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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~
SS 雷砂、初めてのお酒の巻②
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雷砂が酒を飲んでいる様だったので、飲みやすい酒を飲ませてやろうと、酒と果実水を混ぜたのを作ってきたら、思いの外ものすごい勢いで飲まれてしまった。
地べたに座ったままふわふわと体を揺らす雷砂を見ながら、まずったかなと思いつつ、
「雷砂~、大丈夫か?」
ミカは少し心配そうに問いかける。
その声に反応した雷砂が、ぽや~とミカを見上げ、それからにこぉっと笑った。
ちょっと緩い、何とも無防備な笑顔で。その余りの可愛さに思わず息を止めたミカに、
「みか、あぐら、かいて」
雷砂からそんな指示が飛ぶ。
なにをするつもりだと、頭の上に疑問符を浮かべたまま、だが素直に指示に従うと、雷砂が四つん這いでミカに這い寄ってきて、おもむろに己の尻をあぐらをかいたミカの足の上へと乗せた。
「~~~~~っっ!!!!」
声にならない悲鳴を上げて硬直するミカの胸に、ぽすんと頭を預けてへへへ~っと雷砂が笑う。
「みか、からだがぐらぐらする。ささえて?」
甘えるようにお願いされて、ミカはおずおずと雷砂の体に腕を回した。
頭がくらくらして頬が熱い。
それは決して酒のせいだけでは無かった。
体を支えてもらいほっとしたのだろう。
雷砂が体重を預けてきたので、ミカは少しだけ腕の力を強める。雷砂が苦しくない程度に、だが雷砂をしっかりと感じ取ることが出来るように。
「ん~、のど、かわいた……」
雷砂がぽつりとつぶやき、じゃあオレがとミカが答えるよりも前に、
「ろう、なにか、のみもの……」
誰もいない空間にそう命じる。するとどこからきたのか、銀色の髪に銀色の狼耳を備えた美少女が、ジョッキになみなみと液体を入れて雷砂のすぐ前に突如として現れた。
少女は忠実な瞳で雷砂を見つめ、うやうやしくジョッキを差し出す。
「マスタ、飲み物」
「ありがと、ろう」
言いながら雷砂は手を伸ばすが、目測が上手く定まらず、ジョッキに手が掛からない。
のどが渇いているのに飲めない。
そんな状況に雷砂はむぅ、と小さく唸り、自分を見守るロウをじっと見つめ、
「のめない。ろう、のませて?」
そんなとんでもないことを言い出した。
だが、ロウは動じない。
即座に頷き、ジョッキの中身をあおると、雷砂の頬にそっと手を添えてその顔を少しだけ上向かせる。
そしておもむろに雷砂の唇に己の唇を押し当てた。
雷砂の喉が、んっくんっくと動き、その動きが止まるのを待ったようにロウの唇が離れる。
雷砂がとろんとした目でロウを見つめ、ロウもほんのり目元を赤くして雷砂を見つめる。
その後ろでは、雷砂を抱えたままのミカがあわあわしていた。
「マスタ、これでいい?」
「ん。もっと」
その求めに応じて、ロウはさっきと同じ行動を繰り返す。
ジョッキ一杯分を飲み干し、流石に満足した雷砂がその行為を止めるまで。
「ありがと、ろう」
満足そうに雷砂が礼を言うと、ロウはもじもじしながら、
「マスタ、ご褒美は?」
そんな主張をしてくる。雷砂はにっこり笑って頷き、
「ごほうび?いいよ。なにがいい?」
そう問えば、
「ちゃんとしたキス。マスタとセイラがいつもしてる」
ロウはきっぱりはっきりそう主張した。
素面の雷砂には中々言えない台詞だ。だが、今ならいける。ロウの野生の勘がそう告げていた。
「いいよ。おいで」
雷砂が答えて腕を広げる。
