166 / 248
第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~
小さな娼婦編 第二十三話
しおりを挟む
雷砂がせっせと依頼の消化をしている頃、複数の男女が正に問題の鉱山の内部へ進入しようとしていた。
彼らは、雷砂が諦めざるを得なかったBランクの依頼を受けた2つのクランの混成チームだった。
Aランククランの[シルヴァリオン]はリーダーの両手剣使いの重戦士を中心とした男4人の戦闘力重視の編成。
もう1つのクランはBランクの[鋼の淑女]。リーダーを含む6人全員が女だが、各自それなりの実力を備えた歴戦の冒険者である。
彼らは油断なく周囲を警戒しながら、暗い穴蔵へと潜っていく。
「いいか。対象を見つけてもむやみに攻撃をするんじゃねぇぞ。今回の依頼は対象の調査のみだからな」
[シルヴァリオン]のリーダー・アゴルの言葉に、他の面々も静かに頷いた。
「分かってますわ。クランのランクはそちらの方が上ですし、この依頼の主導はそちらがとっていただいて結構です。ただ、1点提案なのですが」
「なんだ?」
[鋼の淑女]のリーダー・ヴェネッサの発言に、アゴルは耳を傾け問う。
彼の視線を受け、彼女は自分の後ろに控えていたギルドのメンバーを自分の隣に呼び、
「猫型獣人種のエメルですわ。彼女は索敵や隠密行動に長けておりますの。全員でぞろぞろ歩くのは隠密性に欠けますし、エメルを先行させたいと思うのですけれど、いかがかしら?」
そう提案して、おっとりと首を傾げた。
元々貴族階級出身のヴェネッサは、一々言動が上品だ。
彼女のクランは、上品とは言い難い人間が多く集まる冒険者ギルドの中にあって、中々に異色な空気を放つ集団であった。
アゴルは値踏みをするようにエメルを上から下まで無遠慮に眺めた。
エメルは小柄だったが、中々俊敏そうに見えた。
目つきも鋭く、それなりに経験を積んだ歴戦の冒険者の風格も感じさせる。
男である自分たちがいるのに、女に危険な任務を押しつける事について思うことがあるのか、アゴルはやや不満そうに鼻をならしたものの、最終的には頷かざるを得なかった。
混成チームで事に当たっている今回の作戦で、全員仲良くぞろぞろ移動するなど間抜けにも程があると言うものだ。
先行してルートを探る斥候役に、エメルは最適であると思えた。
アゴルはうなり声をあげつつ、自分のクランのメンバーにちらりと目線を流す。
攻撃力重視で集めた面々は、みんな揃いも揃って隠密性の欠片もない。
今までは力押しで何とかなってきたが、更に上を目指すのであればもう少しメンバーの見直しをする必要もあるだろう。
(少なくとも、危なげなく斥候をこなせるスキルを持った奴が、1人くらいはほしいところだな)
そんなことを思いながら、先行するため余分な荷物を仲間に託し、準備をしているエメルを眺めるともなしに眺めていると、横から突き刺すような視線が飛んでくる。
「・・・・・・なんだ?」
言葉短くそう問えば、
「そんな物欲しそうな顔をしても、エメルは差し上げませんわよ?」
うふふとにこやかに笑いながら、まったく笑っていない瞳で釘を刺された。
「別にほしいなんて一言も・・・・・・」
「目は口ほどに物を言う、ですわ。感情を隠すのが苦手なんですのね」
「ちっ、くえねぇ女だなぁ」
「ふふ、お褒めにあずかり光栄ですわ」
「誉めてねぇっての」
「あの~」
表面上は和やかに、だがトゲが透けて見えるような言い合いをする両リーダーのやりとりを中断するように、申し訳なさそうな声が割ってはいる。
2人がはっとして声の主に目を向けると、準備万端整えたエメルが2人を見上げるように立っていた。
「ヴェネッサ、そろそろ行ってくるにゃ」
語尾ににゃが付くのは猫型獣人種のお約束だ。
まあ、種族の特長丸出しのこのなまりが恥ずかしいと、あえて矯正する者もいたりはするが。
ヴェネッサは優しげに目を細め、エメルの猫耳をもふり、なめらかな頬を撫でる。
「ええ。気をつけて。決して無理をしては駄目よ?危ないと思ったら迷わずに逃げていらっしゃい」
「わかったにゃ。逃げ足には自信があるから、安心して待っててほしいにゃ」
過保護なリーダーの言動に、エメルはにぱっと笑ってそう答えた。
そうしてさっと踵を返すと、あっというまにその小柄な姿は闇の中へととけ込んでしまった。
