暴力代行

和泉茉樹

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終章

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     末

 私は一之瀬の中心街にあるバーで、ウイスキーを飲んでいた。
「なんだよ、あのオッサン、こっちで散々借金してやがったのか」
 私は嘆きながら、隣のイアンを見た。イアンはカシスオレンジを舐めている。いかにも女々しい飲み物だが、ほとんど下戸なのだから、仕方ない。私はもうウイスキーを二瓶空けているが、まだ少ししか酔っていない。本当にウイスキーか疑わしくなってくる。
 イアンが言う。
「そうでもしないと、僕たちの料金は払えないよ。まぁ、いいじゃないか。彼は今ごろ、シナーズ・ヘイブンで、犯罪者たちと仲良くなっているさ。自分も多重債務を踏み倒した犯罪者みたいなものだし」
「だけどよぉ、ったく、最近のジャパニーズは真面目って言葉を忘れたのかね」
 私はため息ついでも、グラスを空にした。
 良司は結局、海外へ逃亡出来た。まぁ、いつ捕まるかは分からないが、とりあえず、うまくやれば、一生逃げ続ける運命だとしても、命を失うことはないだろう。
 彼は私たちへの報酬を、日本で借金して作った。それはおそらく、もう二度と返済されないだろう。とんでもない額だし、一人の人間に払える額ではない。
昨日になって、日本政府は、防衛省から機密情報が漏れた、と発表した。それは米軍に関する文書という事だけが明かされ、ハーミットに関する情報だとは明かされていない。彼らは私たちの騒動だけで、情報が漏れたことが確実だと、他国に推量させるだけの事実を作れたと判断したのだ、というのが私たちの見解だった。
というわけで、後味は悪いものの、全ては丸く収まった。
「イアン、気付いているか?」
 私が言うと、イアンが頷いた。
「新谷さんは、スパイだったんだろう?」
「なんだ、知っていて、黙っていたのか?」
 ケイトこそ、とイアンが苦笑いで言う。
「ケイトに譲ったんだよ」
「チェ! そうかよ。ありがとな」
 私は携帯電話を取り出し、アドレス帳を見る。そこには新谷良司の名前がある。電話番号と、メールアドレスだ。まだ最初だが、これからしっかりとパイプを作って、しっかりとした情報源にでも育てるつもりだ。
 新谷良司は、かなり機密性の高い組織の、諜報員だった。今でも、私たちはもちろん、防衛省も、どこの組織の人間か分かっていないだろう。あるいはフリーランスだったのかもしれないが、それはもう本人に聞くしかない。
 彼が誰に雇われていたのかは知らないが、それに防衛省が一枚噛んだか、あるいは何かを見抜いた、それか潰そうとしたのだとしか、推測できない。
 しかし、彼が日本で借金を作ったのもの事実。突然のことだったのか、そうでなければ、雇い主に裏切られた可能性もある。まぁ、これ以上、推測を並べても仕方ない。私にとって重要なのは、彼と繋がりがあることだ。
「くそったれだな。おい、バーテン! ウイスキー持ってこい!」
 私はそう言いながら立ち上がると、拳銃を引きぬき、振り返りざまに一発撃った。
 どうっと男が倒れる。その手には拳銃が握られていた。
「すごいね、ケイト。どうやって背後を見たの?」
 イアンの背後でも、一人、男が倒れている。袈裟掛けに体を切り裂かれていた。その手元にも拳銃が転がっている。
「手元のグラスに映ったんだよ、後ろがな。間抜けな刺客なのか、こっちが強運なのか。そっちは?」
「目の前の戸棚の酒瓶で背後が見えた。まったく、この前はちょっと騒ぎ過ぎた気がするよ。人一人逃がすのに、あれはやり過ぎだったと、今なら良く分かるよ」
 バーの中では悲鳴が上がり、客が逃げて行く。
「この店、気にいっていたんだけどなぁ。まぁ、経営者が変われば、また来られるか」
「またバーになるとは限らないけどね」
 イアンが立ち上がり、拳銃を抜いて私の隣に並ぶ。バーの入り口で、こちらに銃を構えている男が何人かいる。私はそこに拳銃を向けた。
「まぁ、派手にやろうぜ」
 私は引き金を引く。
 一之瀬の夜は更けて行く。夜は、私たちの時間だ。



(了)



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