その腹の辺りにはミカの手が巻き付いていたが、ロウはためらわずに飛び込んだ。
そして、もうガマンの限界だとばかりに唇を押し当てる。
すると、すぐに雷砂の舌が唇をなぞるように動いてきたので、素直に唇を開いて迎え入れた。
自分の胸を雷砂にぎゅーっと押し当てるように抱きついて、ロウは主の与えてくれる口づけにただ陶然として頬を赤くした。
くちゅくちゅと、互いの舌で互いを愛撫しあい、長いようで短い時間があっという間に過ぎていく。
気がつけば主の唇は離れていて、ロウは名残惜しそうに唾液に濡れて艶っぽく光る主の唇をうっとりと見つめた。
そんなロウと雷砂の間に、小さな影が割り込んでくる。
白い髪に赤い瞳の人離れした愛らしさを持つ少女は、雷砂の服の袖を摘み、ねだるように雷砂を見上げた。
「雷砂、雷砂。クゥにもして?」
「ん~、くぅにも??そうだなぁ、まぁ、いいか」
一瞬思案したものの、考えるのが面倒になったのだろう。
雷砂はすぐに頷いて、クゥの体を片手でそっと抱き寄せた。
もう片方の腕にロウを抱いたまま。
吸いついてきた小さな唇を吸い返し、さっきと同じように舌を差し入れる。
クゥは驚くことなく受け入れて、それだけでなく積極的に雷砂と舌を絡め合わせてその口づけを楽しんだ。
実践するのは初めてだったが、以前、唯一クゥが捕食した男達の記憶から、そう言った行為の知識に関しても手に入れていたのだ。
雷砂は思った以上に積極的で技巧的なクゥの舌使いに驚きつつも、その心地よい口づけをしばし楽しんだ。
その後は再びロウにねだられてキスをして、更にクゥとも再び。
そんなエンドレスに続くキスの饗宴をただ見ていたミカが、『雷砂、オレにも……』と勇気を出して声を上げようとした時、新たな人物が割って入ってきた。
食べ物を山盛り皿に盛りつけた銀色の髪に蒼い瞳の歌姫、リインである。
彼女は半眼で雷砂を取り巻く現状を眺め、
「この桃色空間、なに?」
とぼそっと呟き、手に持っていた料理を傍らに置いて、ロウとクゥを手早く雷砂から引きはがすと、雷砂の前に陣取った。
ミカのことは、雷砂の座椅子として確保しておく事にしたようだ。ひどい話である。
「雷砂、ご飯、持ってきた。食べて?」
リインはニコッと笑い、雷砂の口元へスプーンを運ぶ。
雷砂は雛鳥の様にそれを口で受け止めて、もぐもぐと口を動かした。
「おいしい?」
「ん。おいし」
うまいかと問えば、雷砂は無邪気な笑みで肯定し、
「はい。りいんも、あーん」
今度は自分の番とばかりにスプーンに料理をすくい上げ、リインの口元へと運んだ。
リインは恥ずかしそうに雷砂を見たが、雷砂が引かないのを察して、おずおずと口を開けるとスプーンを口の中へ迎え入れ、料理を舌先でからめ取った。
それを見た雷砂は、いい子だねというように目を細め、不意にミカの腕による柔らかな拘束から抜け出してリインの胸に飛び込んでいく。
目を見開くリインの顔をいたずらっ子の様にのぞき込み、そのまま彼女の唇を奪い、更にその口の中に残っていた料理を彼女の唾液ごとからめ取って奪いさり、それを咀嚼してゴクリと飲み込む。
雷砂はとろけるように微笑んで、リンゴの様に赤くなったリインの頬をそっと撫でた。
「ん。こっちのほうが、もっとおいしい」
もっとちょうだい?と甘えるようにしなだれかかる雷砂に、リインの頭は半パニック状態だ。
なにしろ、恋人になりたてで、セイラほど桃色展開に慣れていない。
だが、リインは頑張った。
「も、もっと?わ、わかった」
そう答えて、プルプルする手でスプーンを操り、それを自分の口へ。
そしてそのまま、雷砂の唇へ唇を押し当てた。
以前も口移しでアーンをやったことはあるのだが、あの時は必死だったためかあんまり恥ずかしいとかドキドキするような事は無かった。
