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第三部 学校へ行こう
間話 ルゥの小さな恋の物語②
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次の日。
シュリは早速、ルゥをいじめているお友達の所を訪問した。
わかりやすく、わんぱく小僧な少年達は、ルゥの家の近くの空き地を縄張りに、いつもそこで遊んでいるようだ。
シュリは、そこにルゥがいないことをシャイナに確認してもらってから、まずは一人で乗り込んでいった。
「こんにちは~」
にこにこしながら彼らに歩み寄り、屈託無く話しかける。
「おう、こんにちは~……って誰だよ?お前」
少年達の中のリーダー格なのだろう。
シュリよりも年上で体が大きな少年達の中でも、一際大きな体をした少年がシュリをにらんだ。
まあ、ちっとも怖くなかったけど。
この頃のシュリは、カレンと一緒に魔物狩りをする事にハマっていて、そんな人外の奴らに比べれば、少年にガンをつけられるくらい、屁でもなかったのだ。
少年ににらまれるのも気にせずに、シュリは冷静に彼の事を観察する。
(ん~、ちょっとつっぱってて意地っ張りで不器用そう……好きな相手に意地悪しちゃうタイプだよなぁ)
そんなことを思いつつ、シュリはもう一回、少年達に向かってにっこりと微笑みかけた。
その、可愛らしくも邪気のない微笑みに、少年達がひるむのが分かる。
なんか、かわいくね?とか、すっごい美少女だよな、とか……そんなさえずりが聞こえるけど気にしない。
美少女じゃなくて美少年だい!などと反論するつもりもない。
というか、自分を表現するのに、美をつけるなんて、恥ずかしくてできる気がしない。
シュリは少年達の熱い眼差しを華麗にスルーして、リーダーと思われる少年をじっと見上げた。
「僕はルゥの友達だよ」
「あいつの?ってか、お前もボクっ娘なのかよ!?見た目もハンパなくかわい……ごほん。ま、まあ、類は友を呼ぶっつーか、あいつの友達って感じだけどよ……んで?あいつの友達が俺たちになんのようなわけ?」
「ん~と、今日はちょっと忠告……というか、アドバイスに?」
「アドバイスぅ~?」
「うん。同じ男としてね。君達のためにもなるアドバイスだよ」
「おっ、おとこぉ!?おま、男だったのかよ!?」
えへんと胸を張ってそういうと、少年達は飛び上がるくらいに驚いてまじまじとシュリを見てきた。
シュリは唇を尖らせ、
「僕は立派な男だよ!?どこをどう見て男じゃないって思うのさ!?」
そう反論すると、
「いや、なにをどう見ても超絶美少女だろ……」
真顔でそう答えを返された。
失礼だな~とほっぺたをふくらませつつも、シュリはとりあえずその論争は横に置いておくことにした。
今日ここに来たのは、シュリが男か女かを論じる為ではない。
ルゥがいじめられなくなるように、手を打つ為なのだから。
「ま、それはいいや。それより、僕から君達にアドバイスだよ」
「いいのかよ!?ま、俺達だって、お前が男だろうと女だろうと関係ねぇけどよ。で、なんだよ?そのアドバイスってのは??」
なにやら妙に毒気を抜かれた様子で聞いてきた。
シュリはにっこり笑って答える。
「男が女の子にモテる極意だよ」
「「「「「なっ、なにぃぃぃ!?」」」」」
シュリの言葉に、少年達の目の色が変わった。
こんな子供達でも、異性にモテたいという欲求はいっちょ前にあるらしい。
自分が彼らよりももっとずっと小さい子供だと言うことを棚に上げてそう思いつつ、シュリはごく当たり前の事柄を彼らに告げる。
「簡単なことだよ。好きな相手は、いじめるよりも優しくしてあげること。恥ずかしいのは分かるけど、いじめてもその子は君達を好きになってくれないし、むしろ嫌われる一方だよ?」
思い当たる節があるのだろう。その言葉を受けた彼らが気まずそうに目を交わしあう。
だが、リーダーは周囲の少年達よりも、ほんの少し意地っ張り度が高かった。
「んだよ?結局、あれだろ?ルゥをいじめんなって言いにきただけだろ?そんなことくらいで、女にモテるようになんてなるもんか」
彼は唇を尖らせてそう言った。
「え?ルゥをいじめないでほしいのは確かだけど、さっき言ったのもホントのことだよ?」
そんなことで嘘をついても仕方ないでしょ?とシュリは笑い、小さな手でパチンと器用に指を鳴らした。
すると、それを合図に空き地に入ってくる三人の美女達。
少年達が思わずぽーっと見とれる中、三人は迷うことなくシュリに歩み寄り、その中の一人が代表してシュリを抱き上げた。
そして代わる代わる、心底愛おしそうにシュリにキスをする様を、少年達に思う存分見せつける。
そして、彼女達とのキスが一通り終わってから、シュリは少年達を見下ろして、
「ね?」
と無邪気に微笑んだ。
「ね?じゃねーよ!?なんなんだよ、その人たちは!?」
リーダーの少年が吠える。
だが、シュリはなんら動じることなく、にこやかに答えた。
