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第3章
【3.0.1】 窓際の席とクラスメイト。
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倫太郎が教室に入ると、扉の前にいた男子生徒が二度見した。
それが思わず可笑しくて倫太郎が笑うと、彼は「木嶋?だよな。」と言った。「ああ、おはよう。」と倫太郎が答えると、「わっ!」という音がしたかのように、その周りにクラスメイト達が寄って来た。
ざわざわと取り囲まれて倫太郎が戸惑っていると、「おい、お前ら、そういうのやめようって話し合っただろう!」と、先ほど二度見した男子生徒が、手をぶんぶんと振って蹴散らしていく。
蹴散らされて去って行く生徒の中には、「良かった。」と言って微笑むものや、「おはよう。」とだけ言って背中を向けるものもいて、意外にも自分が歓迎されていることに、倫太郎はホッとした。
「木嶋、今、俺の後ろの席。」
そう言って、照れたように笑ってくれたのは、先ほど二度見した男子生徒、神田直巳だ。入学したての頃、名前の順で座るため、彼とは席が前後だった。夏を通り越している間に、何度か席替えも行われたはずだが、今回もどうやら前後らしい。
彼が案内してくれた場所は、日当たりの良い窓際の一番後ろの席。久しぶりに登校した倫太郎にとって、非常にありがたい席だった。
引き出しの中には、夏休み前から入れっぱなしだった教科書がそのまま入っている。席替えの度に、主のいないこの机を移動するのは、手間だったことだろうと思うと、少し申し訳ない気持ちになった。
倫太郎が日の当たる自分の席に着けば、隣の席の女子は一度驚いたような顔をしたが、「おはよう。」とだけ言って、はにかんだように笑ってくれた。
その笑顔に、ふっと岸間春を思い出す。彼女は本ばかり読んでいるような、ひどく大人しい人物だと、倫太郎はずっと思い込んでいたのだが。春の顔を思い出して、その笑顔には騙されないぞと、倫太郎は心の中で笑った。
勝手にそうだと決めつけていたものが、いかに多いかに気が付いて、倫太郎はそんな自分に溜息をついた。肩の力が、少し抜けた気がした。凝り固まった肩をぐるぐると回せば、ごきごきと小気味の良い音がする。やはり、ずいぶんと緊張していたらしい。
「木嶋君、出て来れたのね。良かった。」と言って、担任の教師が涙ぐむ。
それを「茶番だ」と思ってしまったことに、倫太郎は驚いた。形に囚われないようにするがあまりに、性格が悪くなっている気がすると、思わず苦笑する。
彼女の本当の気持ちが伝わって「茶番だ。」と思ったのだとしても、今の倫太郎にはどうでも良いことであった。
学校に期待してはいけない。大事なのはきっと、そこで何をするかなのだ。岸間春が自らの目的のために新しい道を選んだように、倫太郎も自分で道を選びたい。それが何かはわからないけれど、ここに答えがあるような気がしている。
朝のホームルームが始まり、提出物などを教師が集めている。頬杖をつき、それを横目で見ながら校庭を見下ろしている倫太郎に、神田がこちらを振り返り、「毎日何してた?」と聞いてきた。
「ゲーム。」
「だよなぁ。」
他に言いようが無くて倫太郎がそう答えると、神田はおでこをぴしりと叩いて天を仰いだ。
「いちいちわざとらしいな。」と、倫太郎が思わず苦笑する。
そこで固まってしまった神田を見て、思ったことがそのまま口に出ていたことを知る。
「あ、いや。」
焦ったところで、一度出てしまった言葉を戻すことはできない。倫太郎は諦めたように、「ごめん。」と言って、「ここのところ、気持ちを隠さなくていい生活をしてたもんで。」と頭を掻いた。
「え?何それ。おもろ。どんなどんな。」
神田が、倫太郎の机に肘をかけ、興味津々で聞いてくる。倫太郎が言った言葉は、全く気にしていないようで、倫太郎は少しホッとした。
「思ったことが全部わかる、みたいな。」
「何、それ。犬の気持ちがわかる~的な機械?」
「え?何?それ。」
「あったじゃん、遠吠えしているオオカミの気持ちを調べたら、俺はどうしたら良いんだーって、言ってたってやつ。見たこと無い?」
「無い。無い。」
話が素っ頓狂な方に飛んで行き、倫太郎は思わず笑う。先ほどの言葉をどうとったらそうなるのか。
いや、でももしかしたら、ギンにとって自分は犬とそう変わらないのではないか。それならば、神田の言うこともそこまで間違ってはいない。
「自分が思ったことが、全部相手に伝わっちゃうみたいなやつ。」
「うわ。ホラゲかよ。」
神田は自分の体を抱きしめるようにして言った。ホラーゲームは苦手なのだろうか。それならば、倫太郎の同士だ。
その時だ。
「ああ、いたいた。」と言って、肩に黒猫を乗せたギンが、ゆっくりと上って来た。銀色の髪が、太陽の光に照らされて輝いている。しかし、そこは窓の外。ここは校舎の三階であることを思い出し、倫太郎は思わず「ひぃっ。」と声を出した。
「や、やめて!」と、神田が焦ったように倫太郎を見た。ホラーゲームの話をしていたせいで、どうやらビビったらしい。
「なんだよ。脅かすなよ。」と神田が倫太郎の腕を小突いた。
「ごめん、ごめん。ちょっと変なものが見えた。」と倫太郎が言えば、「冗談、まじキツイってー!」と神田が怒る。
その様子がおかしくて倫太郎が笑えば、ちょっと不貞腐れた様子を見せた神田も笑った。
