龍は暁に啼く

高嶺 蒼

文字の大きさ
240 / 248
第三部 新たな己への旅路

大森林のエルフ編 第8話

しおりを挟む
 シェズェーリアに導かれ、危険な目に遭うこともなく、気がつけば森の中にぽつんと建つ一件の家の前に立っていた。


 「雷砂、ここが私の家だよ。遠慮なく、入ってくれ」


 シェズにそう促され、雷砂は彼女の家へ足を踏み入れる。
 長く一人暮らしをしているらしい彼女の家は、ささやかなキッチンとリビング、それから奥に寝室が一部屋あるだけのこじんまりしたもの。
 だが、生活に必要なものだけを集めた、余分なもののないシンプルな暮らしぶりが伺える彼女の家は、なんだか妙に落ち着いた。


 「狭い、家だろう?少々窮屈だとは思うが、我慢してくれ。来客などほとんどないが、一応いすは二つあるし、休めないこともないと思うんだが」


 申し訳なさそうな顔で言い訳のような言葉を口にするシェズに、雷砂は、そんなことないよ、と返して小さく笑う。


 「一人暮らしには十分な広さだし、オレは好きだな。こういう家。ごちゃごちゃしてなくて、なんか落ち着く」

 「そ、そうか?」

 「うん。もしいつか、自分の家を持つなら、こんな家もいいかもな」


 シェズのこじんまりした生活空間を見回しながら、雷砂はいつか自分が家を持つことがあったなら、と想像力を働かせてみる。
 シェズの家と同じような……と言っても、同じ大きさではきっと足りないだろう。なんと言っても人数が違う。
 雷砂が家を持つ時には、きっとそこにはセイラがいるし、彼女がいるなら勿論リインもいる。
 当然の事ながら、ロウも一緒だろうし、クゥだって雷砂から離れないだろう。


 (オレを入れて、いち、にー、さん、しー、ごー……五人か)


 そう数を数えていたら、ちょっとまったぁぁ、とミカの顔が割り込んできた。


 (あ、いけない。ミカのこと、忘れてた。じゃあ、ミカを入れて六人……)


 そんなミカが聞いたら泣きべそをかきそうなことを考えながら、居住者を一人追加する。
 が、更に頭の片隅で、大好きな養い親が小さく咳払い。
 まさか、私のことを忘れてないだろうな、と。


 (ん~?シンファもオレの家に来るかなぁ??だってシンファ、草原に自分の住処、ちゃんとあるし……)


 そんなことを考えていたら、頭の中のシンファがだんだん怖い顔になってきた。
 もしや、私のことを仲間外れにする気なのか、とでも言いたげに。


 (えっと、別にシンファに来て欲しくない訳じゃなくて……来てもらえればもちろん嬉しいけどさ。じゃあ、シンファを入れて七人、と)


 これで打ち止めかな、と思っていたら、なぜかアリオスがしゃしゃり出てきて。
 面白そうだから、アタシもちょくちょく遊びに行く。だからちゃんと部屋を用意しておけよ、と何とも身勝手な発言。
 だが、アリオスは言い出したら聞かないことは分かっていたから、雷砂は苦笑して、


 (仕方ないなぁ。じゃあ、お客様用に部屋を一つ増やして、全部で八つかぁ。ずいぶん部屋数の多い家になっちゃったなぁ)


 アリオスの部屋兼客室を確保する。
 まあ、そう言う部屋があれば、誰かが急に訪ねてきても泊めてあげられるから、きっと無駄にはならないはずだ。
 そんなわけで、雷砂の家はキッチンにリビングに、寝室が八つという仕様になった。

 が、ここで問題が勃発した。
 セイラが、自分の部屋は必要ないと言い出したのだ。
 どうせ毎晩、雷砂と一緒に寝るんだから、部屋は雷砂と一緒でいいわよ、と。

 そうなると、リインも負けじと同じことを言い出して、ロウもクゥも雷砂と一緒がいいと騒ぎ出す。
 そんな中、オレも一緒がいい、とおずおずと手を挙げるミカに続いて、雷砂がちっさい頃から、抱っこして寝るのは私の役目だからな、と妙に得意そうなシンファが胸を張る。

 さすがにアリオスは混ざってこなかったものの、そうなると家の間取りは、キッチンにリビング、アリオスが泊まる客室に、七人で一緒に寝れるだけの大きな寝床を備えた寝室が一つ……。
 七人で眠るベッドってどれだけ大きく作れば足りるんだろう、と思いはするが、それは実際に作るときに考えればいいことだ。


 (なんか、ちょっと変わった家だけど、オレ達らしいと言えばオレ達らしいのかな)


 そんなことを思い、長い妄想を終わりにして雷砂はクスリと小さく笑った。
 それからふと、自分に注がれている視線に気付いて顔を上げる。
 するとそこには、不思議そうな顔で雷砂を見守るシェズがいた。


 「なんだか、楽しそうだな??」

 「あ~、うん。実はさ……」


 小首を傾げるシェズに、雷砂はいつか住む自分の家と、そこに一緒に住む面々の部屋割りとか、色々と想像していた、と簡単に説明する。
 まさか雷砂の言う一緒に住む面々がみんな雷砂に惚れているなどとは夢にも思っていないシェズは、


 「なるほど。ずいぶんと大家族なんだなぁ。だが、家族で仲がいいのはいいことだ」


 妙に感心したように、うんうんと頷くと優しい顔で微笑んだ。
 シェズの使った、家族、という響きはなんだかとってもくすぐったくて照れくさくて、だけどなんだか胸を暖かくしてくれて。
 雷砂は少し恥ずかしそうに頷くと、


 「そうだよ。みんなすごく大切で、なにがあっても守りたい、大好きな家族なんだ」


 優しく柔らかく、とても幸せそうに微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...