だが、今は何ともいえずに恥ずかしい。胸も、今にも破裂してしまうんじゃないかと思うくらいドキドキしている。
くっついたまま、次の行動を起こそうとしないリインの唇の上を雷砂の舌が這い、早くと言うようにリインを促す。
リインは促されるまま唇を開き、雷砂の中へ食べ物を流し込んだ。
雷砂はそれを受け取って美味しそうに飲み込む。
見届けたリインが、再びスプーンを自分の口に運ぼうとするのを、今度は雷砂の手がそっと押しとどめた。
もういいの?と雷砂を見れば、妙に熱のこもった眼差しで見つめられて、十分に赤いと思っていた顔へ更に血が集まっていく。
「こんどは、きす、だけ。ね?」
ふわりと微笑まれ、重なる唇と唇。
ちゅっちゅっ、とついばむような可愛らしいキスの後、深く唇を重ねられる。
あっという間に唇を押し広げられ、気がつけば雷砂の舌を受け入れていた。
酒のせいか、溶けそうな程に熱い雷砂の舌にからめ取られ愛撫され、リインはあまりの気持ちよさに腰砕けになりそうになる。
唇が離れた後も、その余韻でトロンとした目を雷砂に向ければ、
「もっと?」
悪戯っぽく笑う雷砂に問われ、考えるよりも前に首を縦に振っていた。
笑みを深めた雷砂の顔が近づいてくる。
リインはぼんやりとそれを見つめる。唇に、雷砂の唇の優しい感触が触れるのをただ待ちながら。
しかし、世の中、そう思うようには事は進まないものである。
二人の唇が触れる寸前、お互いの吐息すら感じる距離の所で、待ったがかかった。
「なに?この桃色空間は?」
奇しくもそのセリフはさっき双子の妹が発したものと同じ内容。
セイラは呆れたような顔で周囲を見回し、転がっている数え切れない程の空きグラスを見て、何となく状況を悟った様だった。
彼女はふ~っと息をつき、リインと雷砂の余りのいちゃいちゃっぷりにちょっとイラッとして、思わずかっさらうようにして抱き上げた雷砂を抱えたまま、近くにあったイスに腰掛けた。
そして雷砂をいつものように自分の膝に座らせる。もちろん、自分と向かい合わせになるように、だ。
くて~っとした雷砂を自分の体にもたれ掛からせて、
「もう、まったく!雷砂がこんなになるなんて。一体どれだけ飲ませたのよ!?」
「う……ごめん。雷砂がカパカパ飲むから、つい」
体を小さくするミカを、セイラは半眼で睨み、
「楽しいのは分かるけど、一応雷砂の年も考えなさいよね?」
「ごめん……」
しょんぼりするミカを前に、セイラは小さくため息。
それから、仕方ないわねぇとばかりに、ふっと笑い、
「反省してるならもういいわよ。ね、ミカ、とりあえず水を貰ってきてくれる?雷砂に飲ませないと」
ミカに指示を出し、ずり落ちそうになる雷砂を抱えなおした。
その拍子に、ちょっとうとうとしていた雷砂が目を開け、改めてセイラの顔を見上げてへら~っと笑った。
「あれ?せいら??」
「そうよ」
セイラが微笑み、雷砂の体をぎゅっと抱きしめれば、
「へへへ~、せいらだぁ」
雷砂はうれしそうにセイラの頬に頬をすり寄せぎゅーっと抱きついてくる。
セイラは滅多に見ることの出来ない甘々な雷砂がなんとも可愛くて、どうしても顔がゆるんでしまうのを止めることが出来ない。
「せいらぁ」
「なぁに?雷砂」
「おれのこと、すき?」
「もちろん。大好きよ」
「えへへ~。おれも、せいらがすき♪」
雷砂はとろんとろんの笑顔を見せて、それから潤んだまなざしでセイラを見上げる。
「おれ、ちゅーしたい。せいら、ちゅー、して??」
雷砂はそんなおねだりをして、目を閉じた。
そんな可愛すぎるお願いを前に、お断りの言葉を継げられる人間がいるだろうか。
少なくとも、セイラには出来そうに無かった。
