ひさめんとこ

zausu

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8章 ~旧友~

その8

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「…それからは?」
「…3年間、必死に耐えていたらしいっす。時々此方の所へ顔を出して来たんすけど。その時はいつも楽しそうに笑ってたっす」
「…心配させたくなかったんだろうね…」

転校してくる数ヵ月前 大阪 
「はーい。今日は地理の勉強でーす」
そう言った愛美路は地面の泥を掴み上げた。屋井はその様子を遠くから眺めている。
「知っとるか?一部の国では土食文化って奴があるんやで。だから今日は土食文化を体験して見ようっちゅー話や。ほら、口開かんかいな」
「…はい」
言われるがままに口を開く。
反抗すれば余計に酷いことになることをもう知っているからだ。
「素直でよろしい!では…」
口の中に泥を突っ込まれる。
苦いし臭い、吐き気がする。そんな事はもはや思わなくなっていた。
ここにいるとき、愛美路と一緒にいるときに那由多が感じていることは、ただただ純粋に、
人生に対する悲観
だけだった。
その日の夜。彼女は大事件を起こした。

「その大事件って…」
「大阪で起きた放火事件…」
「その通りっす。…それ以前にも色々やっていたんすよ。…なゆちゃんのリストバンド、あれはリストカットの痕を隠すためらしいっす」
「…」

それから数日後 京都
ドアを叩くおとが聞こえた。
「はい。今出ます…おや、守手熊さん。どうか致しましたか?」
「…ごめんなさい」
「え…あの、どういう事でしょうか?」
「私、北海道に行くの。だからもう会えないから…お別れを言いに来たの」
いきなり聞かされた。
「あ、あの。随分といきなり何ですね…」
「…うん、そうなの。だから…」
「…なにか隠していませんか?」
「え…そんな!隠してなんか…」
「なにか悩みがあるなら…相談に乗れますよ?」
「…」
那由多はボロボロと涙をこぼした。
「もう…もう嫌だよ…!なんで…なんで私はこんな目に…!」
「…」
そんな那由多をなにも言わずに抱き締める。
「…大丈夫…大丈夫ですよ…」

「此方がいじめの事を知ったのはその時っす…もっと早く気がついて上げるべきだったんすけど…」
「…仕方がないよ…」
「…自分を責めたらダメだよ」
「…ありがとうっす」

引っ越し当日。
「それじゃあ。お父さん、お母さん。行ってきます」
「…気を付けるのよ。私たちはついていけないけれど…しっかりと生活できるように色々送るからね」
「…一人でも頑張れよ」
両親はここから離れられないらしい。でもこれは元々私一人の問題だから、両親を巻き込まずにすんだのは嬉しかった。

空港。
「えっと…」
自分が乗る飛行機を確認する。
トントン、と、肩を叩かれた。
「えっ?」
振り向くとそこには、
「…こんにちは」
「…和泉…さん! ?」
「ごめんなさい。なにも言わずに来てしまって…」
「い、家の方は大丈夫なの!?」
「…えへへ、脱走してきちゃいました」
「…そっか、ごめんね。私のお見送りのためにそこまで…」
「…お見送り?違いますよ?」
「えっ?」
「私も、北海道にいきます」
一瞬の静寂。
「え?え?ちょっと、え?なんで?」
那由多はうろたえまくった。
「…正直に言うと…あの家を継ぐのは嫌なんです。私は私。しきたりも、何もかもを捨てて自由に生きていきたいんです。だから…ダメでしたか?」
「…ダメなわけないでしょ?」
「…よかったぁ…有難うございます」
二人は笑い会った。
その二人を遠くから見ている少女が一人。
屋井さんだ。

飛行機内での会話。
「…」
「…?那由多さん?どうかしましたか?顔色が…」
「…ごめんね。少し不安で…」
「…当然ですよ。大丈夫です。困ったらいつでも助けにいきますよ」
「…あのね、それだけじゃないの…事件の事…」
「…あぁ、確かに。このタイミングだと…」
「…うん。だから向こうでも結局いじめられるんじゃないかなって…放火魔とか言われて…」
「…」
ここで、和泉がとんでもない提案をする。
「じゃあ私が大阪からの転校生ってことにしませんか?」
「え?」
「そうすれば那由多さんが放火魔と言われずにすむでしょう?」
「で、でもそうしたら…」
「私は大丈夫ですよ。それに那由多さんは今まで頑張ってきたのですから。休んでいてください」
「…でも、やっぱりわるいよ…だから」
「だめですよ。私は一度決めたことは絶対にやりとげるタイプなんです。止めても無駄ですよ」
「…ごめんね」
「気にしないでください。さっきも行ったでしょう?頑張りすぎはいけませんからね」

「そうして此方達は北海道に来たっす」
「…そう言われてみれば自己紹介の時…」
“今日、からこの学校に…”
「不自然だったもんね。あれ『今日』じゃなくて『京都』って言いかけたんだ」
「そうっすね。やっぱり暮らし長かったっすっから」
「ところで一つ聞いて良い?」
「なんすか?アリスちゃん?」
「なんでそんなしゃべり方なの?髪も金髪だし」
「あー、それはっすねー…」

北海道到着。
「…着いたね…」
「そうですね…」
「とりあえず外に出てみようか?」
「そうですね。行きましょう」
外に出る。
「とりあえずまずは住めるところを探さないと…」
「あ、その前に一つ良いですか? 」
「なに?」
「…私の、最期を見届けてほしいんです」
「え…?最期…?」
和泉は荷物からカッターを取り出した。
「えっ!ちょっとまって!最期って…」
「…っ!」 
カッターで髪を切り落とした。
「えっ…?」
「…私は、もうあの家とはなんの関わりもない。私はやっと自由になれたの。私はあの家に居たこと、全てを消し去りたい。だから、この髪の毛は…和泉菫の形見だと思って」
「…」
渡された髪の毛を見る。
しっかりと手入れのされたさらさらな髪の毛がヘアゴムで止められている。
「わかった。大事にする」
「…ありがとう」

「で、それから“敬語”と“髪の色”、さらに“名前”も捨てて。あの家との関わりを極限まで減らしたっす」
「…どんだけ嫌いだったの?実家の事」

二人が北海道に到着した頃。大阪では 
「…那由多のやつ…どこ行った…!」
玩具をなくした愛美路が探し回っている。
「屋井!お前なにか知らんか?」
「…知らない」
「チッ!」
大きな舌打ちをした。
(…今度は…平和に暮らして…)
心のなかでそう願った。
その後、また同じ人に同じ事を繰り返すと言うことも知らずに
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