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青年
ここは女神ジレを信仰する国、ロワエラ。その国の王が腰を下ろす王都はそれはそれは活気にあふれる場所と言われる。しかしそこを一人あまり気分の良さそうではない雰囲気で歩く黒髪の青年がいた。青年はある程度歩くと複雑化した裏道に入り、知った顔でそこを進んで行く。時刻はまだ朝早く、普通の人ならばまだ眠りについている時のため青年の歩く音だけがそこに響いていた。しかし青年が目的地にでも着いたのか音が消え、次は鍵を回す音が辺りに響くと青年は扉を開け、その中へ入っていってしまう。
「ただいま……。はあ、疲れたな」
青年の入った場所は人一人がなんとか寝れそうなベッドと机の上にランプ、小箱があるだけの生活感がない部屋だった。青年は鍵をかけ、薄暗い部屋に灯りをつけるとすぐにベッドへ横になる。
「まったく、俺が何したって言うんだか……。本当にあれが騎士様のやる事とは……」
青年は瞼を閉じたまま何やら愚痴をこぼすがその後、眉間に皺が寄り、小さく息を吐いた。青年は目を開けると頭を少し上げ、服を捲るがそこには腹部に包帯が巻かれており右の脇腹辺りから血が滲んでいるのが確認できた。それを見た青年は頭を下ろすと痛みからかそれとも別の理由かは分からないがきつく唇を噛んだ。しかし暫くした後、痛むであろう身体を起こし、机の小箱に手を伸ばした。傷のせいか熱も出ているようで怠く、頭も痛む青年だったが手に取った小箱を開け、中に大量に入った傷薬や包帯が顔を出すも包帯のみを取り出す。そして血で汚れた包帯を新しい物に取り替えると灯りを消し、再び横になった。
傷と熱に苦しむ青年の荒い呼吸だけが部屋に響くがここには看病してくれる者は誰もおらず一人寂しく青年は意識を落とす。
何故青年がこんな事になっているのかといえば、それは青年がこの国に忠誠を誓う騎士でしかもこの若さで黒騎士と名を馳せるほどの強さを持ち合わせる為である。当然この事をよく思っていない騎士仲間などからは嫌がらせを受け、今回も突然手合わせに付き合ってくれと言われ、通常ならば刃が潰された物を使うところ真剣を渡され一瞬動揺している隙に彼方も一対多数の真剣で青年をやりにきたのだ。彼らは一応仲間のためこのまま斬り捨てるわけもいかず、刃も潰れていないため峰打ちも出来ずに守りに徹していたが一人の剣が運悪く青年の脇腹を斬りつけた。それでも彼らはお構いなしに続けてくるので流石に青年も相手側の本気度を理解する。青年は反撃を決めて彼らの動きを止める程度、斬りつけ一瞬怯んだ隙に手刀を首に決め込むとそこは切り抜ける事が出来た。しかし脇腹は思ったより深く傷ついており急いで手当てをしに青年は自室に戻った。その後は騎士としての仕事があったので青白い顔でこなし、自室は今、安心出来るとは言えない為に城を抜け出しここの隠れ家に来たのだった。
あれから朝日が昇り外が騒がしくなる頃、青年は目を覚ますが今日は非番だったと思い出し、また眠りにつく。そして懐かしい夢を青年は見る。
『ねえねえ、やっぱりルクは騎士になるの?』
緑の豊かな森にぽつんと雪のように白い髪をもつ少年がいた。その少年は同じように隣で座る黒髪の少年に語りかけるとその答えを待った。黒髪の少年はその夜空のような瞳を彼に向けるとにっこりと笑って肯定する。
『うん、僕は強くてみんなに優しい騎士になるんだ。ふふ、ヴェルトは?』
『僕も一緒だよ。騎士になるつもり』
『本当に? ヴェルトも一緒に騎士になったらとっても心強いだろうから嬉しいな。そうだ! 約束しようよ』
『約束?』
ヴェルトはきょとんとするがルクは立ち上がると辺りを見回し近くにあった白い花を二本手折るとまたこちらに腰を下ろし、花の一本をヴェルトに渡す。
『これは?』
『約束する時に使うお花で約束した後にこのお花を交換するの』
『そうなんだ。初めて知ったよ』
『そう? さあ、お花も持ったしいくよ?』
ルクは胸もとで花を持つと夜空のような瞳を伏せた。
『我ら女神のもと僕たちは共に強くて優しい騎士になることを約束します』
言い終えたルクはその胸もとで持つ花をヴェルトへ渡そうとするので彼も見様見真似で言い自分の花をルクに渡した。
