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読者様リクエストコーナー

小田原愛子 1

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*小田原愛子 本編/小田原愛子 番外編を読んでいない人はネタバレ注意です*





 4月。
 また新しい季節がやってきた。
 春は出会いの季節というけれど、私にとっては別れの季節に過ぎなかった。
 私はここ、桜丘学院で保健医として働いている。
 何年間かここで働いているけれど、こんなに悲しく春を迎えたのは初めてだった。
 桜丘学院はその名の通り一面桜ばかりの丘で、この季節は満開の桜が見える。
 私は学院の屋上から桜を見るのが好き。
 でも今日、屋上から桜を見ても、心に響くものがない。
 まるで抜け殻みたいに、ぽっかりと何かが空いたままだ。
 
「こんにちは、小田原先生」

 そう声をかけてきてくれたのは…

「高宮…先生……」

 高宮先生。数ヶ月前、高宮先生から生徒を好きになってしまったという相談を受けた。
 私はそれからを気にかけるようになっていったんだ。
 だから高宮先生はきっかけとなった人でもある。

「元気がないように見えたので…
 大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ!」
のことですか?」
「えっ?!」

 高宮先生にまっすぐな瞳で見つめられる。
 彼って……まさか…
 でもどうして高宮先生が知っているの?
 いやいや、そんなわけない。

「『その気持ちが嘘じゃないなら素直になってもいいと思いますよ』」
「っ?!」
「この言葉は小田原先生が私におっしゃった言葉です。
 この言葉にどれだけ救われたか……」
「………」
「素直になりましょう?小田原先生」
「………本当は、辛いんです」

 だめだだめだと心の中で止めても、高宮先生なら分かってくれる、そう思って本音をもらした。

「彼が、急に、いなくなってしまって…
 でも私たちがしていることはいけないことですし、どこかで諦めなければならなかったんです。
 子供だって思っていたら、あっという間に行ってしまいました……」

 涙をこらえながらゆっくりゆっくり言葉を選んで話した。
 高宮先生は真剣に話を聞いてくれている。

「実は、彼からお願いされたことがありまして…」
「………なんでしょうか」



  『高宮先生』
  『お、どうした、柏木。珍しいな』
  『みわと付き合ってるんだろ?』
  『何を冗談言ってるんだ』
  『まあ、先生が認めないならいいや。
   俺、証拠の写真とか持ってるから。
   どうなっても知らないけどね』
  『ま、待て!話を…聞こう』
  『これは契約だよ。先生が守ってくれないなら
   みわとのことは保障できないから』
  『………わかった』
  『小田原先生の変な噂とか流れてたら、
   それは勘違いだからって否定してほしい』
  『ま、待て!話が読めないんだが……』
  『読まなくていい。
   だけど、もしそういうことがあったら
   否定してほしいだけだから』
  『………わかった』
  『言ったら速攻クビにしてやるから』



「……と言われました。本当は秘密にしておかなければならないことなのでしょうけど、彼はもう生徒じゃありません・・・・・・・・・から」
「そんなことが……」
「強がって、脅すようなことをしたんでしょうけど、結局は先生のことを守りたかったんでしょうね」
「……高宮先生!私、まちが「あーいたいた!探しましたよ!2人とも、新年会の話するっていったじゃないっすか!」」
「あっ、はい!」



 結局その話はそこで終わってしまい、新年会当日になってしまった。

 一次会の居酒屋で先生たちと会話をする。
 普段私は職員室に行くことがないのであまり話したことがない先生が多い。

「小田原先生とかって彼氏いないんすかー?」

 新任の先生がお酒に酔った勢いで聞いてくる。

「いませんよ~、さあさあ、私なんかよりも学年部の方へ行った方がいいと思いますよ」
「ふぁ~い」

 はあ、帰りたい。



「じゃあ二次会行く人~」
「高宮先生は残らないんすか?」
「ああ」
「あ、彼女っすか?」
「まあ、そうだ」

 すごい、高宮先生は堂々としてる。
 もう生徒ではないと言っても、去年までは生徒だった人と付き合っていると知られたら白い目で見られるはずなのに。
 そんなのも関係ないんだろうな…
 私は、どうなんだろう……
 素直に、ならないと………

「よっしゃ」
「どうしてよっしゃ、なんて言うの?」
「だって、小田原先生と高宮先生付き合ってるのかなって思ったんすもん!」
「どうして?」
「屋上であんな話し込んでたら怪しいじゃないっすか~。
 でもそうじゃないと決まったら、2人で飲みにいきましょーよ!」

 そういうと私の腕をがっしりと掴んでくる。

「やめてください、はなして!」
「そう言わずに~」

 周りの先生たちも酔っ払っていて、私たちのことに気がついても大したことじゃないな、という風に思っているようだ。
 私は気が気じゃなくて飲もうと思っても飲めなかったからシラフ同然なのに…

「俺、おすすめのバーがあるんすよ!」
「ちょっ、本当に!やめて、行かないからっ」

 どんどん掴む力が強くなって引っ張られていく。
 痛い、離して、だけど高宮先生は既に帰ってしまったし、誰も気がついてくれない。

「誰かっ、たすけて」
「さあさあ、こっちっすよ~「おい」」

 どんどん引っ張られて行く方から声がした。
 顔を上げるとそこにはいるはずのないがいた。

「その人、嫌がってるじゃねーかよ」
「はあ?お前誰だよ」
「通りすがりのやつだけど?
 その人、離してやれよ」
「通りすがりのやつに言われる筋合いはないんだよね~」
「セクハラって知ってます?俺、この写真ばらまいていいっすか?桜丘学院の新聞部あたりにでも売りつけちゃおっかなあ」

 そう言いながらスマホをちらつかせる。
 するとビビってしまったのだろうか、

「あ!よ、用事があったんだったなあ、んじゃ俺はこれで!」

 あっという間に去ってしまった。

「じゃ、俺はこれで」

 そう言って私に背を向けて彼は去っていく。
 嫌だ、行かないで、私は素直になるって決めたから。

「待って!」

 彼は歩みを止めない。

「お願い、待って!」

 私は走って追いかける。
 少しずつ距離が縮んでいく。

「私はっ!」

 ようやく追いついて、後ろから彼に抱きつく。
 お願い、私の気持ちが届きますように。

「柏木くんが、好き」

 柏木くんは歩みを止め、ゆっくりと私の手を解くと、振り向いてこう言った。

「俺だって、先生が好きだよ!だけど……」

 私は柏木くんの言葉を遮ってこう言った。

「柏木くん、私はもうあなたの先生じゃない」

 柏木くんは、はははと笑ってこう言った。

「………じゃあ、俺の何なの?」
「私を……彼女にしてください」

 そういうと柏木くんは驚いたような表情を見せ、そのまま何も言えずにいる。

「………それって、どういうことかわかってんの?
 なんのために、俺が距離を置いたと思ってんの?」
「わかってるわ!
 でももう気持ちにうそはつけない。
 だって、私は柏木くんのことがっ」

 ちゅっ

 唇が触れた。

「俺だって、辛かったに決まってるじゃん…
 こんなガキと付き合ってくれるわけないって思ってたし」
「私が………
 柏木くんを大人にしてあげる」
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