ギンはそんな二人を、窓の外からニヤニヤと笑って見ている。クロはやれやれとでも言いたげな顔ではあるが、尻尾はゆらゆらと揺れて、少し楽しそうでもあった。
それが思わず可笑しくて倫太郎が笑うと、彼は「木嶋?だよな。」と言った。「ああ、おはよう。」と倫太郎が答えると、「わっ!」という音がしたかのように、その周りにクラスメイト達が寄って来た。
ざわざわと取り囲まれて倫太郎が戸惑っていると、「おい、お前ら、そういうのやめようって話し合っただろう!」と、先ほど二度見した男子生徒が、手をぶんぶんと振って蹴散らしていく。
蹴散らされて去って行く生徒の中には、「良かった。」と言って微笑むものや、「おはよう。」とだけ言って背中を向けるものもいて、意外にも自分が歓迎されていることに、倫太郎はホッとした。
「木嶋、今、俺の後ろの席。」
そう言って、照れたように笑ってくれたのは、先ほど二度見した男子生徒、神田直巳だ。入学したての頃、名前の順で座るため、彼とは席が前後だった。夏を通り越している間に、何度か席替えも行われたはずだが、今回もどうやら前後らしい。
彼が案内してくれた場所は、日当たりの良い窓際の一番後ろの席。久しぶりに登校した倫太郎にとって、非常にありがたい席だった。
引き出しの中には、夏休み前から入れっぱなしだった教科書がそのまま入っている。席替えの度に、主のいないこの机を移動するのは、手間だったことだろうと思うと、少し申し訳ない気持ちになった。
倫太郎が日の当たる自分の席に着けば、隣の席の女子は一度驚いたような顔をしたが、「おはよう。」とだけ言って、はにかんだように笑ってくれた。
その笑顔に、ふっと岸間春を思い出す。彼女は本ばかり読んでいるような、ひどく大人しい人物だと、倫太郎はずっと思い込んでいたのだが。春の顔を思い出して、その笑顔には騙されないぞと、倫太郎は心の中で笑った。
勝手にそうだと決めつけていたものが、いかに多いかに気が付いて、倫太郎はそんな自分に溜息をついた。肩の力が、少し抜けた気がした。凝り固まった肩をぐるぐると回せば、ごきごきと小気味の良い音がする。やはり、ずいぶんと緊張していたらしい。
「木嶋君、出て来れたのね。良かった。」と言って、担任の教師が涙ぐむ。
それを「茶番だ」と思ってしまったことに、倫太郎は驚いた。形に囚われないようにするがあまりに、性格が悪くなっている気がすると、思わず苦笑する。
彼女の本当の気持ちが伝わって「茶番だ。」と思ったのだとしても、今の倫太郎にはどうでも良いことであった。
学校に期待してはいけない。大事なのはきっと、そこで何をするかなのだ。岸間春が自らの目的のために新しい道を選んだように、倫太郎も自分で道を選びたい。それが何かはわからないけれど、ここに答えがあるような気がしている。
朝のホームルームが始まり、提出物などを教師が集めている。頬杖をつき、それを横目で見ながら校庭を見下ろしている倫太郎に、神田がこちらを振り返り、「毎日何してた?」と聞いてきた。
「ゲーム。」
「だよなぁ。」
他に言いようが無くて倫太郎がそう答えると、神田はおでこをぴしりと叩いて天を仰いだ。
「いちいちわざとらしいな。」と、倫太郎が思わず苦笑する。
そこで固まってしまった神田を見て、思ったことがそのまま口に出ていたことを知る。
「あ、いや。」
焦ったところで、一度出てしまった言葉を戻すことはできない。倫太郎は諦めたように、「ごめん。」と言って、「ここのところ、気持ちを隠さなくていい生活をしてたもんで。」と頭を掻いた。
「え?何それ。おもろ。どんなどんな。」
神田が、倫太郎の机に肘をかけ、興味津々で聞いてくる。倫太郎が言った言葉は、全く気にしていないようで、倫太郎は少しホッとした。
「思ったことが全部わかる、みたいな。」
「何、それ。犬の気持ちがわかる~的な機械?」
「え?何?それ。」
「あったじゃん、遠吠えしているオオカミの気持ちを調べたら、俺はどうしたら良いんだーって、言ってたってやつ。見たこと無い?」
「無い。無い。」
話が素っ頓狂な方に飛んで行き、倫太郎は思わず笑う。先ほどの言葉をどうとったらそうなるのか。
いや、でももしかしたら、ギンにとって自分は犬とそう変わらないのではないか。それならば、神田の言うこともそこまで間違ってはいない。
「自分が思ったことが、全部相手に伝わっちゃうみたいなやつ。」
「うわ。ホラゲかよ。」
神田は自分の体を抱きしめるようにして言った。ホラーゲームは苦手なのだろうか。それならば、倫太郎の同士だ。
その時だ。
「ああ、いたいた。」と言って、肩に黒猫を乗せたギンが、ゆっくりと上って来た。銀色の髪が、太陽の光に照らされて輝いている。しかし、そこは窓の外。ここは校舎の三階であることを思い出し、倫太郎は思わず「ひぃっ。」と声を出した。
「や、やめて!」と、神田が焦ったように倫太郎を見た。ホラーゲームの話をしていたせいで、どうやらビビったらしい。
「なんだよ。脅かすなよ。」と神田が倫太郎の腕を小突いた。
「ごめん、ごめん。ちょっと変なものが見えた。」と倫太郎が言えば、「冗談、まじキツイってー!」と神田が怒る。
その様子がおかしくて倫太郎が笑えば、ちょっと不貞腐れた様子を見せた神田も笑った。
ギンはそんな二人を、窓の外からニヤニヤと笑って見ている。クロはやれやれとでも言いたげな顔ではあるが、尻尾はゆらゆらと揺れて、少し楽しそうでもあった。
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