そんな彼女の後ろ姿を見送り、残されたメンバーは周囲の警戒をしつつ、交代で休憩を取る事にしたのだった。
彼らは、雷砂が諦めざるを得なかったBランクの依頼を受けた2つのクランの混成チームだった。
Aランククランの[シルヴァリオン]はリーダーの両手剣使いの重戦士を中心とした男4人の戦闘力重視の編成。
もう1つのクランはBランクの[鋼の淑女]。リーダーを含む6人全員が女だが、各自それなりの実力を備えた歴戦の冒険者である。
彼らは油断なく周囲を警戒しながら、暗い穴蔵へと潜っていく。
「いいか。対象を見つけてもむやみに攻撃をするんじゃねぇぞ。今回の依頼は対象の調査のみだからな」
[シルヴァリオン]のリーダー・アゴルの言葉に、他の面々も静かに頷いた。
「分かってますわ。クランのランクはそちらの方が上ですし、この依頼の主導はそちらがとっていただいて結構です。ただ、1点提案なのですが」
「なんだ?」
[鋼の淑女]のリーダー・ヴェネッサの発言に、アゴルは耳を傾け問う。
彼の視線を受け、彼女は自分の後ろに控えていたギルドのメンバーを自分の隣に呼び、
「猫型獣人種のエメルですわ。彼女は索敵や隠密行動に長けておりますの。全員でぞろぞろ歩くのは隠密性に欠けますし、エメルを先行させたいと思うのですけれど、いかがかしら?」
そう提案して、おっとりと首を傾げた。
元々貴族階級出身のヴェネッサは、一々言動が上品だ。
彼女のクランは、上品とは言い難い人間が多く集まる冒険者ギルドの中にあって、中々に異色な空気を放つ集団であった。
アゴルは値踏みをするようにエメルを上から下まで無遠慮に眺めた。
エメルは小柄だったが、中々俊敏そうに見えた。
目つきも鋭く、それなりに経験を積んだ歴戦の冒険者の風格も感じさせる。
男である自分たちがいるのに、女に危険な任務を押しつける事について思うことがあるのか、アゴルはやや不満そうに鼻をならしたものの、最終的には頷かざるを得なかった。
混成チームで事に当たっている今回の作戦で、全員仲良くぞろぞろ移動するなど間抜けにも程があると言うものだ。
先行してルートを探る斥候役に、エメルは最適であると思えた。
アゴルはうなり声をあげつつ、自分のクランのメンバーにちらりと目線を流す。
攻撃力重視で集めた面々は、みんな揃いも揃って隠密性の欠片もない。
今までは力押しで何とかなってきたが、更に上を目指すのであればもう少しメンバーの見直しをする必要もあるだろう。
(少なくとも、危なげなく斥候をこなせるスキルを持った奴が、1人くらいはほしいところだな)
そんなことを思いながら、先行するため余分な荷物を仲間に託し、準備をしているエメルを眺めるともなしに眺めていると、横から突き刺すような視線が飛んでくる。
「・・・・・・なんだ?」
言葉短くそう問えば、
「そんな物欲しそうな顔をしても、エメルは差し上げませんわよ?」
うふふとにこやかに笑いながら、まったく笑っていない瞳で釘を刺された。
「別にほしいなんて一言も・・・・・・」
「目は口ほどに物を言う、ですわ。感情を隠すのが苦手なんですのね」
「ちっ、くえねぇ女だなぁ」
「ふふ、お褒めにあずかり光栄ですわ」
「誉めてねぇっての」
「あの~」
表面上は和やかに、だがトゲが透けて見えるような言い合いをする両リーダーのやりとりを中断するように、申し訳なさそうな声が割ってはいる。
2人がはっとして声の主に目を向けると、準備万端整えたエメルが2人を見上げるように立っていた。
「ヴェネッサ、そろそろ行ってくるにゃ」
語尾ににゃが付くのは猫型獣人種のお約束だ。
まあ、種族の特長丸出しのこのなまりが恥ずかしいと、あえて矯正する者もいたりはするが。
ヴェネッサは優しげに目を細め、エメルの猫耳をもふり、なめらかな頬を撫でる。
「ええ。気をつけて。決して無理をしては駄目よ?危ないと思ったら迷わずに逃げていらっしゃい」
「わかったにゃ。逃げ足には自信があるから、安心して待っててほしいにゃ」
過保護なリーダーの言動に、エメルはにぱっと笑ってそう答えた。
そうしてさっと踵を返すと、あっというまにその小柄な姿は闇の中へととけ込んでしまった。
そんな彼女の後ろ姿を見送り、残されたメンバーは周囲の警戒をしつつ、交代で休憩を取る事にしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる