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第二部 旅のはじまり~水魔の村編~
水魔の村編 第十八話
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逃げなきゃと思ったが、足が動かなかった。
目の前の存在は、怒ってはいなかった。
むしろ面白そうにイーリアを見つめ、かすかに微笑みさえ浮かべている。
だが、恐ろしいと思った。自分では、決して勝てないと。
離れている時は分からなかった。昨日、戦っている姿を見たときでさえも。
しかし、今なら分かる。これは敵にしてはいけないものだったと。
「君は、誰を守らなきゃいけないんだ?」
「・・・・・・矢、当たったわよね?何で無事なの?」
「ああ、それならちゃんと当たったよ。ほら」
言いながら右手を見せられた。そこにあったのはほとんどふさがりかけた傷跡。
イーリアは目を見開き、思わずふるえる手を伸ばした。
「いいよ。触ってみる?」
その声に、伸ばしかけた手を引く。
おびえた目で、その子供のきれいな顔を見た。
「あんた、何者なの?」
「そんなに怖がらなくていいよ。君をどうこうするつもりはない。オレは雷砂っていうんだ。君は?」
「・・・・・・イーリアよ」
「イーリアか。良い名前だ」
「お世辞なんかいらないわ。ねえ、あんたは一体何者?あの矢には毒が塗ってあったわ。大きな獣でも殺せるくらいの。ねえ、何で生きてるの?・・・・・・もしかして、人間じゃないの?」
「人間だよ。君と一緒」
雷砂は微笑み、イーリアと目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「傷は、オレの友達が治してくれたんだよ。オレ1人だったら、もしかしたら死んでたかもな」
「じゃあ、私を恨んでるでしょ?あんたを殺そうとしたんだから」
「いや。今こうしてオレは無事だし、恨んでないよ。イーリアにもそうしなきゃいけない事情があったんでしょ?オレに話してみなよ。力になれるかもしれない」
「信じられない。あんたの言葉も、あんたの傷を治した友達って奴も。あんたは化け物で私を騙すつもりなんでしょ?」
イーリアは頑なに首を横に振った。
雷砂は苦笑し、立ち上がる。何かされると思ったのか、びくりと震えたイーリアに微笑みかけ、
「まあ、それも仕方ないか。今日が初対面だもんな?じゃあ、オレの友達を呼ぶよ。オレが嘘を言ってないって証明する」
「証明?」
「オレが人間で、オレの友達は傷を治す力があるって証明さ」
ニッと笑い、雷砂は腰にさしてあるナイフで軽く腕を切り裂いた。
真っ赤な血が流れ、地面に落ちてシミを作る。
その様子を、イーリアが目を目を見開いて見つめていた。
「ちょ、自分で自分に傷をつけるなんて」
「心配してくれるの?優しいな」
「し、心配なんか、別にしてないけど」
「大丈夫。自分では治せないけど、すぐに友達を呼ぶから。・・・・・・ロウ、ここにおいで」
雷砂が呼ぶと、すぐに近くの草むらががさがさと音を立てた。
いつもの巨狼の姿が現れると思っていた雷砂は、そこに現れた少女の姿に目をしばたく。
狼の耳としっぽのある少女は、もちろんさっきと同様、生まれたままの姿だ。
(これは、ちょっとまずいんじゃないかな?)
そう思って内心汗を流すが、時すでに遅し。
美少女姿のロウは雷砂の姿を認めるやいなや、雷砂顔負けのスピードで突進してきた。
そしてそのまま飛びつき、雷砂にぎゅーっとしがみついた。
足を雷砂の腰に回し、胸を雷砂の顔にむぎゅーっと押しつけるようにして。
そのしっぽが、嬉しそうにぱたぱた揺れていた。
まずいなぁと思いながら、恐る恐るイーリアの顔を伺う。
彼女は呆気にとられたような、ぽかんとした顔をしていた。
「ねえ、あんたの言ってた友達って、その子なの?」
「う、うん。そう」
ロウは嬉しそうに、雷砂の頭に頬をすり寄せている。
むき出しの2つの膨らみは雷砂の横顔に押しつけられたままだ。
イーリアは不信感満載の、じとっとした冷たい眼差しを雷砂に向けた。
さっきまでの怯えはなくなったが、これはこれで嫌な感じだ。
「女の子の友達を裸で連れ回して、あんたって変態なの?」
「変態・・・・・・い、いや、これには事情があってだな」
どんどん冷たくなるイーリアの視線に冷や汗をかきつつ、雷砂はロウを引きはがそうとするが、ロウのしがみつきが完璧で中々思うようにいかない。
端から見ると、ただのイチャイチャしているカップルのようだ。
イーリアの眼差しの温度がいよいよ氷点下に届きそうになった時、ロウが雷砂の腕の傷に気がついた。
「マスター、けが?」
「あ、ああ。治してくれるか?」
「ロウ、治す!」
元気よくロウは答え、雷砂の身体から降りると怪我をした腕をぴちゃぴちゃと舐め始めた。さっきと同様、うっとりとした顔をしながら。
だが、効果は絶大で。
あっという間に血が止まり、傷口に薄皮が張る。
それを確認した雷砂は、よくやったとロウの頭を撫で、それからその傷口が見えるように己の腕をイーリアの前に差し出した。
「治ってる・・・・・・」
「嘘じゃなかっただろ?オレの友達は、傷を癒すことが出来るんだ」
「・・・・・・そうね。それは嘘じゃないことが分かったわ」
「じゃあ、信じてくれるか?」
「まあ、少しは。変態だけど、まあいいわ」
「だ、だから、変態じゃないってば」
「ついてきて」
そう言って、イーリアは雷砂に背をむけてスタスタと歩き始めた。
「ついてきてって、どこへ?」
雷砂は再び、今度は背中にしがみついてきたロウをそのまま連れて、イーリアの後を追う。
彼女は少し先で、雷砂の方を振り向いた。
「アスランの・・・・・・水魔の泉に、連れて行ってあげる」
そう言った彼女の瞳が真摯な輝きをたたえて、まっすぐに雷砂を見つめた。信じるから決して裏切らないでと、そう言うように。
雷砂も彼女の瞳をじっと見返し、真剣な表情でかすかに顎を引き、頷きを返したのだった。
目の前の存在は、怒ってはいなかった。
むしろ面白そうにイーリアを見つめ、かすかに微笑みさえ浮かべている。
だが、恐ろしいと思った。自分では、決して勝てないと。
離れている時は分からなかった。昨日、戦っている姿を見たときでさえも。
しかし、今なら分かる。これは敵にしてはいけないものだったと。
「君は、誰を守らなきゃいけないんだ?」
「・・・・・・矢、当たったわよね?何で無事なの?」
「ああ、それならちゃんと当たったよ。ほら」
言いながら右手を見せられた。そこにあったのはほとんどふさがりかけた傷跡。
イーリアは目を見開き、思わずふるえる手を伸ばした。
「いいよ。触ってみる?」
その声に、伸ばしかけた手を引く。
おびえた目で、その子供のきれいな顔を見た。
「あんた、何者なの?」
「そんなに怖がらなくていいよ。君をどうこうするつもりはない。オレは雷砂っていうんだ。君は?」
「・・・・・・イーリアよ」
「イーリアか。良い名前だ」
「お世辞なんかいらないわ。ねえ、あんたは一体何者?あの矢には毒が塗ってあったわ。大きな獣でも殺せるくらいの。ねえ、何で生きてるの?・・・・・・もしかして、人間じゃないの?」
「人間だよ。君と一緒」
雷砂は微笑み、イーリアと目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「傷は、オレの友達が治してくれたんだよ。オレ1人だったら、もしかしたら死んでたかもな」
「じゃあ、私を恨んでるでしょ?あんたを殺そうとしたんだから」
「いや。今こうしてオレは無事だし、恨んでないよ。イーリアにもそうしなきゃいけない事情があったんでしょ?オレに話してみなよ。力になれるかもしれない」
「信じられない。あんたの言葉も、あんたの傷を治した友達って奴も。あんたは化け物で私を騙すつもりなんでしょ?」
イーリアは頑なに首を横に振った。
雷砂は苦笑し、立ち上がる。何かされると思ったのか、びくりと震えたイーリアに微笑みかけ、
「まあ、それも仕方ないか。今日が初対面だもんな?じゃあ、オレの友達を呼ぶよ。オレが嘘を言ってないって証明する」
「証明?」
「オレが人間で、オレの友達は傷を治す力があるって証明さ」
ニッと笑い、雷砂は腰にさしてあるナイフで軽く腕を切り裂いた。
真っ赤な血が流れ、地面に落ちてシミを作る。
その様子を、イーリアが目を目を見開いて見つめていた。
「ちょ、自分で自分に傷をつけるなんて」
「心配してくれるの?優しいな」
「し、心配なんか、別にしてないけど」
「大丈夫。自分では治せないけど、すぐに友達を呼ぶから。・・・・・・ロウ、ここにおいで」
雷砂が呼ぶと、すぐに近くの草むらががさがさと音を立てた。
いつもの巨狼の姿が現れると思っていた雷砂は、そこに現れた少女の姿に目をしばたく。
狼の耳としっぽのある少女は、もちろんさっきと同様、生まれたままの姿だ。
(これは、ちょっとまずいんじゃないかな?)