一応ちらりと周囲を見回してみれば、リインが物欲しそうに指をくわえてこちらを見ていたが、あえてみないふりをして、雷砂の唇へ自分の唇を重ねる。
激しく舌を絡め合わせ、互いを愛撫しあい、それなりに時間をかけて口づけを交わした後、少々物足りなさも感じつつ離れると、雷砂が幸せそうにきゅうっと瞳を細めた。
その表情が愛しくて、セイラはもう一度触れるだけのキスをする。
それから二人で微笑みあい、おでことおでこをコツンとあわせて瞳を見合わせた。
雷砂の瞳は酒の影響か、まだしっとりと潤んでいて、誘うような眼差しが何とも可愛らしく色っぽい。
だが、どんなに理性を削られようと、ここは野外だし、人目もある。
流石にダメだろうと、セイラは理性を総動員して、我慢する。雷砂のあられもない姿を不特定多数の相手にさらすなど、絶対にダメだ、と。
だが、酔っぱらい雷砂はそんなことお構いなしに、セイラの理性をガリガリと削ってくる。
「……まっさーじ」
「ん?なに??」
「まっさーじも、して?」
「マッサージ??」
首を傾げたセイラの手を取って、雷砂はぺとりと己の胸の上に乗せてにっこり笑う。
「いつも、せいらがやってくれるやつ!!」
「……えーっと。まさか、ここで?」
元気よく答えた雷砂に、反射的に問い返したものの、習慣というのは本当に恐ろしいもので。
ほんのり育ち始めた雷砂の胸にあてがわれたセイラの手は、無意識の内にその胸をやわやわと揉んでいた。
それに気付いて、いかんいかんと手を止めれば、咎めるように雷砂が上目遣いに可愛らしく睨んでくる。
「やめちゃ、やだよ。もっと」
そんなセリフと共に。ぐらりと理性を大きく揺さぶられながら、
「あの、でもね?雷砂……」
何とか雷砂を説得しようと口を開けば、それを遮るように割り込んでくる影が三つ。
「マスタ、ロウがしてあげる!!」
「クゥだって出来るよ!!」
「私に任せて、雷砂!!」
ロウとクゥとリインが鼻息荒く迫るが、無情にも雷砂は首を振る。
「や!せいらがいい」
そんな情け容赦のない言葉と共に。
三人が揃ってがっくり肩を落とす中、雷砂は目をうるうるさせてセイラを見上げる。
「せいらじゃないと、やだ。……だめ?おれのおっぱいなんて、さわりたくない?」
ダメ、だなんて、言えるわけが無かった。
セイラは雷砂の求めるままに胸のマッサージを再開し、その頬へキスを落とす。
「そんなおねだりされたら、ダメなんて言えるわけないじゃない。悪い子ね、雷砂は」
「んっ、んっ……せ、いらぁ」
「きもちいい?」
「……うん」
「もっと?」
「うん……もっと」
「いい子ね、雷砂。でも、ここじゃあ、ね」
赤くなった雷砂のほっぺたを優しく撫でて、苦笑混じりに周囲を見回す。
この場の桃色な空気に気付いた数人が、ちらちらと様子を伺っているし、間近で食い入るように見つめてくる人物が三人もいて何ともやりづらい。
よいしょっとかけ声をかけて雷砂を抱え上げたセイラは、自分を見上げてくる三人ににっこり笑って声をかける。
「とりあえず、二時間……いえ、三時間たったら天幕に戻ってきてもいいわよ。それまでは遠慮してね?ミカにもそう伝えておいて。あ、水は馬車の外に置いておいて貰えれば良いからって」
そう言い置いて、セイラは上機嫌に自分たちに割り当てられている野営の為の天幕へ向かう。
後ろから恨めしそうに見送ってくる視線の事など気にしない。考えられるのは、今は雷砂の事だけ。
リインとロウとクゥ、三人が羨ましそうにセイラと雷砂を見送る中、二人はひっそりと天幕の向こうへと姿を消した。
それとほぼ同時に、息を切らせたミカが戻ってくる。
「た、ただいま!水が切れてたから、ひとっ走り川へ行って、冷たくて旨い水をくんできたぜ!!」
良い笑顔でそう告げるが、肝心のセイラと雷砂の姿が見えない。
ミカはきょろきょろと二人の姿を探し、