『このお花は約束を守った時に返すのだけどもってくれるかな……』
ヴェルトと交換した花を見てルクはそうこぼすとヴェルトもルクと交換した花を見つめ口を開く。
『枯れる前に早く騎士にならないとね』
『そうだね』
‥‥‥
‥‥
‥
夢から覚めたルクは目を開けると自分の首にかかる白い花びらが埋められたペンダントを服の上から握り、一つ息を吐く。
「元気にしてるかな……」
ヴェルトとはあの約束の後、村の人に森に入っていたのがバレ、再び会いに行けずそのまま自身の養い親に王都へ出稼ぎに行かされてしまったのであれから会えずに終わってしまったのだ。
「なんで騎士にいないんだ……」
あれからルクも騎士学校に入りヴェルトを探したがそんな人物はおらず、自分のみが騎士になってしまっていた。幼い子供同士の約束などこんなものかと思いながら悲しんだがどうにもアクセサリーに加工までしたあの花は捨てれず今も彼の胸にあった。
「はあ、とりあえず何か食べるか」
昨日の夜から何も食べずに過ごしていた為、少し何か食べようと起き上がる。熱はだいぶひいており、傷はある程度は塞がっているようで痛みはまだましになっていた。服は汗でベタつくが替えはないため一応包帯だけは替えておこうと思い、また小箱から包帯を取り、新しい物に替える。そしてある程度身だしなみを整えて部屋も片付けた後、血に濡れ使えなくなった包帯を捨てる為に握りそこを後にした。
部屋を出て来た道を戻るついでにあるゴミ捨て場に包帯を捨てると表通りに出る。時刻はもう夕方のようだったが人は多くそこを縫うように歩く。本当は何か食べようと思ったが時間も遅いと分かり城に戻ろうと考え直し足を城に向ける。城からあの隠れ家まで丁度良い距離であまり時間もかからず着きそうだったが、この国ではルクは黒騎士として顔が売れてるので彼に気づいた人々は皆、声を掛けてくる。ルクとしては今はあまり話しかけて欲しくないが無下にもできず当たり障りなく話を終え、帰路に急いだ。
そして城にやっとのことで着くとまず服を着替えようと自室に戻る。途中、人にあったりもしたが特に会話はなかった。悲しい事に城では逆に皆こんな感じだった。
自室前に着き鍵を開け入ると特に荒らされた様子もなく安心しながら部屋に入り、ここまでの道で乾いてしまった服を替える。その後は何か食べる為にまた部屋を後にし、食堂へ向かった。しかしその途中で後ろから声がかけられ誰だと思って振り返れば騎士仲間で唯一の友人といえるディルがいた。
「黒騎士様も食堂?」
そう声を掛けられ頷くとどうやら彼も今から夕食のために食堂に行くようなので一緒に行くことにした。
「ディルも今日は非番だったのか?」
「あーそうそう。黒騎士様もなの?」
「ああ、だから出掛けていた」
「ふーん。そういえばまた巻き込まれたらしいけど?」
「……まあいつもの事だ」
「脇腹斬られてよく言ってられるよ」
なんとなく斬られた事が広まらないはずないとは思ってはいたが早くも友人の耳にまで入っている事にルクは少し驚く。しかし事実のため下手に言い訳も出来ず黙っていると相手から反応があった。
「で? どれくらい酷いわけ? そんな青白い顔してるんだからさ」
「いや、少し掠った程度だ。顔色は食事をとってない所為だと思う」
「はぁー、そうですか」
ルクはあまり言いたくなくこんな返答をしてしまったがそれを察したディルはその後は特に訊いてこず無言のまま食堂に着いてしまった。食堂は混んでいて座る場所があるか心配になったが運良く空いており、ディルがその席に上着を掛けると料理を買いに行くのでルクも同じようにして後を追いかける。
「何にする?」
漸くディルが喋りかけてきたその問いにルクは答える。
「俺はステーキの方かな」
「うーん、なら俺もそうするかぁ」
食事は日替わりで二種類から選ぶが今日はステーキ定食か焼き魚定食だったのでルクはステーキにしておいた。怪我したし肉がいいだろうという安直な考えがあったが。そして頼むものも決まったためそれを料理人に伝え待ち出来た料理を受け取るのと一緒にお金を払い席に戻った。
席に着くと、二人は食事に感謝を捧げ食べ始める。昨日から食べていないせいかとても美味しく感じながら黙々と食べ進めるルクに同じように食べていたディルがふと思い出した様にすると手を止めた。
「あのさ、隣の国ともしかしたら喧嘩するかもしれない話聞いただろ?」
「今するか? その話」
「別にいいんじゃない? どうせいつかみんな知る話」
「よくない、その話をするなら部屋とかにしてくれ」
「流石、黒騎士様はしっかりしてるようで」
「誰でも止めるだろう」
突然何を言い出すかと思えばまだ上の者にしか知らされていない情報をぺらぺらとこんな食堂で話そうとするディルをルクは慌てて止めるが嫌味っぽく返されてしまう。その後、彼は無言のままで今日のディルとは話が続かない呪いでもかかっているのかとルクは思ってしまった。
そして食事を終えると食器を返却し、あの話の続きをする為に自分の部屋にディルを招待した。ディルは部屋に入ると長椅子に座りルクも座るよう視線を送るので従い目の前に座る。
「それで?」
「相変わらず生活感がない部屋だね」
「話がないなら追い出すが……?」
「軽い冗談でしょ。そうだな、黒騎士様あの話どうなると思う?」
「……そうなってほしくないが高い確率で争う事になると思っている……」
「なんだ、そこまで理解してるのなら話は早い。黒騎士様はこのままだと味方に殺されるか敵に殺されるかの二択だよ」
「……」
そんな話だろうとは思ってはいたルクだったが実際言われると少しくるものがあった。確かに今、色々と嫌がらせをしてくるのはほぼ上の地位に属す騎士なのでこの話を聞いた騎士達は絶対にその争いの前線に出されるルクを上手いように葬ろうとしてくるとは予想できた。しかしだからといってどうすることも出来ない現状なのでディルの言葉をルクは待つことにした。
「はぁー、まただんまりか。でもまあ確かに亡命するくらいしかどうする事もできないしな……」
「ディルこそよく分かってるな。だが亡命も怪しいぞ?」
「ほんと黒騎士様人気者だね」
ディルもやはりお手上げのようで話を終えると項垂れてしまった。その様子にルクは苦笑いになるがディルをこれ以上、心配させまいと口を開く。
「まあ、死なないよう頑張るさ。それしか俺には今のところないようだし」
「その割には今回脇腹掠ってるけど」
「はは、あれは状況が悪かったんだ。前線なら色んな言い訳がある」
「フフッ、確かにそうだ。なら沢山考えておく事だね」
「ああ、そうするよ」
ディルは納得したのかその後もう自室へ戻ると言って部屋を出ていった。それをルクは見送ると小さく呟いた。
「俺だって簡単に死ぬつもりはないさ……。死んだらもしもの時、この花が返せなくなる」
「ただいま……。はあ、疲れたな」
青年の入った場所は人一人がなんとか寝れそうなベッドと机の上にランプ、小箱があるだけの生活感がない部屋だった。青年は鍵をかけ、薄暗い部屋に灯りをつけるとすぐにベッドへ横になる。
「まったく、俺が何したって言うんだか……。本当にあれが騎士様のやる事とは……」
青年は瞼を閉じたまま何やら愚痴をこぼすがその後、眉間に皺が寄り、小さく息を吐いた。青年は目を開けると頭を少し上げ、服を捲るがそこには腹部に包帯が巻かれており右の脇腹辺りから血が滲んでいるのが確認できた。それを見た青年は頭を下ろすと痛みからかそれとも別の理由かは分からないがきつく唇を噛んだ。しかし暫くした後、痛むであろう身体を起こし、机の小箱に手を伸ばした。傷のせいか熱も出ているようで怠く、頭も痛む青年だったが手に取った小箱を開け、中に大量に入った傷薬や包帯が顔を出すも包帯のみを取り出す。そして血で汚れた包帯を新しい物に取り替えると灯りを消し、再び横になった。
傷と熱に苦しむ青年の荒い呼吸だけが部屋に響くがここには看病してくれる者は誰もおらず一人寂しく青年は意識を落とす。
何故青年がこんな事になっているのかといえば、それは青年がこの国に忠誠を誓う騎士でしかもこの若さで黒騎士と名を馳せるほどの強さを持ち合わせる為である。当然この事をよく思っていない騎士仲間などからは嫌がらせを受け、今回も突然手合わせに付き合ってくれと言われ、通常ならば刃が潰された物を使うところ真剣を渡され一瞬動揺している隙に彼方も一対多数の真剣で青年をやりにきたのだ。彼らは一応仲間のためこのまま斬り捨てるわけもいかず、刃も潰れていないため峰打ちも出来ずに守りに徹していたが一人の剣が運悪く青年の脇腹を斬りつけた。それでも彼らはお構いなしに続けてくるので流石に青年も相手側の本気度を理解する。青年は反撃を決めて彼らの動きを止める程度、斬りつけ一瞬怯んだ隙に手刀を首に決め込むとそこは切り抜ける事が出来た。しかし脇腹は思ったより深く傷ついており急いで手当てをしに青年は自室に戻った。その後は騎士としての仕事があったので青白い顔でこなし、自室は今、安心出来るとは言えない為に城を抜け出しここの隠れ家に来たのだった。
