探偵絢辻真希の推理

無知葉 奈央

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第二話『殺意なき殺人』弐

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依頼人の恋人、葉山 美月の遺体が発見されたのは彼女が住んでいるマンションの自室だった。
マンションの周りには立ち入り禁止のテープが張られ、警察官と野次馬が集まっていた。
私と絢辻は近くのコインパーキングに車を止め、歩いてマンションに向かった。
マンションの入り口前には二人の制服警官と、スーツにコートを羽織り、白手をつけた刑事が一人いた。
入り口に近づき、黄色のテープをくぐって中に入ると、立っていた制服警官が進路を塞いだ。
そこへ慌てて刑事が寄って来た。
「その人はいい、通してくれ」
刑事の言葉で、制服警官が道を開ける。
「お疲れ様です、三好警部」
絢辻が刑事に話しかける。
「全く、急だったから手配に苦労したよ。今度からは止めて欲しいね」
三好はため息をつきながら私と絢辻に白手を渡した。
「そちらの方は助手さん?」
「あ、若菜ちゃんはミステリー作家なの。助手と思ってくれていいよ」
所長もだが、どうやら絢辻も私のことを探偵事務所の職員だと思っているらしい。
「どうも、村瀬です」
もう訂正するのを諦めて名乗る。
「岐阜県警の三好です。あの、村瀬若菜ってもしかして白雪の殺人の?」
驚いた。白雪の殺人は私のデビュー作だ。四年前に出版されたものだが、知っている人がいたとは。
「はい。あれはデビュー作です。よくご存知で」
「いやぁ、あれは面白かったですよ。それ以来、村瀬先生のファンでして。あ、握手していただいても?」
「えぇ!いいですよ。私もファンの方に出会えて嬉しいです」
私と三好警部はお互いに手を出し、握手を交わした。
「三好警部、若菜ちゃん。早く行くよ」
すでに入り口のドアを抜けていた絢辻が言う。
「…我々も行きましょうか」
「えぇ、そうですね」
私と三好警部はお互いの顔を見て笑い合うと慌てて絢辻の後を追った。


「鑑識の調べによると、死因は窒息死。おそらくクッションか何かを長時間押し付けられたのだと思います。部屋は荒らされており、金目のものは持ち去られています。遺体に争った形跡がないことから顔見知りの犯行と思われます」部屋に着くまでの移動時間に、三好が簡単な報告をしてくれた。
「第一発見者は誰なんですか?」
絢辻が貰った白手をつけながら聞いた。
「第一発見者は恋人の城島隼人三十二歳。フォトスタジオKIZIMAの経営者です。自身もプロのカメラマンとしてこの業界ではそれなりに知られているそうです。殺された恋人の葉山美月は専属モデルだったようで」
「なるほど。まずは会ってみないとですね。彼はまだ部屋に?」
「えぇ。うちの飯島が話を聞いています。どうぞこっちです」
三好が先頭に立って案内する。
被害者の部屋はマンションの六階、角を曲がった先にある一番奥の部屋だった。
「へぇ、ここだけ角の奥にあるのか。全然分からないな」
エレベーターと階段は被害者の部屋の反対側の端にある。そのため、エレベーターを降りてすぐ、全ての部屋のドアが見える。しかし、被害者の部屋は角を曲がったところにあるのでぱっと見、部屋があるとは分からない。
「曲がり角に、ちょうど被害者の部屋の方に防犯カメラが取り付けてあるんですが、それも壊されてました。死角から鈍器で一撃です」
三好が廊下の角を指差す。
確かに防犯カメラがあった。一目見て、機能していないことがわかる状態だった。
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