「……って、あれ?セイラと雷砂は???」
首を傾げて残された三人に問いかけた。
三人は顔を見合わせて、揃って何とも言えない顔で力なく笑うのだった。
地べたに座ったままふわふわと体を揺らす雷砂を見ながら、まずったかなと思いつつ、
「雷砂~、大丈夫か?」
ミカは少し心配そうに問いかける。
その声に反応した雷砂が、ぽや~とミカを見上げ、それからにこぉっと笑った。
ちょっと緩い、何とも無防備な笑顔で。その余りの可愛さに思わず息を止めたミカに、
「みか、あぐら、かいて」
雷砂からそんな指示が飛ぶ。
なにをするつもりだと、頭の上に疑問符を浮かべたまま、だが素直に指示に従うと、雷砂が四つん這いでミカに這い寄ってきて、おもむろに己の尻をあぐらをかいたミカの足の上へと乗せた。
「~~~~~っっ!!!!」
声にならない悲鳴を上げて硬直するミカの胸に、ぽすんと頭を預けてへへへ~っと雷砂が笑う。
「みか、からだがぐらぐらする。ささえて?」
甘えるようにお願いされて、ミカはおずおずと雷砂の体に腕を回した。
頭がくらくらして頬が熱い。
それは決して酒のせいだけでは無かった。
体を支えてもらいほっとしたのだろう。
雷砂が体重を預けてきたので、ミカは少しだけ腕の力を強める。雷砂が苦しくない程度に、だが雷砂をしっかりと感じ取ることが出来るように。
「ん~、のど、かわいた……」
雷砂がぽつりとつぶやき、じゃあオレがとミカが答えるよりも前に、
「ろう、なにか、のみもの……」
誰もいない空間にそう命じる。するとどこからきたのか、銀色の髪に銀色の狼耳を備えた美少女が、ジョッキになみなみと液体を入れて雷砂のすぐ前に突如として現れた。
少女は忠実な瞳で雷砂を見つめ、うやうやしくジョッキを差し出す。
「マスタ、飲み物」
「ありがと、ろう」
言いながら雷砂は手を伸ばすが、目測が上手く定まらず、ジョッキに手が掛からない。
のどが渇いているのに飲めない。
そんな状況に雷砂はむぅ、と小さく唸り、自分を見守るロウをじっと見つめ、
「のめない。ろう、のませて?」
そんなとんでもないことを言い出した。
だが、ロウは動じない。
即座に頷き、ジョッキの中身をあおると、雷砂の頬にそっと手を添えてその顔を少しだけ上向かせる。
そしておもむろに雷砂の唇に己の唇を押し当てた。
雷砂の喉が、んっくんっくと動き、その動きが止まるのを待ったようにロウの唇が離れる。
雷砂がとろんとした目でロウを見つめ、ロウもほんのり目元を赤くして雷砂を見つめる。
その後ろでは、雷砂を抱えたままのミカがあわあわしていた。
「マスタ、これでいい?」
「ん。もっと」
その求めに応じて、ロウはさっきと同じ行動を繰り返す。
ジョッキ一杯分を飲み干し、流石に満足した雷砂がその行為を止めるまで。
「ありがと、ろう」
満足そうに雷砂が礼を言うと、ロウはもじもじしながら、
「マスタ、ご褒美は?」
そんな主張をしてくる。雷砂はにっこり笑って頷き、
「ごほうび?いいよ。なにがいい?」
そう問えば、
「ちゃんとしたキス。マスタとセイラがいつもしてる」
ロウはきっぱりはっきりそう主張した。
素面の雷砂には中々言えない台詞だ。だが、今ならいける。ロウの野生の勘がそう告げていた。
「いいよ。おいで」
雷砂が答えて腕を広げる。
その腹の辺りにはミカの手が巻き付いていたが、ロウはためらわずに飛び込んだ。
そして、もうガマンの限界だとばかりに唇を押し当てる。
すると、すぐに雷砂の舌が唇をなぞるように動いてきたので、素直に唇を開いて迎え入れた。
自分の胸を雷砂にぎゅーっと押し当てるように抱きついて、ロウは主の与えてくれる口づけにただ陶然として頬を赤くした。
