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第一部 幼年期

第六十六話 シュリとシャイナ

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※2017/11/1 内容を一部変更しました。

 シャイナに連れられ、使用人達用の浴場に浸かりながら、シュリはほーっと息を付く。
 ここは使用人が共同で使う浴場なので、深夜とはいえども誰が入ってくるか安心できない。
 その為、シュリの[猫耳]は発動したままだ。
 このスキルを発動してさえいれば、人がこちらへ向かってくる足音を聞き逃すことも無いだろう。
 誰かが風呂に入ってきたら、急いで隠れて風呂から脱出すればいい。

 そんな事を思いながら、シュリはとにかく今は湯を楽しむことにした。
 いる場所はもちろんシャイナの腕の中。
 彼女はシュリを丁寧に湯に浸からせながらもうっとりと彼を見つめていた。その姿は、もう恋する乙女そのもの。

 今の彼女にクールなメイドの面影はなく、シュリに甘々のデレデレ、ついでに言えばメロメロである。
 正直言って、シュリの周りには現在デレしかいない。
 彼のとんでもスキルの前に、ツンが存在する余地は無いのが現状だ。
 乳母マチルダの娘のリアがややツン属性に近いかもしれないが、シュリは思う。
 アレはツンじゃなくて、ただのいじめっ子だと。
 最近は近くにいるととにかくほっぺたで遊ばれてしまうので、なるべく距離を置くようにしているのだった。

 そんな事を考えていると、少しのぼせてきたのでシャイナに頼んで湯から出してもらう。
 そうして湯から全身を出してしまうと、とたんにシャイナの視線が全身に絡みついてきて思わず苦笑が漏れた。
 こんな赤ん坊の体のどこがいいんだろうかと、そんな思いと共に。
 はぁはぁと息を荒らげる彼女の欲望に満ちた瞳の求めに唇で応じつつ、シュリは思う。
 それにしても、さっきは驚いたなぁ、と。
 そして、情熱的なキスを交わしながら、その時のことを思い出すのだった。






 宿の扉の前で逃げ遅れ、開いた扉から現れたシャイナを見上げてシュリは固まった。
 シャイナも、まるで雷に打たれたかの様に硬直し、そして、


 ・シャイナの攻略度が100%に達し、愛の奴隷となりました!


 そんなアナウンスが流れた。
 みるみるうちに、シャイナの表情が甘くとろけて、シュリを見る視線の温度が上がっていく。
 それを見ながらシュリは冷静に思う。今回の事は不可抗力だ、と。
 強いて言えば猫耳に猫尻尾がとどめを刺したのだが、そんな事をシュリが知るはずもない。
 ただ、彼は固まったまま切実に思う。


 (まだ勃ちもしないのに、一体どうしろと?)


 やっと1歳を過ぎたばかりなのに、愛の奴隷を二人も抱えてどうしたらいいのか。一人でも中々大変なのに。
 ああ、今すぐ性欲絶倫・やりたい盛りの成年男子になりたい……そんな事を思いつつ遠い目をしていると、シャイナの奥から男の声が響いた。


 「どうした?なにかいるのか?」


 と。
 次いで近付いてくる男の気配に、シュリは少し身構える。まずいなぁ、見つかっちゃうかなぁ、と。

 正直、この時点では特にシャイナに何の期待もしていなかった。
 愛の奴隷認定されたとはいえ、それ以前に彼女は魅了の状態異常を抱えていたのだ。
 シュリと相手の男、どちらに転ぶかまだ微妙だと思っていた。

 だが、彼女は迷うことなくシュリを守るために動いた。
 シュリと男の間にしっかりと立って冷静に言葉を交わし、そしてシュリを連れて逃げた。
 2人の間で揺れるそぶりも見せず。ただ、シュリの為に動いてくれた。

