♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

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第一部 幼年期

第五十五話 姉様とぼく②

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 (なんなんだ、あの天使のような笑顔は。ちょっとキュンとしちゃったじゃないか)


 フィリアの部屋からお暇した後、シュリは廊下の片隅で少しだけ悶えた。
 ちょっと前に見せたフィリアの極上の笑顔を思い出して。

 恋する乙女の純粋な笑顔は、最近大人の女性の押せ押せの恋心(よくぼう)に疲れていたシュリの心にかなり響いた。
 大分ポイントが高かったと言わざるを得ない。
 激しい愛情表現に頼らず、ほっぺにちゅうで挑んで来たところも大変良かった。
 実に新鮮だったと、声を大にして言いたい。

 やはり恋とはこうでなければ。
 いきなり肉欲に走るのは、なんか違うと思うのだ。
 もちろん、悪いとまでは言うつもりはないし、大人な愛情表現もそれはそれでいいと思ってはいるのだが。


 (しかし、姉様まで恋の虜にしてしまうとは、オレって罪な男だな・・・・・・てか、ぶっちゃけ全部ぶっこわれスキルのせいなんだけど)


 赤ん坊らしくないため息をもらしつつ、てくてく歩く。歩行練習もかねて、ゆっくりと。
 まあ、急がないのであれば、歩くのももうそれほど危なげなくこなせるのだが。

 さて、これからどうしようかと考える。
 当初考えていたお姉様方との交流も考え物だと、思いながら。

 ステータス画面で見た限り、フィリアの名前はまだ記されておらず、まだ彼女の攻略度は50%を越えてはいない。
 だがしかし、さっき二人で過ごした時の彼女の様子から、好感度がぐんぐんアップするのが手に取るように分かってしまった。
 やはり、二人きりで会うのは危険なのかもしれない。

 まあ、同じ屋敷で生活する以上、いずれはそうなってしまうだろう。
 ジュディスのように[愛の奴隷]になってしまうのも時間の問題かもしれない。
 が、それを出来るだけ先延ばしにするように努力するべきだろうと、シュリは考えた。
 まあ、ぶっちゃけ、愛の奴隷がぽんぽん増えると、管理が大変だからという理由もあるのだが。

 と、言うわけで、お姉様達の部屋を巡る度は、ここでいったん終了だ。
 フィリスは手遅れとして、後三人のお姉様との関係はもう少し穏やかに好感度を上げていく方向性で調整したい。


 (でも、姉様達の部屋に行かないなら、どこで暇をつぶそう)


 まだ自分の部屋には戻りたくない。
 折角抜け出して、自由に使える時間を得たのだから、もう少し冒険したいと思うのが男心と言うものだ。
 男歴はまだ浅いけれど。

 つらつらと考えながら歩くうちに、一階へ続く階段が見えてきた。
 階段を見て思い出す。
 そう言えば、一階にはカイゼルの書庫があったはずだ、と。
 食堂に向かう途中でいつも目に入り、実は気になっていたのだ。

 よし、次はそこへ行こうと心に決め、シュリは四つん這いになって足から慎重に階段を下りていく。
 カイゼルの書庫。その部屋の今の主が誰なのか、その事も知らないままに。






 書庫の前にたどり着くと、何故か重厚な扉が少し開いていた。
 まるで小さな誰かがそこを通り抜けた後であるかのように。
 シュリはほっとして、その隙間を通り抜ける。
 何も考えずに書庫まで来てしまったが、扉が閉まっていたら回れ右をして帰らねばならないところだった。
 意識は大人でも体は赤ん坊。
 どんなに頑張ってもまだ自分で扉を開けることすらままならない。

 レベルアップをしているせいで力はまあそこそこあるとは思うが、ドアノブに手が届かないことにはどうにもならないのが世の常というものだ。
 ドアとは、取っ手を回さないと開かないものだ。
 取っ手をひねらないドアなど、壁と一緒。
 どんなに押しても引いても、開くはずがない。

 運が良かったなぁと思いつつ、書庫に入り込むと、ふわりと香る大量の紙の匂い。
 懐かしい気持ちに胸をほっこりさせながら、近くの本棚に近づいていく。
 昔、前世でもまだ子供だった頃、自分で本を買うお金が無かった頃はよく学校の図書室に入り浸っていた。
 そんな当時の事を思い出しながら、シュリは微笑む。
 あの頃の自分にとって、図書室は宝箱のようだった。
 読みたい本は無限にあり、行けばいつだって時を忘れた。

 過去の自分に思いをはせながら、シュリは本棚をチェックしていく。
 楽しそうに目をキラキラさせて。
 そんな風に何を読もうかと、わくわくしながら吟味していると、『誰でも簡単!初級魔法の基礎』という題名が目に飛び込んできた。


 (魔法かぁ)


 その本を見上げながら心の中でうーんと唸る。
 正直、興味はあった。


 (魔法はやっぱり、ロマンだよねぇ)


 出来ることなら覚えてみたい。
 何もないところから水を出したり、火を出したりしてみたい。
 だが、その本はシュリから見れば結構な高さの所にあった。
 が、一応、念のため、本棚にとりついて背伸びをしてみる。


