竜の騎士と水のルゼリア

月城

文字の大きさ
22 / 26
アクアマリンの章

1. Ep-21.報告と叔父からの手紙

しおりを挟む
 部屋には相変わらずアリシアが押しかけていた。当たり前のようにテーブルの椅子に腰掛けている。ルゼリアはアリシアに構う事無くシュネを見た。シュネはレクターとガリオン、二人の騎士の今後の処罰が正式に決まった事をルゼリアに告げようとしている。

 ルゼリアは二人が出来るだけ軽い罰であって欲しいと願っていて胸の前で両手を握り締めてシュネの言葉を聞き逃さないように耳を傾けた。

「レクターもガリオンも三ヶ月の間給料を得る事ができず、その間、王宮の為に尽くす、これが今回の二人への罰でございます」

 拍子抜けしてしまう程に軽い二人の罰に両手を握り締めていたルゼリアはほっと息を吐き出していた。
 本来であれば極刑でも可笑しくない状態ではあったのだが元老院やシュネの言葉が大きかったと想像が出来る。

「それに南方騎士団長殿が陛下に懇願してくださったのですよ。レクターはあのような性格をしていますが実力はかなり高い雄です」

 師団長というのは未来の騎士団長候補でもある。おちゃらけて見えるようで面倒見がいいレクターは部下達に信頼されていて南方騎士団長はレクターを高く評価しているためにこんな事で失いたくはなかったのだろう。

 ルゼリアもレクターの面倒見の良い姿はとても好感を持っている。姫という立場であるルゼリアに気さくに話しかけてくれる数少ない騎士なのだ、二人が厳しい罰を受けずに済んで本当によかった。

「ガリオンに関しては別件で陛下から直々に軽い罰を与えられています。レクターは先程の罰に加えて荷物整理や書類整理など、雑務を色々させるようですよ」

 体を動かす事が好きなレクターにすれば書類整理は堪える罰だろう、面倒そうに机に向かうレクターの姿を想像して、ずっと気にしていたルゼリアは漸く笑う事が出来た。

 そんなルゼリアを見て唐突にアリシアが可愛いですわっと叫ぶと椅子から立ち上がりルゼリアの前まで来るとその小さな体を抱きしめ、突然の事で対処できなかったルゼリアはアリシアに掴まってぎゅぎゅうっと抱きしめられる。それを見てシュネがアリシアと叫ぶ。
 
「アリシア!!姫様に向かって無礼にも程がありますよ!!おまけに騎士団を抜け出してきて…………貴方と言う娘は!!良い加減に戻りなさい、ああ、もう、姫様をお離しなさい!!」
 
 シュネのお説教を始めればアリシアは慣れたもので、姫君が嫌がってないのであれば問題ないのではないですか?姫君は私にこうされるのはお嫌いですか?、そう言って抱きしめる腕に力を込める。

 抱きしめたまま問いかけるアリシアに苦しそうにルゼリアはアリシアの服を遠慮気味に叩く、アリシアは手加減を知らず、竜の力のままに抱きしめるものだから非力なルゼリアには辛い。苦しがっている事に気付けば漸くアリシアは力を抜いた。

「あら、失礼しました。私、力の加減が苦手でして」

 新鮮な空気を吸い込みながら先程のアリシアの問いに答えていく。

『………………アリシアの事は嫌いではありませんよ、ただ触りすぎな気もします』

「姫君、世のお友達と言うものはこうやってスキンシップを測るものなのですよ、姫君は外の世界に疎いので分からないかもしれませんがこれが普通です」

 自信満々に言い切るアリシアにルゼリアはそうなのですかっと素直に受け入れ頷こうとする、だがシュネにアリシアに騙されていますよっと言われてしまう。

「アリシアのその行動は過剰すぎますよ、何も知らない姫様に間違った知識を教えるのはおやめなさい」

 叱られたアリシアはペロッと舌を出して申し訳ありませんっと言ったがその表情はとても楽しげで反省している様子がない。
 アリシアが部屋にやってくると一気に騒がしくなる、ルゼリアの笑顔が増える分シュネの溜息も増える。