「ん?なにって、僕の女?」
ちょっと疑問系だが、そこはご愛敬である。
だが、シュリのその言葉を聞いた瞬間、三人の女は一斉に腰砕けになった。
「はぁん……シュリ様が、私のことを僕の女って……も、もう死んでもいい……」
「うっ、いけない。鼻から赤い汗が……」
「も、もう~、シュリ君ってば。ふ、不意打ちはずるいです。思わずキュンってなっちゃったじゃないですかぁ……」
妙に色っぽく地面に崩れ落ちた彼女達は、少年達の目から見ても明らかに発情した女の顔をしていた。
少年達は、甘い吐息を漏らす女達を見つめ、それから再びシュリを見た。
明らかな尊敬を込めた、きらきらした眼差しで。
「これで、分かったでしょ?好きな子には優しくすること。いいね?」
「「「「「あ、兄貴……」」」」」
「え~と、その、明らかに僕の方が年下だと思うんだけどなぁ~??」
必要以上の熱のこもった少年達の眼差しを受けて、ちょっとやりすぎた感の否めないシュリなのだった。
また別の日。
シュリはジュディスに連れられて、ルゥの両親が営む商店を訪れていた。
ジュディスと一緒に商品を見ながら、忙しく店を切り盛りする二人を観察するシュリ。
やはり、事前調査でジュディスが調べてくれたとおりのようだと思いつつ。
ルゥはあの日、両親は自分を嫌っているのだと言った。
だが、ジュディスに調べてもらった真相はそうではない。
ルゥの両親は、彼らなりにルゥを愛している。
だが、仕事が忙しすぎてついつい聞き分けのいい娘のことを後回ししてしまったのが、最初の失敗だった。
ある時、両親と過ごす時間が極端に少ない生活を寂しく思いながらも、健気に日々を過ごすルゥの耳に、使用人の一人が聞こえよがしに言った言葉が届いてしまったのだ。
あんな気味の悪い髪と目の子供じゃ、旦那様も奥様もイヤになるのは仕方ない、その使用人はそんな心ない言葉を、まだ幼いルゥの前で平然と言ったらしい。
元々態度の悪い使用人で、すぐに他の使用人達はルゥを慰めたようなのだが、一度耳に入ってしまった言葉を消すことは出来なかった。
その日からルゥはふさぎがちになり、ちょうど重なってしまった近所の子供達の好きだからついいじめちゃう攻撃の事もあり、すっかり思いこんでしまったのだ。
自分の持つ色は、人から嫌われている、と。
使用人達は主に叱られるのをおそれて口をつぐみ、両親は知らないのを良い事に忙しさに奔走し、何かがおかしいと気がついた時には色々と修復が難しい状況になっていたと、そういう経緯のようだった。
真面目で人が良さそうで、優しそうなルゥの両親の姿を見ながら、シュリは思う。
(きっと、一緒にいる時間をもっと取るようにすれば、誤解もほどけると思うんだけどなぁ)
と。
両親はルゥを愛しており、ルゥもまた両親が好きなのだ。
一緒に過ごす時間さえ十分に取れれば、わだかまりなどすぐに解けて消えてしまうに違いない。
どうしようかなぁ、とジュディスの腕の中で腕をくみ考える。
店が忙しいのは良い事だし、どうしようも無いことだ。
だが、時間は出来るものではなく、作るもの。
やろうと思えば、娘と一緒に朝食か夕食、どちらかを共にすることくらい出来るはずだ。
シュリは頷き、ジュディスの腕の中から飛び降りる。
そして、すたすたと、まずは仕事が一段落した様子の、ルゥのお母さんの方へと歩き出した。
「こんにちは、ルゥのお母さんですよね?」
おっとりとした穏やかそうなその女性を見上げ、シュリは話しかける。
彼女はシュリの呼びかけに目をまあるくし、でもすぐにひざを折ってしゃがんでシュリと目線をあわせてくれた。
「こんにちは。確かに、私はルゥのお母さんだけど……そう言うあなたはルゥのお友達?」
「はい、初めまして。僕、シュリって言います」
「まあ、小さいのにしっかりしてるのね?ルゥにこんな可愛いお友達がいたなんてびっくりだわ」
彼女はうれしそうにそう言って、ちょっと抱っこさせてね?と断ってからシュリを抱き上げると、これまた仕事が切れた様子の夫の元へと向かった。
「あなた!」
「ああ、ミリア。やっと一段落したね……って、おや、お客様かい?ずいぶんと可愛らしいお客様だが……」
にこやかに妻を振り返った彼は、妻の腕の中にいるシュリを見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「ええ。とってもすてきなお客様。ルゥのお友達なんですって」
「ルゥの?本当かい?」
彼は再び驚いた顔をして、まじまじとシュリを見つめた。
シュリはにっこりとほほえみを返す。
「シュリです。初めまして」
「うん、初めまして。ルゥの学校の友達かな?それにしては、少し小さすぎる気もするけど……まあ、うちのルゥもかなり小さいし、あり得ないことも無いのかな……」
「学校?いえ、僕、ちょっと前に偶然街でルゥと会って、それで……」
ルゥの父親の口から出た、学校、という単語にシュリは内心首を傾げる。
学校と言うと、六歳になったら通える、あれのことだろうか?