くちゅくちゅと、互いの舌で互いを愛撫しあい、長いようで短い時間があっという間に過ぎていく。
気がつけば主の唇は離れていて、ロウは名残惜しそうに唾液に濡れて艶っぽく光る主の唇をうっとりと見つめた。
そんなロウと雷砂の間に、小さな影が割り込んでくる。
白い髪に赤い瞳の人離れした愛らしさを持つ少女は、雷砂の服の袖を摘み、ねだるように雷砂を見上げた。
「雷砂、雷砂。クゥにもして?」
「ん~、くぅにも??そうだなぁ、まぁ、いいか」
一瞬思案したものの、考えるのが面倒になったのだろう。
雷砂はすぐに頷いて、クゥの体を片手でそっと抱き寄せた。
もう片方の腕にロウを抱いたまま。
吸いついてきた小さな唇を吸い返し、さっきと同じように舌を差し入れる。
クゥは驚くことなく受け入れて、それだけでなく積極的に雷砂と舌を絡め合わせてその口づけを楽しんだ。
実践するのは初めてだったが、以前、唯一クゥが捕食した男達の記憶から、そう言った行為の知識に関しても手に入れていたのだ。
雷砂は思った以上に積極的で技巧的なクゥの舌使いに驚きつつも、その心地よい口づけをしばし楽しんだ。
その後は再びロウにねだられてキスをして、更にクゥとも再び。
そんなエンドレスに続くキスの饗宴をただ見ていたミカが、『雷砂、オレにも……』と勇気を出して声を上げようとした時、新たな人物が割って入ってきた。
食べ物を山盛り皿に盛りつけた銀色の髪に蒼い瞳の歌姫、リインである。
彼女は半眼で雷砂を取り巻く現状を眺め、
「この桃色空間、なに?」
とぼそっと呟き、手に持っていた料理を傍らに置いて、ロウとクゥを手早く雷砂から引きはがすと、雷砂の前に陣取った。
ミカのことは、雷砂の座椅子として確保しておく事にしたようだ。ひどい話である。
「雷砂、ご飯、持ってきた。食べて?」
リインはニコッと笑い、雷砂の口元へスプーンを運ぶ。
雷砂は雛鳥の様にそれを口で受け止めて、もぐもぐと口を動かした。
「おいしい?」
「ん。おいし」
うまいかと問えば、雷砂は無邪気な笑みで肯定し、
「はい。りいんも、あーん」
今度は自分の番とばかりにスプーンに料理をすくい上げ、リインの口元へと運んだ。
リインは恥ずかしそうに雷砂を見たが、雷砂が引かないのを察して、おずおずと口を開けるとスプーンを口の中へ迎え入れ、料理を舌先でからめ取った。
それを見た雷砂は、いい子だねというように目を細め、不意にミカの腕による柔らかな拘束から抜け出してリインの胸に飛び込んでいく。
目を見開くリインの顔をいたずらっ子の様にのぞき込み、そのまま彼女の唇を奪い、更にその口の中に残っていた料理を彼女の唾液ごとからめ取って奪いさり、それを咀嚼してゴクリと飲み込む。
雷砂はとろけるように微笑んで、リンゴの様に赤くなったリインの頬をそっと撫でた。
「ん。こっちのほうが、もっとおいしい」
もっとちょうだい?と甘えるようにしなだれかかる雷砂に、リインの頭は半パニック状態だ。
なにしろ、恋人になりたてで、セイラほど桃色展開に慣れていない。
だが、リインは頑張った。
「も、もっと?わ、わかった」
そう答えて、プルプルする手でスプーンを操り、それを自分の口へ。
そしてそのまま、雷砂の唇へ唇を押し当てた。
以前も口移しでアーンをやったことはあるのだが、あの時は必死だったためかあんまり恥ずかしいとかドキドキするような事は無かった。
だが、今は何ともいえずに恥ずかしい。胸も、今にも破裂してしまうんじゃないかと思うくらいドキドキしている。
くっついたまま、次の行動を起こそうとしないリインの唇の上を雷砂の舌が這い、早くと言うようにリインを促す。
リインは促されるまま唇を開き、雷砂の中へ食べ物を流し込んだ。
雷砂はそれを受け取って美味しそうに飲み込む。
