間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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二章 地下格闘技復讐編

9.言い訳はすんだから、ぶちのめしに行く事にした

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 また一日を超えて、携帯の履歴にも、ジムからの連絡は無く。さらに職員室への呼び出しは無かった……違う事があるとすれば、比嘉出さんと東城さんの姿がない事と、浦和くんの席が無くなった事だ。

 今朝のホームルームで退学が決定し、東城さんに暴行した旨が岩田先生より語られた。クラスメイトの、当事者である僕や伊佐美くん達以外はやはりざわついてしまうくらいに衝撃的な出来事であった。

 二人が居ないのは、昨日の襲撃があったから自宅が一番安全だから休んでいるのだろうかと思いながらも、授業は進んで行き……何事も無く放課後まで来てしまったのだ。

「何も無かったな、昼休みにバイクで校庭に乱入くらいするか思うたけど……」

 正門から出ながら、下手したら学校へ襲撃来るんじゃないか?と伊佐美くんは身構えていたらしく、何も無かったと安堵していた。

「そんなのあるのは青葉工業ぐらいじゃないか?」
「あの不良の学校だよね……」
「いや、ちゃんと学んでる人は居るらしいが……」

 そんな一昔前のヤンキー漫画みたいな展開があるのは青葉工業くらいじゃなかろうかと本田が呟き、あの不良の吹き溜まりのと山城が言えば、そこまでじゃない筈だがと本田くんが返した。

「どしたー久島、元気ねぇな?ていうか鞄あんがとな、投げて逃げたから全部買い直しになりかけてたわ」
「あ……うん……」

 僕が話題に入れていない事、黙ったままである事に気づいた伊佐美くんがどうしたのか尋ねつつ、昨日投げた鞄を回収してくれた事にお礼を言った。相槌しか打てない僕は、いつも以上に身体が、体温が冷たくて凍えそうな錯覚すら覚えた。

「どうしたの、久島くん」
「寒そうだが……風邪か?筋肉質だとなりやすいらしいが……」

 自身の手で体を抱きしめ震えながら歩く。その様に山城くんと本田くんが心配してくれて、僕は顔を向けて言った。

「だ、大丈夫……あはは、そうかな、風邪気味かも……今日は帰ってさっさと寝ようかな」
「おお、マジかよ気をつけろよ久島……あ?」

 体質なのか、思い込みもあるのかな、夕日は照っているのに寒さを感じる僕に、伊佐美くんも心配してくれた。その最中である、何やら前から……走ってくる私服の男が、こちらに向かって来ていた。

 丸坊主の、さながら高校球児じみた見事な頭の背の高い男が、僕たちの前に立ち止まり息を切らして……唐突に言い放った。

「く、久島ぁ……頼む!!た、助けてくれぇ!!」

 誰かわからない、知らない男から唐突に助けを求められて、僕は呆然とした。え?誰この人、知らない……どちら様?僕は思わず伊佐美くんに目を合わせ尋ねた。

「え?誰?伊佐美くん知ってる?」
「知らねえよ、こんな見事な丸刈りデフォルト量産型高校球児、山城は?」
「えっと……知らない……本田くんは?」

 さながらリレーのように、僕から伊佐美くん、伊佐美くんから山城くん、そしてアンカー本田くんにこの高校球児はどちら様かご存知かとなって……本田くんは驚いて目を見開いた。

「お前……前池か?なんだその丸刈りは?バスケならコーンロウかオシャレ坊主じゃないのか?野球にコンバートしたのか?」
「「「えっ!?」」」

 僕たち3人はびっくりした、前池くん!?あの茶髪の気取ったイケメンバスケ部の!?丸坊主になった彼は全く雰囲気が変わり、いかにもな新入部員スポーツマン的な様相を見せていた。いや、もしかして本当はこっちが正しい姿だったりするのかと、あまりに似合いすぎていた。

「前池くんなの!?いや、た、確かに顔とかはパーツが同じだ!」
「つかテメェ!謹慎中だろうが何しに来やがったぁ!?テメェも久島に報復しに来たんか!!」

 僕はパーツが確かにとようやく気付いたのに対して、伊佐美くんは謹慎中で自分たちの前に現れたパターンとなれば、浦和同様報復に来たのかと声を荒げた。

 だが待って欲しい……彼は、僕に助けを求めて現れたのだ、確かに、聞き間違いでなければそう言っていた。前池くんは、焦りと恐怖……様々なものがない混ぜな目を僕に向けて、地べたに構わず跪いたのだ。