 そんな彼女の腕の中から、必死に走る彼女の顔を見上げてシュリは思った。
 思いがけず攻略してしまった二人目の愛の奴隷だけど、出来る限り大切にしよう、と。

 ジュディスも、シャイナも、シュリを何より大切にしてくれる。
 ならば、自分はそれに応えなければいけない。
 シュリは真剣にそう思い、シャイナを見つめた。

 ジュディスの時はとにかく戸惑いが強かった。
 それに初めての事にただただ一生懸命で二人の関係についてあまり深く考えていなかった。

 二人目の愛の奴隷を得て初めて、シュリは主としての自覚をほんの少し、己の内に芽生えさせた。
 シュリは思う。
 二人を大事にしてあげよう。愛の奴隷となってしまった以上、二人にはきっと自分しかいないのだから。
 そう思うと、なんだか無性に二人が愛おしかった。






 『大切にするよ、シャイナ。君が僕を裏切らない限り』


 シュリの言葉に、シャイナが微笑む。


 『裏切りません。私があなたを裏切るなど、天と地が入れ替わってもあり得ない事です』


 彼女の力強い言葉を聞きながら、シュリはステータス画面をいじってシャイナの状態を確認する。


 ・愛の奴隷[シャイナ(100%)(充足度:0%)(状態異常:魅了(抵抗中))]


 となっていた。
 やはり、さっきの宿の一室での行為は、きちんとシャイナに作用していたようだ。
 男の行動から推測するに、魅了というスキルは、相手に直接接触して、性行為を行うかそれに近い行為を行うことで発動するのだと考えられる。
 恐らくより深い行為を行うことで、より強い魅了をかける事が出来るに違いない。
 そう考えれば、シャイナは男から最上級の魅了をかけられている状態といってもいい。
 だが、表示の通り、それに抵抗している。シュリへの想いがそうさせているのだろう。


 (どうすればいいか分からないけど、とりあえず色々やってみよう)


 そして、文字通り、色々頑張ってみた。
 まあ、年が年だから、頑張るといってもたかが知れてはいるけれど。

 だが、とにかく頑張った。
 なにしろ、愛の奴隷の状態異常は命に関わるのだ。おざなりになど、出来るわけがない。

 とりあえず、シャイナの魅了を解くには、魅了した相手……つまりシャイナが密会していたあの男の与えた以上のものを、シャイナに与えなければいけないのだが、彼と比べてシュリには足りないものが多すぎた。
 実際問題、シャイナはあの男との行為に苦痛しか感じていなかったわけだが、そんな事実をシュリが知るはずもなく、シュリは必死に頑張った。
 肉体的に不足があるなら、その分を努力で埋めるだけだとばかりに。

 そして、色々頑張りつつ、彼女の胸の辺り場所を移したシュリは、女性の象徴とも言えるべき場所の惨状に眉をしかめた。

 ミフィーより少し大きく、ジュディスよりは控えめ。
 大きな男の手の平ならすっぽり納める事が出来る、ある意味程良い大きさの胸は、ガナッシュの力任せの愛撫に所々赤くなっていてなんとも痛々しかった。


 (女の子の胸を乱暴に扱うなんて、最低な奴だな)


 シュリの中で、ガナッシュの評価がさらに下がっていく。
 苛立ちのままに乱暴な男がつけた指の跡をなぞるように舌をはわせると、なぜかすうっとその赤みが引いていった。
 その現象を不思議に思いながら丹念に彼女の胸をなめ回せばあら不思議。
 気が付けば彼女の胸はすっかり白くきれいな肌を取り戻していた。
 その様子をまじまじと見つめた後、シュリはぽんと手を叩く。


 (ああ![癒しの体液]かぁ)


 すっかり忘れかけていた、そのスキルのことを思い出して。
 思えばこのスキルには以前大変お世話になった。
 極限状態で、必死にミフィーを癒し続けた時の事を思い出しながら、シュリは丁寧に丁寧にシャイナの胸を余すことなく舐め、結果、シャイナは息も絶え絶えなご様子。
 シャイナの白い肌に残るあざはもうないか確認しつつ、さてどうしようかとシュリは思案する。
 このまま続けても、シャイナを気持ちよくさせることは出来そうな気はする。

