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第2章
悪役令嬢は驚く。
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「家族計画と人工妊娠中絶」
教師が黒板に大きく書いた文字に、エリザベスは驚きのため固まっている。これは、向こうの世界で言う「閨の授業」に近いのではないだろうか。
「ま、まさか、男女一緒に?この内容を?」
「うん、まあちょっと恥ずかしい内容ではあるよね。」
それでも、特に照れることもなくあっけらかんとした美知の反応に、この世界ではこれが普通なのだとエリザベスは思い知る。足を出すような服装。男女の距離感。自分がいた世界とは全く違うということを、ここに来て思い切り見せつけられたような気分に、エリザベスは項垂れた。
「1回の性交でも、妊娠するということ。だからこそ、必要な避妊というのが…」
授業が始まってしまえば、まさか立ち上がることもできず、耳を塞ぐことも顔を覆うこともできず、エリザベスは必死でそこに座っていた。まわりの学生たちは、たまに教師を茶化しながらも、普通に授業を受けているようで、混乱しているのは自分だけなのだとエリザベスにもわかってはいたが。
(こちらの世界では、早くから男女隔たりなくそういったことを学ぶのかしら。)
そんなふうに現実逃避をしても、授業はなかなか終わってはくれない。耳を塞ぎたくても、はっきりとした言葉で教科書を読む教師の声が、くらくらとするエリザベスの頭の中を通り過ぎていく。恥ずかしくて居場所がなくて、顔が暑くて――――そんな風に考えていたら、タラーッと何かが鼻から出た気がした。もしかして、鼻水⁉ と、慌てて手で押さえる。空いている手で前の背中を叩き、「美知様、申し訳ございませんが、先ほどの紙をもう少しいただけませんか。」と問えば、「うん、…ちょっと待って。」と言いながら、先ほどのティッシュを取り出し、「はい。」と振り返る。その瞬間、目が大きく見開かれた。
「エリ、は、鼻血! それ、鼻血!」
「え?」
鼻を押さえていた方の手を見れば、その手は赤く染まっていた。手の外れた鼻からまた何かがツツツーッと流れ出たのが分かる。美知は、急いで袋から出した紙を鼻の所に当て、「先生、ちょっとこの子、興奮し過ぎちゃったみたい。」と、教師に向かって言った。
教室から聞こえる笑い声から逃げるように、美知に手を引かれて連れて行かれたのは保健室という名の医務室だった。
長椅子に座らされ、鼻を押さえておくようにと言われ、エリザベスはその通りにする。ウェットティッシュという濡れた小さな布巾を渡されて、エリザベスは空いている手で赤くなった鼻を押さえている方の手をちょっとだけ拭いた。
「良かった。服にはつかなかったみたいだね。」
「お騒がせして、申し訳ございません。ちょっと…、体調が悪かっただけですわ。」
そう言って、恥ずかしそうに鼻を押さえているエリザベス。美知が、顔についている血液をそっと拭く。その優しい触れ方に、されるがまま、赤く染まっていくウェットティッシュを眺めていると、エリザベスはマーガレットが怪我をしたときのことを思い出した。
その日は、学園全体で卒業パーティーに向けたダンスの授業が行われていた。全ての学年が揃うと言っても、貴族の子息だけが通う学校だ。それほどの人数がいるわけでもない。王宮のパーティーに比べれば半分にも満たないような人数で行われていた授業で、急に倒れた女生徒がいた。
マーガレットだった。
エリザベスが近寄ると、足が痛いと涙ぐんでいる。エリザベスは、そんな彼女を見下ろしながら、吐き出しそうになった溜息を飲み込んだ。
「泣いても仕方がありませんわ。みっともない姿をお見せしていないで、早く医師に診てもらいなさい。」
他の学生に迷惑をかけるわけにもいかないし、何より幼少の頃から当たり前のように練習させられているダンスで怪我をするなど、恥ずべきことと思ったのだ。
「エリザベスは、冷たいのだな。」