「あ、姫君、知っておられますか?」

 知ってるかと言われても何に対してかがわからない、首を横に振ればレクターの事です、そう言ってアリシアは面白そうに話を始めた。
 
「私、見てしまいましたのよ、先日の事ですがレクターが貴族のご令嬢と一緒にいましたの、あれはミラノ男爵のご令嬢でした」

『一緒と言うのは?』

「ほら、ミラノ男爵のご令嬢であるエリー嬢は前からレクターを気に入っていましたでしょう?姫君に攻撃した事を心配されていたのかしきりにレクターに話しかけておいででしたわ」

 エリーと言う令嬢がいる事は知っていたがレクターを気に入っていた事は知らなかったルゼリアはそうなのですかっと耳を傾けている。
 
「どうやら少なからず男爵もエリー嬢の願いを聞いたのかレクターへの罰を軽くするように貴族の方々に言ったそうです」

『……そうなのですか』

「ふふ、ここだけの話ですがエリー嬢はかなりレクターに熱を上げてらっしゃいますのよ、エリー嬢の番にレクターが選ばれるかもしれませんわね。
男爵とは言え貴族のご令嬢と平民のレクター…………逆玉の輿ですわよ」

 楽しげなアリシアの言葉をどこかぼんやりと聞いている。
 
「レクターはあの性格ですからね、意外に貴族の娘達に人気があるようですよ」

 シュネの言葉にルゼリアは自身も良く分からないけれど、胸がギュッと締め付けられた。
 
『??』

 痛んだ胸を押さえて首を傾げたルゼリアにアリシアはどうされたのですかっと問いかける。
なんでもありませんと慌てて首を振りアリシアと会話を続ける。そうしてひとしきり話せばアリシアはそろそろ戻りませんとっと漸く椅子から立ち上がった。





 数日後の事だった。王宮に行っていたシュネが戻ってくるとその手には手紙が握られていた。
手紙の差出人は王弟でありルゼリアの叔父でもあるレザリックからである。
封を開いて手紙を取り出し内容を確認すれば突然ではあるけれど明日研究塔に来てくれないかというものだった。
魔道具の事で話があるらしい。

 レザリックはこのアルヴァーニ王国で魔法や魔道具の研究をする研究者でもある。
魔法を扱う才能において王でもあるラザードにも劣らずの強い竜でもあった。
温和な性格の叔父は魔法や魔道具の研究に没頭しすぎる余り水竜達からは“変わり者の王弟殿下”とさえ言われている。しかしながら貴族や元老院からの信頼はかなり厚い。

「姫様、レザリック様はなんと?」

『明日、研究塔に来てほしいと書いてあります、魔道具の事で話があるのだとか』

 基本的に魔道具は魔力を使うことが出来ないルゼリアの為にレザリックが開発したものだ。
 
「そうですか、もしかすると転移のクリスタルが出来たのかもしれません」

 転移のクリスタルはルゼリアの為に作られたものだ、以前も使ったことがあるが今は砕けて壊れてしまっている。
 そうかもしれませんねと頷きながらルゼリアは明日叔父の所に行く事にどうしようかと考える。 

『僕が行っても大丈夫でしょうか……研究塔は東に位置してますよね』

 南や西に位置していれば問題ないが北や東はルゼリアを嫌うものが多い、年に数度研究塔に行く事はあってもその度に元老院に見つかり嫌味を言われてしまうのだ。元々元老院からも父や叔父に会うことを制限されている。
今回呼ばれはしたもののルゼリアは叔父の元に行っても良いのか迷ってしまう。
 
 そんなルゼリアにシュネは大丈夫ですよっと優しげに微笑んだ。

「レザリック様がお呼びなのですから姫様が気になさる事はありません、護衛の事を南方騎士達にも伝えておきましょう」

 護衛と聞いてルゼリアは頷き騎士達に護衛をお願いする。シュネが騎士達に伝えに行くのを見送ると不安そうにして窓辺を指で触れながらしっかりしなければと自分に言い聞かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...