間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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二章 地下格闘技復讐編

6.規律を守れない者には、退学のペナルティね!

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 悩んでいる。

 僕は今、非常に悩んでいる。

 悩んでいるというのは、昨日の浦和くんの件だ。停学中の外出に、東城さんを殴った事を先生に告げるべきか、否か。

 いや、告げるべきだろう。何しろ停学で自宅謹慎を破り、あまつさえ痴情のもつれから女の子を殴ったのだ。然るべき裁きを、うけるべきではないか?

 だが……僕がそれを密告したら、浦和くんは恐らく『退学』させられるだろう。自宅謹慎中外出した、ならば厳重注意なり、追加課題なり、期間延長くらいにはなるかもしれない。

 だが、暴力を振るったのだ、彼は……いや自分も殴って蹴ってはしてないが、格闘技の技術を使って浦和くんと前池くんを屈服させたけど……。

 僕は、授業を受けている東城さんを見た。

 相変わらず爆乳だ、制服の上からでも目を引く。比嘉出さんは『全身がでかい』バランスタイプに対し東城さんは『胸と尻がでかい』という、アンバランス。

 あの胸……競泳水着に押し込まれて苦しくならないのかと下世話な事を考えてしまい、話が逸れたと僕は方向修正して考えた。

 東城さんは……望んでいるのか?浦和くんが退学までするのを。もう別れたのか、浦和くんからは別れてない判定だろうが、あんな事があった以上、僕たちがその証拠も握っている。

 それを先生に出して、告発すべきなのか?

 けど、これは所謂『私刑』であり『密告』にならないか?そこまでは……東城さんは望んでないのでは、余計なお世話なのでは?

「みんな写したかァ?ほな消すデェ」
「あ、やば」

 なんて事だ、考え込んでいたら先生に板書を消されてしまった。仕方がない、休み時間にでも山城くんに頼ろう。いや本当、こう言った事も頼れる相手が居ると違うなと、僕はとりあえず写せるだけ板書を写したのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 そうして授業が終わり、僕は決心した。

 聞こう、直接、東城さんに。

 言うべきか言わざるべきか。

 その返答が何だろうと、傷つくのは僕だ。それでもし、頼むと言われたら本田くんの動画を僕が持っていって、僕が告発してやればいい。

 何余計な事してんの、調子乗んな陰キャクソ野郎と言われたら、僕たちももう見なかった事にしようと、僕は立ちあがろうとした。

 そして、恐怖が体を重くした。

 いや、何でって……。

 この久島秀忠、女の子に自分から話しかけた機会はほぼ、いや多分全く無いから。

 ジムのダイエットに来ている主婦から声をかけられたりして相槌は打ったりするけど、クラスメイトと話す時は相手からだから!

 だが、やらねばならぬ久島秀忠!日本一のキックボクサーと死闘を演じた男が、女子一人に話しかけられないで何が、もう一度日本一と戦いたいだ!

 立て、よし立てた!歩け!東城さんの席までーーとなったところで。

「東じーー」
「久島くん、ちょっといいかな……」
「あうっ!?」

 変な声出た。比嘉出さんが、声をかけてきたのだ。いや本当、先月まであった吊り目に巨大な肉体から滲む覇気が全く無い彼女は、快活バレー女子から、スランプに悩め物憂げガールになっていた。

「な、な、何か……用?」
「うん、それと……伊佐美……くん」
「うぉお!?くん付けだぁ!?気持ち悪ぃ!マジで何考えてやがる比嘉出ぇ!」

 呼び捨てにされていた慣れがあった伊佐美くんが、ガチに驚き飛び跳ねるくらいの衝撃と、何かされんの俺!?と警戒心を一気に高める。

「話があって……あと、本田くんに、山城くんにも……ちょっと話しておかないと」

 体育館裏の謝罪から、また何か言いたい事があるのかと考えた僕だが……また違う雰囲気を察したらしい伊佐美くんが、真剣に話を聞かなければならないと見て、立ち上がった。

「ちょう待っとれや比嘉出、山城と本田呼んでくるわ……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 山城くんも、本田くんも呼ばれ……何だこの独特な構成はと僕は思った。

 元陽キャグループバレー部女子を囲む、陰キャ窓際族に、ファッションヤンキー、オタク、挫折野球少年。

 失礼ながらここはカーストの最下層をさらに掘り進めた吹き溜まりではなかろうか、と感じてしまった。

「で、話って……」

 僕は、自ずと比嘉出さんにどうしたのか切り出した。そして彼女は、ゆっくりと僕たちに語り始めた。

「昨日、謹慎中の翔太からメッセージ来てて……久島くん達が、狙われてるって」
「えっ」
「何だそりゃ?」

 翔太、つまりは比嘉出さんの彼氏で現在停学謹慎中の前池翔太くんだ。僕が関節キメて頭をスイカみたいに踏み潰しかけ、失禁した……ああやだ、彼の瞳の中で、笑っている自分を思い出して僕は口元を右手で覆う。