シュリはまだ年が足らなくて通えないが、上の三人の姉様が通っているあれ。
ルゥのお父さんの言いようだと、まるでルゥも学校に通っているような口振りだった。
それを聞いたシュリの頭の中で、あれ?ルゥって僕と同じくらいの年だよね??むしろ年下だと思ってたんだけど、そんな思考がぐるぐる渦を巻き始めたが、シュリはプルプルと首を振って、その考えをいったん隅に追いやった。
今はまず、ルゥのご両親と話をする方が大事だ、と。
「そうか、街で……ルゥが学校帰りの時とかにあったのかな?」
「学校帰りかどうかは分からないですけど、ルゥが一人で泣いていて、それで……」
うちの娘も最近やっと学校に通い始めてくれてね、とうれしそうに話す父親の前で、シュリは容赦なく爆弾を落とす。
「え!?ル、ルゥが泣いてたのかい!?どうして!?」
とたんにおろおろし始めるルゥのお父さん。
そんなに娘のことが大事で心配なら、どうにか時間をひねり出して、一緒に過ごしてあげれば良かったのにと、呆れたように思いつつも表面上はしっかりと憂い顔を作ってルゥの事情を彼女の両親に話してあげる。
いじめられてる部分は抜き取って、ルゥが両親に己の容姿がせいで疎まれていると思いこんでいることを。
「ま、まさか!!そんなこと、あるわけ無い!!」
「そ、そうよ。ルゥは可愛い娘よ!?もちろん見た目だって、ほかのどこの子よりも最高に可愛いと思ってるのに!!」
両親は驚愕した様子で、口々にそう言った。
「でも、ルゥは自分は両親に嫌われてるんだって思いこんでるんです。自分の見た目が、人と違うからって」
「「そ、そんな……どうしたら……」」
二人は途方に暮れたように顔を見合わせる。そんな二人にシュリは提案した。
そんなの、簡単なことだと。
「お二人が忙しいのは分かるんですけど、もう少し時間をやりくりして、ルゥと一緒の時間を作ってあげるのはどうですか?たとえば、朝ご飯か夕ご飯は必ず一緒に食べるようにするとか。お二人はルゥが大好きなんだから、きっとそれだけでルゥにはちゃんと二人の愛情が伝わると思いますよ」
そんなシュリの提案に、二人は即座に食いつく。
それは名案だ、ありがとう、早速今晩から実践する、と。
(……これで、ルゥの誤解も解けるよね?)
シュリはうれしくなって、にっこり微笑む。
そして、ルゥのお母さんの腕の中から抜け出すと、ぺこりと頭を下げた。
「よかった。きっとうまくいきますよ?じゃあ、僕はもう行かないと」
そう言ってジュディスの待つ方へと歩き出したシュリの背を、ルゥのお父さんの声が追いかける。
「ありがとう!君のおかげで助かったよ!!これからも、娘と仲良くしてくれると嬉しい」
娘……その言葉に一瞬足が止まりかけたが、どうにか歩き続け、ジュディスの元へ何とかたどり着く。
お帰りなさい、シュリ様♪とジュディスが抱き上げてくれるのに身を任せながら、シュリの頭は高速で回転していた。
正直、ルゥの事は年下のちょっと可愛いだけの男の子だとばかり思ってた。
だが、どうもそうじゃなかったらしい。
あのお父さんの娘さんで、学校に通っている年齢……つまり、ルゥは女の子で、なおかつシュリより年上と言うことになる。
ルゥに対して色々やり過ぎちゃった感のあるシュリは、つつ~っと冷や汗が伝い落ちるのをはっきりと感じた。
いくら年上とはいえ、それでもまだ幼女。
この年からまっしぐらにシュリエンドルートに強制的にご案内する事になるのは、流石に忍びなかった。
だからシュリは思う。
あの子に会うのはもうやめた方がいい、と。
子ウサギみたいで可愛くて、気に入ってはいたけれど仕方がない。
幸い、ルゥの悩みは何とか解決出来たし、ルゥが幸せならそれでいいやと思いつつ、シュリは育ち始めた友情にそっとふたをする。
ルゥが幸せに、元気に過ごすことを祈りながら。
小さな可愛いルゥだけの天使様に会った日から、ルゥを取り巻く環境は激変した。
まず起こった変化は、ルゥを見る度にいじめたりからかったりしてきた近所の男の子達。
彼らは急に優しくなり、ルゥを可愛いと誉めてくれるようになった。
ルゥの大好きなあの子のように。
不思議に思ったルゥはたずねてみた。どうして急に優しくなったのかと。
最初はのらりくらりとごまかし続けた彼らだが、ルゥは諦めなかった。
しつこくしつこく彼らに絡み、最後には根負けしたように、リーダー格のビリーが答えを教えてくれた。
すこしほっぺたを赤くして。
「あ、兄貴が教えてくれたんだよ!」
と。
正直、シュリの名前が出てくるとばかり思っていたルゥはきょとんとしてしまう。
目の前の少年が、その様子が可愛いすぎて悶絶している事など、かけらも気づくことなく。
「兄貴って、だれ?」
「あ、兄貴は兄貴だよ」
ルゥの問いかけに、ビリーは赤い顔をしてふいっと目をそらす。
だが、ルゥは回り込んでビリーを見つめ、ビリーは再び目をそらす……そんな攻防がしばらく続いた。
結局根負けしたのはビリーの方で、彼は別に秘密じゃないしな、と兄貴なる人物について語ってくれた。
