間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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三章 クラス派閥闘争編

8.文化部派閥からの伏兵

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 先生公認による体育祭不参加、そして参加自由化……。

 僕たちはそれを宣言して二週間後の体育祭を、普通の授業で代替する事が決まった。最初、僕自身もクラスの全員から『馬鹿やってる』としか思われているだろうな、としか考えていなかった。

 所詮はクラスの輪に入れない奴らが、我儘を吐かしてくるので、担任に見捨てられて呆れられた末の妥協案だと。

 だから、翌朝のホームルームで……このような事態が起きるだなどと思ってすらいなかったのだ。

「……以上5名、体育祭不参加をここに宣誓し、この書状を証拠として岩田先生にお納めします」
「よろしい、お預かりいたします」

 その翌日の朝、文化系の部活に所属する男子と、無所属の計5名が……僕達同様の不参加を宣言したのである。

 波浜高校は1クラス40名で、男子20名、女子20名にて編成されている。現在、波浜高校2年2組は、ブレイキングケイジで秋山が入院、浦和が退学、そして柳が不登校となっているので、男子18名と女子19名の、合計37名で3名他クラスより少ない。

 そして僕と、伊佐美くん、山城くん、本田くんが体育祭不参加を宣言した事により、体育祭参加者は33名になった。さらに一晩経っただけで、文化系の部活と帰宅部男子5名が不参加を決めて、岩田先生に書状を手渡したのであった。

 たった一晩だ、昨日僕らが宣言しただけで、男子9名がボイコットを決めた。つまり、今の2年2組の体育祭参加者は……30名を割り28名となってしまったのである!

 しかも!男子はこれで半数が不参加となったのだ!

 全体から見ればまだ、過半数ではないものの……男女別で見たら『男子が半分参加しない』は大変な事なのを……この時僕は、能天気にも『あ、意外と同じ気持ちの人も居るんだ』とか『まだ半分は参加したいんだ』程度しか考えていなかったのである。


 現在の体育祭参加、不参加人数。

参加:28名 (男子9名 女子19名)
不参加:9名  (男子9名 女子0名)


 朝一の宣言から、僕はいつも通り一時限目の授業の用意を始めていた。中間テストもギリギリ赤点回避だった以上気が抜けない……せめて赤点でも授業態度はしっかり勤勉な事くらいは見せなければ……ああでも、内申点僕取り返し付かないんじゃねぇかなと諦めがついて回りそうになる。

 いや、それで放棄したらガチの留年で中退とか見えてきそうだと胸が締め付けられた。せめてしっかり食らいつけ、諦めるなと筆箱を出したところで……机の前に誰かが立っていた事にやっと気付いた。

「久島くん……貴方どういうつもり?」

 周防さんだった。

 周防さんは昨日の怯えと恐怖の眼差しは消え去り、怒りを露わにして僕を見下ろしていた。

「……どういうつもり、とは?」
「体育祭不参加よ、先生まで巻き込んで、何?どうしてこんな事するの?」

 しらばっくれたりは出来ないよね、確かに。まさか僕もこんな事になるとは思わなかったのだから……右の方に視線を向けて、伊佐美くんが、行くか?いつでも行くで?と目線を向けてきたけど、僕はアイコンタクトで必要無いと送って、彼女に話した。

「いや、僕も実際驚いてて……昨日の騒動で岩田先生に呼び出されて、参加したくない理由を言ったら、まさか受け入れてくれるとは……」

 信じられない事だろう、しかし僕は事実を彼女に話したのだ。岩田先生が僕たちの参加したく無い理由を尋ねて、サボりはダメだから代案を出してくれたと。

「はぁ?何言ってんのよそれ、おかしいでしょいくらなんでも!一担任の先生が学校行事の自由参加を勝手に決めるなんて!」

 うん、そうだよね!僕だって信じられない!こういうのは生徒会やら職員会議で決めてからが筋だよね!けど本当なんだと、僕は彼女に語る。

「実際、僕も驚いてるよ……いや本当……岩田先生大丈夫なのかなって……僕らの我儘で懲戒とかならないかーー」

 凄まじい強権だし、問題にもなるから僕も戸惑いはあるのだ、そう言い切ろうとした最中、周防さんは苛立ちと興奮から被せ気味に言い放った。

「どうせ貴方達が脅したんでしょう!?岩田先生を!!」
「おうこら周防テメェ!?今の聞き捨てならんぞゴラァ!!」

 止める間もなかった、周防さんの暴言に伊佐美くんが立ち上がって周防さんと僕の近くまで寄ってきて、周防さんにメンチを切りながら叫んだ。

「岩田先生は俺らの言い分も聞いてくれて理解した上で代替案を出してくれたってのに!それをテメェ、久島や俺らが、脅していう事聞かせただぁ!?それは久島や山城や本田!果ては岩田先生まで愚弄した言葉やぞ!!意味わかって言っとんのか!ああ!?」

 岩田先生は自分達の、我儘でしかない意見まで尊重して体育祭不参加をゆるしてくれたのだ。そして代替として授業を受ける事、筋を通す為に皆の前での宣言という戒めまで考えてくれた。

