間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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三章 クラス派閥闘争編

6.壊れかけたスイッチ

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「ほんっっっとに、ごめん、3人とも」

 学食から離れ、教室に戻ってから僕は3人に謝罪した。

 危うく……周防さんを……僕は蹴り殺していた。

 いや本当に、まだ体に熱が入って抜けてないのだ。両手で顔をぐしぐしして、僕は必死に熱を覚まそうとした。

「固まったからまさかってなって、目を覗いてみたら……いや本当、大事にならず良かった」
「よう耐えたわ……ああくそっ、周防いらん事言いやがって……」

 本田くんは戦々恐々、伊佐美くんは周防が悪いと言うが……今のは本当に僕が悪い。いくら何でも日常の、少し嫌な事を言われただけで『戦闘スイッチ』が入るとは思わなかった。

「く、久島くんって……前からこうなの?普段静かだけど、こうまで怒りっぽいの?」

 山城くんから尋ねられた、キミはこんなキレキャラだったかと。それを尋ねて来た山城くんへ、僕は顔を顰めながらも答えた。

「いや、なんて言うか……最近そうなった……のかな?多分……秋山と戦う事になってから……違うか……大晦日の後……だと思う」

 熱が入りやすくなったのは最近だ、きっかけは半グレとやり合った時……いや、秋山と戦った時……思い返したがそれも違った。

 全ては、大晦日のあの戦いから始まったのだと思うと、僕は山城くんにそう答えた。

「大晦日って……あれか、久島が最強の高校生と戦ったとかいう」
「本田くん、違うよ」
「えっ」

 本田くんがそう聞いて来たので、僕は待ったをかけた。

「久瀬くんは、高校最強じゃあない……日本最強のキックボクサーなんだ、間違えないで」
「おお、うん……」

 そう、そこが大事なんだ。彼は高校生の枠を超え、階級すらも関係無い……それが僕の目標とする相手……久瀬修一郎なんだと、多分気持ち悪がられようが、それはわかって欲しいので訂正した。

「何回か僕も話で聞いたけど……久瀬くんってどんな人なの?」

 山城くんから尋ねられ、はっとした。

 そうだ、そこからだった。普通に知っていると思って話してしまったが、知っているのは試合を見た伊佐美くんくらいじゃないかと。

「山城くん、時間あるから久瀬くんの動画見せてあげる……」

 善は急げだと、僕はYouTubeのアプリを起動、お気に入りの動画を見せる為に横にして机に置いた。

「僕が、キックボクシングを続けることになった理由、それが久瀬くん……僕の身体に、熱を灯してくれた……恩人なんだ、久瀬くんと戦わなかったら僕は、キックやめてたんだよ」
「えっ!?そうなん!?」
「惰性でやってたんだ、少なくとも去年までさ……」

 伊佐美くんが驚いたが、言ってなかったので無理もあるまい。

 あの時、僕の熱は『消えかかっていた』のだから。

 それを灯してくれたのが、久瀬くんとの出会いであり死闘だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 その戦い方は、時に荒々しく、そして戦略的で……軽やかに間合いを見切り敵の攻撃をかわし、勝機を見るや暴風の如く踏み込み、されど的確に相手を打ち倒す。

 試合映像を見た素人である、伊佐美も、山城も、本田も……釘付けになった。これ程まで強いのかと、目を奪われた……これが、同じ高校生なのかと。

 それは僕も同じだった……。

「大晦日で戦ってさ……めちゃくちゃボコボコにされた、もう殺してくれって思うくらいだった」
「うん、今見てるけどよくこれYouTubeに残ってるね?」
「顔ボッコボコで目も見えてないよな、これ2ラウンド半分だろ?」

 懐かしむ僕、そして大晦日に戦った僕と久瀬くんの試合を見ている山城くんも、本田くんもドン引きだった。

 顔、ぼっこぼこやんけと。たこ焼き用の鉄板裏返したみたいになっとるがなと、それくらい僕と久瀬くん……いや『久瀬くんとそれ以外』の差はあったのかなと。

「キックやっててもさ、その試合まで空虚だったんだよね、僕……負けてもいいかなってなったりして……ああ、負けたく無いとなったのが、その前のファイナル8だったんだ……で、久瀬くんと戦う中で初めて、熱くなれたんだ……初めて勝ちたいってなった」

 自ら見返せば、ああ、もうこの時点で姫原オーナータオル握ってたんだと気付いた。

 3ラウンド……意識を失っていて、ひたすら僕は久瀬くんのコンビネーションだろうが、何してこようが、構わず左ミドルを幾度も叩き込んだ。

「すげぇな……音もだけど、久瀬くん?が一気に勢い失ってるの分かるわ」
「うわ……右腕がすごい色に……」
「そうそう!これがマジに、腕を蹴り折ってたんだよ久島が!」

 3ラウンド、ひたすらに、力の限り、死力を尽くした左ミドルの連打……その結末は、久瀬くんのスイッチから左ストレートで顎を撃ち抜かれて意識を刈り取られ、うつ伏せに倒れてのKOという幕切れであった。

「日本最強と戦ってさ……初めて、僕は勝ちたいってなって、あそこまで必死になれた……それからなのかな、僕の中にこう……戦う時にスイッチが入るようになった」
「スイッチ……」

 その戦いの中で僕の中に『スイッチ』が出来たんだと皆に説明した。普段は、このスイッチはオフになっていて、入ることはない。

 しかし、試合だとか、戦う雰囲気を感じた時、怒りを感じた時、それが入り……身体の熱が一気に上がるのだと。

「最初、多分気持ちが切り替わるって感じだった……それが、秋山くんに道場で挑発されてから……それから、日に日に入りやすくなってるんだ……ブレイキングケイジ、教室の喧嘩、浦和くんの襲撃に……半グレのやつと喧嘩で……今日多分、初めて……苛立ちだけで入ったような気がする」

 それが最近になってから、壊れたようにスイッチが入りやすくなっていたのだと、3人に語る。さっきの周防さんから、秋山くんへの責任という理不尽によってスイッチが入ったのは初めてだったと聞いて、伊佐美くんは戦慄した。

「おいおい……それ、大丈夫なんか?柳の時は罵倒だったが……抑えられるんか?」
「……分からない、けど……あの時三人の声が無かったら、僕は周防さんを蹴り殺してた……何でこんな……」

 自分の問題なのに、三人に迷惑をかけてしまった。僕が凄んで、話の場を破壊してしまって、取り返しがつかない事になってしまったと、僕は頭を抱えた。

 しかし無情にもチャイムが鳴り響く、予鈴と共にクラスメイト達も戻り始め、彼女ももちろん戻って来た。

「あ……あの、久島くん」

 学食から戻って来た周防さんが、入って来た。呼びかけられて、僕はその顔を見た瞬間ーー。

「ひっーー!?」
「あっ……」

 別に、そんなつもりは無かった、筈なのに。

 周防さんの瞳に映った僕の顔は、また『人殺し』になっていて、熱が上がり始めーー。

「周防、今やめとけ、仕切り直しや」
「ごめんね?多分お互いの為にならないからさ、ほら、互いに今苛立ってるし、ね?」

 伊佐美くんと山城くんが、視界を遮るように僕の前に立ち、周防さんを見えないようにした。

「う、うん……」

 申し訳なさそうな周防さんが、自らの席に向かうのを見て、僕はため息を吐き頭を掻きむしった。

 自覚のない怒りとは、こうまで我を忘れるのかと、僕は更なる罪悪感に苛まれるのだった。
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