あれから朝日が昇り外が騒がしくなる頃、青年は目を覚ますが今日は非番だったと思い出し、また眠りにつく。そして懐かしい夢を青年は見る。
『ねえねえ、やっぱりルクは騎士になるの?』
緑の豊かな森にぽつんと雪のように白い髪をもつ少年がいた。その少年は同じように隣で座る黒髪の少年に語りかけるとその答えを待った。黒髪の少年はその夜空のような瞳を彼に向けるとにっこりと笑って肯定する。
『うん、僕は強くてみんなに優しい騎士になるんだ。ふふ、ヴェルトは?』
『僕も一緒だよ。騎士になるつもり』
『本当に? ヴェルトも一緒に騎士になったらとっても心強いだろうから嬉しいな。そうだ! 約束しようよ』
『約束?』
ヴェルトはきょとんとするがルクは立ち上がると辺りを見回し近くにあった白い花を二本手折るとまたこちらに腰を下ろし、花の一本をヴェルトに渡す。
『これは?』
『約束する時に使うお花で約束した後にこのお花を交換するの』
『そうなんだ。初めて知ったよ』
『そう? さあ、お花も持ったしいくよ?』
ルクは胸もとで花を持つと夜空のような瞳を伏せた。
『我ら女神のもと僕たちは共に強くて優しい騎士になることを約束します』
言い終えたルクはその胸もとで持つ花をヴェルトへ渡そうとするので彼も見様見真似で言い自分の花をルクに渡した。
『このお花は約束を守った時に返すのだけどもってくれるかな……』
ヴェルトと交換した花を見てルクはそうこぼすとヴェルトもルクと交換した花を見つめ口を開く。
『枯れる前に早く騎士にならないとね』
『そうだね』
‥‥‥
‥‥
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夢から覚めたルクは目を開けると自分の首にかかる白い花びらが埋められたペンダントを服の上から握り、一つ息を吐く。
「元気にしてるかな……」
ヴェルトとはあの約束の後、村の人に森に入っていたのがバレ、再び会いに行けずそのまま自身の養い親に王都へ出稼ぎに行かされてしまったのであれから会えずに終わってしまったのだ。
「なんで騎士にいないんだ……」
あれからルクも騎士学校に入りヴェルトを探したがそんな人物はおらず、自分のみが騎士になってしまっていた。幼い子供同士の約束などこんなものかと思いながら悲しんだがどうにもアクセサリーに加工までしたあの花は捨てれず今も彼の胸にあった。
「はあ、とりあえず何か食べるか」
昨日の夜から何も食べずに過ごしていた為、少し何か食べようと起き上がる。熱はだいぶひいており、傷はある程度は塞がっているようで痛みはまだましになっていた。服は汗でベタつくが替えはないため一応包帯だけは替えておこうと思い、また小箱から包帯を取り、新しい物に替える。そしてある程度身だしなみを整えて部屋も片付けた後、血に濡れ使えなくなった包帯を捨てる為に握りそこを後にした。
部屋を出て来た道を戻るついでにあるゴミ捨て場に包帯を捨てると表通りに出る。時刻はもう夕方のようだったが人は多くそこを縫うように歩く。本当は何か食べようと思ったが時間も遅いと分かり城に戻ろうと考え直し足を城に向ける。城からあの隠れ家まで丁度良い距離であまり時間もかからず着きそうだったが、この国ではルクは黒騎士として顔が売れてるので彼に気づいた人々は皆、声を掛けてくる。ルクとしては今はあまり話しかけて欲しくないが無下にもできず当たり障りなく話を終え、帰路に急いだ。
そして城にやっとのことで着くとまず服を着替えようと自室に戻る。途中、人にあったりもしたが特に会話はなかった。悲しい事に城では逆に皆こんな感じだった。
自室前に着き鍵を開け入ると特に荒らされた様子もなく安心しながら部屋に入り、ここまでの道で乾いてしまった服を替える。その後は何か食べる為にまた部屋を後にし、食堂へ向かった。しかしその途中で後ろから声がかけられ誰だと思って振り返れば騎士仲間で唯一の友人といえるディルがいた。
