間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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三章 クラス派閥闘争編

16.岩田先生の狙いと、盤面破壊の一手

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 僕たち、波浜高校2年2組の体育祭は、辞退を持って開催日一週間前に決定した。

 教室を出て、僕達……体育館裏組は、一人歩き去る岩田先生の背中を追走した。

「岩田先生!」

 声をかければ、岩田先生は振り返った。涼やかに笑う岩田先生は、あらどうしたのと、全く先程の事態を意にも介さない様子だった。

 そんな岩田先生は……唐突に拍手を一人始めたのだ。放課後の廊下に、寂しく響き渡る拍手が一つ……小さくも嫌に響き渡った。

「おめでとう、久島くん……貴方は立派に自身の意見を通した、文化系とクラスのはみ出し者の旗頭として相応しいリーダーになった」
「えっ……」
「秋山くんが築き上げたクラスの有様を、正当なる暴力と恐怖で破壊し、ヒエラルキーを崩壊させ……逆転させた、今や貴方があのクラスの……実質的なトップとなった……」

 何が言いたいんだ、この教師は……拍手をやめた岩田先生は、ハッカパイプを取り出して咥えた。

「あら……どうしたの?笑わないのね……前担任から引き継いだ私が言うのもだけど、最早クラスには貴方に逆らう子は居なくなって、いい眺めなんじゃない?」
「笑えませんよ……望んですらいない、担がれた身なんだ……岩田先生……貴方は、僕になにをさせたいんですか?」

 いよいよもって、僕は岩田先生の真意がわからなくなった。ただの冗談だった体育祭辞退を許し、更には対立を煽るようにそれを全員へ許した、挙句に周防真琴を追い詰めるかのような、焦りを生む期日設定……。

 あんた、一体何がしたいんだ……その問いかけに、岩田先生は答えた。

「多分、誰かその中の一人は気づいていると思うけど?私は、クラスの相互理解を深める為にこれを仕掛けたの、私の教師人生とクビを賭けてね?」

 本田くんがたどり着いた答えだった……しかも彼女は、教師人生を賭けたとまで言いきったのだ。

「キミが秋山くんをぶちのめし、彼が築いたクラスの構造、関係を崩壊させた……私は、これがいい機会だと思ったのよ、出来上がった立場の違いから来る争いを無くせるのでは……とね?」

 僕が秋山くんをぶちのめした事により、クラスの秋山を頂点とした構造が崩壊した、秋山によりいい目を見た者、被害を受けた者と別れていたクラスを、新たに作り直せると思って、今回の件を仕込んだらしい。

「ほいだらあれか、周防委員長立てたんはあんたの差金か?」
「半分はね?一人一人声をかける気だったわ、クリアユースの次にクラスを束ねている子をね?まぁ一番に声をかけて、やるって言ったのが偶々周防真琴さんだっただけの話、それから……貴方達が学食で言い争いした話を聞いて……この話を持ちかけたの」

 推薦やクラスに話もなく、秋山の代理のクラス委員に周防真琴を立てたのは、自身の意思もあったが、周防さんもやるきだったと弁明した。

「けど……何故久島くんを、僕たちを巻き込んだんですか?」

 だがまだわからない、その相互理解の為に、旗頭に彼を選んだ理由は何故か?山城くんが尋ねれば、岩田先生はハッカパイプを手に持ってから理由を語った。

「適任と思った、じゃあダメかしら?何せ今見ても、君たちの集まりって理想的と思うもの」

 その理由はただ一つ、久島秀忠が、この相互理解によるクラス統一に適任だったからだと岩田先生は語った。何より今、君たち自身が集まっている姿こそ、理想の体現と彼女は言うのだ。

「キミ達実感ないみたいだけど、面白い集まりじゃない?夢破れたスポーツマンに、いじめられっ子のオタク、ファッションヤンキーに……内気な皮を被った暴の化身」
「暴の化身!?」
「合ってるな」
「あー、だな……」
「ごめん久島くん……」

 僕、そんなふうに今見られてんのか?嘘だろ、否定してくれと伊佐美くん達に同意を求めたが、先生が正しいらしく、僕は膝から崩れ落ちそうになった。

「絶対交わらない筈な貴方達が、毎日語り合う様は……理想的な関係だと思うのよ、始まりが秋山千才くんをぶちのめす会でも、それを終えても散らず、貴方達が変わらずつるんでるのは……お互い少なからずリスペクトがあるから……違う?」

 リスペクト……尊敬か……どうなのかな?ただ僕は、伊佐美くん達と、せっかく紡いだ仲を壊したくないと思ってはいたけど……もしかしてと、僕はある事はしてないなと浮かび上がった。

「尊敬……かは、分からないですけど……否定はしてなこさいような、気はします」
「否定ね……」
「僕は……格闘技、キックボクシングやってて、そこに土足で踏み込んできたから秋山くんをぶちのめしたいくらい怒りました……だから、人にも同じように穢されたくないものはあるから……それはしないように気をつけていると言うか……」
「それが、リスペクト……尊敬よ、見事ね久島くん、そんなキミなら……新たな形のクラスを再構築できるかと、賭けたの、私」

 誰だって、大切なものはある、好きなもの、熱中するものがある。それを穢された瞬間、怒りが現れない方がおかしい。いくら嫌いな奴でも、大切な物を汚し、否定する権利は決して無い。もしもそれを行なったその時に起こるのは、現代では許されなかろう『命の取り合い』だ。

 岩田先生が言うには……僕達自然と、互いに尊敬し合えているらしい。

「しかし、交渉は決裂して体育祭辞退決定という幕引きは、岩田先生が描いた景色なんですか?」

 本田くんは岩田先生に尋ねる、その賭けの果てに描いた結末は、これなのかと。岩田先生は……困ったように笑って白状した。

「まさか?私の負けでクビは決まったわ……まぁそもそも、体育祭辞退なんて勝手にできないわけだし?いやー……思いの外体育会系の文化系見下しが酷かったのは私も見抜けなかったわ」
「だろうと思うたわ、学校全体行事を1クラスの担任がどうこうできるわけないわな……」

 無論負けたと、そして期待させて悪いが参加辞退などできるわけが無く……彼女は不参加派を期待をさせた責任を取る為辞職をする雰囲気だった。

 まぁ、そうだよな、つまりこの一週間の騒動は、ただの先生が暇つぶしに行った『政治闘争ごっこ』となるわけだ。

「けど安心して、決まった以上私も教師だから……クビを捧げて不参加を通します」
「えっ」

 しかし、岩田先生はそんな無責任はしないと、この不参加を自身のクビにかけて必ず通すと僕達に宣言しーー。

「で、ここからはダメな大人の悪あがき……久島くん、もしも……キミがこの軽はずみで引き起こしてしまったという罪悪感があるなら……私の頼みを聞いて欲しい」

 その約束をした上で、岩田先生は命乞いをしてきたのだ。キミにこの騒動を引き起こした罪悪感があるのならば、盤上をひっくり返せる一手を打って欲しいと。

「一応……聞きますよ」
「まぁつまり、貴方にーー」

 岩田先生の語る、最後の一手を聞いて……僕も、伊佐美くんも、山城くんも、本田くんも……唖然とした。

 何しろその一手は『賭けに負けたからって胴元を射殺して賭けを無しにする方法』なのだから。

 だけど、僕にも罪悪感は多少あったので。

 その引き金を引いて、先生を助けることにしたのだった。
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