♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

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第一部 幼年期

第十六話 思いがけない救援②

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 馬に乗った一団が、同じ制服を来た兵士である事に望みをかけ、シュリは頑張って泣き声をあげた。
 赤ん坊らしく、盛大に。

 それはきちんと彼らに届いたようで、下っ端の兵士の様な格好の人がシュリを見つけて抱き上げてくれた。
 その兵士は、どうも女の人だったらしい。
 痛ましそうな顔でシュリを見つめ、ぎゅっと抱きしめてくれた。
 女の人だって事はそこで分かった。皮鎧越しに感じる柔らかい物体が二つあったから。

 彼女を誘導してミフィーの所まで連れて行こうとしたが、その前に彼女が呼び戻されてしまった。
 彼女は急ぎ足で、上司らしい兵士と貴族っぽい男の元へ戻っていく。
 彼女の歩みが止まると大きな手がシュリをひょいと抱き上げた。

 無骨なのに、子供をあやすのは上手な手。
 慣れたようにシュリをあやしていたその手の持ち主は、泣きやんだシュリの顔を見てとても驚いた様な顔をしていた。

 一方、シュリもびっくりしていた。
 顔立ちこそ違うものの、シュリを抱いている男の色彩はジョゼと一緒だったから。
 深紅の髪に、菫色の瞳。
 この人、もしかしてーとそう思った時、


 「シュリナスカ?」


 男がシュリの、名を呼んだ。その瞬間、確信する。この人は身内だ、と。
 恐らくアズベルグにいるジョゼの兄か何かなのだろう。
 助かったーシュリはほっと息をつく。
 後は、なんとかしてミフィーの居場所を伝えるだけだ、と。


 「シュリナスカなのか?ジョゼの、息子の?」


 そうだよ、と頷く。
 子供らしくないと、不審に思われるかもしれないが仕方がない。
 シュリは、まっすぐ男を見上げた。


 「ジョゼ様の、息子?どういうことです?カイゼル様?」


 隣からそんな問いかけ。シュリを抱いている男の名前はカイゼルと言うらしい。


 「どういうこともなにも、襲われた馬車は、わしの弟が乗っていた馬車だったと言うことだ。この赤子はジョゼが手紙で教えてくれた特徴に当てはまるし、何よりもこの瞳の色を見てみろ」

 「カイゼル様と、同じですね」

 「ああ。我が一族に多くでる特徴的な色で、紫より遙かに淡いこの色はそうでなくとも珍しい物だ。この子は、我が甥・シュリナスカで間違いないだろうと思う」

 「そう、ですね」


 やはり、カイゼルという男はジョゼの兄だったようだ。
 シュリは、隣の男との話に夢中になっているカイゼルの胸元をぽんぽんと叩いて注意を引く。


 「ん?なんだ?」


 カイゼルがこちらを向くのを待ってから、シュリはミフィーのいる方を指し示した。
 カイゼルの目が、そちらを見る。


 「向こうに何かあるようだ。集中して探させろ」

 「はっ。右手の茂みの奥を集中して探せ!!」


 カイゼルの指示を受け、隣の男が兵士達に指示を出す。
 色々な所へ別れて探索していた兵士達が、わらわらとミフィーがいる辺りへ殺到していく。
 ミフィーが行る場所も、そう奥まった所ではない。すぐに見つかるだろう。


 「いました!!女性です」


 案の定、そんな声がすぐにあがった。
 女性、という報告に、カイゼルの肩が落胆したように下がる。

 カイゼルは弟であるジョゼの発見を望んでいたのだろう。
 だが、ジョゼは死んでしまった。彼の望みが叶うことはないのだ。


 「衰弱しているようですが生きています。今、そちらへお連れします」


 次いで報告の声があがり、がさがさと茂みを揺らしながら、屈強な男の兵士がミフィーをお姫様抱っこして現れた。


 「みー(ミフィー)」


 彼女の名を呼びシュリが身を乗り出すと、カイゼルはそれを危なげなく支えながら、


 「彼女がお前の母親か?」


 と問いかけてきたので、今更取り繕って赤ん坊らしくしても仕方がないと再び頷きを返した。


 「そうか。彼女がジョゼの……」

 「ん、んん。あれ?」


 兵士の腕に抱かれたまま、ミフィーがうっすらと目を開けた。
 すると、ちょうど自分を抱いている兵士と目があったのか、


 「えっと、あの、ええ??」


 と混乱の声をあげた。
 それから自分が息子を抱いていないことに気づいたのか、わたわたと慌て始める。


 「シュリっ?シュリは?あの、あのっ、私の息子は?」


 ついには泣きそうになってしまったミフィーの様子を見かねて、


 「大丈夫。あなたの息子はここだ。大変だったね。もう大丈夫だ。自分の足で立てそうかな?立てるようなら、あなたの腕に息子さんを返してあげよう」


 カイゼルが優しく声をかけた。


 「は、はい。立てます。立てると思います」

 「それは良かった。彼女を降ろしてやりなさい」


 その指示で、ミフィーはゆっくり地面に降ろされる。
 彼女は一瞬ふらついたがしっかりと足を踏みしめて、カイゼルから息子を受け取った。


 「ああ、シュリ。良かった……」


 ぎゅーっと抱きしめられ、ちょっと苦しかったが我慢した。おっぱいの感触は気持ちよかったので良しとしておく。


 「あなたは馬車の生き残りだね?」


 カイゼルが、ミフィーにそっと訪ねた。ミフィーが小さく頷く。


 「何があったか、尋ねても?」


 ミフィーは再び頷き、そしてゆっくりと話し始めた。
 最初は順調だった馬車の旅。突然襲いかかってきた盗賊達。それを迎え撃つために飛び出していった夫達。怪我のせいで意識を失い、気がついた時にはすべて終わっていた事。

 話し終わったとき、ミフィーの目には涙が貯まっていた。
 こぼれ落ちた涙を手のひらでこすり取ると、それに気づいたミフィーが少しだけ、笑ってくれた。


 「ご主人は、勇敢に戦ったんですな。ジョゼが死んだのは、その、確かなのだろうか?」

 「私が意識を失っている間に、獣か何かが来ていたようで、私は彼の死に顔を見ていません。ただ」

 「ただ?」

 「彼の、腕を見つけました。私が作って贈った腕飾りをしていたので、間違いないと思います」

 「そう、ですか」


 カイゼルは俯き、それから隣の男に何か指示を出した。
 隣の男はミフィーから腕飾りの特徴を詳細に聞き取った後、兵士を何人か残し、馬車の方へと行ってしまった。


 「疲れているのに無理をさせましたね。ジョゼのことは彼らに任せて、私達は先に戻りましょう」

 「戻る?」

 「ええ。アズベルグへ。安心して下さい。あなた方の面倒は私が責任を持ちます。そうしないと、ジョゼに怒られてしまいますからね……」


 カイゼルは、寂しそうに微笑んだ。
 彼がジョゼ、ジョゼと連呼するのでさすがにミフィーもおかしいと思ったのだろう。
 哀愁漂わせるカイゼルに、おずおずと声をかける。


 「あ、あの、ジョゼの事をご存じなんですね?あなたは……」

 「ああ。自己紹介がまだでした。わしの名はカイゼル・ルバーノ。ジョゼ……ジョゼット・ルバーノはわしの実の弟です」


 シュリはもうずいぶん前に気づいていたが、そんなこと初耳のミフィーは驚きに目を見開いたのだった。

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