 「ふぅぅぅぅぅ~~~~~」


 頑張ってみたが、人には限界というものがある。
 特に赤ん坊の限界の低さは侮れないものだ。
 考えても見て欲しい。背も低い上に、腕も短いのだ。
 一生懸命手を伸ばしたところで、頭の高さをどれだけ越えているかも微妙だろう。
 シュリはがっくり肩を落とし、再び考える。
 背伸びはダメだ。他に方法はないだろうか、と。


 (脚立とか、あればいいんだけどな。よく図書館とか、大きい本屋とかにある階段みたいな)


 周囲を見回すが、それらしきものは見あたらない。
 シュリは脚立を探すのは早々に諦めて、あるもので間に合わせることにした。
 そこにあるものーそれはすなわち、本、である。
 シュリはなるべく分厚くて安定の良さそうな本を引っ張り出して積み重ねてそれを踏み台にしようと考えた。
 だが、その踏み台がもう少しで出来上がるという時になって、後ろから待ったがかかった。


 「本で遊んじゃ、ダメ」


 透き通るような声でしかられて振り向けば、そこには分厚い本を大事そうに抱えた二番目の姉様・リュミスの姿。
 彼女は抱えていた本を丁寧に床に置くと、シュリの前にしゃがんでその頭を撫でて恍惚の表情を浮かべた。


 「本で遊んじゃダメ、だけど、シュリは可愛いから許す」


 厳しいようで緩い。
 そんなんでいいの!?と思いつつ、リュミスを見上げた。
 姉妹の中ではきっと一番整っているであろうその顔は、精緻な細工の美しい人形のよう。
 表情が少ないせいで余計にそんな印象を与えてしまうリュミスだったが、今は違う。
 シュリを見つめる瞳は潤み、頬をほんのりと上気させている彼女は、なんというか、ちょっと妖艶な感じがした。
 たかだか8歳の少女に妖艶という表現はどうかと思うのだが、そうとしか言いようのない何かが漂っているのだ。
 今からコレでは、将来が楽しみというより末恐ろしい。
 下手をしたら傾国の美女とかになっちゃいそうである。本人にその気があれば、だが。


 「何か見たい本があった?」


 問いかけに頷けば、リュミスはよいしょとシュリを抱き上げて、


 「どれ?」


 と再度問いかけてきた。
 さっきよりも格段に高くなった目線の先には、さっき目を付けた初級魔法の本。
 おおー、と思いながらふくふくした指でその本を指さすと、


 「分かった。ちょっと待って?」


 そう言い置いて、まずはシュリを一度床に下ろして座らせると、シュリのさっきまでの苦労は何だったのかと言いたいくらい簡単に、目の前の本を抜き出し、


 「はい」


 と差し出してきた。
 シュリはそれを両手で受け取り、


 「あー(ありがとう)」


 お礼の言葉とともに、にこっと極上の笑顔。
 それを見たリュミスが目を見開き、小さくうめいて鼻の辺りを押さえた。


 「いけない、鼻血が」


 ぼそっと呟かれた言葉にちょっとひく。
 だが、本を取って貰った恩もある。


 「りゅみ?じょーぶ??」

 「ありがとう、シュリ。私は大丈夫よ。変態な私のことは気にせず、ささ、早く本を」


 心配して声をかけてみれば、やはり色々とちょっと残念な返事が返ってくる。
 見た目は極上なのにもったいない、と思いつつ、シュリはお言葉に甘えて床の上で本を開いた。
 そして固まる。


 (よ、読めん)


 そう言えば読み書き系のスキルはまだとってなかったなぁと思いつつ、リュミスに音読して貰おうかと彼女の方を振り向こうとした瞬間、


・[スキル:人族の言葉・読み書き編]を取得しました!


 キラキラ文字がその事実をシュリに告げた。


 (や、読みも書きも練習してないのに、いいの!?こんな簡単で!!って今更だけど)


 最近、自分のでたらめさに、少し慣れてきてしまったシュリは、新たなスキルをサラっと流して、目の前の本に再び目を落とした。
 なんというか、先日の○○マスター(アレ)以来、なんだか色々と諦めがついてしまったというか、驚くのに疲れたというか。
 まあ、とにかく、今は目の前の事に集中しよう!と、いう事で、シュリは本を読み進めることにした。
 コレを読めばいよいよ、夢の魔法生活がはじまる!!かもしれないのだ。


 (えーと、何々?はじめに、魔法初心者の諸君……)


 ・[スキル:水魔法・初級]を取得しました!
 ・[スキル:火魔法・初級]を取得しました!
 ・[スキル:風魔法・初級]を取得しました!
 ・[スキル:土魔法・初級]を取得しました!


 (……うん。なんだか色々と、台無しだよね。もう諦めてるけど)


 何の努力もしていないせいか、魔法を取得した感慨も喜びもあったもんじゃない。
 シュリはがっくりと肩を落とし、ぱたんと本を閉じたのだった。  
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