そう思って内心汗を流すが、時すでに遅し。
美少女姿のロウは雷砂の姿を認めるやいなや、雷砂顔負けのスピードで突進してきた。
そしてそのまま飛びつき、雷砂にぎゅーっとしがみついた。
足を雷砂の腰に回し、胸を雷砂の顔にむぎゅーっと押しつけるようにして。
そのしっぽが、嬉しそうにぱたぱた揺れていた。
まずいなぁと思いながら、恐る恐るイーリアの顔を伺う。
彼女は呆気にとられたような、ぽかんとした顔をしていた。
「ねえ、あんたの言ってた友達って、その子なの?」
「う、うん。そう」
ロウは嬉しそうに、雷砂の頭に頬をすり寄せている。
むき出しの2つの膨らみは雷砂の横顔に押しつけられたままだ。
イーリアは不信感満載の、じとっとした冷たい眼差しを雷砂に向けた。
さっきまでの怯えはなくなったが、これはこれで嫌な感じだ。
「女の子の友達を裸で連れ回して、あんたって変態なの?」
「変態・・・・・・い、いや、これには事情があってだな」
どんどん冷たくなるイーリアの視線に冷や汗をかきつつ、雷砂はロウを引きはがそうとするが、ロウのしがみつきが完璧で中々思うようにいかない。
端から見ると、ただのイチャイチャしているカップルのようだ。
イーリアの眼差しの温度がいよいよ氷点下に届きそうになった時、ロウが雷砂の腕の傷に気がついた。
「マスター、けが?」
「あ、ああ。治してくれるか?」
「ロウ、治す!」
元気よくロウは答え、雷砂の身体から降りると怪我をした腕をぴちゃぴちゃと舐め始めた。さっきと同様、うっとりとした顔をしながら。
だが、効果は絶大で。
あっという間に血が止まり、傷口に薄皮が張る。
それを確認した雷砂は、よくやったとロウの頭を撫で、それからその傷口が見えるように己の腕をイーリアの前に差し出した。
「治ってる・・・・・・」
「嘘じゃなかっただろ?オレの友達は、傷を癒すことが出来るんだ」
「・・・・・・そうね。それは嘘じゃないことが分かったわ」
「じゃあ、信じてくれるか?」
「まあ、少しは。変態だけど、まあいいわ」
「だ、だから、変態じゃないってば」
「ついてきて」
そう言って、イーリアは雷砂に背をむけてスタスタと歩き始めた。
「ついてきてって、どこへ?」
雷砂は再び、今度は背中にしがみついてきたロウをそのまま連れて、イーリアの後を追う。
彼女は少し先で、雷砂の方を振り向いた。
「アスランの・・・・・・水魔の泉に、連れて行ってあげる」
そう言った彼女の瞳が真摯な輝きをたたえて、まっすぐに雷砂を見つめた。信じるから決して裏切らないでと、そう言うように。
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