あの約束を、もう一度

夕凪

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第四章

お守りの代わりに

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季節が過ぎゆくのは早い。



じっとりとした梅雨が明け、気が付けば夏がすぐそこまでやって来ていた。



蒼々とした広葉樹が太陽の眩いほどの光に照らされて眩しい。



「───龍、ちょっといいか?」



4限目の授業が終わり、席を立った俺に声をかけてきたのは智也。



───あれから智也との関係は平行線の一途を辿るばかり。



俺の気持ちも未だにどうなのかわからないまま。



「なに?」



「話があるんだ」



智也は顎をくいっと教室のスライドドアの方へとしゃくった。



教室の外に出ろということだろうか。



「ここじゃだめなのか?」



「・・・ああ、だめだ」



「はいはい」



俺は席を立ち智也の広い背中を追う。



智也は教室を出てどんどん歩みを進めていく。



てっきり教室を出てすぐそこだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。



なおも歩き続ける智也。



「なあ、一体どこまで行くんだよ。俺腹減ったんだけど」



「ちょっと黙ってろ」



前を向いたまま俺の方に目もくれず吐き捨てる。



俺は小さく息を吐き、大人しくついて行く。



脚が長い智也の後を追うだけで汗が伝う。



辿り着いたのは図書室だった。



「先に入れ」



静かにスライドドアを開き、俺を先に入れてから続いて智也が入る。



この学校の図書室に入るのは数ヶ月前に転校してきてから初めてだ。



本の数がとても多く綺麗に整理整頓されているものの部屋全体が埃っぽい。



利用する人間はあまりいないのだろうか。



「で、こんなところまで来て一体なんなんだよ」



智也の方に顔を向ける。



「お前に渡したいものがあるんだ」



智也は制服のズボンをごそごそと漁る。



そこから出てきたのは紙の封筒のようなものだ。



智也はなにも言わずそれを俺に手渡す。



「なにこれ」



俺は真っ白な封筒の封を開ける。



【東京都高等学校野球選手権大会】



少し硬めの紙にはそう印刷され、日時とプレイボールと思われる時刻も表記されていた。




「これ・・・」



「今週の土曜日に試合があるんだ。お前に見に来て欲しい」



「・・・」



まさかこんなものを渡されると思ってなかった俺はただチケットを見つめた。



「───俺、お前が来てくれたら頑張れるからさ」



「・・・暇だったら行く」



「そんなこと言ってもお前なら来てくれるって信じてる」



智也は歯を見せて穏やかに笑った。



心が騒めく。



「なにを根拠にそんなこと言うんだ?」



胸の奥の騒めきを悟られないようにとわざと毒を吐く。



「お前は優しいから」



「自分の都合よく解釈すんなよ」



あまりにも明け透けな答えに俺は笑った。



智也から受け取った封筒に入ったチケットを制服のズボンにしまい込み、俺はどんなときも肌身離さず身に付けていたネックレスを外す。



「・・・龍?」



「ちょっと後ろ向いて」



「?」



智也は俺に言われるがまま俺に背中を向ける。



俺は数秒前まで自分の首で光っていたネックレスを智也の首に回して留めた。



「前向いていいよ」



智也は俺の声を合図にゆっくりと俺の方に体を向けた。



「これお前の大事な───」



智也はネックレスのヘッドを触りながら言う。



「お守り・・・になるといいんだけど」



「いいのか?」



「───ああ。でも、試合終わったら返してくれよ」



「ありがとう龍。俺マジで頑張るから」



「うん」



俺が小さく返事をすると、智也の豆だらけの大きな手のひらが俺の頬を撫でる。



ゴツゴツしているそれは優しく、そして温かい。



見つめ合う。



そして───唇が重なる。



時間的には数秒だったが、体感的には何分も唇を重ねているような気がした。



どちらからともなくゆっくりと唇を離す。



「す、すまん。つい・・・」



「・・・ううん」



その時、図書室の外で物音がした。



俺達は我に返り音がした方に目を向ける。



誰かいるのだろうか?



俺は忍び足でスライドドアに近付いて聞き耳を立てて様子を窺ったがなにも気配は感じない。



「・・・そろそろ教室に戻ろう」



「ああ、そうだな」



俺が提案すると智也も賛同した。



俺達はそっと図書室を抜け出して教室に戻った。


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