ひさめんとこ

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8章 ~旧友~

その13

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大阪
「あーあ、今頃那由多の奴どうしてるんやろなー。もう襲われてるかもなー」
「さぁ、どうだろうね」
「ウチ等が那由多が退屈しないように置き土産してやったんや。あいつには感謝してもらわんとな」
「…」
「…なに黙ってんねん。なんか気に食わんことでもあるんか?」
「…別に」
「…そうか。って、あそこにいるの…」
「…」
指をさした先に居たのは、萌だった。
「なんだ、あん時那由多の隣に居た奴やないか。うちらに文句でもあるんか?」
「…文句なんてないっすよ」
「じゃあ何しにこないなとこまで来とんねや。ただの旅行っちゅー言い訳は通じないで」
「…」
萌えは周囲の人の目も気にせず突然土下座した。
「…何の真似や」
「…もう二度と、私たちに…那由多さんに近づかないでください」
「…ほう、なんでや?」
「それは!…決まっているでしょう」
「…うーん…せやなぁ…ちょいと付いてきてや」

たどり着いたのは人気の無い公園。
「で、うちらに那由多に近づくな、って言うたんか?」
「…はい」
「ハッ、そりゃあ無理やな。せっかく久しぶりに見つけたんや。そんな頻繁には行けへんが、あっちに行くたびにちょっかい出させてもらうで、こちとら玩具無くして機嫌悪かったんやからな」
「…お願いします。私に出来ることならなんでもしますから…」
「…なんでも…か…それじゃあちょっとそこに立てや」
「…」
言われるがままに萌の目の前に立つ。
「…そこまで言うんなら…代わりをもらわんとな!」
そういうと、頭をわしづかみにした。そしてその頭を地面に押し付ける。
「ほら、どうや?あいつが受けた苦しみや、うれしいやろ?」
「…」
「…何か言うてみぃや」
「…本当に…これで那由多さんは…見逃して…くれるんですよね?」
「…」
今度は地面に叩きつける。
「下らんな。なんでそこまであいつにこだわるんや?」
「…友達だから…」
「はぁ?」
「傷つけられるなら守るし、悪いことをしそうになったなら止める。一緒にバカみたいに笑って…。そして、一番の親友だから…私は、那由多さんを守りたい」
「…そうかい。いい考えやの…最高に下らんわ。結局人間は自分が一番大切なんやで」
「…あなたは、可哀想な人ですね…」
「かわいそう?ハッ、何処がや」
そう言って今度は顔面を殴ろうと拳を振り上げた、
しかし、その拳が降り下ろされることはなかった。
「…もうやめようよ」
「…屋井…なにやってんねや」
「…もう嫌だから…誰も傷つけられるところをみたくない。今の言葉聞いて勇気が出たんだ。私は愛美路さんの友達だから、愛美路さんを止める。…ねぇ、人はね、生きてる限りどんな罪も償えるんだよ。だから…一緒にゆっくり償っていこうよ…おねがい。私を、信じて…」
「…屋井…お前…」
「…愛美路さん」
「お前…お前が…」

「まさかこんなにバカだったなんてな」

「え?」
振り上げられていた拳が、屋井の腹部に命中した。
「まさかお前がそんなこと言うなんてなぁ。ええか?お前のような負け犬はな、黙ってウチの言うこと聞いてりゃええねん」
「…嫌だ」
「…なんやて?」
「もう嫌だ!見てるだけも!少しずつ壊れていく人を見るのも!だから…だから…!」
「わかった、わかった。あんたがとんでもないバカだってことはわかったよ」
そう言って愛美路は電話を取り出し、どこかにかけた。
「よー、お前ら。裏切りもんや。これからリンチにするから手伝ってや。場所は…」
「え…?」
電話を切った。
「もうお前は要らんな。今までウチの言うことを聞いとったからそばにおいといてやったのに…」
すぐに回りにたくさんの人が集まってきた。
「ウチが一人やと思っとったか?残念やったな。ここらのスケ番グループにスカウトされてな。もう幹部の一人や。手下こんなにいるんやで」
「…そんな…」
「裏切りもんはこいつらや。盛大にボコれや」
おー!
と、一斉に声が上がる。何十、何百という数がいる。
「…そんな…」
屋井の一番近くに居た奴が殴りかかった。




「お疲れ様。よく頑張ったな」
その拳は止められた。
「え…?」
「あ…」
「「隼輝さん!」」
「スマン。少し遅れた」
「…なんやそいつ。…まぁ一人増えたところでなんも変わらんやろ。おまえら、一人増えたが気にせずに…」
そこまで言って、違和感に気がつく。
バイクの音がする。
それも大量に、
「…なんや…これ…?」
やがて大量のバイクが集まってきた。
それはさっき来たスケ番グループの倍近くいる。
「な、なんなんや!これ!」
愛美路は完全に混乱している。
「…まさか…」
スケ番グループの内の一人が言った。
「…サイレントキラー…」
「…な!なんやそれ!」
「知りませんか?少し前に日本全土に支部を作った巨大な暴走族、特徴としては全員マフラー(消音気)を外していないとこです。そして夜遅くに活動し、悪事を働くものを粛清する…それがサイレントキラーです…」
「な、なんでそんなやつが!」
「へぇ、俺たちのチームそんな風に言われてたのか」
「…まさか…」
「…そうだ。俺がそのチームの初代総長。氷雨隼輝だ」
「…嘘やろ…?」
「愛美路さん!姉御を呼びましょう!」
「そ、そうやな!姉御なら!」
再び電話を取り出す。
「…あ!姉御!助けてください!」
『…なんや?』
「襲われてるんです!サイレントキラーとか言う連中に!」
『サイレント…キラー?あの?』
「そうです!だからすぐに救援を…」
『無理や』
「え…」
『サイレントキラーの奴等にはうちらもおいそれと手を出せん。まぁ手を出した相手が悪かったと思って諦めるんやな』
「そ、そんな!待ってくださ…」
電話が切れた。
「…そんな…ウチは…ウチは…」
「…お前ら、やりすぎるなよ」
「…ウチは…」

あぁ、眩しい。目の前にいる男は、誰よりも輝いている。
ウチが欲しかった、一番星を持って。
…ウチも…そこへ…行きたかった…

一瞬の痛みの後、意識は閉ざされた。

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