水があるかもしれない。
野生の作物があるかもしれない。
もし、畑が作れたら。
食べ物には困らない。
家も作れる。
ここで暮らすことだってできる。
「……悪くないかもな」
思わず笑った。
勇者パーティーを追放されて。
森で野宿して。
普通なら、絶望するところだ。
でも今の俺は、不思議とそんな気分じゃなかった。
むしろ――
少しだけ、ワクワクしている。
「とりあえず明日、森を調べてみるか」
水場を探す。
食べ物を探す。
畑にできそうな土地も探す。
やることはたくさんある。
俺は再び毛布にくるまった。
森の夜風は冷たい。
でも、不思議と嫌な気分じゃない。
目を閉じる。
今日はいろいろありすぎて、さすがに疲れていた。
意識がゆっくり沈んでいく。
その直前。
俺はぼんやり思った。
もしかしたら――
この森での生活は。
思っているより、悪くないかもしれない。
この時の俺はまだ知らない。
この小さな草原が。
やがて人が集まり、
村になり、
町になり、
そして――
世界中から人が訪れる場所になることを。
木々の間を風が抜ける音。
遠くで鳴く魔物の声。
それ以外は、ほとんど何も聞こえない。
「……寒いな」
俺は荷物袋の中から毛布を取り出し、肩にかけた。
王都にいた頃は、こんな夜を過ごすことなんてなかった。
暖かい部屋。
ちゃんとしたベッド。
仲間と囲む食事。
それが、昨日までは当たり前だった。
「……はは」
苦笑いがこぼれる。
たった一日で、全部なくなった。
俺は草の上に寝転び、空を見上げた。
森の隙間から、星が見える。
静かな夜だった。
静かすぎて――
どうしても、考えてしまう。
「……三年か」
勇者パーティーに入ったのは、三年前だ。
俺は当時、まだ駆け出しの回復術師だった。
回復術師は、どこのパーティーでも不足している。
だから声をかけられた。
勇者レオンのパーティーに。
最初は、信じられなかった。
王国で一番有名なパーティー。
魔王討伐を目指す英雄たち。
そんな人たちと、一緒に戦えるなんて。
正直、舞い上がっていたと思う。
でも、現実は甘くなかった。
――最初の戦いを思い出す。
魔物討伐の依頼だった。
森に出る、オークの群れ。
戦いが始まってすぐ、盾役のガルドが大きな傷を負った。
胸から血が流れていた。
「カイル! 回復だ!」
俺は必死で魔法を使った。
「ヒール!」
淡い光がガルドを包む。
血が止まり、傷がゆっくり閉じていく。
だが、完全には治らない。
「……ちっ、回復が遅ぇな」
ガルドは不満そうに舌打ちした。
その時は、ただ必死だった。
次の戦い。
その次の戦い。
何度も何度も回復魔法を使った。
夜通し治療したこともある。
魔物の群れに囲まれた時もあった。
前衛が倒れた。
魔法使いが魔力切れになった。
そのたびに俺は回復魔法を使った。
自分の魔力が空になるまで。
それでも――
誰も死ななかった。
パーティーは、勝ち続けた。
でも。
「カイルって、地味だよね」
魔法使いのリリアが、そんなことを言ったことがある。
「あんまり目立たないし」
その時、レオンは笑っていた。
「まあ回復役だからな」
「戦闘で活躍するわけじゃないし」
あの時は、あまり気にしていなかった。
回復術師は裏方だ。
派手な仕事じゃない。
でも、仲間を支える大事な役割だと思っていた。
だから頑張れた。
それなのに――
「お前は弱い」
レオンの言葉が、頭の中で何度も響く。
弱い。
役立たず。
ポーションで代用できる。
胸の奥が、じんわり痛んだ。
「……本当にそうなのかな」
思わず呟く。
俺は、そんなに役に立たなかったのか?
三年間。
誰かが倒れたら、必ず助けた。
重傷者を何人も治した。
夜通し回復したことだってある。
それでも。
俺は、いらない存在だった。
「……はぁ」
大きく息を吐く。
考えても仕方ない。
追放されたのは事実だ。
もう、あのパーティーには戻れない。
俺はゆっくり起き上がった。
視線の先には、さっき回復魔法を使った場所がある。
月明かりに照らされた草原。
昼間まで枯れていたはずの土地だ。
それが今は、青々としている。
風に揺れる草。
生命力に満ちた大地。
「……やっぱりおかしいよな」
普通、回復魔法でこんなことは起きない。
人の傷を癒す魔法だ。
土地を変える魔法じゃない。
俺はもう一度、地面に手をかざした。
「ヒール」
淡い光が広がる。
次の瞬間。
草がざわっと揺れた。
ぐん、と伸びる。
まるで時間が早送りされたみたいに。
「……やっぱりだ」
俺は思わず笑った。
頭の中に、昼間聞いた声がよみがえる。
【スキル『生命活性』】
【土地・植物・生物の生命力を高めます】
「生命活性、か」
俺は草を一本抜いてみた。
根がしっかり張っている。
しかも、ものすごく元気そうだ。
「これ……」
ふと、あることを思いつく。
もし、この力が
植物の成長を早める力なら。
「作物とかも育つのか?」
例えば、野菜とか。
果物とか。
普通なら、収穫まで何ヶ月もかかる。
でも――
生命活性なら?
俺は森の方を見た。
木々の奥には、まだ知らない土地が広がっている。
水があるかもしれない。
野生の作物があるかもしれない。
もし、畑が作れたら。
食べ物には困らない。
家も作れる。
ここで暮らすことだってできる。
「……悪くないかもな」
思わず笑った。
勇者パーティーを追放されて。
森で野宿して。
普通なら、絶望するところだ。
でも今の俺は、不思議とそんな気分じゃなかった。
むしろ――
少しだけ、ワクワクしている。
「とりあえず明日、森を調べてみるか」
水場を探す。
食べ物を探す。
畑にできそうな土地も探す。
やることはたくさんある。
俺は再び毛布にくるまった。
森の夜風は冷たい。
でも、不思議と嫌な気分じゃない。
目を閉じる。
今日はいろいろありすぎて、さすがに疲れていた。
意識がゆっくり沈んでいく。
その直前。
俺はぼんやり思った。
もしかしたら――
この森での生活は。
思っているより、悪くないかもしれない。
この時の俺はまだ知らない。
この小さな草原が。
やがて人が集まり、
村になり、
町になり、
そして――
世界中から人が訪れる場所になることを。
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