曰く、兄貴は一見、ものすごい美少女に見える。
銀色の髪はツヤサラで、菫色の目は大きく濡れたように潤んでいて、ついつい何でも言うことを聞いてしまいそうになる……が!中身は真の男で女にモテモテなのだと言うこと。
曰く、兄貴には大人の女が三人もいて、みんな兄貴にメロメロであるということ。
もちろん、三人はとっても美人である。
とまあ、そんなようなことを、自分のことでもないのにちょっと得意げに話して聞かせた。
そんなビリーの話を聞いて、ルゥはちょっぴり小首を傾げて考え込む。
ビリーが話す兄貴の見た目は、ルゥの知るシュリそのもの。
だが、その兄貴は三人の大人の女の人をメロメロにしているという。
まあ、確かに、ルゥの知るシュリはかっこよくて可愛くて優しくて、女性にモテてしまうのは仕方のないことだとは思うのだ。
問題は……
ルゥはきっと顔を上げて真剣な眼差しでビリーを見た。
ルゥのことを密かに好きなビリーはどっきりと胸を弾ませる。
「ビリー」
「お、おう」
「シュー君……ううん、その兄貴さんの連れてた女の人、どんな感じの人たちだった?」
「どんな感じって、そうだなぁ……みんな美人で、色気があって、おっぱいが大きくて……」
「美人で、色気があって、おっぱいが大きい……」
「ま、まあ、俺にとってはそんな年増なおばさんより、お前の方が可愛いと思うけどな。うん」
ジュディス達が聞いたら、命の保証が出来かねるような事を言って、ビリーは遠回しにルゥへの思いをほのめかす。
が、ルゥはそんなこと全然聞いてはいなかった。
「色気……はまあ、徐々に身につくとして、おっぱいは今から頑張らないと厳しいかも……お母さん、結構大きいし、何とかなるよね??」
ぶつぶつとそんなことを呟きながら、真剣な表情でなにやら考え込んでいる。
そんなルゥの横顔を、まじめな顔も可愛いよなぁとぽーっと見ていたビリーはつい、
「あ、あのさぁ。俺、お前の事好きなんだけど、俺の女にならない?」
うっかりぽろっとそんないきがった告白をしてしまった。
や、やっちまったぁぁぁ!?と思いつつ、真っ赤になってどきどきしながら相手の反応を待つ。
が、いつまでたってもなんの反応も返ってこず、あれ?と顔を上げると、ルゥはさっきと変わらない姿勢のまま、まだブツブツやっていた。
「シュー君はきっと頭の悪い女も嫌いだよね?大人な人が好きなんだもん。絶対そう。そうなると、勉強も頑張らないと。留年してる場合じゃないし、飛び級を目指す勢いで頑張って……」
「なあ!」
ルゥがあまりにがっつり無視してくれるので、ついつい声を荒くして細い肩へ手をかける。
そこでやっとルゥはビリーの存在を思い出したかのように顔を上げた。
「あ、ビリー。なに?」
「な、なにって、あのさぁ」
「あ、情報、ありがとう。おかげでシュー君の理想の女になる計画を早速はじめられそうだよ、ボク」
「は、はあ?な、なんだよ、それ?そ、それよりさぁ、俺の告白……」
「告白?なんのこと??」
「だっ、だからぁ。俺の女になんないかってやつ……」
「あ、ごめん。ムリ」
「へ……?」
余りににっこりサクッと断られ、頭が着いていかないビリーに、ルゥは容赦なく追い打ちをかけた。
「だってボクはもう、シュー君のものだし。シュー君以外の人、考えられないよ。シュー君ってば、優しくてかっこよくて、しかも可愛いんだよ!?もう最強だよね!!……あっ、そろそろ帰って色々対策を練らないと。ビリー、色々教えてくれてありがとね!!」
そう言って、ルゥは明るく元気に空き地から去っていった。
あっさり振られて、抜け殻になったビリーと、そんな彼にどう接していいかおろおろする少年達をその場に残して。
ルゥだけのヒーローに出会って、恋をして。
あれからもう数週間の時が流れた。
いじめっ子達の問題は解決し、両親との仲も良好になり、ルゥは目指す理想の女になるために、学校へもきちんと通っている。
うっかり一年留年してしまったが、元々そんなに頭は悪くない。
頑張って勉強すれば飛び級も夢ではないだろう。
毎日学校へ通い、勉強し、家に帰ると母直伝の豊胸体操を欠かさず行い、そんなそれなりに忙しい日々を過ごしながら、ルゥは毎日のようにある場所へ通っていた。
それは、大好きな人と初めて会った場所。
そこに行けば、また会えるかもしれない……そんな一縷の望みにかけて通い詰めたが、その願いはまだ一度も叶っていない。
だが、ルゥは諦めるつもりなどなかった。
いつか再び会える日のために、今は自分に出来ることをする。
勉強をして賢くなって、ご飯をたくさん食べておっぱいの大きな女らしい体を手に入れて。
いつか再会した愛しい人に、綺麗だと思ってもらえるように。
ルゥはそんなことを思いながら、今日も思い出の場所を後にする。
(でも、髪だけはこのまま……短いままにしよう)
なにか一つくらい変わらないところがなければ、シュリもルゥを見つけにくいだろうから。
いつか再び再会する日のことを思って、ルゥは小さく微笑んだ。