すると、いつの間にか目の前にいた皇太子が、エリザベスに聞こえるようにボソリと呟き、その手をマーガレットに差し出した。
「ヴァリエール嬢、立てるか?」
マーガレットは、おそるおそるその手を取るが、「!」と辛そうな表情をして、再び蹲る。皇太子は、少しだけ考える様な素振りをしてから、一気にマーガレットを抱き上げた。
「そんな!皇太子殿下のお手を煩わせるわけには!」と腕の中で焦るマーガレットを無視して、そのまま医務室の方へと消えていく。その後ろ姿を、エリザベスは呆然と見送ったのだった。
「皇太子殿下は、誰にでもお優しくあられますから。」
そう取り繕って、ダンスの練習に戻るよう促せば、皇太子の取り巻きが数名追いかけて行っただけで、ダンスの授業は再び続けられた。
でも、それはエリザベスにとって、ひどくショックなことであった。———なぜ、皇太子殿下が…と、取り残された婚約者として、屈辱を味わったような気分だった―――のだが…。
実はその時、マーガレットと一緒に踊っていたのは皇太子殿下だったのだ。実は、皇太子殿下がわざとマーガレットを転ばせたのだと知ったのは、あの小説のお陰だ。怪我をさせ、マーガレットの反応を見て、そして医務室に連れて行くまでが彼の策略どおりだったことを知り、ほぼ拉致のようなそれに、ショックよりも皇太子への気持ち悪さが増した。
鼻血がいよいよ落ち着いてきた頃、ガラリと音を立てて保健室の扉が開いた。
「絵梨、大丈夫か?」
健太郎が、授業を終えて見に来てくれたらしい。
「少し疲れてしまっただけですわ。私の事など、気になされなくもよろしかったのに。」
エリザベスは、ツンと澄ましたようにそう言ってはみたが、心配してもらえたことへの嬉しさは隠せなかったようで、健太郎と美知が「出た!ツンデレ!」と笑った。
「それよりも、絵梨様に恥をかかせてしまったのではないでしょうか。」
少し落ち込んで様子でそう言ったエリザベスに、「いつものことだから大丈夫。」と笑う美知。
「どうせただの鼻血だし。絵梨は、興奮すると出ちゃうんだよね。」
美知の言葉に、健太郎がうんうんと頷いている。どうやら、ただの慰めというわけでもないらしいことに、エリザベスは少しホッとした。
教師が黒板に大きく書いた文字に、エリザベスは驚きのため固まっている。これは、向こうの世界で言う「閨の授業」に近いのではないだろうか。
「ま、まさか、男女一緒に?この内容を?」
「うん、まあちょっと恥ずかしい内容ではあるよね。」
それでも、特に照れることもなくあっけらかんとした美知の反応に、この世界ではこれが普通なのだとエリザベスは思い知る。足を出すような服装。男女の距離感。自分がいた世界とは全く違うということを、ここに来て思い切り見せつけられたような気分に、エリザベスは項垂れた。
「1回の性交でも、妊娠するということ。だからこそ、必要な避妊というのが…」
授業が始まってしまえば、まさか立ち上がることもできず、耳を塞ぐことも顔を覆うこともできず、エリザベスは必死でそこに座っていた。まわりの学生たちは、たまに教師を茶化しながらも、普通に授業を受けているようで、混乱しているのは自分だけなのだとエリザベスにもわかってはいたが。
(こちらの世界では、早くから男女隔たりなくそういったことを学ぶのかしら。)
そんなふうに現実逃避をしても、授業はなかなか終わってはくれない。耳を塞ぎたくても、はっきりとした言葉で教科書を読む教師の声が、くらくらとするエリザベスの頭の中を通り過ぎていく。恥ずかしくて居場所がなくて、顔が暑くて――――そんな風に考えていたら、タラーッと何かが鼻から出た気がした。もしかして、鼻水⁉ と、慌てて手で押さえる。空いている手で前の背中を叩き、「美知様、申し訳ございませんが、先ほどの紙をもう少しいただけませんか。」と問えば、「うん、…ちょっと待って。」と言いながら、先ほどのティッシュを取り出し、「はい。」と振り返る。その瞬間、目が大きく見開かれた。
「エリ、は、鼻血! それ、鼻血!」
「え?」
鼻を押さえていた方の手を見れば、その手は赤く染まっていた。手の外れた鼻からまた何かがツツツーッと流れ出たのが分かる。美知は、急いで袋から出した紙を鼻の所に当て、「先生、ちょっとこの子、興奮し過ぎちゃったみたい。」と、教師に向かって言った。
