間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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五章前編 "5人目の怪物"編

12.僕と彼女たちの、"間違った"関係

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「成る程……それで、分かったわ……先生方々には伝えておくから」
「「ありがとうございます」」

 あの後、僕はしばらく黙っていたが立ち上がって帰ろうとしたがそうは行かず……叫びを聞いた先生や部活中の生徒が野次馬になって集まった為、保健室に連れられた。

 養護教諭や先生に、何があったのかを、比嘉出さんや宮本さんは代わりに説明してくれた。怖かっただろうに、僕はただベッドに座って、貼られたガーゼの下の疼きを感じて黙るしかできなかった。

「木刀の切先が掠っただけで打撲痕は見当たらなかったから、もし異常があったらすぐ病院行きなさいね?」
「……はい」
「私はまた先生方に報告するから、落ち着いたら帰りなさいな」

 養護教諭から一応の忠告を受け、この事件で怪我した僕の事を報告に行くと、彼女は保健室から出て行った。

 残ったのは、僕と比嘉出さんと宮本さんだけ……。

 丁度いい、この陰気で沈んでいる今なら吐き散らして全てを終わらせられるなと、僕は二人に声をかけた。

「ごめん二人とも、言いそびれたけどさ……僕は二人とお付き合いできない」
「えっ?」
「うん?」
「というか……見たでしょ、結局僕も、暴力で人を黙らせるどうしようもない奴だから……加藤くんと同じなんだよ」

 アプローチを変えて、これなら二人は離れていくと思った。こっちの方が、僕に幻滅してくれると、いや……既に幻滅しているだろうと。

「二人を守るためとは言え……加藤くんの言い分も聞かず、僕は木刀を蹴り折って脅すようにして彼を怯えさせて、無理やりに解決した……もっと他にやれた事があったのに……」
「いやいや、白雄が木刀持ってたじゃん……久島くん?」
「そうだけど……彼は素人だ、差し引いても……」

 宮本さんは擁護の言葉をくれたけど、僕はそれすらも否定するように言葉を捲し立てた。

「こんな奴に好意を持ってもさ、碌な事無いよ……やがて付き合っても、行き着く先は加藤くんだ……宮本さん、告白してくれてありがとう……比嘉出さんも、今まで何も応えず放っておいて……ごめんなさい」

 深々と、座ったまま頭を下げて……僕はスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。トークの項目にある二人の名前を、編集よりチェックして……削除を押した。

 本当に削除するか?その確認が出てきたので、僕は二人に言った。

「比嘉出さんはさ、前池くんとそろそろ再構築……考えてもいいんじゃあないかな?宮本さんも、こんな奴よりもっといい人見つかるだろうから……一時の過ちは消しとくね、二人とも……体を大切にしなよ」

 削除を決定し、二人の名前も、送られた写真も消して、僕は立ち上がる。これでいい、これで良かった、こうしなければならない……二人はこんな暴力陰キャに好意を向ける必要無い、まだ素敵な人が居る。

「じゃあ、僕は帰るーー」

 立ちあがろうとした瞬間ーー。

 四つの手が、僕の肩や胸板を押さえつけてきた。

「え?」

 比嘉出さんも、宮本さんも……二人とも……僕を立たせないと、力を込めていた。

「いや……あの……」

 バレー部かつ、二人は男子の高身長にあたる恵まれた肉体を持つ為、座った僕を二人がかりなら押さえ込むくらいはわけないようで……僕は立てなかった。結構、力には自信あるんだけどなぁ……精神的に参ってるからかな、力が入らないのかもしれない。

「久島くんさぁ……それはないんじゃないかな?」
「自分勝手すぎない?私らの言い分も……聞くべきだよね?」

 立ち上がる事すらままならない、勝てない……力を抜いたら、警戒するように二人の手がゆっくり力を抜いて、身体から離れて行った。

「……久島くん」
「……はい」

 比嘉出さんが名前を呼ぶ、返事をして……彼女は優しく笑いながら話を始めた。

「確かに……暴力はいけない、キミも理解してる……けどさっきのも、私が攫われて助けた時も、仕方がなく振るったのは……私、分かってるから……擁護はダメだけど、まだキミが、手段があって間違えたと後悔してるのも分かるから……だけど……助けてくれたって、私は分かってるから」

 確かに暴力は、許されない。それを擁護は決してしてはならない……だけど、自分を助ける為に理解した上で、あの場でその手段を取るしかなかったと私は理解している、助けてくれた事を私は分かってるから、そこまで卑下しないでほしいと、比嘉出さんは言った。

「久島くん……あの場でまだ、どうにかしよう、他に手段があったって思い悩む事は無いよ……久島くんは、私や比嘉出さんの為に出来る事を咄嗟にした、それで助けてくれた……間違えて無い、不正解じゃなくて……必死に小正解に持って行けたんだよ、久島くんは」

 宮本さんは言う、あの刹那に全てを正解に持っていける人間が果たしているのだろうか?あの瞬間、命が狙われている中、不正解は無く、見返せばキミは小正解でも選び、私たちを助けてくれたのだと、宮本さんは言った。

 二人から諭されて……しばらく固まるしかできず……ただ、涙だけが自然と……流れ出して止める事ができなかった。男の癖にと、みっともないと、止まってくれと頭の中で必死に言い聞かせても涙は止まらず……僕は下を向いて泣き顔を見られまいと隠した。

 ああ、最悪だ。

 弱みを見せてるみたいだ、擁護が欲しくて……お前は正しいことをしたのだと、認めてほしいから、涙を流していると思われてしまう。嗚咽を必死に堪えても、漏れ出て止まらない……。

「ごめん……比嘉出……さ……宮本……さ……見ないで……無様だ……恥知らずだ……から……」

 女の前で泣くなんて無様で、恥知らずな、弱みを見せるだけでしか無い行い。見られたく無いと顔を隠す僕……しかし……。

「よしよし……大丈夫だよ、久島くん」
「今は泣いていいから、よく頑張った、助けてくれてありがとう」
「うあ……」

 二人が、僕を、一緒に、手を組みながら抱きしめてきた。

 血も、汗も、知ってる匂いとかけ離れた柔らかな感触と安息の芳香……離れなきゃいけない。離れて、責任を取って、別れなきゃいけないと、決めていたのに。

 こんな事は間違っている、決して、認められない事なのに……。

 僕は……比嘉出さんを左手に、宮本さんを右手に抱きしめて……その柔らかさと安寧の香りに堕ちていった。
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