このときのルゥはまだ知る由もないが、三年後、ほぼ己の理想通りに育ったルゥとシュリは無事に再会を果たす。
だが、その理想の実現のせいで、己がシュリのかわいいウサギさんという、ある意味シュリのストライクゾーンど真ん中からかけ離れてしまうことになるとは、夢にも思わないルゥなのであった。
シュリは早速、ルゥをいじめているお友達の所を訪問した。
わかりやすく、わんぱく小僧な少年達は、ルゥの家の近くの空き地を縄張りに、いつもそこで遊んでいるようだ。
シュリは、そこにルゥがいないことをシャイナに確認してもらってから、まずは一人で乗り込んでいった。
「こんにちは~」
にこにこしながら彼らに歩み寄り、屈託無く話しかける。
「おう、こんにちは~……って誰だよ?お前」
少年達の中のリーダー格なのだろう。
シュリよりも年上で体が大きな少年達の中でも、一際大きな体をした少年がシュリをにらんだ。
まあ、ちっとも怖くなかったけど。
この頃のシュリは、カレンと一緒に魔物狩りをする事にハマっていて、そんな人外の奴らに比べれば、少年にガンをつけられるくらい、屁でもなかったのだ。
少年ににらまれるのも気にせずに、シュリは冷静に彼の事を観察する。
(ん~、ちょっとつっぱってて意地っ張りで不器用そう……好きな相手に意地悪しちゃうタイプだよなぁ)
そんなことを思いつつ、シュリはもう一回、少年達に向かってにっこりと微笑みかけた。
その、可愛らしくも邪気のない微笑みに、少年達がひるむのが分かる。
なんか、かわいくね?とか、すっごい美少女だよな、とか……そんなさえずりが聞こえるけど気にしない。
美少女じゃなくて美少年だい!などと反論するつもりもない。
というか、自分を表現するのに、美をつけるなんて、恥ずかしくてできる気がしない。
シュリは少年達の熱い眼差しを華麗にスルーして、リーダーと思われる少年をじっと見上げた。
「僕はルゥの友達だよ」
「あいつの?ってか、お前もボクっ娘なのかよ!?見た目もハンパなくかわい……ごほん。ま、まあ、類は友を呼ぶっつーか、あいつの友達って感じだけどよ……んで?あいつの友達が俺たちになんのようなわけ?」
「ん~と、今日はちょっと忠告……というか、アドバイスに?」
「アドバイスぅ~?」
「うん。同じ男としてね。君達のためにもなるアドバイスだよ」
「おっ、おとこぉ!?おま、男だったのかよ!?」
えへんと胸を張ってそういうと、少年達は飛び上がるくらいに驚いてまじまじとシュリを見てきた。
シュリは唇を尖らせ、
「僕は立派な男だよ!?どこをどう見て男じゃないって思うのさ!?」
そう反論すると、
「いや、なにをどう見ても超絶美少女だろ……」
真顔でそう答えを返された。
失礼だな~とほっぺたをふくらませつつも、シュリはとりあえずその論争は横に置いておくことにした。
今日ここに来たのは、シュリが男か女かを論じる為ではない。
ルゥがいじめられなくなるように、手を打つ為なのだから。
「ま、それはいいや。それより、僕から君達にアドバイスだよ」
「いいのかよ!?ま、俺達だって、お前が男だろうと女だろうと関係ねぇけどよ。で、なんだよ?そのアドバイスってのは??」
なにやら妙に毒気を抜かれた様子で聞いてきた。
シュリはにっこり笑って答える。
「男が女の子にモテる極意だよ」
「「「「「なっ、なにぃぃぃ!?」」」」」
シュリの言葉に、少年達の目の色が変わった。
こんな子供達でも、異性にモテたいという欲求はいっちょ前にあるらしい。
自分が彼らよりももっとずっと小さい子供だと言うことを棚に上げてそう思いつつ、シュリはごく当たり前の事柄を彼らに告げる。
「簡単なことだよ。好きな相手は、いじめるよりも優しくしてあげること。恥ずかしいのは分かるけど、いじめてもその子は君達を好きになってくれないし、むしろ嫌われる一方だよ?」
思い当たる節があるのだろう。その言葉を受けた彼らが気まずそうに目を交わしあう。
だが、リーダーは周囲の少年達よりも、ほんの少し意地っ張り度が高かった。
「んだよ?結局、あれだろ?ルゥをいじめんなって言いにきただけだろ?そんなことくらいで、女にモテるようになんてなるもんか」
彼は唇を尖らせてそう言った。
「え?ルゥをいじめないでほしいのは確かだけど、さっき言ったのもホントのことだよ?」
そんなことで嘘をついても仕方ないでしょ?とシュリは笑い、小さな手でパチンと器用に指を鳴らした。
すると、それを合図に空き地に入ってくる三人の美女達。
少年達が思わずぽーっと見とれる中、三人は迷うことなくシュリに歩み寄り、その中の一人が代表してシュリを抱き上げた。
そして代わる代わる、心底愛おしそうにシュリにキスをする様を、少年達に思う存分見せつける。
そして、彼女達とのキスが一通り終わってから、シュリは少年達を見下ろして、
「ね?」
と無邪気に微笑んだ。
「ね?じゃねーよ!?なんなんだよ、その人たちは!?」
リーダーの少年が吠える。
だが、シュリはなんら動じることなく、にこやかに答えた。
