間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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三章 クラス派閥闘争編

12.約束のクラティンデーン

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 土下座する前池くん、そして置かれたレジ袋……ここまで来て、話しかけた理由……。

「い、いやいや、まさか……」

 レジ袋を開き、僕はその中身を見て……目を見開いた。タイ字の表記に、黄色の太陽を前に、赤い二頭の牛が今にもぶつかりそうなロゴ。

 タイ国のエナジードリンク『クラティンデーン』が、1本どころか……10本まとまったビニールセットに数本バラで入っていた。

 一瞬、まさかこいつガチでタイまで行ってきたのかと驚愕したが、成る程とバラの1本を手に取りながら尋ねる。

「……最近ネットは便利だよね?」

 まぁ今ならいくらでもネットから取り寄せられる。海外薬品を直輸入している店もあるから、そこからかと聞いて、前池くんは言った。

「そうだ……お前の言う通りだ、ネットで調べて取り寄せた!本来なら、お前の言う通りタイまで行って買わないといけない決まりだった!けど、パスポート発行待ってたら今回は間に合わないから!ネットで取り寄せた!代わりにあるだけ、買ってきた!今できる俺の誠意がこれだ!頼む……話を聞いてくれ……!」

 決まりは守れなかった、しかしこれが俺の誠意だと、袋のクラティンデーンを眺めながら僕はある事に気付く。

 前池は頭髪も剃り上げてしっかり坊主にしていた。舐め腐って模様を入れていたオシャレ坊主ではない、眩しいくらい輝く坊主頭が梅雨と思えぬ夏の日差しのような、真昼の太陽により輝いて眩しかった。

 僕は……クラティンデーンの栓を開き、一気に飲み干して口を拭ってから前池くんに言った。

「話を聞こうか、、前池くん」

 彼は今できる全ての誠意を見せて来た、それには僕も応えねばならない……僕は体育館裏に、前池くんを通す事にした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「単刀直入に言うぞ久島……今の不参加派閥をできるだけ、参加派閥へ戻るように説得してほしいんだ……」

 前池くんの頼みは単純だった。不参加派閥の説得、そして体育祭への参加条件の達成……土下座して、さらに指定の飲み物まである手全て使った前池くんからの頼みに、僕は答えを返す。

「説得とは言われても……はっきり言えば、この溝はあまりに深すぎる、そして僕が凄んでやっぱり無しにはもはや出来ないと思うんだけど……ていうか、余程慌ててここまでした理由、何かあるんでしょ?」

 本来のタイ行きからの購入を破ってまで来た理由が絶対にある、何か体育会系側であったのかと、僕はクラティンデーンを伊佐美くん達にも渡し、君が買ったんだから飲みなよと一本前池くんにも渡した。

「ああすまん、いや実はさっき……これ、マジで炭酸の無いレッド◯ルなんだな、炭酸無い分飲みやすいな」
「一日二本までだよ」

 お、好評だ、クラティンデーン。久瀬くんに貰ってから僕もハマったんだよな……少し嬉しいが炭酸無しのエナドリ、飲み過ぎ注意だと釘を刺しておく。

「ああそれで……今朝の岩田先生の宣告もあってな……と言うか、昨日から兆しはあったんだが……参加派閥も諦めムードになってんだよ、昨日鳥風が周防を言い負かしたのもあって……」
「諦めムード……」

 残り参加派閥18名、その中でも内輪揉めが起こっているらしい。先日の周防さんを言い負かした鳥風くんの辛辣無慈悲な言葉、そして今朝の離反から、岩田先生からの宣告により、より一層参加派閥側に諦めムードが漂っていると前池くんが語った。

「女子9人がそっちに行った理由もそれなんだ……と言うか、いい口実になっちまってんだよ……9人の女子の中に地区大会やインターハイ出る奴も居てさ……」
「成る程……体育祭で怪我をしたく無いからな……」

 その雰囲気、流れが今朝の女子離反に繋がり……今はさらに参加派閥も、ここからの巻き返しができないと見て諦めているらしい。

「で……僕に不参加派閥を説得して引き戻して欲しいと……」

 一気に飲んだから、もう一本は気が引けた僕はクラティンデーンの空瓶を弄び、前池くんの頼みは、それであっているか?と、確かめた。

 前池くんは、坊主頭を光らせながら、真剣に僕へ語った。

「それだけじゃねぇよ……俺は……お前らにも体育祭に参加して欲しいと思ってる」

 前池くんの言葉に……僕は目を細めた。

 成る程?多分小山くんから僕がキレたこと聞いたんだなと……しかし、いくらでも繕えるものだと、僕はため息を吐きつつ伊佐美くん達に話を振ってみた。

「だってさ……伊佐美くん達はどうする?」

 クラティンデーンを飲む、伊佐美くんに、山城くん、本田くん……それぞれ飲み終えてから、皆は口々に前池くんへ言い放った。

「誰が参加するか、大人しく金曜日待っとけや」
「嫌かな……だってキミら、負けたら色々言うでしょ?」
「山城に同じだ、俺たちはお前ら体育会系のサンドバッグじゃあないからな」

 まぁ、変わらないよねと、僕は立ち上がって話を切り上げる事にした。

「はい、話はお終いね、次はスクンビットのターミナル21地下のドライフルーツを買って来たら話をーー」
「ま、待ってくれ!!俺が、参加派閥を説得する!!本気でやらなくても、負けても!文化系に文句とか悪口とか、言わせないようにするから!!」

 気持ちは変わらないようなので、話は終わりにしようとして……前池くんが、出来るかもわからないことを言い出した。

「久島達や鳥風が不参加を決めた理由は、そこだよな!?勝ち負けにこだわって負けたら嫌な思いして、クラスで槍玉に上がるから……それをさせないようにする!俺らも気をつける!だから頼む!俺がそう言ったと伝えて、戻るように言ってくれ!!」

 二度目の前池くんの土下座を、僕は見下ろした。

 かのクラスの中心の一人が、なんとも無様に、スクールカースト外れのアウトサイダーなこちらに縋る様の、なんと無様な事か。

「って……彼言ってるけど、どうする?」

 じゃあその宣言を踏まえてならば、参加するかと僕は伊佐美くん達に問いかけた。

「まぁ……ええやろ、出来るならだけどなぁ」

 それが本当にできるなら、参加してもいいと伊佐美くんはまだ不満を持ちつつも頷いた。

「それを、約束できるの?」

 山城くんは、それを実現できるのかと訝しんだが、できるならば参加すると言う雰囲気だった。

「吐いた唾は飲むなよ、必ず説得しろ、それが前提条件だ」

 お前、今言ったな?なら必ずやれよと腕組み本田くんも、それならば参加すると答えた。

「分かった、じゃあ説得するからさ、そっちはお願いね?」
「あ、ああ!!」

 前池くんはようやく頭を上げて、即座に走っていった。僕はクラティンデーンの入った袋を持ち上げ、肩に携えながら3人に言った。

「じゃあまず、鳥風くんとこ行こうかな、教室?」

 まだ何とか、元に戻るかもしれない。それなら少しだけ頑張ろうかなと、僕の胸からいつもの『沸る熱』ではない『温めの熱』が広がっていくのを感じたのであった。
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