龍は暁に啼く

高嶺 蒼

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第一部 幸せな日々、そして旅立ち

SS シンファの部族会 1

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 今年の部族会は、いやな空気が流れていた。
 ここ最近は毎年、族長である叔父に連れられて参加していたが、今までこんな雰囲気の時など無かった。
 では、どんな空気・雰囲気なのか。
 一言で言えば浮ついている。何とも軽薄な感じなのだ。

 では、それは何故なのか。
 草原の12ある大部族のうちの実に11部族が、何故か若い世代を何人も連れて参加しているせいだ。
 ちなみに、若者の参加者が少ない部族はライガ族、つまりシンファ達の部族であり、今年は体調の優れない族長の代わりにまだ若いシンファが参加しているものの、他のメンバーは部族会に慣れた古参のメンバーばかり。
 じつに重厚な雰囲気を醸し出していて心地が良い。

 それに引き替え、他の部族は何なのか。
 族長が、次代を担う若い身内を連れてくるくらいなら理解できる。
 だが、今回は異様だ。
 どの部族も、部族会に参加しているメンバーの半数以上が若い男性なのだ。
 中には年端もいかない子供のような少年を連れてきているところもある。
 何とも不自然な顔ぶれだし、その若い男達がやけにシンファに絡んでくるからどうにも心地が悪かった。

 部族会の会場となった集落には昨日着いたばかりだが、昨日から今日の昼までに、実に17回も若い男に絡まれた。
 絡まれたといっても、嫌なことはされていないし、実に紳士的なものだったが、それでも不快だと感じたのだから仕方ない。

 いつも叔父のジルヴァンの補佐をしていて、今回もシンファの補佐で着いてきてくれているザズにも相談してみたが、逆に好みの男はいなかったのかと聞かれた。
 正直に誰も好みじゃなかったと答えると、思いっきりため息をつかれて、なんだかいらっとした。

 今日一日、旅の疲れを癒して、明日の昼から部族会が始まる。
 が、今回の部族会は嫌な予感しかしなかった。
 出来ることならさぼってしまいたいが、そういうわけにもいかない。
 シンファは深くため息をつき、せめて今日は変な男に声をかけられないようにここで過ごそうと、引きこもりを決意するのだった。




 翌日、昼間でばっちり引きこもり、しぶしぶ部族会を行う為に用意された天幕に入ったシンファは己が目を疑った。
 ごしごしと目をこすり、もう一度よーく見てみる。

 各部族の代表が座る場所が用意された奥に、いつも部族会の議題が張り出されるのだが、そこに信じがたい議題が掲げられていた。

 「ザズ・・・・・・私は目が悪くなったのかな?」

 あまりに信じられなくて、部族会に一緒に参加する予定の補佐役にそっと問いかけてみた。


 「わ、私にはあそこに、シンファちゃんの好みのタイプを究明する、と書かれているような気がするのだが、まさかな。私の気のせいだよな?な?」

 「いや、俺にもそう見えるな・・・・・・」

 「・・・・・・帰っても良いか?いや、帰りたい。帰らせてくれ。ザズ、お前に全権を委任するから」

 「そういうわけにもいかん。族長代理はお前だ、シンファ」


 帰りたいと駄々をこねてみたが、重々しく却下されてしまった。
 シンファはがっくり肩を落とし、渋々自分の席へ向かう。
 用意された座席には、もうすでに来ている族長達もいて、一人だけ許される同行人にはやはり若い男を連れていた。

 「お~、シンファちゃん。よう来たのぅ」

 そう声をかけてきたのは、ライガ族と比較的交流のあるジンガ族の長だ。
 彼の後ろには、次期族長候補でもある彼の長男が座っている。
 シンファが昨年の部族会で振った男だ。
 だが、彼はそんな事は気にしていない様で、昨年同様熱っぽい目でシンファを見つめ、小さく頭を下げてきた。
 シンファも礼儀上、同じように礼を返すが、はっきりいって気まずい。
 昨年告白された相手だが、申し訳ないが名前すら思い出せない。

 あっちはまだこっちに気がありそうだが、こちらはまるでその気がない。
 何度も振るのは申し訳ないから、出来れば早々に諦めてもらいたいものだ。そんな事を考えながら、シンファは小さくため息をついた。

 続々と集まってくる各部族の長達。
 彼らが例外なく連れている若い男の目線が何ともうっとおしく、これから始まる部族会にも嫌な予感しか抱けなかった。

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