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第一部 幼年期
第十七話 帰途
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シュリを抱いたミフィーは女性兵士の馬に同乗させてもらうことになった。
主に、重さの関係だろう。
それを見る男性兵士達がなんだか羨ましそうに見えたのは多分錯覚じゃない。
(ふふ。ミフィーは美人だからなぁ)
何となく優越感に浸ってそんな事を考えながら、馬に揺られる。
来る時はかなりの強行軍だったようだが、帰りはゆっくり進むとカイゼルがミフィーに説明していた。
途中の宿場町で宿を取り、後続の兵士達と合流するのだという。
進み始めたばかりで宿場町まではまだ結構距離がある。
それなのに、ミフィーはもう眠そうだ。
食べるものも食べていないし、睡眠だけは何とかとっているものの、体力ももう限界なのだろう。
かくんかくんと船をこいでは、はっと顔を上げる動作を繰り返している。
今のところ、シュリを取り落とす程ではなさそうだが、何とも不安が募る。
(お、お願いだから、しっかり抱っこだけはしててよ、ミフィー)
せっかく助かったのに馬から落ちて死ぬなんてのだけは勘弁してもらいたい。
不安になって、ぎゅっとミフィーの胸元をつかむ。
LVが上がって力も強くなっているから、万が一ミフィーの手が離れても少しくらいはしがみついていられるはずだ、と思いたい。
(でも、出来れば放さないでもらいたいけど)
そんな事を思っていたら、後ろの女性兵士も同じ様なことを考えていたのだろう。
「あの、奥様。もう少し寄りかかって頂いてもいいですよ?お疲れでしょうから。で、ご子息を抱える手を少し下げて、鞍の出っ張りで支えるようにすると少し楽かもしれません」
そんなアドバイスをしてくれた。
元来素直な性格のミフィーは彼女の助言通りにシュリを支える位置を調整する。
すると、ずいぶん楽になったのだろう。
ぱっと顔を輝かせて、後ろから自分を支えてくれる女性兵士を振り向いた。
「どうですか?」
「ありがとうございます。ずいぶん楽になったわ。えーと」
「私はカレンといいます、奥様」
「カレンさん、ね。本当にありがとう。私のこともミフィーって呼んでくれないかしら?奥様って柄じゃないし」
そう言って、ミフィーはにっこり笑う。
女性兵士ーカレンはそんな屈託のない彼女の様子に少し面食らったようだが、すぐに自然な笑みを返した。
「えーと、じゃあ、ミフィー様、と」
「うーん。もう一声!呼び捨てとは言わないから、せめてミフィーさんくらいにならない?」
そんなミフィーの言葉にカレンは苦笑した。
「じゃあ、公式の場以外ではそう呼ばせてもらいます」
「敬語は?」
「敬語は勘弁して下さい。まだ、会ったばかりですし」
カレンの言に、それもそうねとミフィーも頷く。
「じゃあ、そっちはもう少し仲良くなってからの課題としましょうか。よろしくね、カレンさん」
「こちらこそ、よろしくお願いします、その、ミフィーさん」
2人はにっこり笑いあう。
シュリはそんな2人を見上げてにこにこしていた。
鞍の支えもあり、身体は安定してるし、美人2人が微笑む様子を見るのは目に楽しい。
ミフィーも大概美人だと思っていたが、カレンもまた別なタイプの美人さんだった。
ミフィーをおっとり系とするならば、カレンは真面目で清廉といった感じ。
なのに、右目の下に泣きぼくろがあって、そこにちょっぴり色っぽさがあるのがまたいい。
兵士という仕事柄、髪はショートにしているようで、明るい茶色のショートヘアが良く似合っていた。
シュリの目線を感じたのか、切れ長の目を優しく細めてカレンも見つめ返してくる。
にこっと笑うと、その目の縁がほんのりと赤くなった。
「か、可愛いですね」
「えっと、シュリのこと?ありがとう~。もう、本当に可愛くて自慢の息子よ」
「シュリ君っていうんですね。いい名前です」
うんうんと頷きながら、カレンが褒めてくれる。
それを聞いたミフィーが少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「シュリナスカっていうの。この名前はジョゼが……夫がつけてくれたの。あの人、すごく一生懸命考えてくれて」
ミフィーの言葉が詰まった。
それに気づいたカレンが慌てている。
「あっ、その、すみません……無神経な発言を」
「ううん。謝らないで。あなたはシュリの名前を褒めてくれただけじゃない。だめね。つい思い出しちゃって」
「……ご主人は、残念でしたね」
「ありがとう。でも、私にはまだシュリがいるから」
そう言って、ミフィーは腕の中の息子の頬を愛しげに撫でた。
シュリもその手のひらにぷにぷにの頬をすり寄せる。
「もし、この子まで失ってたら私、きっとおかしくなっちゃったわ。シュリがいるから、この先も頑張って生きていこうって思えるの。ジョゼの分までシュリを愛してあげなきゃって」
「強いんですね、ミフィーさんは」
