ひさめんとこ

zausu

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8章 ~旧友~

その7

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その人に初めてあったときの印象は『変わった人』だった。

小学3年の頃。
ある日の体育の時間。
「あれ?見学なん?」
声をかけてきた一人の女の子。 
クラス替えで初めて同じクラスになった子だ。
「…うん」
「どないして?」
「生まれつき体が弱いの…だからいつも休ませてもらってるんだ」
「へぇー…」
“かわいそうだね”
どうせ続く言葉はこれだろう。
今まで腐るほど聞いてきた。
“大変だよね”“辛いでしょ?”“頑張ってね”
みんな口を揃えてこう言う。
“大丈夫だよ。ありがとう”
口ではそう答える。
(嘘つき)
心のなかではいつもそう思っている。
本当はそんなこと思ってなんかないんでしょ?
ただ珍しいものを見て、気になるから聞いてるだけ。
そこにあるのはであってではないって。
私は痛いほど知ってる。
私は“かわいそう”と言う言葉が大嫌いだ。
表面上哀れみの気持ちを持っているように見せかけて、心の中では皆見下してる。
自分達の常識にものを当てはめて考えて人をかわいそう呼ばわりする。
(私はかわいそうなんかじゃない)
って、何度も叫びたかった。
「…おーい、どうかしたん?」
「…あ…」
つい考え込んでしまった。悪い癖だ、と思う。
「そっかー、生まれつきか…」
「うん…」

「ええなぁー!ウチもそうなりたかった!」
「…」
えっ?
「そうなりたかったっ…て…?」
「だって楽やん?めんどくさいあんなことやこんなこと全部無理でーすって出来るやん!」
「…はぁ…」
実際はそんなことない。
ただ、初めての反応だった。
「ウチなんか今日の体育のメンドイから腹痛やーっつってサボってん!」
「…そうなの?」
「そりゃそうやろー!こんな暑い中ランニングなんてやってられへんて!」
「あはは…」
「あ…笑った」
「えっ…?」
笑った?
思えば学校で笑ったのはいつぶりだっただろうか。
「笑った顔かわいいねんなー。始めてみたわー」
「そ、そうかな…?」 
「そうやって!ウチ愛美路って言うねん!よろしゅうな!」
「うん…私は屋井…よろしくね」
初めて、私を対等に見てくれる人が来たんだ、そう思った。

その人にもった二つ目の印象は『優しい人』だった。

「よー!屋井!今日も元気か!?」
「…元気だったら学校休んでないよ…」
「んー、それもそうやなー」
「あぁ、忘れるところやった。これ、今日もろたプリント。受け取りや」
「うん、ありがとう」
「あー、その算数の宿題忘れん方がええで、先生が忘れたら4年にしないっていっとった」
「あはは…それ冗談でしょ?」
「そりゃそうやろ!」
そうして笑い合った。

その人の三つ目の印象は『忙しないひと』だった。

「ねぇ、今日の昼休みさ…」
「あぁ!スマン!今日は予定があるねん!そっち優先させてぇーや!」
「え…確か今日も…一昨日も…」
「最近毎日のようにやからな…スマン!この通りや!」
「何も謝らなくたっていいよ…」
「この埋め合わせは絶対明日するから
!な!」
「うん、わかった」

その人の四つ目の印象は『         』だった。

次の日も結局愛美路何処かに行っていた。
屋井はその後をこっそりとつけていった。
(そんなに大変な仕事なら手伝えることはあるはず)
そう考えて。
そして、
彼女は、
これから起こるすべての事柄に後悔することになる。
「…あ、愛美路さ…ん…?」
体育館裏まで来た。
そこに居たのは愛美路と、もう一人、学年でかわいいと話題の女の子の佐藤さんだ。
見ると佐藤さんは地面にうずくまっている。
「…」ボソボソ
「…」ボソボソ 
なにやら話しているが距離が遠いせいかよく聞こえない。
ガサッ
少し動いた拍子に足元の草むらが音を立ててしまった。
「…!」
「あれ、屋井…?」
「…こ、こんにちは…」
「なんだ、誰かいると思ったら屋井かー、ならええわ」
「う、うん。どうしたの?」
佐藤さんの方を見ると、
「…」
相変わらずうずくまったままなにも言わない。よく見ると怪我をしているようだ。
「あの…佐藤さんはどうしたの?」
「なんでもあらへんよ。ちょっと一緒に遊んでただけや」
「そう…」
「…けて」
「…えっ?」
「助けて…」
「えっ…?」
「はーい。口出し厳禁」
そう言っていきなり腹部に蹴りを入れた。
「うぅ…」
「えっ?ちょっと愛美路さん…それは何を「あぁ、そうだ!」」
「屋井も、一緒にやってみいひんか?」
「えっ…?」
「ほら、そいつを後ろから押さえるだけでええねん。はよはよ!」
「…嫌だよ!だって…だって…!」
「嫌だ…?んー…なかなか変わった返事やな…屋井、一つ勘違いしてるようやから言っておくわ」
「な…何…?」
グイッと顔を近づけてきた。
目の前に迫る顔に思わず顔を背ける。
「お 前 に 拒 否 権 が あ る と で も お も っ と っ た ん か ?」
「えっ…」
腹部に激痛が走る。
「…!」
声が出ない。咳が止まらない。
「ほら、体弱いんやろ?さっさと押さえんともう一発行くで」
「…なんで…なんでこんなこと…」
「…なんで、ねぇ…屋井。一ついいこと教えたる」
「良いこと…?」
「『上に上がりたいのなら他人を蹴落とせ』ってな」
「…なんで…?なんで…あんなに優しかったのに…!」
「優しかった?そりゃあそうやろ…だってな…」

「お前は元々底辺だったやろ?」
「…そんな…」
「見た目もそこまでかわいいと言うわけでもなし、学力も平凡、その上運動も出来ないと。そんな奴がウチの前に立てるわけがないやろ?…さてと、無駄話はそろそろやめなあかんな。ほら、屋井…押さえろ。殴られたくないやろ?」
「…」
後ろに回って押さえつける。
「…ごめんなさい…」
「良い子や…そのまましっかりと押さえとき」
「…もうやめて…よ…」
「だーめ♪」
人気のない体育館裏に殴打音が響いた。

一年後
「気に入らへんなぁ…」
「…」
この言葉をいままで何度聞いただろうか。
「…屋井、昼休み、空いとるよな?」
「…うん」
断ればどうなるか…わかっている分質が悪い。
「よし!それじゃあか!」
「…」
きっともう私は戻れないのだろう。
「転校生も一緒に、な?」
もう嫌だ。
誰も傷つけたくないのに。
私自身の弱さに嫌気がさす。
また一人犠牲者は増えていく。
皆を守りたいと思ってる。
でも何も出来ないことを知ってる。
無力で、無力で、無力で。
結局私は、
自分自身の保身の為に、
他人を犠牲にしている。
誰か、最悪な私を
誰か
殺してください。



その人の四つ目の印象は『悪魔』だった。


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