出会った英雄と僕 〜眠れる獅子が目覚めたら〜

和泉茉樹

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第二章 地下探索喧騒編

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 シリュウと出会って、二ヶ月が過ぎた。
 黒の領域へ二回ほど行って、正式にユニットの一員として稼ぐことができた。ほとんど負傷もせず、物資を捨てて逃げる場面もなく、気持ちいいほど、うまくいった。
 シリュウはいつも一緒である。今も同じ部屋で生活していた。
 そのシリュウと僕は、リーンの街の食堂の一角で、仕事終わりの打ち上げに参加していた。
 僕とシリュウを含めて、六人だけのユニットである。
「二人とも、また一緒に仕事をしないか?」
 ユニットのリーダーであるトーイズいう若い男が言うと、彼の仲間であるハーンとニコの男性二人、唯一の女性のライラも同意するように頷いた。
「あまり長居しないようにしているんです」
 僕の言葉に、四人がそれぞれに受け流す。
「簒奪者がいると、助かるわ」
 ライラがどこか慣れを感じさせる口調でいった。どうやら、彼女は勧誘係でもあるらしい。確かに、なかなか美女ではある。
 救いを求めるようにシリュウを見ると、彼はバクバクと容赦なく料理を平らげている最中だった。少しは遠慮してくれよ、誘いが断りづらくなる。
「リュウさんも素晴らしい剣の腕ですし」
 今度はシリュウを引き込もうとするライラだが、残念ながら、料理以上の興味を引くことには失敗している。それを見たトーイズが料理を追加で注文した。
 酒を小瓶一本、一息に飲み干したシリュウが四人を順繰りに見る。
「あんたたちも結構やるじゃないか。感心した」
 全員が苦笑している。僕も笑うしかない。
 全員が思い出したのは、今回の探索行で唯一の苦境だった、悪魔の波状攻撃の場面だっただろう。
 悪魔が十体以上、突然に現れたかと思うと、三段に分かれて攻めてきたのだ。下級悪魔にしては珍しく統率が取れていたが、あるいは偶然だったかもしれない。
 第一弾の三、四体は切って捨てた。そこに第二段が突っ込んできて、さらに第三段が押し寄せる。
 乱戦になり、僕たちは分断されそうになった。
 そこで僕が業火を使って悪魔の動きを制限し、可能な限り火だるまにした。
 それ以外は、シリュウが全部、切って捨てた。まさに一撃必殺、剣が振られる度に悪魔が倒れた。
 最終的には、ニコが怪我を負っただけで、他は無傷。悪魔十体分の首と、その武装が手に入り、負傷の程度に比べれば、大戦果と言ってもいい。
 それもあって、今、こうして祝宴が開けるわけだ。
「こいつなら」シリュウが僕を指差す。「お前たちにくれてやってもいい」
 そういう冗談だと、シリュウのことが分かりつつある僕には理解出来るけど、ユニットを組んでいる四人は困惑したようだった。
「あなたたちも本当はリュウが欲しいんでしょ?」
 今度は僕が冗談を投げる。シリュウだけが笑い声をあげた。四人はどこか気まずそうだ。
 どうやらこれで、切り抜けられそうだ。
 祝宴が終わった時、僕とシリュウは同時に席を立ち、別れを告げて四人と離れた。
 集合住宅へ帰る夜道は、風が心地いい。
「明日は剣を調整しに行こう、アルス。お前も剣をまともなものにするべきだぞ」
「分かってるよ。今回の収入で、買い換えるつもりだった」
 その日は部屋に帰って、酒の影響もあってか、すぐに横になった。
 翌朝、目覚めるとシリュウは床に転がっていない。外へ出ると、集合住宅の前で、シリュウが剣を振っていた。上半身裸で筋肉が隆々と盛り上がっている。汗が飛び散り、朝日を反射していた。力強く、美しい動きの連続。
 やがて一通りを終えたシリュウがこちらを振り向く。
「飯を食いに行こうぜ」
 シリュウが服を着るのを待って、二人で近くのパン屋へ行った。そこで買ったものを食べながら、武器屋へ向かう。リーンの通りは、朝から人通りが多い。
「暇な時に毀れの剣のことを調べているけど」
 話しかけても、シリュウはサンドイッチを咀嚼し続けている。
「何も情報が出てこない。どうも、機密扱いだね、これは」
「リッカが」サンドイッチを嚥下する音。「渡してきた資料は?」
「複雑でね、あれは」
 僕も一口、サンドイッチをかじる。
「あの資料の中の、物資の移動、あるいは人の移動の中の一つが、きっとシリュウの持ち物をどこかに移動させた動きだと思う。でも、どうしたらそれを割り出せるか、わからない」
「俺だったら武具の輸送に紛れ込ませる」
