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思わず見てしまう、そんな病に特効薬は無い。
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癒しのフォロワー「アコ」からのコメントに送った『いつもありがとう。』という返信に、彼女から『こちらこそありがとうございます!嬉死』というリプが来た。
喜んでもらえたことに、理人は嬉しいやら恥ずかしいやら、何とも言えない気持ちだったのだが。
次の日、学校に駆け込んだ理人は、その勢いのまま教室に飛び来み、自分の席に荷物を置いた。今日も遅刻ギリギリだった。まだチャイムが鳴っていないだけましではあったが。
斜め前の三田は既に着席していて、同じようにギリギリにやってきた森と挨拶している。チャイムが鳴り始め、先生の声が響き渡ると、森が背中を向けて席についたのが見えた。それを見つめているかのような三田の、その背中がとても不安そうなのは、昨日の残像だろうかと理人は頬杖をつきながら彼女の後姿を見ていた。そして、ふとそんな自分に気が付いて、慌てて目を逸らす。一番後ろの席とは言え、危なかった。「ふぅ。」と小さく溜息をついた。
『気がつけば三田を見ちゃう病』は、日々重症化しているような気がする。朝礼の最中も、気が付くと三田の左耳を、その下のうなじを、彼女のしなやかな指を見ていた。
理人はそれに気が付く度に、顔を赤くし、目を瞑り、気を逸らすために歴代総理大臣を伊藤博文から唱える。それでも、第二次西園寺内閣あたりでまた目線が行ってしまうのには参った。
(俺はおかしくなってしまった。恋?まじで?いや、まだ認めない。)
選択授業では、理人の方が前の席だというのに、一度だけ三田の方を振り返ってその姿を見てしまった。しかも、三田本人と目が合って慌てて逸らすという失態まで犯す。
(俺は一体何をしてるんだ。)
うつむき、何も無かったようなふりをする。そして、『三田を見ちゃう病』の予防のため、頬杖をついて顔を固定した。
(呪いか? 魅了の魔法か?)
乙女ゲームのヒロインになった三田が、何人かの男達に囲まれて笑っている。まさかのハーレムルートかよ!と心の中で叫びながら、そちらの方に足を向けるが、一向に近づく気配が無い。理人は少し焦って走り出した。
(いや、そもそも何で追いかけようとしてんだよ!)
そう思って慌てて立ち止まった理人の背中を、ポンポンと誰かが叩く。振り向いて見れば、それは癒しのフォロワー「ミコ」のアイコンである犬のぬいぐるみの顔をした魔女だった。
───というところで、理人は目が覚めた。選択授業が終わり、チャイムが鳴っていた。どうやら、がっつり寝ていたらしい。
「ふぅわぁ。」と思わず声が出るような欠伸が出て、三田が座っていた席を見れば、彼女は既に立ち上がり、美術室の出口の方へ歩いて行こうとしているところだった。
ポニーテールの先の方の髪を、彼女が右手で弄る。
(あれは三田の癖だな──って、俺、きもっ!)
慌てて目線を反らし、机の上の教科書類をガサッとまとめ手に持った。きっと顔は真っ赤になっていることだろう。これは、ヤバい。本当に、ヤバい。
(自分が推されているはずなのに、今は俺の方が三田を見ている気がする!解せん!)
今日の午後には、鬼の山田の授業がある。理人は、それまではもう寝ることに決めた。でないと、この目がまた三田を見てしまう。病は寝て治す!
(恐るべし、三田見病。)
三田が教室を出て、完全に見えなくなったことを確認してから理人は立ち上がる。先ほどの夢とは違い、三田との距離が近づか無いように気を付けながら、理人は自分の教室に戻った。
――――――――――
お昼休み。理人はヘッドホンで音楽を聞きながら、弁当を食べる。どうせ弁当を食べるのに掛かる時間なんて5分ぐらいなものだ。残りの時間を睡眠に充てるべく、休み時間が始まってすぐに理人は弁当の蓋を開けた。
森が三田の方に席を向けてお弁当を広げる頃には、理人は既に食べ終わっていた。
寝る前にトイレでも行くかと立ち上がった時、こちらを見上げるようにしていた森の視線とぶつかった。何事も無かったかのように目を逸らしながら、やべっと思う。
三田見病であることを誰かに、特に森には悟られる訳にはいかない。どうせまた「何、こっち見てんのよ!」とか「きもっ!」とか言われるのがオチだ。
トイレを終えて理人が教室に戻って来れば、森と三田が何やら楽しそうに話していた。昨日のことはどうやら何でも無かったらしいと理人がホッとしていたら、また森と目が合った。また慌てて逸らした理人の視界に、森がこちらを見てニヤリと笑ったのが見えた。明らかに何かを含んだその笑顔。
(え?何?)