「ん?なにって、僕の女?」
ちょっと疑問系だが、そこはご愛敬である。
だが、シュリのその言葉を聞いた瞬間、三人の女は一斉に腰砕けになった。
「はぁん……シュリ様が、私のことを僕の女って……も、もう死んでもいい……」
「うっ、いけない。鼻から赤い汗が……」
「も、もう~、シュリ君ってば。ふ、不意打ちはずるいです。思わずキュンってなっちゃったじゃないですかぁ……」
妙に色っぽく地面に崩れ落ちた彼女達は、少年達の目から見ても明らかに発情した女の顔をしていた。
少年達は、甘い吐息を漏らす女達を見つめ、それから再びシュリを見た。
明らかな尊敬を込めた、きらきらした眼差しで。
「これで、分かったでしょ?好きな子には優しくすること。いいね?」
「「「「「あ、兄貴……」」」」」
「え~と、その、明らかに僕の方が年下だと思うんだけどなぁ~??」
必要以上の熱のこもった少年達の眼差しを受けて、ちょっとやりすぎた感の否めないシュリなのだった。
また別の日。
シュリはジュディスに連れられて、ルゥの両親が営む商店を訪れていた。
ジュディスと一緒に商品を見ながら、忙しく店を切り盛りする二人を観察するシュリ。
やはり、事前調査でジュディスが調べてくれたとおりのようだと思いつつ。
ルゥはあの日、両親は自分を嫌っているのだと言った。
だが、ジュディスに調べてもらった真相はそうではない。
ルゥの両親は、彼らなりにルゥを愛している。
だが、仕事が忙しすぎてついつい聞き分けのいい娘のことを後回ししてしまったのが、最初の失敗だった。
ある時、両親と過ごす時間が極端に少ない生活を寂しく思いながらも、健気に日々を過ごすルゥの耳に、使用人の一人が聞こえよがしに言った言葉が届いてしまったのだ。
あんな気味の悪い髪と目の子供じゃ、旦那様も奥様もイヤになるのは仕方ない、その使用人はそんな心ない言葉を、まだ幼いルゥの前で平然と言ったらしい。
元々態度の悪い使用人で、すぐに他の使用人達はルゥを慰めたようなのだが、一度耳に入ってしまった言葉を消すことは出来なかった。
その日からルゥはふさぎがちになり、ちょうど重なってしまった近所の子供達の好きだからついいじめちゃう攻撃の事もあり、すっかり思いこんでしまったのだ。
自分の持つ色は、人から嫌われている、と。
使用人達は主に叱られるのをおそれて口をつぐみ、両親は知らないのを良い事に忙しさに奔走し、何かがおかしいと気がついた時には色々と修復が難しい状況になっていたと、そういう経緯のようだった。
真面目で人が良さそうで、優しそうなルゥの両親の姿を見ながら、シュリは思う。
(きっと、一緒にいる時間をもっと取るようにすれば、誤解もほどけると思うんだけどなぁ)
と。
両親はルゥを愛しており、ルゥもまた両親が好きなのだ。
一緒に過ごす時間さえ十分に取れれば、わだかまりなどすぐに解けて消えてしまうに違いない。
どうしようかなぁ、とジュディスの腕の中で腕をくみ考える。
店が忙しいのは良い事だし、どうしようも無いことだ。
だが、時間は出来るものではなく、作るもの。
やろうと思えば、娘と一緒に朝食か夕食、どちらかを共にすることくらい出来るはずだ。
シュリは頷き、ジュディスの腕の中から飛び降りる。
そして、すたすたと、まずは仕事が一段落した様子の、ルゥのお母さんの方へと歩き出した。
「こんにちは、ルゥのお母さんですよね?」
おっとりとした穏やかそうなその女性を見上げ、シュリは話しかける。
彼女はシュリの呼びかけに目をまあるくし、でもすぐにひざを折ってしゃがんでシュリと目線をあわせてくれた。
「こんにちは。確かに、私はルゥのお母さんだけど……そう言うあなたはルゥのお友達?」
「はい、初めまして。僕、シュリって言います」
「まあ、小さいのにしっかりしてるのね?ルゥにこんな可愛いお友達がいたなんてびっくりだわ」
彼女はうれしそうにそう言って、ちょっと抱っこさせてね?と断ってからシュリを抱き上げると、これまた仕事が切れた様子の夫の元へと向かった。
「あなた!」
「ああ、ミリア。やっと一段落したね……って、おや、お客様かい?ずいぶんと可愛らしいお客様だが……」
にこやかに妻を振り返った彼は、妻の腕の中にいるシュリを見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「ええ。とってもすてきなお客様。ルゥのお友達なんですって」
「ルゥの?本当かい?」
彼は再び驚いた顔をして、まじまじとシュリを見つめた。
シュリはにっこりとほほえみを返す。
「シュリです。初めまして」
「うん、初めまして。ルゥの学校の友達かな?それにしては、少し小さすぎる気もするけど……まあ、うちのルゥもかなり小さいし、あり得ないことも無いのかな……」
「学校?いえ、僕、ちょっと前に偶然街でルゥと会って、それで……」
ルゥの父親の口から出た、学校、という単語にシュリは内心首を傾げる。
学校と言うと、六歳になったら通える、あれのことだろうか?