「黒騎士様も食堂?」
そう声を掛けられ頷くとどうやら彼も今から夕食のために食堂に行くようなので一緒に行くことにした。
「ディルも今日は非番だったのか?」
「あーそうそう。黒騎士様もなの?」
「ああ、だから出掛けていた」
「ふーん。そういえばまた巻き込まれたらしいけど?」
「……まあいつもの事だ」
「脇腹斬られてよく言ってられるよ」
なんとなく斬られた事が広まらないはずないとは思ってはいたが早くも友人の耳にまで入っている事にルクは少し驚く。しかし事実のため下手に言い訳も出来ず黙っていると相手から反応があった。
「で? どれくらい酷いわけ? そんな青白い顔してるんだからさ」
「いや、少し掠った程度だ。顔色は食事をとってない所為だと思う」
「はぁー、そうですか」
ルクはあまり言いたくなくこんな返答をしてしまったがそれを察したディルはその後は特に訊いてこず無言のまま食堂に着いてしまった。食堂は混んでいて座る場所があるか心配になったが運良く空いており、ディルがその席に上着を掛けると料理を買いに行くのでルクも同じようにして後を追いかける。
「何にする?」
漸くディルが喋りかけてきたその問いにルクは答える。
「俺はステーキの方かな」
「うーん、なら俺もそうするかぁ」
食事は日替わりで二種類から選ぶが今日はステーキ定食か焼き魚定食だったのでルクはステーキにしておいた。怪我したし肉がいいだろうという安直な考えがあったが。そして頼むものも決まったためそれを料理人に伝え待ち出来た料理を受け取るのと一緒にお金を払い席に戻った。
席に着くと、二人は食事に感謝を捧げ食べ始める。昨日から食べていないせいかとても美味しく感じながら黙々と食べ進めるルクに同じように食べていたディルがふと思い出した様にすると手を止めた。
「あのさ、隣の国ともしかしたら喧嘩するかもしれない話聞いただろ?」
「今するか? その話」
「別にいいんじゃない? どうせいつかみんな知る話」
「よくない、その話をするなら部屋とかにしてくれ」
「流石、黒騎士様はしっかりしてるようで」
「誰でも止めるだろう」
突然何を言い出すかと思えばまだ上の者にしか知らされていない情報をぺらぺらとこんな食堂で話そうとするディルをルクは慌てて止めるが嫌味っぽく返されてしまう。その後、彼は無言のままで今日のディルとは話が続かない呪いでもかかっているのかとルクは思ってしまった。
そして食事を終えると食器を返却し、あの話の続きをする為に自分の部屋にディルを招待した。ディルは部屋に入ると長椅子に座りルクも座るよう視線を送るので従い目の前に座る。
「それで?」
「相変わらず生活感がない部屋だね」
「話がないなら追い出すが……?」
「軽い冗談でしょ。そうだな、黒騎士様あの話どうなると思う?」
「……そうなってほしくないが高い確率で争う事になると思っている……」
「なんだ、そこまで理解してるのなら話は早い。黒騎士様はこのままだと味方に殺されるか敵に殺されるかの二択だよ」
「……」
そんな話だろうとは思ってはいたルクだったが実際言われると少しくるものがあった。確かに今、色々と嫌がらせをしてくるのはほぼ上の地位に属す騎士なのでこの話を聞いた騎士達は絶対にその争いの前線に出されるルクを上手いように葬ろうとしてくるとは予想できた。しかしだからといってどうすることも出来ない現状なのでディルの言葉をルクは待つことにした。
「はぁー、まただんまりか。でもまあ確かに亡命するくらいしかどうする事もできないしな……」
「ディルこそよく分かってるな。だが亡命も怪しいぞ?」
「ほんと黒騎士様人気者だね」
ディルもやはりお手上げのようで話を終えると項垂れてしまった。その様子にルクは苦笑いになるがディルをこれ以上、心配させまいと口を開く。
「まあ、死なないよう頑張るさ。それしか俺には今のところないようだし」
「その割には今回脇腹掠ってるけど」
「はは、あれは状況が悪かったんだ。前線なら色んな言い訳がある」
「フフッ、確かにそうだ。なら沢山考えておく事だね」
「ああ、そうするよ」
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