「く、久島、頼む……助けてくれ、比嘉出が……絵梨花が、浦和に攫われたんだァ!」
「え?」
「はぁっ!?」
「ええっ!?」
「なにっ」

 衝撃の事態に、僕たち四人全員が愕然とした。というか今更になって僕は、怪しめよ少しはとやらかしに気付かされる。

 昨日の襲撃一回で諦めるようなやつかよと、そして朝にも迎えに行くなりして防げただろうがと、色々穴がありすぎて、楽観的だった自分の胸が締め付けられた。

「浦和のやつ、メッセージに動画送って来て……絵梨花と東城攫ってる姿を俺に送りやがって、久島を浜縁のクラブに呼んでこいって……来なかったら……絵梨花と東城を……SNSに……動画撮って晒すって!!」
「け、警察は!?呼んだの!?」
「よ、呼んだら分かってるなって……脅されて、俺!どうしたら!」

 まさか、友人の彼女に自分の元彼まで攫うとは……堕ちるとこまで堕ちたな浦和と苛立ち、何より警戒心の足りなさに僕は歯を食いしばった。

「大事だなこりゃ……行くにしても罠だって誰でも分かる……どうする久島ぁ?」
「…………」

 ここで、即決で『行くよ』というのが、漫画や小説や映画の主人公なのだろう。だけど、僕はそうならなかった、しばらく黙って……どうしたらいいか考えた。

 別にいいじゃないかと、そもそも浦和くんや前池くんは自分に報復して来た相手、そして比嘉出さんも東城さんも、その彼女だ。

 ここで暴れて助けて、武勇伝になっても『BOFユース』大会のシード権剥奪が目に見えている。僕には僕の人生があって、こんな事で邪魔されたくない気持ちがあった。

 ここで、その選択をしたら……僕の中の『闘いたい』という気持ちを切り離せるんじゃあないかとも考えた。

 けど……それをしたら、伊佐美くんや山城くん、本田くんは幻滅するのが見えた。仮に『そうだよな、お前大会あるし、そんな事できねぇよな……』と、擁護してくれたとしても、僕のその選択をした無慈悲さを、臆病な様を3人はずっと刻まれてしまう。

 じゃあ行くよと助けに向かって男を見せようと、怪我をしたり、負けたりして……格闘技が出来なくなって、比嘉出さんも東城さんも助からないなんて事もあり得る。

 ……というか。

 こいつ本当いい性格してんなと、僕は跪く前池を見下ろした。

 まず彼氏の自分が、身を挺して自分の彼女を助けに行くとかしないのかと……それでボロボロになって、どうしようもないからこちらに縋るならまだ、僕は即座に動いていたかもしれない。

 けど前池くんは、浦和くんからメッセージが来たら即座に僕を呼びに来て、ぼくの友達の前で土下座して、行かなければ僕が逃げたようになる状況を作ってしまった。まぁ、彼女攫われたからそんな事を考えつかないくらいに慌ててるのだろうけど。

 デメリットしかないな……別に二人がネットに◯されて動画を晒されても、知ったこっちゃないし……。

 けどさらに酷いのは、机の上に花瓶と遺影置かれる未来もあり得るんだよな、僕が逃げたら。

 あぁ……腹立ってきた、また熱が込み上げて来た。誰だよこんな事始めたの、そうだ浦和だ、浦和がその地元一番の怖い先輩に頼ったから悪いんだ。

 うん、ぶちのめそう。もう許さん、右膝だけで許してやったのに……2度と固形食食えないようにして秋山と同じ病室で一生生命維持装置に繋がないと生きれないようにしてやると、僕は決めた。

「前池くん、僕さ……」

 まぁそれはそれとして。

「あ……?」
「キミの事……だいっ………嫌いだ」

 文句のいくつかは言っても許されるよなと、僕は跪く前池くんへ正直に感情を吐き出した。

「上履きをズタズタにしたし、下駄箱壊すし、参ったしたのにいきがって煽ったし」
「お、おい?久島?」
「挙句に何?自分で彼女を助けられないから?無様に負かされた相手に土下座で頼み込みに来るなんてさ?自分が行って傷ついてダメだったならまだ分かるけど……自分で助けに行かずに真っ先に来るなんて……僕が行って彼女さえ助かればいい、僕なんて死ねばいい、捧げればいいなんて考えている蛆虫のような浅ましさ、もうそのまま彼女共々死んでくれって思ってるよ、今は」
「そ、そんな……!!」

 僕は、そのまま前池くんの横を通り過ぎる。そして、立ち止まって……前池くんに言った。

「けど……クラスの机に、二つも女子の遺影と花瓶が並ぶ景色は見たくないからさ……行ってくるよ」

 言い訳は済んだ、正当化させた。後は、この熱のまま、口実を盾に……浦和くんとその怖い先輩をぶちのめそう。

「久島ぁ!!俺も行こうかぁ!?一人くらいならやったんぞ!!」

 伊佐美くんはついて来てくれるらしい、頼もしいけど……。

「3時間したら警察呼んどいて~?」

 仮にも元クラスメイトが相手だ、多分見せられないくらい酷い有様になるから、僕一人で行くと、そのまま僕は帰路では無く浜縁へ向かった。

 そろそろ夕焼けが沈む、涼しくなる空気とは反対に、僕の身体の熱は先程の風邪気味から一気に熱くなり始めた。
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