「それで、翔太が言うには……浦和くんが、久島くん達にやり返す気満々で、浦和くんが三鬼って人?に声かけたらしいの」

 三鬼?誰だ?知らない人だなとポカンとするなか、この話題で目を見開いたのは伊佐美くんだった。

「比嘉出……お前それ、マジで言っとんか?てか、あいつ三鬼奏多と関わりがあるんか?」
「そ、そんなに怖い人なの?翔太がね、私つてに久島くん達に伝えてって送ってきたから……」

 どうやら比嘉出さんも知らないらしいが、余程前池くんが切羽詰まって、比嘉出さん経由で停学の原因の僕に連絡を入れるほどには危ない人に、浦和くんは呼んだらしい。

 僕へ復讐する為に……。

「伊佐美くん、その、三鬼奏多って誰なの?」

 一体誰なんだとなった僕に、そして知らないこの場の皆に伊佐美くんは語り出した。

「半グレだよ、この近くの繁華街……浜縁のクラブを中心に活動してる"血雨(ブラッディレイン)“ってチームのリーダーで……俺もまぁファッションヤンキーながら話聞いた事あるんだけど、ガチの反社のワルだ……同じチーム名の地下格闘技団体もやってたり、少年院行ったとか……人殺して埋めとるとか……兎に角、同じヤンキーでも関わるなって言われてるやべー地元のギャングだよ」
「そんな人と、浦和くんが?」
「おいおいマジかよ……洒落にならんぞ」

 僕もその話には流石に冷や汗が身体から湧き出た。高校生がバックに怖い先輩従えるって、それはヤンキー物の漫画とかの話じゃないのかと……しかし、僕は伊佐美くんの話から気になる話題が出てきて彼に尋ねた。

「地下格闘団体の主催なの?その三鬼さんって……チームと同じ団体名、血雨(ブラッディレイン)なんて団体って、聞いた事無いな……」
「あー、そっち行ったか久島……」
「相変わらずだな久島ぁ……」

 そう『地下格闘技団体』と言うワードだ。僕から吐き出された興味に、伊佐美くんと本田くんが苦笑した。

 地下格闘技というのは、通常の格闘技興業とは違うものの『定義』という物は曖昧である。

 所謂不良、ヤンキー、ギャング、反社会勢力に類する者達が『喧嘩』の延長線として開かれる、通常の格闘技イベントよりルールが緩やかかつ、エンタメ性に特化した物が、そうだというべきか。ブレイキングケイジも『地下格闘技』要素が強い団体と言えるだろう。

 過激なルールや独自ルールによる喧嘩じみた試合や、団体戦をしたり、勢力同士の上下を決めるなど様々な理由で運営される。

 フィクションならば、ルール無用で頭突き金的目潰しまで有効とし、実は企業やヤクザ同士がプロを雇って戦わせたりだとか、表の実力者を寄せ付けない、凄まじい達人が試合ならぬ『死合』求めてその為に運営したり……そんな幻想的な物を想像させられたりする。

 だけど……今は朝原光流が『ブレイキングケイジ』を設立したため、ファイトマネーから知名度の獲得というのもあり、地下格闘技の者達がブレイキングケイジに流出したりしている。

 それ以前にもメジャー団体やマイナー団体が話題性の為にオファーを送ったりと……表の格闘技と地下の格闘技の境目は、曖昧となりつつあるのが現状だった。

「今はすぐ調べられるな、あった……」

 今の時代は何でもスマホで調べられるからいい、僕は早速YouTubeで血雨、地下格闘技と検索したら、チャンネルまで開設されていた。

 それを再生して、僕はその試合を見てみた。まぁ、うん……ありがちだ、殴り合う為に寝技無し、ダウン制無し、金網の中で殴り合い罵倒し、乱闘もあり……だ。特筆すべき物はないなと、目を細めながら見ていると。

「こ、こんな事してるの……怖い」

 比嘉出さんはその試合の映像に恐怖した、まぁこれが普通の女の子の反応かと僕は、あのキツイ目の覇気があった比嘉出さんが、女性らしく怖がる様に、少しだけゾクリとしたのは気持ち悪がられるので、顔に出てないかと自らを心配した。

「……つまんねーよ」

 思わず溢れてしまった言葉がそれだった。よくある、技術も何もない低レベルな、ヤンキー同士が気合でメンツの為に殴り合うだけの、そんな『格闘技ごっこ』だった。

 けど、そんな奴らが徒党を組み襲いかかって来るらしい。まさか浦和くんがそこまでするとは、僕も流石にドン引きだった。

「慈悲をかけるのは間違いだったね……それに、ここまでしてきたらもう犯罪だよ」

 すくりと立ち上がり、僕は普段なら女子と語らっていたが、今は一人机と向き合う東城さんに、声を上げた。

「東城さん!」

 僕が大きな声で呼べば、ビクリと身体を震わせて、嫌々ながらこちらを向いた。

「な、何よ……」
「ちょっと昨日の浦和くんの事、先生に話そうと思ってるんだけど、今から一緒に来てくれる?」

 たとえ余計なお世話だろうと、否定されようと、浦和はラインを超えた。ならこちらも慈悲をかける必要は無い、今後浦和くんが停学を空けてから東城さんへ逆恨みによって何かされてもいけない、だから僕は、先手を打つ事にした。

 そしてーー東城さんの証言に、本田くんの動画を提示した事により……。

 浦和礼斗は、本日を持って波浜高校を退学処分させられたのであった。
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