 それを全て、僕たちが脅迫して言わせたなんて証拠もなく決めつけられては、意見に答えてくれた岩田先生、そして脅迫を決めつけられた僕らからしたらたまったものではなかろうと、伊佐美くんは怒りを吐き散らした。

「その凄む言い方で恐怖を煽って脅したに決まってるわチンピラ!何しろ、人を大怪我させられる、強い久島くんが居るんだから!どうとでもできるでしょう!?」
「待って!?今のは酷くないか周防さん!?久島くんをそんな風にキミ見てるの!?」

 周防さんから、僕はそう思われていたらしい。まぁ、うん……昨日の学食の事もあるからこれは言われて仕方がない、本当に仕方ないが、山城くんが立ち上がってフォローしてくれて少し心が洗われた。

 まさかの援護射撃に、周防さんは失言に気付かされたらしい……一瞬表情が澱んだ。ここで、まだ謝れば……まだ言いすぎたとなったら、話は拗れなかったのかもしれない。

 しかし僕たちはまだ高校生で、大人としての分別も、引き際を見極める事というのはなかなかに難しいらしく……周防真琴という女子高生もまた、このクラスの女子を束ねる存在であった立場があり……引き下がれなかったのだ。

「だってそうでしょうが!力を見せていくらでも脅せるじゃない!?朝の5人だって、どうせ久島くんが脅して引き込んだんでしょ!?」

 周防さんの暴言に……僕は、怒りよりも遥かに、衝撃が走った。

 それを、このクラスの中心で言ってしまうのかキミは……これには伊佐美くんも、狂犬ぶりが一気に払われ、山城くんもあんぐりと口を開き、本田くんはマジかと口端を吊り上げながら頭を押さえた。

「……今のは聞き捨てならないな、周防さん」

 その暴言に、待ったをかけた人物が居た。

「僕も、一緒に壇上へ上がった4人も、自分達の意思で体育祭不参加を決めたんだ、決して久島くんに脅されたなんて事は無い」

 彼の名前は、鳥風天楽(とりかぜてんら)。

 細身の痩せた、なよっとしてはいるが……顔立ちは中性的なクラスメイトの1人であった。確か彼は……美術部だったか?絵画のコンクール受賞か何かして、全校集会で表彰されたようなと一年の時の事だったかなと僕は思い出した。

 にしてもすごい髪の毛だな、黒いロン毛に白のメッシュ?いや、エクステか?バチバチにキメたバンドマンみたいだ。

「そもそもの話……僕たち文化系や、運動を苦手とする者達からしたら、これは願ったり叶ったりな話だったんだ、適度な運動は大事だけど……競争によっての勝敗争いまでしたくないし、何より負けた時のクラスメイトの目や、叱責を体験しているからね」

 立ち上がり、腕を組みながら、岩田先生が提案する体育祭自由参加を待ち望んですらいたのだと、彼は吐露した。

 立ち上がった天楽同様、それに連られてか、自身の意思からかは分からないが、同じく天楽くんと仲良しらしい、壇上に上がった4人も立ち上がった。

「文化祭では、キミ達体育会系も、準備したり店を回ったりと楽しめる機会はある、けど体育祭……全ての高校とまでいかないが、波浜高校はスポーツに力を入れているから、些か文化部系の参加できる雰囲気が無いんだ……祭、と付いているのに皆が楽しめる雰囲気ではなくなっている……」

 天楽くんの話もまた、伊佐美くんとほぼ同じ理由だった。文化祭は体育会系も楽しめるが、体育祭のガチな雰囲気は、些か参加しにくい空気があるし、敗北を責められた苦い経験が我々にはあるのだと。

「かと言ってサボれば内申点にも響くし後ろめたさもある……代替案の授業で釣り合いを取るのは合理的だし、キミらも戦力外を考えなくて済むと思わないか?」

 そしてサボるのも、学生としては気が引ける。その代替の授業で釣り合いを取る、岩田先生の提案も魅力的で、キミら体育会系も戦力外を考えず最強編成ができるから楽じゃなかろうか?鳥風はそう話した。

「け、けど……これはクラス一丸となって当たる学校行事よ、鳥風くん……好きだから参加する、嫌いだから参加しないというのはいかがなものかと思うわ!」

 周防さんは、更なる伏兵の出現にたじろいだが、ここで『学校行事』『クラス一丸』という言葉を出してきた、そもそも私達は波浜高校の生徒である。ならば、学校の行事に参加は義務であると。

 そして、クラス一丸となってこの行事にあたり、結束を高めるのが学校行事であり、体育祭ではないかと語る。

「成る程、学校行事、クラス一丸……言いたい事はわかるよ周防さん……だけどさ……」

 あい分かった、目を閉じた鳥風くんが、息を吸い……そして、反撃の一撃となる、言の葉を周防さんに撃ち放った。

「そのクラス一丸に、果たして僕たちや、久島くん達は入っているの?」

 その一撃は、あまりにも無慈悲に、周防真琴を撃ち抜いた。
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