ひさめんとこ

zausu

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8章 ~旧友~

その9

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「…ところでさ、いじめっこの名前。愛美路さんと屋井さん…だったよね?」
「そうっすよ。どうかしたんすか和馬さん」
「んー…何かどこかで聞いたことあるような…」
「知っているのか雷電」
「誰が雷電だ。えっと…」
「和馬お兄ちゃん。気のせいじゃないの?」
「…あぁ、そうだ思い出した」

「屋井?あぁ、知っているが?」
「隼輝お兄ちゃん?なんで知ってるの?」
「この間…土曜日だったか?その日の夜遅くに一人で泣きながら歩いているのを見てな、声をかけた」
「隼輝さん。それ一歩間違えたらヤバい人だよ…?」
「…マジでか」
「マジで」

暗い夜道を一人歩いている少女が一人。
「…っ…」
涙をこらえようとしているが、押さえきれずにこぼれ落ちている。
「…おい、どうした?」
「…!」
突然かけられた声に驚いているようだ。
「こんな夜道を泣きながら歩くって…何かあったのか?」
「…あなたには関係ないです…」
「…目が泳いでるぞ」
「…!気のせいです!早くどこかにいってください!」
「…そうかい」
そう言うと、屋井の手を引っ張る。
「な、何をするんですか!?」
「悪いな、諦めが悪いもんでな」
「離してください!叫びますよ!」
「…悪かった」
手を離す。
「せめて何があったのか教えてくれないか?相談ぐらいなら乗れるぞ?」
「…なんでそんなに聞こうとするんですか?」
「なんで…って言われてもなぁ…お節介な男…って回答ではダメか?」
「…変な人ですね」
「よく言われる」
隼輝が笑うとつられたように屋井も笑った。
「…相談…ですか…」
「…一つだけ、良いですか?」
「あぁ、好きなだけ」
それから、いじめに加担させられていること等を伝えられた。ちなみにいじめをしている子の名前は伏せられていた。
「…と言うわけです。…私はどうすれば…」
「…一つ聞いて良いか?」
「え?は、はい」
「お前はその事についてどう思ってるんだ?」
「え…私は…相手がかわいそうだって…もうやめたいって…でも罪悪感だけで守ることは何一つできなくて…」
「それならまだ大丈夫だな。相手を思いやれる間は人は人で居られる。罪悪感だけしかない?十分だ。多分だがそのいじめをしている子は自分の下に誰かが居ないといけないプライドの高いタイプなんだろうな。その子は間違ったことをしている。他人を下げること=自分をあげることではないってことだ。その子に教えてみたらどうだ?」
「…は、はい」
あまりに情報が多すぎて処理しきれていない様子だ。
「あー…悪かった。いきなり色々言い過ぎたな。まぁつまりはだな。お前はなにも悪くない。ただ、利用されているだけなんだ。そのいじめっ子から誰か一人でも守ってみたらどうだ?その時は胸を張って言えば良い。『私は人を一人救った』ってな」
「…はい」
「あー、悪かったな。あまり相談に乗るのは上手くなくてな…」
「…いえ、少し気が楽になりました。ありがとうございました」
「あぁ。じゃあな。あなたの明日が良い日になりますように」
「…ありがとうございます」

「…やっぱりヤバい人っぽいね」
「う…」
「でも屋井さんは悪い人じゃないっぽいね」
「利用されているだけ…ねぇ…」
「和馬お兄ちゃん、どうかしたの?」
「いーや、なんでもない。…さてと過去の話は終わったわけだし、そろそろ未来に目を向けよう」
「そうっすね」
「どうにかして那由多さんを助けないと…」
「うーん…一つ思い付いたは思い付いたけど…」
「なに?」
「…まぁ…かなり無茶なんだけどさ…」

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