 だが、シュリはシャイナの下半身の状況もなんだか心配だった。
 胸をあんな乱暴にするような男だ。
 きっと何の配慮もなく突っ込んだに違いないと、妙な確信を持ってシュリはシャイナの身を案じていた。

 女は勝手に濡れるものと勘違いしている男も多いが、女性のあそこはデリケートなのだ。
 気持ちを高めて気持ちよくしてあげなければもちろん濡れたりしないし、濡れてないのに突っ込んだら当然の事ながら痛いだけ。
 気持ちいいもなにもあったもんじゃない。

 実際、シュリもそんな体験の経験者だった。
 正確にはシュリではなく、前世での瑞希が経験したことではあったが。
 その時はあまりの痛さに、突っ込んできた彼氏を思いきり蹴り飛ばしてしまい、それが破局の遠因となった。
 直接の原因は、その男の浮気だったが、女を道具としか思っていないようなその男に嫌気がさしていたので、正直言って清々したのを今でも覚えている。

 シュリは小首を傾げて少し思案した後、自分の体の位置を少しずつ下へとずらしていった。

 この世界でも、前世でも、その部分を愛撫した経験など無い。
 まあ、せいぜい前世で己の体をちょっと可愛がった事があるくらいだ。
 でも、とりあえず構造も、どうすれば気持ちよくなるかも知っているのだからなんとかなるだろうと、シュリはシャイナのその部分と相対した。

 相対して考える。
 癒さなければいけない部分は手前じゃなくて奥のほう。
 [癒しの体液]があるとは言っても、さてさて、赤ん坊の自分はどうやってそこまで肝心の[癒しの体液]を届ければいいのか。

 その時だった。
 シュリの目に、まだ生やしたままの猫尻尾が目に入った。
 それをじっと見つめたまま、自分の思うように動かしてみた。
 ……意外と、思い通りに動く。

 更に、その先端を握ってみた。柔らかすぎず、固すぎず、程良い固さだ。
 これはいいかもしれない、とシュリは小さくうなずく。
 ちょっと気になるのは握った瞬間、背中に走った甘美な震え。
 まあ、お尻から直接生えているから、少々感じやすい器官なのかもしれない。
 が、今からシュリが行おうとしている事に使えそうなものはこれしかなかった。

 念のため、尻尾の先の毛を引っ張ってみる。
 その瞬間、やはり背中がぞわぞわして、シュリは小さくうめいて背筋を震わせた。
 だが、それを無視してかなり強く引っ張ったが、流石はスキルの作った人工物。毛が抜ける感じはしない。
 これならば、衛生的にもそれほど不安はない、だろう。
 そう考えて、シュリは考えていた案に、ゴーサインを出すことにした。

 まあ、結果として、シュリの尻尾はよく役に立ってくれたと言えるだろう。
 シャイナにも大変満足していただいた。
 満足していただいたシャイナにうっかり抱きつぶされそうになったのもご愛嬌。

 彼女のあまりの締め付けに、


 (しゃ、しゃいな!!ギブ、ギブだって!!)


 そう心の中で叫んだものの、慌てたせいでうまく念話になっておらず、結果シュリの悲鳴はシャイナへ伝わらず、うっかり遠くへ行っちゃいそうになった。
 その時、


 ・スキル[身体強化]を修得しました!

 (よっしゃあぁぁ!なんかゲットしたぁぁぁ!!!)


 いつものアレがやってきて喜んだのもつかの間、一向に楽にならない体の負担に顔が青くなり始めた頃、シュリはハッと気が付いた。
 [猫耳]のままだから[身体強化]できないんじゃね?、と。


 (猫耳解除っっ!身体強化はつどおぉっ!!!)


 今度こそ頼むと願いながら心の中で叫ぶと同時に、ぎりぎりと体を締め付けられていた痛みがふっと楽になった。
 それと同時に、猫耳と尻尾も霞みの様に消え去り、ほっとしたシュリはそのままシャイナの腕の中で意識を失ってしまったのだった。

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