教室から聞こえる笑い声から逃げるように、美知に手を引かれて連れて行かれたのは保健室という名の医務室だった。
長椅子に座らされ、鼻を押さえておくようにと言われ、エリザベスはその通りにする。ウェットティッシュという濡れた小さな布巾を渡されて、エリザベスは空いている手で赤くなった鼻を押さえている方の手をちょっとだけ拭いた。
「良かった。服にはつかなかったみたいだね。」
「お騒がせして、申し訳ございません。ちょっと…、体調が悪かっただけですわ。」
そう言って、恥ずかしそうに鼻を押さえているエリザベス。美知が、顔についている血液をそっと拭く。その優しい触れ方に、されるがまま、赤く染まっていくウェットティッシュを眺めていると、エリザベスはマーガレットが怪我をしたときのことを思い出した。
その日は、学園全体で卒業パーティーに向けたダンスの授業が行われていた。全ての学年が揃うと言っても、貴族の子息だけが通う学校だ。それほどの人数がいるわけでもない。王宮のパーティーに比べれば半分にも満たないような人数で行われていた授業で、急に倒れた女生徒がいた。
マーガレットだった。
エリザベスが近寄ると、足が痛いと涙ぐんでいる。エリザベスは、そんな彼女を見下ろしながら、吐き出しそうになった溜息を飲み込んだ。
「泣いても仕方がありませんわ。みっともない姿をお見せしていないで、早く医師に診てもらいなさい。」
他の学生に迷惑をかけるわけにもいかないし、何より幼少の頃から当たり前のように練習させられているダンスで怪我をするなど、恥ずべきことと思ったのだ。
「エリザベスは、冷たいのだな。」
すると、いつの間にか目の前にいた皇太子が、エリザベスに聞こえるようにボソリと呟き、その手をマーガレットに差し出した。
「ヴァリエール嬢、立てるか?」
マーガレットは、おそるおそるその手を取るが、「!」と辛そうな表情をして、再び蹲る。皇太子は、少しだけ考える様な素振りをしてから、一気にマーガレットを抱き上げた。
「そんな!皇太子殿下のお手を煩わせるわけには!」と腕の中で焦るマーガレットを無視して、そのまま医務室の方へと消えていく。その後ろ姿を、エリザベスは呆然と見送ったのだった。
「皇太子殿下は、誰にでもお優しくあられますから。」
そう取り繕って、ダンスの練習に戻るよう促せば、皇太子の取り巻きが数名追いかけて行っただけで、ダンスの授業は再び続けられた。
でも、それはエリザベスにとって、ひどくショックなことであった。———なぜ、皇太子殿下が…と、取り残された婚約者として、屈辱を味わったような気分だった―――のだが…。
実はその時、マーガレットと一緒に踊っていたのは皇太子殿下だったのだ。実は、皇太子殿下がわざとマーガレットを転ばせたのだと知ったのは、あの小説のお陰だ。怪我をさせ、マーガレットの反応を見て、そして医務室に連れて行くまでが彼の策略どおりだったことを知り、ほぼ拉致のようなそれに、ショックよりも皇太子への気持ち悪さが増した。
鼻血がいよいよ落ち着いてきた頃、ガラリと音を立てて保健室の扉が開いた。
「絵梨、大丈夫か?」
健太郎が、授業を終えて見に来てくれたらしい。
「少し疲れてしまっただけですわ。私の事など、気になされなくもよろしかったのに。」
エリザベスは、ツンと澄ましたようにそう言ってはみたが、心配してもらえたことへの嬉しさは隠せなかったようで、健太郎と美知が「出た!ツンデレ!」と笑った。
「それよりも、絵梨様に恥をかかせてしまったのではないでしょうか。」
少し落ち込んで様子でそう言ったエリザベスに、「いつものことだから大丈夫。」と笑う美知。
「どうせただの鼻血だし。絵梨は、興奮すると出ちゃうんだよね。」
美知の言葉に、健太郎がうんうんと頷いている。どうやら、ただの慰めというわけでもないらしいことに、エリザベスは少しホッとした。
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