「ふふ。これでも一応、お母さん、だからね」
そう言って、ミフィーは母の顔で、柔らかく微笑むのだった。
主に、重さの関係だろう。
それを見る男性兵士達がなんだか羨ましそうに見えたのは多分錯覚じゃない。
(ふふ。ミフィーは美人だからなぁ)
何となく優越感に浸ってそんな事を考えながら、馬に揺られる。
来る時はかなりの強行軍だったようだが、帰りはゆっくり進むとカイゼルがミフィーに説明していた。
途中の宿場町で宿を取り、後続の兵士達と合流するのだという。
進み始めたばかりで宿場町まではまだ結構距離がある。
それなのに、ミフィーはもう眠そうだ。
食べるものも食べていないし、睡眠だけは何とかとっているものの、体力ももう限界なのだろう。
かくんかくんと船をこいでは、はっと顔を上げる動作を繰り返している。
今のところ、シュリを取り落とす程ではなさそうだが、何とも不安が募る。
(お、お願いだから、しっかり抱っこだけはしててよ、ミフィー)
せっかく助かったのに馬から落ちて死ぬなんてのだけは勘弁してもらいたい。
不安になって、ぎゅっとミフィーの胸元をつかむ。
LVが上がって力も強くなっているから、万が一ミフィーの手が離れても少しくらいはしがみついていられるはずだ、と思いたい。
(でも、出来れば放さないでもらいたいけど)
そんな事を思っていたら、後ろの女性兵士も同じ様なことを考えていたのだろう。
「あの、奥様。もう少し寄りかかって頂いてもいいですよ?お疲れでしょうから。で、ご子息を抱える手を少し下げて、鞍の出っ張りで支えるようにすると少し楽かもしれません」
そんなアドバイスをしてくれた。
元来素直な性格のミフィーは彼女の助言通りにシュリを支える位置を調整する。
すると、ずいぶん楽になったのだろう。
ぱっと顔を輝かせて、後ろから自分を支えてくれる女性兵士を振り向いた。
「どうですか?」
「ありがとうございます。ずいぶん楽になったわ。えーと」
「私はカレンといいます、奥様」
「カレンさん、ね。本当にありがとう。私のこともミフィーって呼んでくれないかしら?奥様って柄じゃないし」
そう言って、ミフィーはにっこり笑う。
女性兵士ーカレンはそんな屈託のない彼女の様子に少し面食らったようだが、すぐに自然な笑みを返した。
「えーと、じゃあ、ミフィー様、と」
「うーん。もう一声!呼び捨てとは言わないから、せめてミフィーさんくらいにならない?」
そんなミフィーの言葉にカレンは苦笑した。
「じゃあ、公式の場以外ではそう呼ばせてもらいます」
「敬語は?」
「敬語は勘弁して下さい。まだ、会ったばかりですし」
カレンの言に、それもそうねとミフィーも頷く。
「じゃあ、そっちはもう少し仲良くなってからの課題としましょうか。よろしくね、カレンさん」
「こちらこそ、よろしくお願いします、その、ミフィーさん」
2人はにっこり笑いあう。
シュリはそんな2人を見上げてにこにこしていた。
鞍の支えもあり、身体は安定してるし、美人2人が微笑む様子を見るのは目に楽しい。
ミフィーも大概美人だと思っていたが、カレンもまた別なタイプの美人さんだった。
ミフィーをおっとり系とするならば、カレンは真面目で清廉といった感じ。
なのに、右目の下に泣きぼくろがあって、そこにちょっぴり色っぽさがあるのがまたいい。
兵士という仕事柄、髪はショートにしているようで、明るい茶色のショートヘアが良く似合っていた。
シュリの目線を感じたのか、切れ長の目を優しく細めてカレンも見つめ返してくる。
にこっと笑うと、その目の縁がほんのりと赤くなった。
「か、可愛いですね」
「えっと、シュリのこと?ありがとう~。もう、本当に可愛くて自慢の息子よ」
「シュリ君っていうんですね。いい名前です」
うんうんと頷きながら、カレンが褒めてくれる。
それを聞いたミフィーが少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「シュリナスカっていうの。この名前はジョゼが……夫がつけてくれたの。あの人、すごく一生懸命考えてくれて」
ミフィーの言葉が詰まった。
それに気づいたカレンが慌てている。
「あっ、その、すみません……無神経な発言を」
「ううん。謝らないで。あなたはシュリの名前を褒めてくれただけじゃない。だめね。つい思い出しちゃって」
「……ご主人は、残念でしたね」
「ありがとう。でも、私にはまだシュリがいるから」
そう言って、ミフィーは腕の中の息子の頬を愛しげに撫でた。
シュリもその手のひらにぷにぷにの頬をすり寄せる。
「もし、この子まで失ってたら私、きっとおかしくなっちゃったわ。シュリがいるから、この先も頑張って生きていこうって思えるの。ジョゼの分までシュリを愛してあげなきゃって」
「強いんですね、ミフィーさんは」
「ふふ。これでも一応、お母さん、だからね」
そう言って、ミフィーは母の顔で、柔らかく微笑むのだった。
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