見届けたリインが、再びスプーンを自分の口に運ぼうとするのを、今度は雷砂の手がそっと押しとどめた。
もういいの?と雷砂を見れば、妙に熱のこもった眼差しで見つめられて、十分に赤いと思っていた顔へ更に血が集まっていく。
「こんどは、きす、だけ。ね?」
ふわりと微笑まれ、重なる唇と唇。
ちゅっちゅっ、とついばむような可愛らしいキスの後、深く唇を重ねられる。
あっという間に唇を押し広げられ、気がつけば雷砂の舌を受け入れていた。
酒のせいか、溶けそうな程に熱い雷砂の舌にからめ取られ愛撫され、リインはあまりの気持ちよさに腰砕けになりそうになる。
唇が離れた後も、その余韻でトロンとした目を雷砂に向ければ、
「もっと?」
悪戯っぽく笑う雷砂に問われ、考えるよりも前に首を縦に振っていた。
笑みを深めた雷砂の顔が近づいてくる。
リインはぼんやりとそれを見つめる。唇に、雷砂の唇の優しい感触が触れるのをただ待ちながら。
しかし、世の中、そう思うようには事は進まないものである。
二人の唇が触れる寸前、お互いの吐息すら感じる距離の所で、待ったがかかった。
「なに?この桃色空間は?」
奇しくもそのセリフはさっき双子の妹が発したものと同じ内容。
セイラは呆れたような顔で周囲を見回し、転がっている数え切れない程の空きグラスを見て、何となく状況を悟った様だった。
彼女はふ~っと息をつき、リインと雷砂の余りのいちゃいちゃっぷりにちょっとイラッとして、思わずかっさらうようにして抱き上げた雷砂を抱えたまま、近くにあったイスに腰掛けた。
そして雷砂をいつものように自分の膝に座らせる。もちろん、自分と向かい合わせになるように、だ。
くて~っとした雷砂を自分の体にもたれ掛からせて、
「もう、まったく!雷砂がこんなになるなんて。一体どれだけ飲ませたのよ!?」
「う……ごめん。雷砂がカパカパ飲むから、つい」
体を小さくするミカを、セイラは半眼で睨み、
「楽しいのは分かるけど、一応雷砂の年も考えなさいよね?」
「ごめん……」
しょんぼりするミカを前に、セイラは小さくため息。
それから、仕方ないわねぇとばかりに、ふっと笑い、
「反省してるならもういいわよ。ね、ミカ、とりあえず水を貰ってきてくれる?雷砂に飲ませないと」
ミカに指示を出し、ずり落ちそうになる雷砂を抱えなおした。
その拍子に、ちょっとうとうとしていた雷砂が目を開け、改めてセイラの顔を見上げてへら~っと笑った。
「あれ?せいら??」
「そうよ」
セイラが微笑み、雷砂の体をぎゅっと抱きしめれば、
「へへへ~、せいらだぁ」
雷砂はうれしそうにセイラの頬に頬をすり寄せぎゅーっと抱きついてくる。
セイラは滅多に見ることの出来ない甘々な雷砂がなんとも可愛くて、どうしても顔がゆるんでしまうのを止めることが出来ない。
「せいらぁ」
「なぁに?雷砂」
「おれのこと、すき?」
「もちろん。大好きよ」
「えへへ~。おれも、せいらがすき♪」
雷砂はとろんとろんの笑顔を見せて、それから潤んだまなざしでセイラを見上げる。
「おれ、ちゅーしたい。せいら、ちゅー、して??」
雷砂はそんなおねだりをして、目を閉じた。
そんな可愛すぎるお願いを前に、お断りの言葉を継げられる人間がいるだろうか。
少なくとも、セイラには出来そうに無かった。
一応ちらりと周囲を見回してみれば、リインが物欲しそうに指をくわえてこちらを見ていたが、あえてみないふりをして、雷砂の唇へ自分の唇を重ねる。
激しく舌を絡め合わせ、互いを愛撫しあい、それなりに時間をかけて口づけを交わした後、少々物足りなさも感じつつ離れると、雷砂が幸せそうにきゅうっと瞳を細めた。
その表情が愛しくて、セイラはもう一度触れるだけのキスをする。
それから二人で微笑みあい、おでことおでこをコツンとあわせて瞳を見合わせた。