「それは正攻法。逆に、別の何かに紛れ込ませる手法もありうる。その辺から攻めるのは、困難というのが僕の意見。やっぱり、シリュウがどういう死に方をしたか、そこを確認するべきだよ。遠回りに見えて、近道じゃないか?」
 自分が死んだことになっているのを、シリュウはまだ受け入れ難いらしい。そんな顔をしている。構わず、僕は続きを口にする。
「八英雄の一人が、人知れず死ぬわけがない。絶対に、どこかに死んだ時の記録がある。葬儀だってあったかもしれない。遺品の管理も、まさか放置とはいかない」
「自分の葬式とは、不愉快だな」
「それはもう変えられない。ところで聞いてこなかったけど、シリュウの家族は?」
「妻も子どもいない。戦場にいたからな」
 まぁ、それはわかる。想像できる。
「親は?」
「親は、傭兵だった。俺が兵士になる頃には死んでいた」
「傭兵? えーっと、五十年前だから、人類国家軍に傭兵として協力したの?」
 サンドイッチを食べ終わったシリュウが包装紙をポケットに押し込む。
「違う。大陸南部の、小勢力の軍に参加していた。まだ人類国家軍は南部戦線に参加していない。南部はその時、人間の小勢力が協力して、悪魔と均衡を保っていたんだ。それが六十年前。俺の両親が死んで少しして、小勢力は統一され、さらに人類国家軍に編入した」
 なにやら、複雑な歴史の話になってきた。僕はどうも、そういうところに弱い。本を読んで勉強しているけど、追いつかない。
「それじゃあ、シリュウは戦場で生まれたの?」
「そうらしい。物心ついたときには、剣を持っていた」
 そういう子供がいないわけじゃないが、今の時代では珍しい。当時はそれほど赤と黒の戦いが激しかったのだ。
「俺が幼い時に両親は死んで、俺は孤児院に送られたが、規定の年齢に達したら、即座に軍に参加した」
「十五歳?」
「いや、十二歳だ」
 反射的にシリュウの顔を見上げていた。やや得意げな顔をしていた。
「当時の最年少だ。少年兵だな」
「いや、少年兵は、存在は理解できるけど、どういう戦いをするの?」
「色々さ。まぁ、しんどかったがね」
 あまり語りたくないようで、シリュウはそう言って、視線を逸らした。
 ちょっと深入りしすぎたようだ。話が本筋から離れてしまった。
「元に戻ろう。じゃあ、シリュウの両親がシリュウの遺品を管理したこともないし、シリュウの故郷に何かが残されている、ということもないんだね。どこか、シリュウの痕跡が残っていそうな場所、心当たりはない?」
「すぐには思い出せないな。アルスは、そこに俺を偲ぶ何かがあり、その何かの中に毀れの剣があるかもしれない、と言っているわけだ」
 頷く僕に、小さくシリュウが息を吐いた。
「全部任せていて、悪いが、もう少し頼む。俺も思い出すように努力する」
 そんな話をしているうちに、武器屋に着いた。ちょうど店主が看板を表の通りに出すところだった。こちらに気づき、軽く手を振って、出迎えた。
「無事だったかい。剣を見せなよ」
 店に入るなり、店主は奪うようにシリュウの剣を鞘から抜いて、眺め始める。
 今度は以前とは逆に、僕が壁の剣を眺める。どれもかなりいい値段だ。装飾に凝っているものが多い。それを見ると、シリュウが前に選んだ剣は質素な拵えで、実用重視だったのがわかる。
 店主とシリュウの打ち合わせが終わってから僕はカウンターに歩み寄った。
「こいつに近い形状の剣があるといいんだけど」
 僕が腰から外した剣をカウンターに置いた。店主が眉間にしわを寄せる。
「別に良いが、この剣がとても取り回しが良いとは思えないんだが?」
「もう慣れた。感覚がズレるのは嫌なんだ」
 納得仕切れないようだが、店主は奥に引っ込み、一本の剣を持ってきた。受け取ってみると、少し重いくらいで、大差ない。
「前の剣よりは頑丈なはずだ」
「形は変わらないようだけど?」
「材料が違う。悪魔の持っている剣の中の、上等な奴を鋳直して作った」
 なるほど、それは確かに、良さそうだ。
 鞘に戻して、店主に戻す。
「研いでおいて。明日、取りに来るから。料金はここに」
 懐から財布を取り出し、金貨を一枚、置く。これでシリュウの方の整備費も払える。
 店主が頷いて、代わりの剣を差し出してきた。僕とシリュウがそれぞれに受け取る。
「そうだ」突然に気づいた。「魔剣を探しているんだけど」
 シリュウがチラッとこちらを見た。店主はそれ気付かず、こちらに身を乗り出した。
「魔剣がどうしたって?」
「毀れの剣、って知っている?」
「そりゃ、知っているさ」
 思わず、僕はシリュウと顔を見合わせてしまった。
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