シュリはまだ年が足らなくて通えないが、上の三人の姉様が通っているあれ。
ルゥのお父さんの言いようだと、まるでルゥも学校に通っているような口振りだった。
それを聞いたシュリの頭の中で、あれ?ルゥって僕と同じくらいの年だよね??むしろ年下だと思ってたんだけど、そんな思考がぐるぐる渦を巻き始めたが、シュリはプルプルと首を振って、その考えをいったん隅に追いやった。
今はまず、ルゥのご両親と話をする方が大事だ、と。
「そうか、街で……ルゥが学校帰りの時とかにあったのかな?」
「学校帰りかどうかは分からないですけど、ルゥが一人で泣いていて、それで……」
うちの娘も最近やっと学校に通い始めてくれてね、とうれしそうに話す父親の前で、シュリは容赦なく爆弾を落とす。
「え!?ル、ルゥが泣いてたのかい!?どうして!?」
とたんにおろおろし始めるルゥのお父さん。
そんなに娘のことが大事で心配なら、どうにか時間をひねり出して、一緒に過ごしてあげれば良かったのにと、呆れたように思いつつも表面上はしっかりと憂い顔を作ってルゥの事情を彼女の両親に話してあげる。
いじめられてる部分は抜き取って、ルゥが両親に己の容姿がせいで疎まれていると思いこんでいることを。
「ま、まさか!!そんなこと、あるわけ無い!!」
「そ、そうよ。ルゥは可愛い娘よ!?もちろん見た目だって、ほかのどこの子よりも最高に可愛いと思ってるのに!!」
両親は驚愕した様子で、口々にそう言った。
「でも、ルゥは自分は両親に嫌われてるんだって思いこんでるんです。自分の見た目が、人と違うからって」
「「そ、そんな……どうしたら……」」
二人は途方に暮れたように顔を見合わせる。そんな二人にシュリは提案した。
そんなの、簡単なことだと。
「お二人が忙しいのは分かるんですけど、もう少し時間をやりくりして、ルゥと一緒の時間を作ってあげるのはどうですか?たとえば、朝ご飯か夕ご飯は必ず一緒に食べるようにするとか。お二人はルゥが大好きなんだから、きっとそれだけでルゥにはちゃんと二人の愛情が伝わると思いますよ」
そんなシュリの提案に、二人は即座に食いつく。
それは名案だ、ありがとう、早速今晩から実践する、と。
(……これで、ルゥの誤解も解けるよね?)
シュリはうれしくなって、にっこり微笑む。
そして、ルゥのお母さんの腕の中から抜け出すと、ぺこりと頭を下げた。
「よかった。きっとうまくいきますよ?じゃあ、僕はもう行かないと」
そう言ってジュディスの待つ方へと歩き出したシュリの背を、ルゥのお父さんの声が追いかける。
「ありがとう!君のおかげで助かったよ!!これからも、娘と仲良くしてくれると嬉しい」
娘……その言葉に一瞬足が止まりかけたが、どうにか歩き続け、ジュディスの元へ何とかたどり着く。
お帰りなさい、シュリ様♪とジュディスが抱き上げてくれるのに身を任せながら、シュリの頭は高速で回転していた。
正直、ルゥの事は年下のちょっと可愛いだけの男の子だとばかり思ってた。
だが、どうもそうじゃなかったらしい。
あのお父さんの娘さんで、学校に通っている年齢……つまり、ルゥは女の子で、なおかつシュリより年上と言うことになる。
ルゥに対して色々やり過ぎちゃった感のあるシュリは、つつ~っと冷や汗が伝い落ちるのをはっきりと感じた。
いくら年上とはいえ、それでもまだ幼女。
この年からまっしぐらにシュリエンドルートに強制的にご案内する事になるのは、流石に忍びなかった。
だからシュリは思う。
あの子に会うのはもうやめた方がいい、と。
子ウサギみたいで可愛くて、気に入ってはいたけれど仕方がない。
幸い、ルゥの悩みは何とか解決出来たし、ルゥが幸せならそれでいいやと思いつつ、シュリは育ち始めた友情にそっとふたをする。
ルゥが幸せに、元気に過ごすことを祈りながら。
小さな可愛いルゥだけの天使様に会った日から、ルゥを取り巻く環境は激変した。
まず起こった変化は、ルゥを見る度にいじめたりからかったりしてきた近所の男の子達。
彼らは急に優しくなり、ルゥを可愛いと誉めてくれるようになった。
ルゥの大好きなあの子のように。
不思議に思ったルゥはたずねてみた。どうして急に優しくなったのかと。
最初はのらりくらりとごまかし続けた彼らだが、ルゥは諦めなかった。
しつこくしつこく彼らに絡み、最後には根負けしたように、リーダー格のビリーが答えを教えてくれた。
すこしほっぺたを赤くして。
「あ、兄貴が教えてくれたんだよ!」
と。
正直、シュリの名前が出てくるとばかり思っていたルゥはきょとんとしてしまう。
目の前の少年が、その様子が可愛いすぎて悶絶している事など、かけらも気づくことなく。
「兄貴って、だれ?」
「あ、兄貴は兄貴だよ」
ルゥの問いかけに、ビリーは赤い顔をしてふいっと目をそらす。
だが、ルゥは回り込んでビリーを見つめ、ビリーは再び目をそらす……そんな攻防がしばらく続いた。
結局根負けしたのはビリーの方で、彼は別に秘密じゃないしな、と兄貴なる人物について語ってくれた。
曰く、兄貴は一見、ものすごい美少女に見える。
銀色の髪はツヤサラで、菫色の目は大きく濡れたように潤んでいて、ついつい何でも言うことを聞いてしまいそうになる……が!中身は真の男で女にモテモテなのだと言うこと。