雷砂の瞳は酒の影響か、まだしっとりと潤んでいて、誘うような眼差しが何とも可愛らしく色っぽい。
だが、どんなに理性を削られようと、ここは野外だし、人目もある。
流石にダメだろうと、セイラは理性を総動員して、我慢する。雷砂のあられもない姿を不特定多数の相手にさらすなど、絶対にダメだ、と。
だが、酔っぱらい雷砂はそんなことお構いなしに、セイラの理性をガリガリと削ってくる。
「……まっさーじ」
「ん?なに??」
「まっさーじも、して?」
「マッサージ??」
首を傾げたセイラの手を取って、雷砂はぺとりと己の胸の上に乗せてにっこり笑う。
「いつも、せいらがやってくれるやつ!!」
「……えーっと。まさか、ここで?」
元気よく答えた雷砂に、反射的に問い返したものの、習慣というのは本当に恐ろしいもので。
ほんのり育ち始めた雷砂の胸にあてがわれたセイラの手は、無意識の内にその胸をやわやわと揉んでいた。
それに気付いて、いかんいかんと手を止めれば、咎めるように雷砂が上目遣いに可愛らしく睨んでくる。
「やめちゃ、やだよ。もっと」
そんなセリフと共に。ぐらりと理性を大きく揺さぶられながら、
「あの、でもね?雷砂……」
何とか雷砂を説得しようと口を開けば、それを遮るように割り込んでくる影が三つ。
「マスタ、ロウがしてあげる!!」
「クゥだって出来るよ!!」
「私に任せて、雷砂!!」
ロウとクゥとリインが鼻息荒く迫るが、無情にも雷砂は首を振る。
「や!せいらがいい」
そんな情け容赦のない言葉と共に。
三人が揃ってがっくり肩を落とす中、雷砂は目をうるうるさせてセイラを見上げる。
「せいらじゃないと、やだ。……だめ?おれのおっぱいなんて、さわりたくない?」
ダメ、だなんて、言えるわけが無かった。
セイラは雷砂の求めるままに胸のマッサージを再開し、その頬へキスを落とす。
「そんなおねだりされたら、ダメなんて言えるわけないじゃない。悪い子ね、雷砂は」
「んっ、んっ……せ、いらぁ」
「きもちいい?」
「……うん」
「もっと?」
「うん……もっと」
「いい子ね、雷砂。でも、ここじゃあ、ね」
赤くなった雷砂のほっぺたを優しく撫でて、苦笑混じりに周囲を見回す。
この場の桃色な空気に気付いた数人が、ちらちらと様子を伺っているし、間近で食い入るように見つめてくる人物が三人もいて何ともやりづらい。
よいしょっとかけ声をかけて雷砂を抱え上げたセイラは、自分を見上げてくる三人ににっこり笑って声をかける。
「とりあえず、二時間……いえ、三時間たったら天幕に戻ってきてもいいわよ。それまでは遠慮してね?ミカにもそう伝えておいて。あ、水は馬車の外に置いておいて貰えれば良いからって」
そう言い置いて、セイラは上機嫌に自分たちに割り当てられている野営の為の天幕へ向かう。
後ろから恨めしそうに見送ってくる視線の事など気にしない。考えられるのは、今は雷砂の事だけ。
リインとロウとクゥ、三人が羨ましそうにセイラと雷砂を見送る中、二人はひっそりと天幕の向こうへと姿を消した。
それとほぼ同時に、息を切らせたミカが戻ってくる。
「た、ただいま!水が切れてたから、ひとっ走り川へ行って、冷たくて旨い水をくんできたぜ!!」
良い笑顔でそう告げるが、肝心のセイラと雷砂の姿が見えない。
ミカはきょろきょろと二人の姿を探し、
「……って、あれ?セイラと雷砂は???」
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三人は顔を見合わせて、揃って何とも言えない顔で力なく笑うのだった。
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