【完結】ツンデレ悪役令嬢、異世界に転生する。~「中身エリザベス」な悪役令嬢の、1泊2日の異世界転生物語。

林奈

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第1章

悪役令嬢は夕食の招待を受ける。

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「これ、お姉ちゃんだけど、中身は異世界から来たエリザベスだから。よろしくね。」


 そんな風に、ひどく雑に紹介されたエリザベスだったが、友梨の両親の「またよくわからないことが始まった」と言わんばかりの困った表情に、エリザベスは慌てて「エリザベス・ヴァリエールでございます。」と、履いているスウェットの脇を無理に掴んで綺麗なカーテシーをした。


「どうやら、ご息女であられる絵梨様と入れ替わってしまったようで、申し訳もございません。」


 そう言って、下げていた頭をゆっくりと上げると、二人は「いやいやいや、気にしないでください。」と、それはそれは慌てていた。
 友梨の父親は、優しそうな、それでいてとても若く見える人だった。先ほどちょっとだけ顔を合わせた母親も、困ったように笑う顔や雰囲気が、友梨にとても似ていた。


「エリザベスさん? ですか? 娘がご迷惑をおかけしてすみませんね。私が異世界転生しちゃった時はよろしくね。――なんて言っていたけど。まさか、本当にしでかすとは。」


 父親は、呆然とした様子でそう言った。今の状況を「全く信じられない」ということははないようだ。本当だったら、「何、馬鹿な事を言っているんだ?」という状況に、否定するような雰囲気は全く無く、そんな二人にエリザベスは驚いていた。
 自分の父親だったら、何と答えただろうか。エリザベスの父親というよりは、ヴァリエール公爵家当主である彼ならば、おそらく、理解できない下等な物でも見るかのように、大きな溜息をついただろう。


「きっと、入れ替わっちゃったのもうちの娘のせいだわ。本当にごめんなさい、エリザベスさん。」

「いいえ、決してそんなことは!」


 母親が頭を下げると、エリザベスは慌ててそれを止めた。申し訳ないのはこちらだと両手を顔の前で振れば、二人は困ったような表情をしたものの、笑ってくれた顔はとても優しそうだった。


「と、とにかく!お口に合うかわかりませんが、まずは夕食でもいかがですか?」


 母親に促され、エリザベスが勧められた席に静かに着く。目の前には、今日の食事と思われるものと、見慣れぬ棒が二本おいてあるだけで、フォークやナイフと言ったものが見当たらなかった。


「よりによって生姜焼きだもんなぁ。ステーキ肉でも買ってくるべきだったか!」

「そんなの、後で絵梨ににばれたら、なんで私がいないときに!って怒られるわ。」

「うまそ! いただきまーす!」


 女神へのお祈りなども全く無く賑やかに始まった食事は、エリザベスが見たことのないものばかりだった。ナイフとフォークの代わりに、目の前の棒———箸というものを使うらしい。頑張って友梨の真似をしてみたが、どうにも使い慣れないエリザベスのために、友梨がナイフとフォークを出してきてくれた。
 美味しそうに食べている友梨に勇気をもらい、エリザベスも生姜焼きという名の肉を一口口に入れてみる。


「…美味しい。」


 それは、思わず目を見開くような美味しさだった。そんな表情のエリザベスを見て、友梨とその両親は嬉しそうに笑っている。
 自分の世界には無い味付けに感動し、その調理の仕方を聞くと、母親は得意げにそれを教えてくれた。

 忙しかった父親、厳しかった母親。向こうの世界では、広い食卓にひとりで食事という事が多かったが、珍しく家族が揃えば、夕食の時間でさえも教育の場のようなものになっていた。勉強の進捗を聞かれ、怒られ、次からはこうするようにと諭された。


 (マーガレットは? その時、どうしていたのかしら?)


 マーガレットが一緒に夕食の席についていたことは思い出せるが、それ以外の事は全く思い出せなかった。自分にとって苦しい夕食の時間は、マーガレットにとってはどんな時間だったのだろうか。

 ふと、目線を上げれば、目の前に座る母親の向こう側の棚に、たくさんの姿絵のようなものが見える。この世界には写真という魔法のような技術があって、本物の姿を写し出すことができるのだと友梨が教えてくれた。
 仲の良い家族だと一目でわかるような写真が、ずらりと並んでいる。それを見ながら、自分の家族があのように笑い合うことなどあっただろうかと、エリザベスは少し悲しい気持ちになった。

 会話の途切れない楽しい夕食は、とても美味しく、そしてあっという間に過ぎて行った。食べ方にもそれほど気を付ける必要もなく、素直に美味しいと言いながら笑い合える夕食は、エリザベスにとってより美味しいものに感じられた。


「エリザベスさんのいる世界では、魔法などもあったりするんですか?」


 食事も大体終わり、友梨の父親が向こうの世界にもあるビールを飲みながらエリザベスに聞いた。こちらの世界で魔法とは、夢の中のものであり、創作のものであるらしい。そうして作られた物語を、「ファンタジー」と呼ぶということも教えてもらった。


「確かに魔法は存在しますが、それでもかなり珍しいものです。まず、魔力を持った人間がかなり少なくなっておりますし、今では体系化された魔術を使うものばかりで、魔法を使えるものはごく少数です。」

「え? 魔法と魔術ってやっぱり違うんだ?」


 返って来た友梨の言葉に、こちらの平民の知識の豊富さを知る。向こうの世界で、魔法と魔術の違いを知るものは、近くに闇色の魔術師がいるような貴族ぐらいなものだろう。
 しかも、こちらには魔法と思われるようなことが当たり前に起きている。夜なのに明るい部屋。すぐに火が付くコンロ。ビールは冷えていて、贅沢に氷も入れられていた。


「でも、こちらにも魔力のようなものが存在するのでしょう?今明るいのも、光魔法のようなものなのでは。」


 ずっと疑問に思っていたことを尋ねてみれば、酔っているのか少し赤くなった目を瞬いて、「ああ、これは電気っていってね。科学の発達の賜物です。」と父親は得意げに言った。


「こっちは魔法が無いから、どうやって便利にしていくか考えて、発達させていったものなんだ。こんなことができたらいいなぁって思っていたのを、時間をかけて実現して。だから、仕組みがわかればエリザベスさんの世界でも使えるようになるんじゃないかなぁ。」


 そうだろうか? 何かが根本的に違う気がすると、エリザベスは首を傾げた。
 昔から魔力というものがあるとはいえ、それは庶民に手が届くものではない。それを享受できるものは上流階級のものに限られており、しかも魔力というものを知り関わるものの数も減る一方なのだ。それこそ、差別が生まれるほどに。


「その…科学?と、おっしゃいましたか。それに関わる方が、こちらにはたくさんおられるのですか?」

「この国では、ある年齢になるとみんな学校に行くからかねぇ。そこでみんな、やりたいことを見つけるし、お金の無い人でも勉強できる仕組みがある。科学方面に進みたいと思う人も、いっぱいいるだろうね。」


 平民でも学校に行ける世界。しかも、男女、貴賤関係なく…ということらしい。それは、エリザベスのいる世界とは、全く違った世界だ。


「ということは、友梨様も学校に通われているのですか?」

「そうだよ。絵梨も同じ学校…」


 そこで、3人の目が一斉にエリザベスに向いた。


「明日! 学校!」


 エリザベスの身体の持ち主である絵梨は、JK。つまり、学校に通う現役女子高生で、どうやらエリザベスは、明日は学校に行かなければならないらしい。






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