理人は視線をそちらに向けないようにしながら席につく。
(やばい、三田見病がバレたか。)
理人は、さーっと青ざめていくような気がした。それでも、何事も無かったようなふりをして、再びヘッドホンを付け、音楽をかけ、そのまま机に突っ伏した。
森にバレるくらいなら、三田本人にバレる方がまだましだと、理人は顔を森からは見えない方に背けながら思う。
(笑ってたよな。間違いなく笑ってたよな。)
後で何か言われるかもしれない。そんな恐怖で理人は結局眠れないまま、残りの昼休みを過ごした。二人がなにやらヒソヒソと話しているのを感じて、理人はその音量を上げた。
喜んでもらえたことに、理人は嬉しいやら恥ずかしいやら、何とも言えない気持ちだったのだが。
次の日、学校に駆け込んだ理人は、その勢いのまま教室に飛び来み、自分の席に荷物を置いた。今日も遅刻ギリギリだった。まだチャイムが鳴っていないだけましではあったが。
斜め前の三田は既に着席していて、同じようにギリギリにやってきた森と挨拶している。チャイムが鳴り始め、先生の声が響き渡ると、森が背中を向けて席についたのが見えた。それを見つめているかのような三田の、その背中がとても不安そうなのは、昨日の残像だろうかと理人は頬杖をつきながら彼女の後姿を見ていた。そして、ふとそんな自分に気が付いて、慌てて目を逸らす。一番後ろの席とは言え、危なかった。「ふぅ。」と小さく溜息をついた。
『気がつけば三田を見ちゃう病』は、日々重症化しているような気がする。朝礼の最中も、気が付くと三田の左耳を、その下のうなじを、彼女のしなやかな指を見ていた。
理人はそれに気が付く度に、顔を赤くし、目を瞑り、気を逸らすために歴代総理大臣を伊藤博文から唱える。それでも、第二次西園寺内閣あたりでまた目線が行ってしまうのには参った。
(俺はおかしくなってしまった。恋?まじで?いや、まだ認めない。)
選択授業では、理人の方が前の席だというのに、一度だけ三田の方を振り返ってその姿を見てしまった。しかも、三田本人と目が合って慌てて逸らすという失態まで犯す。
(俺は一体何をしてるんだ。)
うつむき、何も無かったようなふりをする。そして、『三田を見ちゃう病』の予防のため、頬杖をついて顔を固定した。
(呪いか? 魅了の魔法か?)
乙女ゲームのヒロインになった三田が、何人かの男達に囲まれて笑っている。まさかのハーレムルートかよ!と心の中で叫びながら、そちらの方に足を向けるが、一向に近づく気配が無い。理人は少し焦って走り出した。
(いや、そもそも何で追いかけようとしてんだよ!)
そう思って慌てて立ち止まった理人の背中を、ポンポンと誰かが叩く。振り向いて見れば、それは癒しのフォロワー「ミコ」のアイコンである犬のぬいぐるみの顔をした魔女だった。
───というところで、理人は目が覚めた。選択授業が終わり、チャイムが鳴っていた。どうやら、がっつり寝ていたらしい。
「ふぅわぁ。」と思わず声が出るような欠伸が出て、三田が座っていた席を見れば、彼女は既に立ち上がり、美術室の出口の方へ歩いて行こうとしているところだった。
ポニーテールの先の方の髪を、彼女が右手で弄る。
(あれは三田の癖だな──って、俺、きもっ!)
慌てて目線を反らし、机の上の教科書類をガサッとまとめ手に持った。きっと顔は真っ赤になっていることだろう。これは、ヤバい。本当に、ヤバい。
(自分が推されているはずなのに、今は俺の方が三田を見ている気がする!解せん!)
今日の午後には、鬼の山田の授業がある。理人は、それまではもう寝ることに決めた。でないと、この目がまた三田を見てしまう。病は寝て治す!
(恐るべし、三田見病。)
三田が教室を出て、完全に見えなくなったことを確認してから理人は立ち上がる。先ほどの夢とは違い、三田との距離が近づか無いように気を付けながら、理人は自分の教室に戻った。
――――――――――
お昼休み。理人はヘッドホンで音楽を聞きながら、弁当を食べる。どうせ弁当を食べるのに掛かる時間なんて5分ぐらいなものだ。残りの時間を睡眠に充てるべく、休み時間が始まってすぐに理人は弁当の蓋を開けた。
森が三田の方に席を向けてお弁当を広げる頃には、理人は既に食べ終わっていた。
寝る前にトイレでも行くかと立ち上がった時、こちらを見上げるようにしていた森の視線とぶつかった。何事も無かったかのように目を逸らしながら、やべっと思う。
三田見病であることを誰かに、特に森には悟られる訳にはいかない。どうせまた「何、こっち見てんのよ!」とか「きもっ!」とか言われるのがオチだ。
トイレを終えて理人が教室に戻って来れば、森と三田が何やら楽しそうに話していた。昨日のことはどうやら何でも無かったらしいと理人がホッとしていたら、また森と目が合った。また慌てて逸らした理人の視界に、森がこちらを見てニヤリと笑ったのが見えた。明らかに何かを含んだその笑顔。
(え?何?)
理人は視線をそちらに向けないようにしながら席につく。
(やばい、三田見病がバレたか。)
理人は、さーっと青ざめていくような気がした。それでも、何事も無かったようなふりをして、再びヘッドホンを付け、音楽をかけ、そのまま机に突っ伏した。
森にバレるくらいなら、三田本人にバレる方がまだましだと、理人は顔を森からは見えない方に背けながら思う。
(笑ってたよな。間違いなく笑ってたよな。)
後で何か言われるかもしれない。そんな恐怖で理人は結局眠れないまま、残りの昼休みを過ごした。二人がなにやらヒソヒソと話しているのを感じて、理人はその音量を上げた。
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