曰く、兄貴には大人の女が三人もいて、みんな兄貴にメロメロであるということ。
もちろん、三人はとっても美人である。
とまあ、そんなようなことを、自分のことでもないのにちょっと得意げに話して聞かせた。
そんなビリーの話を聞いて、ルゥはちょっぴり小首を傾げて考え込む。
ビリーが話す兄貴の見た目は、ルゥの知るシュリそのもの。
だが、その兄貴は三人の大人の女の人をメロメロにしているという。
まあ、確かに、ルゥの知るシュリはかっこよくて可愛くて優しくて、女性にモテてしまうのは仕方のないことだとは思うのだ。
問題は……
ルゥはきっと顔を上げて真剣な眼差しでビリーを見た。
ルゥのことを密かに好きなビリーはどっきりと胸を弾ませる。
「ビリー」
「お、おう」
「シュー君……ううん、その兄貴さんの連れてた女の人、どんな感じの人たちだった?」
「どんな感じって、そうだなぁ……みんな美人で、色気があって、おっぱいが大きくて……」
「美人で、色気があって、おっぱいが大きい……」
「ま、まあ、俺にとってはそんな年増なおばさんより、お前の方が可愛いと思うけどな。うん」
ジュディス達が聞いたら、命の保証が出来かねるような事を言って、ビリーは遠回しにルゥへの思いをほのめかす。
が、ルゥはそんなこと全然聞いてはいなかった。
「色気……はまあ、徐々に身につくとして、おっぱいは今から頑張らないと厳しいかも……お母さん、結構大きいし、何とかなるよね??」
ぶつぶつとそんなことを呟きながら、真剣な表情でなにやら考え込んでいる。
そんなルゥの横顔を、まじめな顔も可愛いよなぁとぽーっと見ていたビリーはつい、
「あ、あのさぁ。俺、お前の事好きなんだけど、俺の女にならない?」
うっかりぽろっとそんないきがった告白をしてしまった。
や、やっちまったぁぁぁ!?と思いつつ、真っ赤になってどきどきしながら相手の反応を待つ。
が、いつまでたってもなんの反応も返ってこず、あれ?と顔を上げると、ルゥはさっきと変わらない姿勢のまま、まだブツブツやっていた。
「シュー君はきっと頭の悪い女も嫌いだよね?大人な人が好きなんだもん。絶対そう。そうなると、勉強も頑張らないと。留年してる場合じゃないし、飛び級を目指す勢いで頑張って……」
「なあ!」
ルゥがあまりにがっつり無視してくれるので、ついつい声を荒くして細い肩へ手をかける。
そこでやっとルゥはビリーの存在を思い出したかのように顔を上げた。
「あ、ビリー。なに?」
「な、なにって、あのさぁ」
「あ、情報、ありがとう。おかげでシュー君の理想の女になる計画を早速はじめられそうだよ、ボク」
「は、はあ?な、なんだよ、それ?そ、それよりさぁ、俺の告白……」
「告白?なんのこと??」
「だっ、だからぁ。俺の女になんないかってやつ……」
「あ、ごめん。ムリ」
「へ……?」
余りににっこりサクッと断られ、頭が着いていかないビリーに、ルゥは容赦なく追い打ちをかけた。
「だってボクはもう、シュー君のものだし。シュー君以外の人、考えられないよ。シュー君ってば、優しくてかっこよくて、しかも可愛いんだよ!?もう最強だよね!!……あっ、そろそろ帰って色々対策を練らないと。ビリー、色々教えてくれてありがとね!!」
そう言って、ルゥは明るく元気に空き地から去っていった。
あっさり振られて、抜け殻になったビリーと、そんな彼にどう接していいかおろおろする少年達をその場に残して。
ルゥだけのヒーローに出会って、恋をして。
あれからもう数週間の時が流れた。
いじめっ子達の問題は解決し、両親との仲も良好になり、ルゥは目指す理想の女になるために、学校へもきちんと通っている。
うっかり一年留年してしまったが、元々そんなに頭は悪くない。
頑張って勉強すれば飛び級も夢ではないだろう。
毎日学校へ通い、勉強し、家に帰ると母直伝の豊胸体操を欠かさず行い、そんなそれなりに忙しい日々を過ごしながら、ルゥは毎日のようにある場所へ通っていた。
それは、大好きな人と初めて会った場所。
そこに行けば、また会えるかもしれない……そんな一縷の望みにかけて通い詰めたが、その願いはまだ一度も叶っていない。
だが、ルゥは諦めるつもりなどなかった。
いつか再び会える日のために、今は自分に出来ることをする。
勉強をして賢くなって、ご飯をたくさん食べておっぱいの大きな女らしい体を手に入れて。
いつか再会した愛しい人に、綺麗だと思ってもらえるように。
ルゥはそんなことを思いながら、今日も思い出の場所を後にする。
(でも、髪だけはこのまま……短いままにしよう)
なにか一つくらい変わらないところがなければ、シュリもルゥを見つけにくいだろうから。
いつか再び再会する日のことを思って、ルゥは小さく微笑んだ。
このときのルゥはまだ知る由もないが、三年後、ほぼ己の理想通りに育ったルゥとシュリは無事に再会を果たす。
だが、その理想の実現のせいで、己がシュリのかわいいウサギさんという、ある意味シュリのストライクゾーンど真ん中からかけ離れてしまうことになるとは、夢にも思わないルゥなのであった。
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